富井真紀『その子の「普通」は普通じゃない』



 富井真紀著『その子の「普通」は普通じゃない――貧困の連鎖を断ち切るために』(ポプラ社/1620円)読了。

 著者は貧しい崩壊家庭に育ち、中卒で社会に出て10代でシングルマザーになり、一時は「夜の世界」に入って道を踏み外しかけた人。
 しかしその後、児童虐待防止活動や「子ども食堂」など、子どもたちやシングルマザーなどを貧困から救うための活動をするようになる。

 現在の社会活動(代表理事を務める「一般社団法人日本プレミアム能力開発協会」での取り組み)のことがメインの本かと思って手を伸ばした。だが実際には、著者の壮絶な半生を綴った自伝のほうがメインであった。

 全体の3分の2ほどが自伝パートで、残り3分の1ほどが現在の活動の紹介だ。とはいえ、自伝パートにも読み応えがあるので、結果的には読んでよかった。

 著者のこれまでの半生がすさまじい。


 お金がない家でした。
 母は私を産んだ半年後に失踪。
 父は職を転々とし、給料をすべてパチンコに注ぎ込むギャンブル依存症。



 両親とも、絵に描いたようなドクズ。父親は著者の給与や出産助成金(!)まで盗んではパチンコに費やす。成人後に再会を果たした実母は、会ったその日に著者に金を無心する。

 そのうえ、現在の夫もまた崩壊家庭に育った人であったり、夫の前妻が薬物依存で何度も刑務所に入ったあげくに自殺していたり、実姉が3人の子どもを置いて浮気相手と失踪し、現在も行方不明であったり……。

 「貧困の連鎖」の恐ろしさを垣間見せる半生だ。
 そのような波乱万丈の年月を経て、著者が学ぶことによって貧困の連鎖を断ち切ろうと決意し、力強く歩み始めるまでが綴られている。

 とりわけ素晴らしいのは、著者が自らの貧困脱出だけにとどまっていない点。他の多くの子どもたち、貧しいシングルマザーたちを救うための利他行動にまで踏み出しているのだ。

 「貧困の連鎖は断ち切れると実証している人生が、ここにある。希望をありがとう」という、湯浅誠が本の帯に寄せた推薦の辞そのままの本である。

 一つだけ難を言えば、著者が性風俗で働いていた時期があることに本書では触れられていない(湯浅誠が2017年に「Yahoo!ニュース 個人」で書いた、著者についての紹介記事には出てくる)のは、いかがなものかと思った。

 おそらく、編集サイドの「よかれ」と思っての配慮でそうなったのだろう。
 だが、ほかのことについてはつらい過去もすべてさらけ出しているのだから、風俗経験についても赤裸々に書いてほしかった。そうであってこそ、同じような境遇の女性たちに希望を与える本になっただろう。

藤田孝典『貧困クライシス』『貧困世代』ほか



 藤田孝典著『貧困クライシス―― 国民総「最底辺」社会』(毎日新聞出版/972円)、『貧困世代――社会の監獄に閉じ込められた若者たち』 (講談社現代新書/821円)、『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』 (朝日新書/821円)読了。仕事の資料として。

 生活困窮者支援に取り組んできたソーシャルワーカーの著者(NPO法人「ほっとプラス」代表理事)は、貧困問題を広く知らしめるための啓蒙書を次々と刊行してきた。そのうちの一つ『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』は20万部突破のベストセラーとなり、「下流老人」は流行語大賞にもノミネートされた。

 今回読んだ3冊のうち、『続・下流老人』はタイトルのとおり『下流老人』の続編。今後の過酷な社会で老人たちが生き延びていくための「解決策」にウエートが置かれている。



 『貧困世代』は、若者の貧困に的を絞った概説書・提言書。シングルマザーの貧困や子どもの貧困などと比べ、軽視されがちな若者の貧困が、いまどれほど深刻化しているかを浮き彫りにする。
 書名の「貧困世代」とは、おおむね現在の10代~30代を指し、「一生涯貧困に至るリスクを宿命づけられた状況に置かれた若者たち」であるという。

 高度成長期やバブル時代を経験し、当時の恵まれた状況がいまも頭にある上の世代は、いまの若者たちがそれほど追いつめられている現実を理解しにくい、と著者は言う。

 大人たちには、子どもを産みたくても産んで育てるほどのゆとりがない若者たちの姿が見えていない。子育てはぜいたくというのが、貧困世代のホンネである。



 もう一冊の『貧困クライシス』は、老人の貧困、女性の貧困、若者の貧困、中年の貧困……と、各世代の貧困問題を総花的に扱った概説書。「とりあえず全体像をつかみたい」という人は、これから読むとよいかも。

 3冊とも、貧困の現場を肌で知るゆえの「熱さ」、問題を改善していこうとする社会改革への強い意志に満ちており、好感が持てる。
 「貧困問題」本にありがちな、「こんなにカワイソウな人たちがたくさんいるんですよ~。やっぱ政治が悪いですよね~」で終わってしまう感傷的な内容ではないのだ。

