吉田豪『続 聞き出す力』



 吉田豪著『続 聞き出す力』(日本文芸社/864円)読了。
 
 『週刊漫画ゴラク』連載コラムの書籍化第2弾。

 第1弾同様、いちおう「聞き出す力」を高めるための実用書の体裁になっているが、たんにインタビューの舞台裏エピソード集として読んだほうが面白い。

 「べつに……」事件直前の沢尻エリカや、岡本夏生にインタビューしたときの話などは、抜群に面白いと同時に、同業者としては背筋も凍る恐怖エピソードである。

 大幅に遅刻してきた彼女は、「すいません」も「おはようございます」もなく無言でスタジオに登場。
 そこで彼女がまずやったのはスタジオのBGMを大音量のブラックミュージックにしたことであり、その後はひたすら不機嫌そうな顔でポーズを変えることもなく写真を撮られ続けることだった。その結果「沢尻さんは前に撮影してるからなんとかなりますよ」と言っていたカメラマンも緊張でガチガチになる始末。



 ううむ……。その場の張り詰めた空気を想像するだけでコワイ。

 また、「インタビューにおけるアクシデントで困るのが、取材が終わってから何も録れてないことに気付くパターンである」などという話も身につまされる。
 私は過去30年のライター経験で3回ほど、そういう経験がある。そのつど真っ青になったが、記憶だけでなんとか原稿を書いた。なので、いまは取材時にボイスレコーダーを必ず2台同時に回すし、取材前日には電池残量などをチェックする。
 吉田豪の場合、北斗晶、鉄アレイ(ハードコア・パンクバンド)、佐藤秀峰(マンガ家)のインタビューに際して録音失敗トラブルに遭遇したという。

 「身につまされ」度が高いのは私がライターであるからで、前著を面白いと感じた人なら、今回も楽しく読めるだろう。

吉田豪『聞き出す力』


聞き出す力聞き出す力
(2014/12/19)
吉田 豪

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 吉田豪著『聞き出す力』(日本文芸社/864円)読了。

 プロインタビュアー・吉田豪が初めて出した「インタビュー集以外の単行本」。
 『漫画ゴラク』連載のコラムの単行本化で、タイトルや帯が示すとおり、阿川佐和子のミリオンセラー『聞く力』のあからさまな便乗本だ。ちなみに、「『聞く力』の便乗本を出して欲しいというオファー」は、ほかにも殺到していたという。

 取材力を磨くためのライター入門として、また、あらゆる職業の人が「聞き出す力」を高めるための実用書として、読めないこともない。しかしそれ以前に、インタビューの舞台裏を明かしたエピソード集として、単純な娯楽読み物として楽しめる本だ。

 そもそも、本家『聞く力』からして、実用書というよりは肩のこらない娯楽読み物であった。
 そして、読み物として比べるなら、『聞く力』よりも本書のほうがずっと面白い。1項目4ページのコラムの中に印象的なエピソードがギュッと詰め込まれていて、密度が濃いのだ。

 徹底した下調べをしてインタビューに臨むライターとして知られる吉田豪だが、当人はその点を強調されることに戸惑いぎみだという。

 ろくに下調べもせず、アイドルとか相手にタメ口で馴れ馴れしく取材するタイプのライターも確かに多いけど、そっち側を基準にしてどうするって話で。
(中略)
 下調べをするからプロというよりも、下調べをしないのはプロ失格ってだけのことなのだ。



 いや、まったくそのとおりだと思う。
 
 「ダハハハハハ!」(吉田豪のインタビューのトレードマーク)と笑えるコラムも多い本だが、その笑いの底には、インタビュアーとしてつねに真剣勝負に臨んできた矜持が流れ通っている。

阿川佐和子『聞く力』


聞く力―心をひらく35のヒント (文春新書)聞く力―心をひらく35のヒント (文春新書)
(2012/01)
阿川 佐和子

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 阿川佐和子著『聞く力――心をひらく35のヒント』(文春新書/840円)読了。

