デイヴィッド・ライアン『監視文化の誕生』



 デイヴィッド・ライアン著、田畑暁生訳『監視文化の誕生――社会に監視される時代から、ひとびとが進んで監視する時代へ』(青土社/2808円)読了。

 書評用読書。事前に予想したよりもずっと面白い本だった。
 監視社会研究の第一人者である著者(カナダのクイーンズ大学教授)が、2010年代の状況をふまえて綴った、〝デジタル時代の監視文化論〟である。

 「監視社会」といえば、ジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984年』や、ミシェル・フーコーが〝少数者による社会管理システム〟の比喩として用いた「パノプティコン」(元は英国の哲学者ベンサムが構想した「一望監視方式」の監獄の名)のように、巨大な国家権力が民衆を監視する超管理社会がまず思い浮かぶ。

 「スノーデン事件」が示唆するように、そのような国家権力による民衆の監視は、いまの社会にもある。だが、今日の監視はそれだけではなく、もっと多様で両義的だ。

 たとえば、Amazonは購入履歴を通じて、利用者のあらゆる面の好みを知り尽くしている。Amazonのようなネット上の巨大プラットフォームは、世界中の膨大な利用者をある意味で「監視」しているのだ。

 また、ツイッターなどのSNSを通じてつながり、頻繁にやりとりしている見知らぬ相手のことを、私たちは時にその人の隣人以上に深く知っている。その場合、私たちはSNSを介して相手を監視し、自らも相手に監視されているとも言える。

 それらはいずれも、『1984年』的な〝強者が弱者によって監視される〟という一方通行の監視ではない。私たちは、利便性や承認願望と引き換えに、ネット上に個人情報をアップするなどの形で、進んで自らを監視にさらしている。そして、他者を監視してもいるのだ。
 本書の副題に言うように、「社会に監視される時代から、ひとびとが進んで監視する時代」へと変わったのである。

 そのような、ネット社会になって初めて生まれた監視のありようは、「監視国家」「監視社会」という古びた言葉にそぐわない。ゆえに「監視文化(Culture of Surveillance)」と呼ばれる。

 「監視文化」の時代に、監視は「日常化」し、「ハイテクによるクールな衣装をまとって現れ」る。監視は、ある意味で〝娯楽化〟すらしている。本書は、そのような「人々の日常経験としての監視を考えようとした」刺激的な論考である。

 著者自身の研究以外にも、すでに監視をめぐる研究の蓄積は膨大にある。著者はそれらに随所で言及。本書は監視研究の概説書/カタログにもなっており、資料的価値も高い。

 著者は、スマホなどを介した「日常経験としての監視」が、その利便性の陰に孕んだ危険性について、さまざまな角度から警鐘を鳴らす。
 その一方、最終章(6章)「隠れた希望」では、今後の「監視文化」が実り多きものになるための方途を模索する。つまり、監視文化のプラス面にも目を向けているのだ。

 「監視を考える上での必読文献」(訳者あとがき)であり、日常の中に監視が遍在する時代を生きる我々に、多くの示唆を与えてくれる。

 なお、著者は、デイヴ・エガーズの小説『ザ・サークル』(エマ・ワトソン、トム・ハンクス主演で映画化もされた)を、「監視文化」社会の危険性をリアルに描いたフィクションとして高く評価している。それはそれでいいのだが、本書には『ザ・サークル』への言及がかなり多いため、同作を読んでいない者にはわかりにくい面がある。そこが難点。

福田淳『SNSで儲けようと思ってないですよね?』



 福田淳(あつし)著『SNSで儲けようと思ってないですよね?――世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館/1296円)読了。

 誤解されやすい書名だと思う。
 「SNSをバズらせてマネタイズに結びつけるには?」みたいな、小手先のテクが書かれたチャラい本だと思われかねない。

 実際に読んでみれば、そうではない。ソーシャルメディア時代の“人の輪”の作り方や、“社会をよい方向に変えるためにソーシャルメディアをどう活かしていくべきか?”といったことが、カリスマ・マーケッターである著者の体験をふまえて論じられている。

 語り口調に近い軽快な文章ながら、けっこう深いことを言っている。
 たとえば、ドナルド・トランプのSNS活用術を分析したあとで、著者は次のように書く。

 このようにしてトランプ氏は、通常のメディアでは伝え切れない、ソーシャルメディアならではの特性をすべて取り入れた戦略を立てたのです。こうした背景から、トランプ氏は、「突然現れたモンスター」ではなく、SNS効果を熟知している「優れたマーケッター」なのではないかと僕は見ています。



