上間陽子『裸足で逃げる』



 上間陽子著『裸足で逃げる――沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版/1836円)読了。

 琉球大学教育学部の教授で、主に非行少年少女の問題を研究してきた著者が、研究の一環として行ってきた少女たちへの聞き取り調査をベースにしたノンフィクション。

 全6章立てで、それぞれ“主人公”にあたる少女が登場する。
 少女たちは、親からネグレクトされて育ったり、援交で生計を立ててきたり、恋人からDVをくり返されたり……といった過酷な状況にある子ばかり。早くしてシングルマザーになった子も多く、キャバ嬢率も高い。恋人の男たちは、大半がドクズ。

 『闇金ウシジマくん』の「逃亡者くん」編(沖縄が舞台)に出てきたような話だなァ、と思いつつ読んだが、それくらい“沖縄のありふれた現実”だということだろう。

 47都道府県中、貧困が最も深刻だと言われる沖縄――。その貧困・暴力・虐待の連鎖の問題が、少女たちの肉声から浮き彫りになる。

 少女たちが苦境に立つたび、親身になって相談に乗り、身を削って手助けする著者の行動が随所で描かれ、頭が下がる。取材者・研究者という枠を踏み越えて、少女たちに深く関わっているのだ。
 元々、著者の調査は少女たちへの支援も兼ねたものだそうだから、当然といえば当然なのだろうが、なかなかできることではない。

 また、年齢的には少女たちの母親であってもおかしくないのに(失礼!)、著者がまるで同年代の友人のような雰囲気で会話している点にも、感服させられる。

 同じ問題を扱っても、中村淳彦が書くと少女たちを見世物にするような煽情的記事になるが、著者の文章には少女たちに寄り添うあたたかさが満ちている。

 難を言えば、少女らの言葉を記した部分が聞き取り調査の引き写しで、テープ起こしを読んでいるような味気なさとわかりにくさがある(逆に、調査のまんまだからこその生々しい迫力もあるが)。
 学術書ではなく一般向けノンフィクションなのだから、そのへん、「作品」らしくトリートメントしてもよかったのでは?

慎泰俊『ルポ 児童相談所』



 昨日は取材で仙台へ――。
 編集者氏からは「泊まりますか?」と聞かれたが、原稿の〆切が山積みなので、断腸の思いでことわって日帰り。夕食に仙台駅で牛タン定食を食べて、つかの間観光気分を味わう。
 GWなどまったく関係なく、仕事ざんまいである。

 今回は、バングラデシュの空軍司令官・食糧大臣などを歴任された、A.G.マムード氏への取材。
 1977年に起きた日本赤軍によるダッカ日航機ハイジャック事件で、バングラデシュ側の交渉責任者になり、人質の全員解放に尽力された方……といえば、思い出す人もあろう。



 今回、40年の時を経て日本政府から叙勲されるために来日されたのである。

 東北大学へのバングラデシュからの留学生たちとの交流会にも同席させていただき、楽しい時をすごした。


 行き帰りの新幹線で、慎泰俊(シン・テジュン)著『ルポ 児童相談所/一時保護所から考える子ども支援』(ちくま新書/842円)を読了。仕事の資料として。

 著者は社会起業家だが、これは本職のノンフィクション作家顔負けの見事なルポであった。日本の児童相談所の実態を、併設される「一時保護所」のことにフォーカスして描き出したものだ。

 著者自らが全国10ヶ所の一時保護所を訪問し、そのうち2つには住み込み、子どもたち、親、児相職員ら100人以上にインタビューを行ったという取材の厚みが素晴らしい。

 従来、この手のルポは、児相側か親側のどちらかに偏りがちだった。とくに、一方的な「児相悪者論」の本が目立った。それに対し、本書はどちらにも偏らず、「児相のいま」を中立的な視座から浮き彫りにしている。

