立花隆ほか『がん 生と死の謎に挑む』



 今日は都内某所で取材。これが今年の取材初めである。ゴーストの取材なので、お相手等はナイショ。

 立花隆・NHKスペシャル取材班著『がん 生と死の謎に挑む』(文春文庫/600円)を読了。仕事の資料として。

 2009年11月に放映されたNHKスペシャル「立花隆 思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む」をベースに作られた本(文庫化は2013年)。
 つまり、本書の取材はいまから9年ほど前になされたものであり、日進月歩のがん治療の世界においては、情報が古くなっている部分もあるだろう。

 しかし、がんという病気の本質に迫るという基本線においては、いまも十分に価値を持つ。優れた科学啓蒙書である。

 NHKの看板番組たる「NHKスペシャル」は、お金とマンパワーを潤沢に注ぎ込んだ非常に厚い取材によって作られるから、それを元にした本にもよいものが多い。本書もしかり。

 立花隆自身が膀胱がんの手術を経験し、自らの元妻や筑紫哲也ら、身近な人間をがんで亡くした経験が、本書の背景にある。ゆえに、立花の著作には珍しい「熱さ」を具えた本にもなっている。

 もっとも、自らのがん手術体験を延々と綴った第二章(全二章立て)「僕はがんを手術した」は、やや冗長で退屈だが。

 が、前半の第一章「がん 生と死の謎に挑む」(NHKスペシャルをベースにしたパート)は、がんの本質を手際よく概説した優れた内容だと思う。
 途中で近藤誠の理論に半ば肯定的に言及しており、その点は首をかしげたけど。

イチロー・カワチ『命の格差は止められるか』



 昨日は、埼玉県行田市の老舗足袋業者「きねや足袋」を取材。



 同社は、テレビドラマ化されブームを呼んでいる『陸王』(池井戸潤)の取材先企業として脚光を浴びている。
 『陸王』で描かれる「こはぜ屋」も行田市の老舗足袋業者であり、「きねや足袋」でも「ランニング足袋」を開発・製造販売しているからだ。

 ただし、ネット上に散見する「こはぜ屋のモデルはきねや足袋」という情報は間違い。

 池井戸潤が『陸王』の連載開始前に「きねや足袋」を取材したのは事実だが、それ以前に同作の構想は固まっていたのである。
 また、取材時点ではきねやのランニング足袋「無敵」はまだ開発途中であり、作中のランニング・シューズ「陸王」は「無敵」をモデルとしたわけはない。偶然の一致なのだ。

 だから、池井戸潤の公式ツイッターでも、次のように告知されている。



 それはそれとして、取材してみると、きねや足袋三代の物語には、『陸王』の世界と重なる部分も多かった。


 行き帰りの電車で、イチロー・カワチ著『命の格差は止められるか――ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』 (小学館101新書/778円)を読了。仕事の資料として。

 社会疫学の世界的第一人者による一般書。
 「社会と健康」をめぐるさまざまなトピックが、わかりやすく紹介されていく。
 ソーシャル・キャピタル(社会関係資本=社会における人々の結束により得られるもの)が健康に与える多大な影響、経済格差がいかに人々の健康を損なうか、など……。
 格差の拡大は、貧困層のみならず、富裕層の健康をも確実に悪化させるという。

 社会疫学の平明な入門書として、よくできている。 

岩波明『発達障害』



 岩波明著『発達障害』(文春新書/880円)を、Kindle電子書籍版で読了。
 昭和大学医学部教授で、臨床経験も豊富な著者による発達障害の概説書。仕事の資料として読んだ。

 発達障害の研究史を手際よく辿り、ASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠如多動性障害)の共通点と相違点を一章を割いて説明し……と、概説書として過不足ない内容である。

 一般読者を引き込むための工夫も、随所に凝らされている。
 たとえば、開巻劈頭、「シャーロック・ホームズはアスペルガー症候群だったのか?」という問いから文章が始まっていたり、アンデルセンやルイス・キャロル、大村益次郎などが発達障害であった可能性を考えたり……。

 過度の論文臭がないのはよいことだが、読者の下世話な興味に迎合しすぎている面もある。
 たとえば、第6章「アスペルガー症候群への誤解はなぜ広がったか」や第7章「発達障害と犯罪」で、著者は犯人の発達障害が関係しているとみなされた著名犯罪を取り上げている。豊川主婦殺人事件や佐世保小6女児同級生殺害事件、深川通り魔殺人事件などである。

 そのうち、豊川の事件については、加害少年が精神鑑定でアスペルガーだと診断されたのは「まったくの誤診であった」と、著者は言う。また、佐世保の事件でも加害少女がアスペルガーだと喧伝されたが、著者はそのことに疑問を投げかける。
 いっぽう、深川通り魔殺人事件については、犯人の子ども時代の行動は「ADHDの診断基準を満たして」おり、そのころに適切な医療介入が行われていれば事件は起こらなかったかもしれない、と述べる。

 そうした主張自体は傾聴に値するのだが、それらの事件内容について、必要以上に詳述しすぎだと思った。煽情的な犯罪読み物みたいな記述が延々と続き、ウンザリ。

 私が編集者なら、そのへんの記述は全部カットして、終章の「発達障害とどう向き合うか」をもっとふくらませる。

■関連エントリ→ 梅永雄二『大人のアスペルガーがわかる』

滝川一廣『子どものための精神医学』



 滝川一廣著『子どものための精神医学』(医学書院/2700円)読了。書評用読書。

 ベテラン児童精神科医が、自らの豊富な臨床経験をふまえて書き下ろした、児童精神医学の概説書である。
 中井久夫・山口直彦の名著『看護のための精神医学』の「児童精神医学版」を企図した書であり、中井久夫自らが「あの本には子どものことが書いてない。そこを君に」と、弟子筋である滝川を指名したという。

 500ページ近い浩瀚な書であり、内容も非常に濃い。隅々にまで価値ある情報が詰まっている。2700円という価格は一般書としては高いと思うかもしれないが、情報量からいえばむしろ割安だ。

 入門書と呼ぶにはいささか高度な内容だが、精神医学に携わる者はもちろん、教育者、保育士、そしてもちろん親など、子どもに深く関わる立場の人間なら一読の価値はある労作。
   

宮子あずさ『訪問看護師が見つめた人間が老いて死ぬということ』



 昨日は、取材で京都へ(日帰り)――。

 行き帰りの新幹線で、2冊本が読めた。
 そのうちの1冊が、宮子あずさ著『訪問看護師が見つめた人間が老いて死ぬということ』(海竜社/1404円)。取材の資料として読んだもの。

 著者は、たくさんの著書をものしているベテラン看護師。現在は精神科の訪問看護師として働いているそうで、本書はその経験から生まれたエピソードを綴ったもの。

 訪問看護という仕事のイメージが、よい意味で一変する内容だ。
 病棟勤務の看護師とは違う苦労とやりがいを赤裸々に明かして、読者の目を釘付けにする迫力がある。

 高齢化による医療費の増大を抑えるため、入院患者をなるべく減らしていこうとする世の趨勢によって、増加傾向にある訪問看護師という職業――。その内実を伝えて、社会的意義も高い本だ。 


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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