 政治評論家などとは異なる位相からの著者のトランプ評価は、傾聴に値する。

 また、ソーシャルマーケティング企業の代表格「ソニー・デジタルエンタテインメント」の初代社長である著者が、生身の人のふれあいを重視している点は、意外で面白いと思った。

 日々の「街歩き」のことを、僕は「素振り」と呼ぶことにしています。(中略)
 バットを振り続けている限りはボールが当たることだって時々はある。打席に立っている分、街を歩いている分、打つべき角度だとか、土地勘だとか、マーケッターとして重要な、「気配を察する能力」が磨かれていくからです。

 実際、街歩きが習慣になると、「時代の気分」を次第に感じることができるようになっていきます。



 それから、『少年マガジン』を100万部雑誌に育て上げた天才編集者・内田勝さんとの思い出が随所に紹介されている点は、個人的にうれしかった。
 内田さんはソニー・デジタルエンタテインメントの初代顧問であり、著者は自らに影響を与えた「4人の偉大な大先輩」の1人に数えている。

 生前の内田さんとは、一度だけ一緒に飲む機会があった。そのとき、内田さんの著書『奇の発想』(三五館/これは名著)にしていただいたサインは、私の宝物だ。 

中川淳一郎『ネットは基本、クソメディア』



 中川淳一郎著『ネットは基本、クソメディア』(角川新書/907円)読了。

 この人の本は、専門分野であるネットについて書いている分には面白いが、『バカざんまい』のように社会万般に間口を広げて書くと、たちまち底の浅さが露呈してしまう……という印象を私は持っている。

 本書はタイトルどおり、彼がたくさん出してきた“ネットのおバカ事件観察本”の最新刊。
 ただし、『ウェブはバカと暇人のもの』や『ネットのバカ』がお笑いに傾いていたのに比べ、本書はわりとマジメなメディア論としての色合いが濃い(タイトルの下品さとは裏腹に)。

■関連エントリ
中川淳一郎『ネットのバカ』
中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの』

 DeNAが運営していた医療系キュレーションメデイア「WELQ(ウェルク)」の炎上→サイト休止事件についての考察が、大きなウェートを占めている。事件の顛末をまとめた本としての資料的価値もある。

 WELQに代表される劣悪なキュレーションメディアの氾濫を、「『やりがい搾取』の面も多分に備えた問題」だと、著者は指摘する。

 ライターになりたい人はとにかく「場」を求める。それが傍から見るとクソのようなメディアであろうとも、とにかく「場」がもらえたことで大喜びし、いっぱしのライターになったかのような気持ちになれる。



 ライターの卵たちの「やりがい」につけ入って搾取し、信じられないような安いギャラで「コタツ記事」を量産させていたことが問題なのだ、と……。

 いくら手抜きをした記事であろうが、従来の「1PVは1PV」というネット上の格言によれば等価である。長きにわたる取材を行い、渾身のスクープを取った記事と、コタツで鼻くそほじりながらネット検索だけを駆使して書いた記事が等価に近い形で扱われている現状がある。



 著者はそうした現状を嘆いたうえで、「WELQ」事件が一種のショック療法となって、ネットメディアが改善されつつあるという希望の側面にも言及している。

 とくに、「ネットメディアのギャラが上がってきている」(「WELQ」事件だけが原因ではないが)という話は、私にとっても喜ばしい。
 

ケヴィン・ケリー『〈インターネット〉の次に来るもの』



 ケヴィン・ケリー著、服部桂訳『〈インターネット〉の次に来るもの――未来を決める12の法則』(NHK出版/2160円)読了。書評用読書。

 米『WIRED』誌初代編集長の著者が、インターネットの黎明期から現在までを最前線で見つめてきた経験をふまえ、向こう30年間のネットにまつわるメガトレンドを読み解いた書。

 SNSとかIoTとか、ネットをめぐる一つのテーマを深掘りした本はたくさんあるが、本書のように、“ネットをめぐるすべて”を視野に入れたうえで書かれた大局的な未来予測の書は、意外にありそうでないものだ。

