池谷裕二『脳はなにげに不公平』ほか



 昨日は、東大で脳科学者の池谷裕二さんを取材。
 東大本郷キャンパスは、ちょうど桜が満開。昨日はポカポカ陽気でもあり、そのまま花見になだれ込みたくなったが、お花見気分だけ味わってガマン。

 池谷さんを取材するのは8年ぶりだ。
 現時点の最新著作『脳はなにげに不公平――パテカトルの万脳薬』(朝日新聞出版/1404円)と、2012年刊行時に買ったが積ん読してあった『脳には妙なクセがある』(扶桑社/1728円)を読んで、取材に臨む。

 2冊とも、脳科学および隣接分野の最新トピックを紹介しつつ、「脳科学の視点から見て『よりよく生きるとは何か』」を考察したサイエンス・コラム集である。
 科学読み物としての知的興奮と、その底にある哲学的な深みのバランスが素晴らしい。面白くてためになる。

菅原洋平『すぐやる!』



 ジョン・ウエットン逝去――。
 昨年来、キース・エマーソン、グレッグ・レイクと、プログレ・レジェンドの訃報がつづくなあ。

 ジョン・ウエットンといえば、ロックファン一般には「エイジアのフロントマン」というイメージだろうし、プログレファンという狭い領域でいうと「第二期キング・クリムゾンの顔」というイメージだろう。
 が、私にとっては何よりも、「UKの中心者」としてのイメージのほうが大きい。私自身がロックを聴き始めた時期が、ちょうどUKの活動期に重なるからだ。

 ジョン・ウエットンはもちろん名ベーシストだが、やはりヴォーカリストとしての印象のほうが強い。彼の声自体がすごく好きだった。
 「キミタチ、サイコダヨ!(君たち、最高だよ)」――UKの日本公演を収めたライヴ盤『ナイト・アフター・ナイト』での、ジョンのたどたどしい日本語のMCを思い出す。

 ジョンのヴォーカルが冴え渡る、私のお気に入り曲を貼っておく。R.I.P.









 昨日は取材で永田町の衆院第二議員会館へ。で、今日は参院議員会館へ。

 今週は、月曜から金曜までずっと取材がつづく。
 まあ、たまにはそういうこともある。我々フリーランサーにとって、「仕事がないつらさ」に比べれば、「忙しいつらさ」など、つらさの範疇にも入らない。

 行き帰りの電車で、菅原洋平著『すぐやる!――「行動力」を高める“科学的な"方法』(文響社/1490円)を読了。
 リハビリテーション専門の作業療法士である著者が、仕事上の経験をふまえ、「後回しにせずにすぐやる力」を高める方法を開陳した本。

 類書は心理学者や脳科学者によるものが多いなか、作業療法士の目線から見た「行動力を高める方法」が説かれている点がユニークだ。
 本の企画としてはよいと思うが、内容はどうということのないものだった。

 この手の本のマイベストワンは(何度も書いているが)、先延ばしの研究をライフワークとしてきたカナダの心理学者、ピアーズ・スティールが書いた『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』である。同書を超える本はいまだにないし、本書など足元にも及ばない。

 本書は、脳科学の専門用語を随所にちりばめて信憑性を高めようとしているが、著者は脳科学の研究者でもないし、「どこまでホントなのかね?」と話半分で読んだ(偏見と言われれば偏見だが)。
 
 まあ、著者の書いている「コツ」の中に、納得のいくものもある。
 たとえば、「使ったものは元に戻す」とか、テレビなどのリモコンの定位置を決めておき、そこにいつも置いておくということが、「すぐやる力」を高めるために意外に重要だ、ということ。

 これは要するに、ルーティンでない行動は、ささいなこと(リモコンがどこに行ったか探すなど)でも脳に負担をかけるから、日常生活をできるだけルーティン化しておき、なすべき行動に振り向ける余力をキープしておけ、ということだろう。

 凡事徹底、ささいなことの積み重ねが大きなことを成し遂げるために大切だ、というのはそのとおりだ。
 でも、それは類書(たとえば、脳神経外科医・築山節氏の著書など)にもよく出てくる話で、著者の独創というわけではない。