 児相が疲弊しきっている現状を明らかにしたうえで、改善策を細かく提示している(このへんは社会起業家らしい)点も好ましい。

 児童虐待や「子どもの貧困」の問題を考えるうえで、必読の良書である。

秋山千佳『ルポ 保健室』



 月~金と5日連続の取材を終えて、ホッと一息。

 昨日までの4日間は、永田町に通って日替わりで国会議員を取材していた。昨日は国会会期中の衆議院本館にも入れた。「気分はもう政治記者」である(笑)。


 秋山千佳著『ルポ 保健室――子どもの貧困・虐待・性のリアル』(朝日新書/842円)読了。
 元『朝日新聞』社会部記者で、2013年からはフリーのノンフィクションライターである著者が、朝日時代からつづけてきた取材をまとめた本。

 各地の学校(おもに公立中学)の保健室に通いつめ、養護教諭と保健室にやってくる子どもたちを密着取材したルポだ。
 家庭の貧困や保護者からの虐待など、さまざまな困難を抱えた子どもたちが、オアシスのように感じて通ってくる保健室。そこでくり広げられる、養護教諭と子どもたちのふれあいが、ていねいに描き出されている。

 いくら家庭的な温かみにあふれているようでも、やはりここは、子どもの生きづらさと闘う最前線なのだ。



 ――という一節が印象的だ。
 学校にも家庭にも居場所がなく、自ら命を絶つことを選びかねない子どもたち。彼らにとって、優れた養護教諭は最後の命綱になり得るのだ。
 深く傷つき、心を閉ざしていた子どもたちが、養護教諭の粘り強く献身的な「寄り添い」によって蘇生していくプロセスが胸を打つ。

 秀逸なルポ。全国の養護教諭はとくに必読だと思う。
 

中川雅之『ニッポンの貧困』



 一昨日は、立教大学経済学部の郭洋春教授を取材。テーマは軽減税率。

 昨日は、来日中の「Gaviワクチンアライアンス」理事長・オコンジョさんを取材。
 「Gaviワクチンアライアンス」は、途上国の貧しい子どもたちへのワクチン接種普及を推進する同盟(アライアンス)。オコンジョさんは、元ナイジェリア財務大臣/前世界銀行副総裁でもある。
 
 このところ取材がバタバタつづいていたが、これで一区切り。来週はアウトプット――つまり原稿書きに専念する予定。


 中川雅之著『ニッポンの貧困――必要なのは「慈善」より「投資」』(日経BP社/1512円)読了。

 本書は、『日経ビジネス』の貧困問題特集をベースにしたもの。「日経がついに貧困問題を取り上げたか」と話題を読んだ特集だ。著者は、1982年生まれのまだ若い日経記者。

 全体に日経ならではの視点が感じられ、その点が類書との差別化にうまくつながっている。
 「貧困問題」本は、「こんなにも貧しくてカワイソウな人たちがたくさんいるんですよ~。やっぱ日本の政治が悪いですよね~」で終わってしまう例が少なくない。「では、どうすればいいのか?」には目が向けられず、ジャーナリスティックな視点に欠ける感傷的な本が多いのだ。

 対して、本書の著者の視点は一貫してジャーナリスティックで冷静であり、貧困対策の側面に強く目が向けられている。
 それも、「貧困対策を進めるべき理由を、倫理や善意ではなく、できる限り経済合理性に求めよう、というのが本書の大きな試みだった」(「おわりに」)とあるとおり、貧困対策を有効で不可欠な社会的投資として捉える視点が全編に通底しており、その点が大きな特長になっている。

 たとえば、第3章「女性と家族を巡る軋み」には、次のような一節がある。

 子供が親にとっての宝であることは間違いない。だが同時に子供には、貴重な社会資源という側面もある。女性の貧困が男性の貧困よりも深刻な問題として認識されるのは、男女の賃金的な不平等があるためだけではない。女性のほうが現実的に育児を引き受けることが多く、そこから派生する貧困が子供時代に連鎖する可能性が高いからだ。親のためではなく、子供のために必要な施策を実行できなければ、この国はより多くの子供の貧困を生み続けることになる。



