的場昭弘『大学生に語る資本主義の200年』



 的場昭弘著『大学生に語る資本主義の200年』(祥伝社新書/886円)読了。仕事の資料として。

 マルクス経済学者で神奈川大学教授の著者が、自身のゼミで行った連続講義の書籍化。ゆえに語り口調の文章で書かれており、テーマがヘビーなわりには読みやすい。

 「資本主義とは何か? 社会主義・共産主義とは何か?」という、わかったようでじつはよくわかっていない(少なくとも私は)問いに、現代のアクチュアルな問題を随所で例に挙げながら、さまざまな角度から答えていく内容だ。つまり、編年的に資本主義の歴史を追っていく本ではない。

 この著者の本は、前に『一週間de資本論』というのを読んだことがある。
 同じ祥伝社新書で全3巻にわたる『超訳「資本論」』という著書も出しているし(10万部も売れたそうだ)、マルクス経済学を一般人に平明に伝える「インタープリター」として、大活躍である。

 目からウロコが落ちる記述が多数。そのうちの一つを引いてみよう。ロシアがクリミア半島を編入決定したウクライナ問題についてのくだりである。

 EUと非EUの境界線にある国――それが、「先進的資本主義国の傘下にあるか、そうでないか」の境目でもあるわけです。資本主義は、その搾取の対象となる土地と人民を拡大していくことによってのみ、生きながらえられます。対象となる場所がなくなったら、もう終わりです。
 プーチンが何に怒っているかというと、このような形でどんどん切り崩されていき、その影響がついに自分の国のすぐ隣にまでおよんだからです。かつて、アメリカのすぐ近くに社会主義国家ができたとき(1959年のキューバ革命)、アメリカは激しく不快感を示しましたが、これと同じことがロシアのすぐ近くで繰りひろげられているというわけです。つまりこれは、ロシアにとっての“キューバ問題”です。



ピーター・ティール『ゼロ・トゥ・ワン』



 ピーター・ティール(withブレイク・マスターズ)著、関美和訳『ゼロ・トゥ・ワン――君はゼロから何を生み出せるか』(NHK出版/1728円)読了。
 
 米「PayPal(ペイパル)」の創業者であり、天才起業家・投資家として知られるピーター・ティールが、母校スタンフォード大学で行った学生向けの起業講座をまとめた一冊。
 なので、絶対に起業などしない私には関係ない話が多いのだが、それでも面白く読めた。

 著者の経営哲学は、シリコンバレーの中でもかなり特異なのではないか。というのも、著者は本書で、他企業との競争そのものを全否定しているから。
 つまり、競争のない「ブルー・オーシャン」を新たに切り拓くことこそ著者にとっての起業であり、既存の「レッド・オーシャン」に身を投じる起業は不毛だというのだ。

 進歩の歴史とは、よりよい独占企業が既存企業に取って代わってきた歴史なのだ。
 独占は進歩の原動力となる。なぜなら、何年間、あるいは何十年間にわたる独占を約束されることが、イノベーションへの強力なインセンティブとなるからだ。その上、独占企業はイノベーションを起こし続けることができる。彼らには長期計画を立てる余裕と、競争に追われる企業には想像もできないほど野心的な研究開発を支える資金があるからだ。



 幸福な企業はみな違っている。それぞれが独自の問題を解決することで、独占を勝ち取っている。不幸な企業はみな同じだ。彼らは競争から抜け出せずにいる。(※引用者注/これはもちろん、『アンナ・カレーニナ』の名高い冒頭部分のもじり)



 「独占は悪であり、競争こそ望ましい」とする旧来のアメリカ社会の価値観と正反対であり、興味深い。書名の『ゼロ・トゥ・ワン』とは、0から1を生み出すことに成功した企業――すなわち著者の言う「幸福な企業」の謂だ。

 私には、第13章「エネルギー2.0」がいちばん面白かった。この章では、太陽光発電などのクリーンエネルギー企業が、一部の例外を除いて失敗に終わった理由が分析されている。

 環境テクノロジー企業はいずれも、世界をよりクリーンにする必要があるという聞き慣れた真実で自己を正当化していた。社会がこれほど熱心に代替エネルギーを求めているからには、すべての環境テクノロジー企業に巨大なビジネスチャンスがあるはずだという妄想を自分に信じ込ませていたのだ。



