井上智洋『人工知能と経済の未来』



 昨日は都内某所で取材。今年の初取材である。

 行き帰りの電車で、井上智洋著『人工知能と経済の未来――2030年雇用大崩壊』(文春新書/864円)を読了。仕事の資料として。

 この手の本の著者には当然AI(人工知能)研究者が多いわけだが、本書の著者はマクロ経済学者だ。ただし、大学時代に計算機科学を専攻し、AI関連のゼミに入っていたという。
 つまり、“AIにも造詣の深い経済学者”なわけで、本書にはその立ち位置が十二分に活かされている。今後AIの進歩が加速していった果てに、経済と雇用のありようがどう激変するかに焦点が当てられた内容なのだ。

 先月読んだ『人工知能が変える仕事の未来』(野村直之)が楽観的で希望に満ちた内容だったのとは対照的に、著者の描く未来像は、「2030年雇用大崩壊」という副題どおりの悲観的なもの。

 2030年頃に汎用AIが登場するならば、その後は急速にあらゆる雇用が失われていくことになります。



 今から30年後の2045年くらいには、全人口の1割ほどしか労働していない社会になっているかもしれません。


 
 「汎用AI」とは特化型(専用)AIの対義語で、「人間に可能な知的な振る舞いを一通りこなすことのできるAI」を指す。この汎用AIの開発の目処が立つのが2030年頃だと言われており、それこそがAIによる雇用破壊の本格的な始まりだと著者は捉えているのだ。
 逆に言えば、AIが特化型にとどまるうちは、雇用破壊はそれほど心配する必要はない、と見る立場なのである。

 汎用AIが出現してしばらくした後に、労働者の多くが雇用されず、汎用AI・ロボットが生産活動に全面的に導入されるような経済が到来する可能性があります。そのような経済を「純粋機械化経済」と呼ぶことにしましょう。



 ただし、9割の人間の仕事が汎用AIに奪われる未来を、著者は必ずしもディストピアとしては描いていない。それは、“労働はAIにまかせ、人間は働かずに暮らせるユートピア”になる可能性もある、というのだ。

 「純粋機械化経済」をユートピアにするための条件として、著者はベーシックインカム導入を挙げる。
 最後の第5章は丸ごと、労働はАIとロボットにまかせ、9割の人々がベーシックインカムで暮らす未来を展望する思考実験に充てられている。

 SF的ではあるが、「AIが人類を支配する未来」などという与太話よりは、まだしも現実味がある気がする。 

■関連エントリ
山森亮『ベーシック・インカム入門』
新井紀子『コンピュータが仕事を奪う』

野村直之『人工知能が変える仕事の未来』



 今日は都内某所で、AI研究者にしてベンチャー企業家の野村直之さんを取材。
 野村さんは、1990年代にMITの客員研究員を務め、「人工知能の父」マービン・ミンスキーやノーム・チョムスキーらの薫陶も受けた本格派である。

 先月出たばかりの野村さんの著書『人工知能が変える仕事の未来』(日本経済新聞出版社/2376円)を読んで臨む。
 約500ページの大著であり、中身も非常に濃密な本だ。

 巷では、「AIの進歩が雇用を破壊する」、「いまある仕事の半分はAIに奪われる」、「2045年前後に起きるシンギュラリティ後、人類はAIによって支配される」などという「AI脅威論」がかまびすしい。

 それに対して本書は、AIがもたらすポジティヴな面ばかりがもっぱら紹介されている。読んでいて未来に希望が湧いてくる本である。

 さりとて、無根拠な楽観論ではない。主張の一つひとつが、AI開発と研究の現場を熟知した人ならではの見聞に裏打ちされている。
 シンギュラリティ論への反論(野村さんは、“シンギュラリティなど、今世紀中には起きない”と見る立場)は非常に説得的だし、「AIが雇用を破壊する」という脅威論への論駁も鮮やかだ。

 また、ディープラーニングの本質についての解説などもわかりやすく、最新のAI入門として優れている。
 ヘタな新書10冊分くらいの内容がギュッと詰まっているので、価格以上の価値がある本といえる。

 野村さんはキャラが立っていて話も面白いので、もっとテレビとかに出演されたら人気が出る方だと思う。

レイ・カーツワイル『シンギュラリティは近い』



 レイ・カーツワイル著『シンギュラリティは近い――人類が生命を超越するとき』(NHK出版)読了。書評用読書。

 2005年刊の『ポスト・ヒューマン誕生――コンピュータが人類の知性を超えるとき』を、半分以下の分量に凝縮し、原題直訳の形に改題した「エッセンス版」である。
 いわゆる「2045年問題」(2045年ごろに、AIが人類の知能を超える「シンギュラリティ」=技術的特異点が到来するという問題)の、議論の発火点となった本だ。

■関連エントリ→ 松田卓也『2045年問題』

 原著刊行から10年以上が過ぎ、その間AIが長足の進歩をつづけたことにより、本書に描かれた未来が荒唐無稽なものではないことがわかってきた。また、「シンギュラリティ」という言葉自体も一般的になってきた。
 そうした変化をふまえ、読みやすいエッセンス版として再刊されたものであり、時宜にかなった刊行といえる。私自身、「『ポスト・ヒューマン誕生』は読んでみたいけど、分厚くて難しそうだしなァ」と、手を伸ばすのをためらっていた一人だ。