 本書はよく売れているようだが(「8万部突破」という電車内広告を見た)、「後回しにせずにすぐやる力」を高める方法を知りたい向きには、『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』のほうを断然オススメする。

中野信子『サイコパス』



 昨日は都内某所で、取材兼打ち合わせが一件。
 行き帰りの電車で、中野信子著『サイコパス』(文春新書/842円)を読了。

 文春新書は、タイトルに飾り気やアクがなさすぎて損をしていることが多い。本書も、あまりにそっけないタイトルだ。まあ、逆にそのそっけなさを「潔い」と感じる人もいるだろうが。

 本書は、本文の前に構成者の名が明記されている。ライターの飯田一史氏が中野さんにインタビューして話をまとめたものなのだ。一般読者はそういうことを意識しないだろうが、私は仕事柄、構成者が気になる(ライターが構成した本であっても、構成者の名は出さないケースも多い)。
 本書の飯田一史氏は、じつにうまいまとめ方をしていると思う。

 これは、サイコパスの概説書として上出来な本だ。
 サイコパスの概説書としては、ロバート・ヘアの『診断名サイコパス』や、マーサ・スタウトの『良心をもたない人たち』あたりが、すでに「定番」としてある。ただ、2冊とも10年以上前の本だから、その後のサイコパス研究の進展がフォローされている本書のほうが、いまから読む最初の概説書としてはふさわしいだろう。

■関連エントリ→ マーサ・スタウト『良心をもたない人たち』

 心理学・脳科学を中心としたサイコパス研究の成果が手際よくまとめられており、読み物としてもなかなか面白くできている。
 著者の中野さんは脳科学者だから、第2章「サイコパスの脳」が、本書の「ウリ」ということになろう。

 ただ個人的には、「なぜ人類のなかにサイコパスのような個体が、一定の割合でいるのか」を考察した第4章「サイコパスと進化」を、いちばん面白く読んだ。

 サイコパスが淘汰もされず、爆発的に増えることもなく、一定の割合(研究によって幅があるが、だいたい1%前後)でいるということは、“人類という種の繁栄のためにサイコパスが必要だった”ということになる。
 その必要性とはなんだったのかを探っていくうちに、「なぜ人類は『心』を持つようになったのか?」を解く鍵につながっていく……という展開がスリリングである。
 

デイヴィッド・J・リンデン『触れることの科学』



 一昨日から昨日にかけて、取材で佐賀県へ――。

 観光する余裕はなかったが、夜には居酒屋で地の魚を食べて“観光気分”だけ味わった。
 刺身類はおいしかったが、ムツゴロウの丸焼きというのはマズかった。小骨が多くて食べにくいし。まあ、話のタネにはなったけど……。

 昨日は佐賀から戻ってきて、夕方にまた都内某所で別件の取材。バタバタ忙しい。

 行き帰りの飛行機と電車で、デイヴィッド・J・リンデン著、岩坂彰訳『触れることの科学――なぜ感じるのか どう感じるのか』(河出書房新社/1944円)を読了。

 著者は神経科学者(米ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授)だが、本書のような一般向け科学書もものしている。前著『快感回路――なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか』は、当ブログでも取り上げた。

 本書も『快感回路』同様、品のよいユーモアをちりばめた良質な科学ノンフィクションだ。
 テーマである触覚(皮膚感覚)は性的快感と深く結びついているし、本書にもセックスに関する話題がわりと多いから、『快感回路』の続編というか、スピンオフ本的な内容と言える。

 触覚の作用機序についての説明部分は専門的すぎてやや退屈だが、面白いエピソード、トピックが満載だ。
 たとえば――。

 私たちの皮膚には「C触覚線維」という、なでられて心地よい感覚のための神経――すなわち「愛撫専用の触覚系」がある。
 この触覚系に対して優しくなでる刺激がもたらされることは、「新生児の情緒の適切な発達のために欠かせないものであり、このシステムが形成する社会的接触は、成長後に信頼関係や協調関係を築くために重要な役割を果たす」という。
 赤ちゃんに対するスキンシップがいかに重要であるかを、この「C触覚線維」が証し立てているわけだ。