 失敗事例を通じて、成功する企業の条件を浮かび上がらせたケーススタディとして、この章は独立した価値をもっている。

小笠原治『メイカーズ進化論』



 昨日は、登山家の田部井淳子さんを取材。都内某所の事務所にて。
 雪崩で九死に一生を得た体験とか、ガンの闘病体験とか、すさまじいドラマを軽やかににこやかに話されて、すごい迫力であった。ある種の達観を感じさせる、「人生の達人」という趣の方である。


 行き帰りの電車で、小笠原(おがさはら)治著『メイカーズ進化論――本当の勝者はIoTで決まる』(NHK出版新書/799円)を読了。
 
 猫も杓子もIoT、IoTとウルサイ昨今だが、IoTが何なのかは我々シロウトにはわかったようでわからない。
 本書は、“IoTを取り入れた新しいモノづくり”を推進する側である著者が、その最前線を紹介し、モノづくりの未来を概説した書。

 IoT化や製品の「モジュール化」などによって、モノづくりはもはや一部の大企業の独擅場ではくなっている。そのことを棚的に示すのが、米国の液晶テレビメーカー「ビジオ」のような、ファブレス(工場がない)のメーカーの台頭である。

 ビジオは部品の調達や組立などの製造工程を、台湾や中国の企業にアウトソーシングしています。その分、ビジオ自身は最も上流に位置する商品企画と下流の販売に特化しているのです。
 かつて日本ではモノづくりの空洞化が叫ばれた時期がありますが、それは自社工場を海外に移転することを指していました。ビジオのようなファブレスなメーカーにとってそもそも工場は持つものではなく、選ぶものです。ここには空洞化という概念すらありません。「モノづくりが空洞化して日本のよさが失われている」という議論は、実はファブレスのメーカーが登場した時点であまり意味がなくなってしまっているのです。



 ううむ……。目からウロコ。
 モノづくりの世界でいまどんな激変が起こりつつあるのかが、豊富な具体例を通してすんなり理解できる好著だ。

ジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』



 ジェレミー・リフキン著、柴田裕之訳『限界費用ゼロ社会――<モノのインターネット>と共有型経済の台頭』(NHK出版/2592円)読了。書評用読書。

 世界的な文明評論家である著者の本は、本書の前著に当たる『第三次産業革命』(2011年)を読んだことがある。
 蒸気機関と印刷技術が担った第一次産業革命、石油動力と電話などの電気通信技術が担った第二次産業革命につづき、いま、太陽光発電などの再生可能エネルギーとインターネット技術の融合によって、第三次産業革命が起こりつつある、という本であった。

 本書は、その続編ともいうべき内容だ。著者の提唱する第三次産業革命が、「IoT」(Internet of Things=モノのインターネット)時代の到来でいよいよ本格的に始まったことをふまえ、進行中のパラダイムシフトを改めて論じた書なのだ。

 「限界費用」とは経済学の用語で、「モノやサービスを一つ(一単位)追加で生み出す費用」のこと。あらゆるモノがネットを介してつながる「IoT」時代には、コミュニケーション、エネルギー、輸送の効率性・生産性が極限まで高まることで、この限界費用がほぼゼロになっていく。
 たとえば、電子書籍や音楽のネット配信は、印刷費や輸送費などがかからないことで、すでに限界費用がほぼゼロになっている。今後は、あらゆるモノやサービスにこういう変化が起きていく。
 そして、限界費用ゼロ社会では、モノやサービスがどんどん無料化していくことで、企業の利益が消失し、資本主義が成り立たなくなる。

 では、その先の「ポスト資本主義社会」とはどのような社会なのか? リフキンはその問いに、さまざまな角度から答えていく。

船橋洋一ほか『検証 日本の「失われた20年」』



 船橋洋一編著『検証 日本の「失われた20年」――日本はなぜ停滞から抜け出せなかったのか』(東洋経済新報社/3024円)読了。書評用読書。

 日本を代表するジャーナリスト・船橋洋一氏を中心に、日米欧の識者が集い、日本の「失われた20年」を検証した重厚なリポートである。

 経済と政治を中心に、人口問題、教育、歴史認識、安全保障など多彩な分野の15のテーマが掲げられ、それぞれの分野の専門家が「失われた20年」を分析していく。

 失われた20年を、「失われた30年」にしないための書でもある。現在もつづく停滞と先送りに終止符を打つための処方箋も、随所にちりばめられているのだ。

 何より、詰め込まれた情報量が豊富で、1990年代初頭から現在までの日本社会の鳥瞰図として読み応えがある。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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