 インタビュアーとしての豊富な経験をふまえ、人から話を聞き出すコツをあれこれ綴った一冊。1993年に始まり、すでに900回を超えた『週刊文春』の人気連載「阿川佐和子のこの人に会いたい」の舞台裏を中心に構成されている。

 各界著名人へのインタビューをめぐるエピソードが、矢継ぎ早に登場する。しかも、著者の語り口は一貫して軽やかなユーモアに満ちているので、読み物として面白い。阿川佐和子のエッセイのファンなら、本書も楽しめるだろう。

 だが、インタビューのコツを読者に教える実用書としては、あまり役に立つとは言えない。実践的なインタビュー入門としては、ベテラン・ライター永江朗の『インタビュー術!』あたりのほうが、はるかに有益だ。

■関連エントリ→ 永江朗『インタビュー術!』レビュー

 てゆーか、そもそも著者は実用書にしようと思って書いてはいないのではないか。実用性より話の面白さをつねに重視している印象なのだ。

 それでも、いくつか参考になる点はあった。
 たとえば、インタビュイーが取材テーマから脱線した話を延々とつづける場合の、話の戻し方のコツ。

 お相手が一気呵成に話しているのを、どうにも止められないと思ったら、とりあえず話の流れを耳に入れます。そろそろその話にピリオドが打たれそうな気配を感じた頃合に、ちょうどその頃合に人間は誰でも息継ぎをします。出した息を吸い込まなければならない。その短い瞬間を狙って、



 ――“息継ぎの合間を狙って脱線を戻す”というのである。これは、なるほどと思った。

 “事前の準備は大事だが、準備してきたことにとらわれすぎてはいけない”という話が、形を変えて何度も出てくる。
 インタビューはつねに「生もの」であり、予想と違う展開になることもしばしばであるし、そのほうが結果的によいインタビューになることが多い。それなのに、本番での話の流れを無視して、用意してきた質問(つまり、事前に予想した流れ)をこなすことばかりに汲々としていては本末転倒だ、との趣旨である。
 これも、私自身の経験に照らしてそのとおりだと思う。

 また、著者の言う「『段取りだけにとらわれて、話の内容に心が向いていない』下手なインタビュー」というのは、むしろインタビュアーとしてそこそこの経験を積んだ者こそが陥りがちな「惰性」であろう。著者の次のような述懐を、私も肝に銘じたい。

 ときどき、自分で質問しておきながら、心のなかで「あー、いかんいかん。段取りをこなしているぞ」と思うことがあります。そういう場合は気を引き締めて、時系列に質問しながらも、どこかに面白いものが転がっていないかを吟味するのです。



小松成美『人の心をひらく技術』


人の心をひらく技術人の心をひらく技術
(2010/09/08)
小松成美

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 小松成美著『人の心をひらく技術――仕事と人生が変わる「聞き方」「話し方」』(メディアファクトリー/1260円)読了。

 売れっ子ノンフィクション作家が、これまでやってきた仕事をふまえて、「人の心をひらく」話の聞き方を説いた本。巻末に構成者のクレジットがあるので、小松の話をライターがまとめたものだろう。

 中田英寿、イチロー、中村勘九郎、YOSHIKIなど、各界著名人への取材の舞台裏が随所で語られ、それらはいずれもたいそう面白い。たとえば、勘九郎とのこんなやりとり。

「私など、本来は歌舞伎を書く資格などないかもしれないのですが……」
 私がそう言ったとき、勘九郎さんは突然怒り出してしまいました。
「冗談じゃないよ! どんな資格がいるって言うんだよ。役者以外、みんな素人なんだからさ、いちいち謝らなくていいんだよ。それにね、俺は『自分は歌舞伎のプロです』なんて言って原稿書いている奴、ぜんぜん認めてないからね」
 その言葉が私に対する優しさだということは、すぐにわかりました。