上間陽子『裸足で逃げる』



 上間陽子著『裸足で逃げる――沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版/1836円)読了。

 琉球大学教育学部の教授で、主に非行少年少女の問題を研究してきた著者が、研究の一環として行ってきた少女たちへの聞き取り調査をベースにしたノンフィクション。

 全6章立てで、それぞれ“主人公”にあたる少女が登場する。
 少女たちは、親からネグレクトされて育ったり、援交で生計を立ててきたり、恋人からDVをくり返されたり……といった過酷な状況にある子ばかり。早くしてシングルマザーになった子も多く、キャバ嬢率も高い。恋人の男たちは、大半がドクズ。

 『闇金ウシジマくん』の「逃亡者くん」編(沖縄が舞台)に出てきたような話だなァ、と思いつつ読んだが、それくらい“沖縄のありふれた現実”だということだろう。

 47都道府県中、貧困が最も深刻だと言われる沖縄――。その貧困・暴力・虐待の連鎖の問題が、少女たちの肉声から浮き彫りになる。

 少女たちが苦境に立つたび、親身になって相談に乗り、身を削って手助けする著者の行動が随所で描かれ、頭が下がる。取材者・研究者という枠を踏み越えて、少女たちに深く関わっているのだ。
 元々、著者の調査は少女たちへの支援も兼ねたものだそうだから、当然といえば当然なのだろうが、なかなかできることではない。

 また、年齢的には少女たちの母親であってもおかしくないのに(失礼!)、著者がまるで同年代の友人のような雰囲気で会話している点にも、感服させられる。

 同じ問題を扱っても、中村淳彦が書くと少女たちを見世物にするような煽情的記事になるが、著者の文章には少女たちに寄り添うあたたかさが満ちている。

 難を言えば、少女らの言葉を記した部分が聞き取り調査の引き写しで、テープ起こしを読んでいるような味気なさとわかりにくさがある(逆に、調査のまんまだからこその生々しい迫力もあるが)。
 学術書ではなく一般向けノンフィクションなのだから、そのへん、「作品」らしくトリートメントしてもよかったのでは?

慎泰俊『ルポ 児童相談所』



 昨日は取材で仙台へ――。
 編集者氏からは「泊まりますか?」と聞かれたが、原稿の〆切が山積みなので、断腸の思いでことわって日帰り。夕食に仙台駅で牛タン定食を食べて、つかの間観光気分を味わう。
 GWなどまったく関係なく、仕事ざんまいである。

 今回は、バングラデシュの空軍司令官・食糧大臣などを歴任された、A.G.マムード氏への取材。
 1977年に起きた日本赤軍によるダッカ日航機ハイジャック事件で、バングラデシュ側の交渉責任者になり、人質の全員解放に尽力された方……といえば、思い出す人もあろう。



 今回、40年の時を経て日本政府から叙勲されるために来日されたのである。

 東北大学へのバングラデシュからの留学生たちとの交流会にも同席させていただき、楽しい時をすごした。


 行き帰りの新幹線で、慎泰俊(シン・テジュン)著『ルポ 児童相談所/一時保護所から考える子ども支援』(ちくま新書/842円)を読了。仕事の資料として。

 著者は社会起業家だが、これは本職のノンフィクション作家顔負けの見事なルポであった。日本の児童相談所の実態を、併設される「一時保護所」のことにフォーカスして描き出したものだ。

 著者自らが全国10ヶ所の一時保護所を訪問し、そのうち2つには住み込み、子どもたち、親、児相職員ら100人以上にインタビューを行ったという取材の厚みが素晴らしい。

 従来、この手のルポは、児相側か親側のどちらかに偏りがちだった。とくに、一方的な「児相悪者論」の本が目立った。それに対し、本書はどちらにも偏らず、「児相のいま」を中立的な視座から浮き彫りにしている。

 児相が疲弊しきっている現状を明らかにしたうえで、改善策を細かく提示している(このへんは社会起業家らしい)点も好ましい。

 児童虐待や「子どもの貧困」の問題を考えるうえで、必読の良書である。

秋山千佳『ルポ 保健室』



 月~金と5日連続の取材を終えて、ホッと一息。

 昨日までの4日間は、永田町に通って日替わりで国会議員を取材していた。昨日は国会会期中の衆議院本館にも入れた。「気分はもう政治記者」である(笑)。


 秋山千佳著『ルポ 保健室――子どもの貧困・虐待・性のリアル』(朝日新書/842円)読了。
 元『朝日新聞』社会部記者で、2013年からはフリーのノンフィクションライターである著者が、朝日時代からつづけてきた取材をまとめた本。

 各地の学校(おもに公立中学)の保健室に通いつめ、養護教諭と保健室にやってくる子どもたちを密着取材したルポだ。
 家庭の貧困や保護者からの虐待など、さまざまな困難を抱えた子どもたちが、オアシスのように感じて通ってくる保健室。そこでくり広げられる、養護教諭と子どもたちのふれあいが、ていねいに描き出されている。

 いくら家庭的な温かみにあふれているようでも、やはりここは、子どもの生きづらさと闘う最前線なのだ。



 ――という一節が印象的だ。
 学校にも家庭にも居場所がなく、自ら命を絶つことを選びかねない子どもたち。彼らにとって、優れた養護教諭は最後の命綱になり得るのだ。
 深く傷つき、心を閉ざしていた子どもたちが、養護教諭の粘り強く献身的な「寄り添い」によって蘇生していくプロセスが胸を打つ。

 秀逸なルポ。全国の養護教諭はとくに必読だと思う。
 

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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