 読んでみて、「想像していたよりもまっとうな未来予測の書だ」と感じた。

 前半は“なぜシンギュラリティが起きるのか?”の理論的根拠が説明されており、もろ文系の私には難しくて退屈。
 だが、シンギュラリティ後の世界を具体的に予測していく第5章「衝撃……」で、一気に面白くなる。この章は、にわかには信じがたい驚愕の未来像が目白押しだ。たとえば――。

 いずれは食べ物から栄養をとるという面倒はまったく不要になる。
 やがて栄養は特殊な代謝用ナノボットによって血流へと直接送り込まれ、同時に血中や体内にあるセンサーが、それぞれの部位で必要な栄養について、無線通信で情報を送るようになるだろう。この技術は二◯二◯年代の終わりごろまでにはかなり成熟するはずだ。



 ただ、“やがてAIが意識を持つ存在となり、「魂をもつ」”と主張する第6章に入ると、内容が一気にオカルトじみてきて、アヤシゲになる。

 そして人類の文明は、われわれが遭遇する物言わぬ物質とエネルギーを、崇高でインテリジェントな――すなわち、超越的な――物質とエネルギーに転換しながら、外へ外へと拡張していくだろう。それゆえある意味、シンギュラリティは最終的に宇宙を魂で満たす、と言うこともできるのだ。

 

 ここだけ引用しても何のことやらわからないだろうが、全編を読んでも、この部分の意味はやっぱりわからない。
 科学者が「魂」とか言い出したらアカンやろ。こういうトンデモ記述さえなければ、未来予測の書として面白いのに……。

本田幸夫『ロボット革命』



 昨日は、都内某所で大阪工業大学ロボット工学科教授の本田幸夫さんを取材。
 本田さんの近著『ロボット革命――なぜグーグルとアマゾンが投資するのか』(祥伝社新書/864円)などを読んで臨む。

 ロボットをめぐる日本と世界の現状と今後の展望を、的確に概説した好著。
 いちばん目からウロコが落ちたのは、これまでの日本がずっと「技術で勝って商売で負けてきた」との指摘。

 自動運転車も、ルンバのようなロボット掃除機も、世界で初めて開発したのは日本であり、にもかかわらずそれらは商品化できなかった、というのである。
 その理由はいくつかあるのだが、一つにはリスクを取りたがらない日本人の国民性ゆえだという。「自動掃除機がもしも寝ている赤ちゃんにぶつかってケガでもさせたら、誰が責任を取るんだ?」などという意見がたくさん出て、開発がストップしてしまうのだという。

 本田さんは、日本電装(現・デンソー)や松下電器産業(現・パナソニック)でロボット開発に携わり、その後大学教授に転身された方。現在もロボット関連企業の経営者でもある。
 つまり、ビジネスの視点からロボットを見るプロなのだ。その視点が全編に及んでいるのが本書の大きな特長で、研究者一筋の人が書いた類書とは違う面白さがある。

松田卓也『2045年問題』

2045年問題

2045年問題
著者:松田卓也
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 今日は、東大で人工知能の研究者である松尾豊准教授を取材。
 いつも思うことだが、最先端の研究者へのインタビューというのは個人教授を受けるようなもので、なんとも贅沢なことである。「仕事を通じていろんな勉強ができること」が、ライターの醍醐味の一つだ。人工知能に関する本を立て続けに読むなんて、私にとっては仕事でなければあり得ないし……。


 行き帰りの電車で、松田卓也『2045年問題――コンピュータが人類を超える日』(廣済堂新書/864円)を読了。
 
 レイ・カーツワイルが提唱している、「2045年に人工知能は技術的特異点(シンギュラリティ)に達し、人類全体の知能をはるかに超える。それ以後の未来は予測不可能となる」との説をめぐる、いわゆる「2045年問題」。それを中心に、人工知能と人類の未来を大局的に展望した本。著者は宇宙物理学者で、神戸大学名誉教授。

 悪い本ではないのだが、『人工知能は人間を超えるか』(松尾豊)、『AIの衝撃』(小林雅一)という2冊の優れた概説書を読んだあとだと、わりを食って見劣りがする。著者のSF的空想で水増しされている点が目立ち、内容が薄いし。

 あと、話が横道にそれるところも多い。
 たとえば、著者がいろんな音声入力ソフトを使ってみた経緯を延々と書いているくだりがあって、「ここ、いらんやろ」と思った。また、『ターミネーター』『マトリックス』『攻殻機動隊』など、人工知能が描かれた映画のあらすじを延々と紹介しているくだりもあって、やはり「ここ、いらんやろ」と思った。

 人工知能の普及による失業者の大量発生とか、悲観的な話に妙にウエートが置かれているのも、本書の特徴だ。
 傾聴に値する卓見もあるので、駄本とは言わないが……。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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