 本書は取材裏話集であると同時に、ライター小松成美の成長物語(サクセス・ストーリーではなく)としても読める。OLから突然ライターに転身し、蓄積ゼロからスタートした彼女が、押しも押されもしない一流ライターになっていくまでの道筋が、くっきりとたどられているのだ。

 後半、「人の心をひらく」技術が具体的に説かれた部分には、「何をあたりまえのことを」と思えるアドバイスも少なくない。そのへんは読み飛ばしてしまったが、総じて傾聴に値するアドバイスが多く、ライターおよびライター志望者なら必読の内容となっている。

 「人の心をひらく」ために小松が重ねてきた努力は、同じライターとして頭が下がるほどのものだ。たとえば、彼女は取材前に質問を練ったあと、その質問を実際にしてみるところを鏡の前でくり返し練習するのだという。

 北京オリンピックで銀メダルを獲得したフェンシングの太田雄貴さんへのインタビューでも、インタビューメモを作成し、鏡の前での練習をして臨みました。フェンシングという競技には知らない専門用語が多く、またフェンシングの動作を言葉で伝えることも不慣れです。質問や知りたい技術について紙に書き出し、ある程度すらすら言えるまで練習しました。



 取材準備として資料を読み込み、質問を練るところまでは、ライターなら誰でもやる。が、鏡の前でこんな練習までやるライターを、私はほかに知らない。

 また、インタビューの最中、「何だかちょっとリズムが合わないな」と感じたときに、彼女は「相手の呼吸のリズムを計ってみる」のだという。そして、呼吸のリズムを「ただ合わせるのではなく、コントロールする」のだと……。
 取材中の「相手の呼吸のリズム」なんて、私は考えたこともなかった。もはや名人芸の域だと思う。
 
 インタビューイから「手品のように言葉を引き出す」小松成美の仕事ぶりは、「小松マジック」とも呼ばれる。しかしそのマジックは、持って生まれた才能(もあるだろうが)というより、彼女が積み重ねてきた努力の賜物なのである。そのことを思い知らされる一冊。

 もちろん、本書はライター入門ではなく、広くビジネスに役立つ本だという体裁をとっている。そうしなければ売れないからだが、ライターやカウンセラーなど「人の話を聞く仕事」以外の人が読んでも、さして有益ではないと思う。

原正紀『インタビューの教科書』


インタビューの教科書インタビューの教科書
(2010/11)
原 正紀

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 原正紀著『インタビューの教科書』(同友館/1575円)読了。

 ライターやジャーナリストが書いたインタビュー入門はいろいろ読んできたが、本書の著者は人材ビジネスの会社の経営者である。ゆえに、文筆家による類書とは違った発見があるかな、と期待して手を伸ばした。
 著者は仕事を通じて、これまで経営者を中心に1000人以上にインタビューしてきたという。その経験をふまえて本書が書かれたわけだ。

 図やイラストなども多用してあり、すこぶるわかりやすい。また、インタビューのいろはを手取り足取り教えるという趣なので、インタビュー初心者にとってはよい本だと思う。
 たとえば、インタビューする際にもっていくべきモノのリストとか、インタビューの際に相手の話が脱線したらどう軌道修正すればよいかとか、「そこまでやるか」と感心するほどアドバイスが細かい。

 が、私にはなんら得るものがなかった。
 四半世紀近くライターをやってきた私は、著者同様、少なく見積もっても1000人以上にインタビューしてきたはず(数えたことはないが、年平均50人を取材してきたと考えても、×24年で1200人になる)。そして、ここに書いてあることは、インタビュー経験をある程度積んできた人にとってはあたりまえのことばかりなのだ。

 くり返すが、初心者向けとして見ればよくできた本である。
 では、熟練者が読んでも参考になるインタビュー本は? 私のイチオシは、永江朗の『インタビュー術!』だ。あと、同じく永江が書いた『聞き上手は一日にしてならず』もオススメ。

■関連エントリ
『インタビュー術!』レビュー
『聞き上手は一日にしてならず』レビュー


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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