 広義の触覚――熱さや冷たさの知覚、痛覚、かゆみの感覚、くすぐったさなど――についても詳述されており、それぞれじつに興味深い内容になっている。例を挙げよう。

 鳥は平気でトウガラシを食べる。トウガラシの刺激成分カプサイシンに反応するセンサーを、持っていないからだ。
 ゆえに、バードウォッチャーは鳥の餌をリスなどの哺乳類に盗み食いされないよう、餌にする種にトウガラシをふりかけておく。
 ではなぜ、鳥だけがトウガラシの辛さに反応しない動物になったのか? その謎解きは次のようなものだ。

 哺乳類は種を食べると臼歯ですりつぶしてしまいがちだが、鳥には臼歯がなく、種子の大半はそのまま消化器官を通り抜ける。鳥が糞をすると、これまでとは違う場所に発芽可能な種子を蒔いていくことになる。鳥にとってもトウガラシにとっても都合のよい状況である。



 思わず人に語りたくなるような話ではないか。 

 また、生まれつき痛みを感じない「無痛症」についての、次のような記述にはぞっとさせられた。

 痛みを感じなければ、さぞのんびり暮らせるだろうと思われるかもしれないが、現実はそういうものではない。痛みというのは、組織にダメージを与えるような刺激への反応として生じる。痛みがなければ、刃物や熱湯や有害な化学物質を避けることも学べない。先天性の無痛症の人は常時けがをしている。知らないうちに自分で舌を噛み、骨を折り、関節をすり減らし、ゴミの入った目をこすって角膜を傷つける。成人になるまで生きている者は少ない。

 

ベネディクト・キャリー『脳が認める勉強法』



 ベネディクト・キャリー著、花塚恵訳『脳が認める勉強法――「学習の科学」が明かす驚きの真実!』(ダイヤモンド社/1944円)読了。

 米『ニューヨーク・タイムズ』紙のベテラン科学記者が、第一線の科学者たちへの取材をふまえて、「学習の科学」の最前線を手際よく紹介する本。
 読者に効率的な学習法を教える実用書であると同時に、上質のサイエンス・ノンフィクションでもある。

 「脳科学からみた上手な学習法」をまとめた類書は少なくない。
 たとえば、本書の帯にも推薦の辞を寄せている池谷裕二さんのデビュー作『記憶力を強くする』(講談社ブルーバックス)は、良書であった。また、児玉光雄著『勉強の科学』 (サイエンス・アイ新書)も、イラストをふんだんに用いたティーン向け(受験生向け)の本ながら、大人が読んでもためになる好著だった。

 しかし、「いまから一冊だけその手の本を読みたい」という人には、本書を推したい。
 「こういう学び方をしたら効率的ですよ」とコツを説くだけではなく、「脳のメカニズムから見て、なぜその学び方が効率的なのか?」という機序と、その事実が判明するまでの科学史的背景が詳述されており、読み応えがあるからだ。

 「機序とか背景とか、どうでもいい。オレは効率的な学習法が手っ取り早く知りたいんだ」という人は、コツの部分だけ拾い読みしてもよい。
 ただ、本書の巻末には「学習効果を高める11のQ&A」というまとめページが用意されているのだが、最初にここだけを読んでも言っていることがピンとこなかった。やはり、人間は機序や背景がわかってこそ得心がいくのだ。

 本書で解説されている効果的学習法を、一つだけ紹介しよう(あとは自分で読んでください)。

 「一気に集中して勉強するのと、勉強時間を『分散』するのとでは、覚える量は同じでも、脳にとどまる時間がずっと長くなる」という。このことは、研究者の間で「分散学習」「分散効果」と呼ばれている。
 つまり、何かを学ぶための時間が週に4時間割けるとしたら、一気に4時間学ぶより、2時間ずつ2回学んだほうが、脳への定着率が高いのだ。

 しかも、毎日勉強するより、何日か間隔をあけて2回学んだほうが効果的だという。
 一夜漬けの詰め込み学習にもそれなりの効果はあるが、ほとんど記憶に定着せず、しばらくすると学んだことの大半を忘れてしまうという。これも、学生時代を考えれば誰しも思い当たるだろう。

 ……と、そのような学習テクニックが、機序と背景も含めてくわしく解説されている。
 後半にはひらめきを生むメカニズムに迫った章もあるし、学生ならずとも一読の価値がある。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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