 貧困対策を「未来への投資」と捉える視点を打ち出した本としては、当ブログでも取り上げた阿部彩の『子どもの貧困Ⅱ――解決策を考える』が、すでにある。本書でも、そのテーマにストレートに迫った第5章「『貧困投資』はペイする」には、阿部彩(現・首都大学東京教授)へのインタビューが収録されている。

 この第5章は本書の白眉であり、最も読み応えがある。その中から、印象的な一節を引く。

 貧困状態の人ほど健康を害し、容体が深刻化するリスクが高いことから、貧困対策には医療費の抑制効果も期待できる。犯罪などのリスク軽減や、そこから波及する刑務所の運営コストの低減などを期待する声も大きい。



 貧困問題が「貧困層のみの問題」ではなく、社会全体の大きなリスクであることを改めて認識させ、解決策を提示する良書。

 なお、本書の一部は「日経ビジネスオンライン」で読める。
 「大学にさえ行けばいいなんて、イリュージョン」という発言がネットで「炎上」した日本学生支援機構理事長へのインタビューも読める。私は本書でこのインタビューの全文を初めて読み、むしろこの理事長に好感を抱いた。非常に率直にホンネを語ってはいるが、言っていることは至極まっとうだと思う。

池上彰ほか『日本の大課題 子どもの貧困』

日本の大課題子どもの貧困

日本の大課題子どもの貧困
著者:池上彰
価格:885円(税込、送料込)
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 池上彰編著『日本の大課題 子どもの貧困――社会的養護の現場から考える』(ちくま新書/885円)読了。

 仕事上の必要から児童養護施設のことを調べているので、関連書籍の中でいちばん刊行年月が新しい本書を読んでみた。
 本書はタイトルこそ『子どもの貧困』だが、子どもの貧困全般を扱っているわけではなく、児童養護施設を中心とした「社会的養護」の概説書である。

 池上彰・編となっているが、池上は前半の対談に参加し、まえがき・あとがきを寄せている程度。あとは社会的養護の当事者・専門家による本だ。
 
 身もフタもない言い方をすると、「ベストセラー連発の池上彰の本にすれば、売れる」との皮算用から、人寄せパンダとして担ぎ出されたわけだ。

 しかし、中身を読んでみれば、「わかりやすく説明するプロ」である池上の起用は成功していると感じる。
 本書の前半は丸ごと、池上と高橋利一(立川市などで児童養護施設を長年運営してきた人)の対談なのだが、この対談自体、児童養護施設の歴史と現状を的確にまとめた概説になっている。これは池上の手柄だろう。

 アマゾンのカスタマーレビューを見てみたら、この対談について批判しているものがあった。「池上は児童養護施設について何も知らないまま対談に臨んでいて、ケシカラン。ちゃんと準備して仕事しろや」(要旨)と――。

 この批判はちょっと的外れだと思うなァ。
 本書で池上に与えられた役回りは、むしろ素人目線を保ったまま対談に臨み、読者に代わって「基本のき」から教えを乞うことだろう。池上はその役割を十分果たしているし、対談の進め方はむしろすごくうまいと感じた。

 池上彰のネームバリューに寄りかかった企画という側面は否めないにしろ、結果的には児童養護施設に関する優れた概説書になったと思う。
 
 池上は、高橋利一からいい話もたくさん引き出している。たとえば――。

 あるとき、「園長先生、借金あといくら残ってる?」と聞いてくる子がいました。「2億円かな」って答えたら、「今に僕が返すからね」って言ってくれたことがある。「ああ、ありがとう。嬉しいね」って私は答えましたが、子どもたちがそんなことを言ってくれるようになってきたのも、日常の中に何か満たされたものがあるからでしょうね。



 後半は、社会的養護の専門家・当事者による、児童養護施設の現状をめぐる論考2本からなる。これはやや論文臭の強い堅い文章(でも、内容は重要)なので、前半のわかりやすい対談とのバランスがちょうどいい感じだ。

■関連エントリ
黒川祥子『誕生日を知らない女の子』レビュー
大久保真紀『児童養護施設の子どもたち』レビュー
渡井さゆり『大丈夫。がんばっているんだから』レビュー


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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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