 その意味で本書は、たんなるネット関連書というより、トフラーの『第三の波』や『パワーシフト』、あるいはエリック・シュミット&ジャレッド・コーエンの『第五の権力――Googleには見えている未来』などと比較されるべき、社会の大画期を捉えた一種の文明論と言える。

 未来予測の書は、悲観と楽観のどちらに偏るかによって、色合いが大きく変わる。本書は、著者自身も言うとおり、悲観的な側面にはあえて触れない内容になっており、思いっきり楽観寄りだ。ネットと周辺テクノロジーが空気のように社会に遍在する未来が、“ほぼバラ色”に描かれているのだ。ゆえに、一読後「私たちはいい時代に生まれたなァ」と感じさせる。

 そう感じさせる記述の例を挙げる。

 人間の表現行為に対する読者や観客やリスナーや参加者になるという点で、いまほど良い時代はなかった。(中略)いまや本当に簡単に、手首をちょっとひねる程度の動作で誰もが「万物のライブラリー」を手元に呼び出すことができる。
(中略)
 いまなら簡単な映像を作るのは、10年前と比べて10倍簡単になっている。100年前と比べたら、小さな機械部品で何かを作ることは100倍は簡単だ。1000年前と比べて、本を書いて出版することは、1000倍簡単になっている。



高橋暁子『ソーシャルメディア中毒』


ソーシャルメディア中毒 -つながりに溺れる人たち- (幻冬舎エデュケーション新書)ソーシャルメディア中毒 -つながりに溺れる人たち- (幻冬舎エデュケーション新書)
(2014/12/03)
高橋暁子

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 高橋暁子著『ソーシャルメディア中毒――つながりに溺れる人たち』(幻冬舎エデュケーション新書/840円)読了。

 ITジャーナリストの著者が、LINE、ツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディアの負の側面を描き出した概説書。
 著者は元教員だそうだ。だからこそであろう、ソーシャルメディアが子どもたちに及ぼす悪影響について、かなり紙数が割かれている。

 人目を引く派手さはない本だが、ソーシャルメディアの歴史と現状、今後取るべき対策についての提言などが、手際よくまとめられた良書。平明ですっきりとした文章も好ましい。

 ソーシャルメディアをめぐる事件についての記述は、フツーにネットに接している人なら知っていることがほとんどで、新鮮味はない。
 ただ、いまの子どもや若者の生活にとってソーシャルメディアがどれほど欠かせないものになっているか、そこからどのような軋轢が生じているかの紹介・分析では、何度も目からウロコが落ちた。
 たとえば――。

 ティーンはオンラインの付き合いをとても大切にするので、オンラインでの自分をとても大切にする。すなわち、SNS内での自分のイメージ、仲間内でのポジション、ソーシャルゲームでの強い自分などだ。その挙げ句、リアルの生活をないがしろにして、オンラインに没頭することも多くなる。「会ったことがないけれど親友」「会ったことはないけれど恋人」という不思議な事態が起こるのはそのためだ。



 私学では、「SNSを利用したら停学」というところも増えている。公立の中学高校でも、SNSを利用禁止とし、同意書を配布して保護者の同意を取り付けようとしている学校もある。



 私自身は、「SNSはやらない」と決めている(ミクシィもやったことがないし、ツイッターもフェイスブックもLINEもやらない)。
 そのためにいろいろ不便が生じているのかもしれないが、そもそもやったことがないから不便も感じない。
 ゆえに、本書に紹介されたSNSのネガティブな側面を見ても「大変だなあ」としか思わないのだが、いまのティーンにとっては「SNSはやらない」という選択肢自体がないのだろう。

 大人の「ソーシャルメディア中毒」予備軍の人たちにとっても、一読の価値がある。

 SNS内の友達数や「いいね!」の数、フォロワー数は、言ってみればゲーム内通貨だ。ゲームをやっている間はとても価値がある気がするが、ゲームが終わったら何にも使えない仮想の通貨となる。



 ……などという一節は、ほんとうにそのとおりだと思う。

 喫茶店のスターバックスとドトールを比較すると、「スタバ(スターバックス)なう」というツイートは、「ドトールなう」に比べて約10倍となる。
(中略)
 お洒落なスターバックスにいることは周囲に言いたいが、カジュアルな店であるドトールにいることはあえて言わないということだ。



 ……なんて話も面白い。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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