多島斗志之『少年たちのおだやかな日々』



 多島斗志之著『少年たちのおだやかな日々』(双葉文庫)読了。

 2009年に失踪してしまったこの作家が、1994年に上梓した短編集。

 収録された7編の短編は、どれも広義のミステリ。いずれも中学生くらいの少年が主人公である。

 地の文をあまり使わず、会話の連続でどんどんストーリーが進んでいく構成で、とてもリーダブル。

 タイトルのとおり、どこにでもある「少年たちのおだやかな日々」の描写から始まるが、その日常に不穏な影が迫る。
 そして、まったくおだやかではない陰惨な結末が待っている。いまでいう「イヤミス」のたぐい。

 最初の短編が「言いません」で、最後の短編が「言いなさい」。凝った趣向である。全体も、短編集としての構成がよく練られている。

 「言いません」「言いなさい」「罰ゲーム」の3編はテレビドラマ化されたという。
 そのうち、「罰ゲーム」は『世にも奇妙な物語』の一編になったそうだ。7編全体も、なんとなく『世にも奇妙な物語』的だ。チープなところも……。

 最初の「言いません」がいちばん面白かった。
 中学生男子の主人公が、同級生の母親が見知らぬ男とラブホテルから出てくるところにバッタリ出くわしてしまい……という話。
 その母親の狼狽ぶりや、主人公の「どうしたらいいかわからない」戸惑いぶりが、とてもよく描けている。

 7編それぞれが「どんでん返し」で終わる構成。
 「言いません」と次の「ガラス」は、どんでん返しがうまく決まっている。
 一方、ほかの5編はとってつけたような終わり方で、感心しなかった。

 どんでん返しは、そこまでに張られた伏線を見事に回収する形でなされてこそ、読者も「一本取られたな!」と感心するものだろう。

 だが、本書の7編中5編は、それまでになかった要素を突然持ち込んでくるような強引などんでん返しになってしまっている。
 「えっ? そんなの聞いてないよ~」と言いたくなるようなモヤモヤ感が残った。

澤村伊智『ファミリーランド』



 澤村伊智著『ファミリーランド』(早川書房/1728円)読了。

 俊英ホラー作家による、初のSF短編集である。
 『SFマガジン』に掲載された5編に、書き下ろしの1編を加えた計6編からなる。

 6編とも、未来を舞台にしつつ、いまの日常とあまりかけ離れていない世界を描いている。
 そして、SFではあってもどこかホラー味を感じさせるところが澤村伊智らしい。ゾクッとくる怖さが随所にあるのだ。

 全部が全部傑作とは言えず、玉石混交。とくに、後半3編はどれもパッとしないと思った。たとえば――。

 ラストの「愛を語るより左記のとおり執り行おう」は、未来の葬儀の話である。
 葬儀が完全にヴァーチャル空間で執り行われるようになり、葬儀業界自体が消滅した世界。そんななか、一人の老人が〝自分の葬儀は昔ながらのスタイルで執り行ってほしい〟と希望したことから起こる騒動を描いている。

 アイデアはよいが、アイデア倒れ。
 登場人物が昔の(つまり、現在ではフツーの)スタイルの葬儀にいちいち驚く様子が、我々から見るとバカみたいに思えてしまう。

 また、書き下ろし作「今夜宇宙船の見える丘に」は、未来の姥捨ての物語である。
 いまどきの介護の苦しさの延長線上に、十分あり得る恐怖の未来を描いて、澤村伊智らしい。
 だが、それが『未知との遭遇』風に展開していくあたりは、木に竹を接いだ感じで、あまり成功していない。ただし、オチには爆笑した。

 一方、前半の3編はそれぞれ素晴らしい。

 「コンピューターお義母さん」は、テクノロジーの進歩が嫁姑問題をいっそう複雑化させた未来を描いて、秀逸。アイデア・展開・オチの三拍子揃って優れている。

 「翼の折れた金魚」は、個人的にはいちばん気に入った一編。
 どこか名作映画『ガタカ』を彷彿とさせる物語で、もっとふくらませて長編化してもイケると思った。

 薬品を用いた「計画出産」(それによって生まれてくる子どもは金髪碧眼となり、能力も高い)があたりまえとなった未来世界。無計画出産で(つまり自然に)生まれた子どもたちは「デキオ」「デキコ」と呼ばれ、差別されていた。
 しかし、あるとき「計画出産」が孕む闇が明らかになってきて……という話。

 「マリッジ・サバイバー」は、進化した〝未来のマッチングサイト〟の物語。オチのホラー味は本書で随一かも。

 「ぼぎわん」や「ししりば」のような化け物は登場しないが、「いちばん怖いのは人の心だよ」とでも言いたげな、ほんのりホラー風味のSF短編集。

赤松利市『純子』



 赤松利市著『純子』(双葉社/1404円)読了。

 私が赤松利市作品を読むのは、これが4作目。
 そのうちのマイベストは前作に当たる『ボダ子』だが、この『純子』もなかなかのものであった。

 ただ、一作ごとに「読者を選ぶ」度合いが高まっているように思う。逆に言えば、「一般ウケする無難な作風」からどんどん離れて、茨の道・けもの道を突き進んでいるのだ。

 〝クズな男としての自分〟の歩みを赤裸々に描いた私小説『ボダ子』も相当に「読者を選ぶ」作品だったが、本作はそれ以上だ。

 なにしろ、最初から最後までウンコがストーリー上の重要な役割を果たす(!)という、驚愕の一作なのだから。

 といっても、いわゆる「スカトロ・マニア」向けのポルノ小説というわけではない。
 そもそも、最初から最後まで、ストレートなセックス描写は一度も出てこないのだから、ポルノではない。

 それどころか、ウンコの要素を取り除けば、心温まる美しいファンタジーと言えなくもない。
 1960年代の四国の山間部を舞台に、輝くような美少女・純子が村の危機を救う物語なのだから……。

 しかし、全編がウンコにまみれているばかりに、美しいファンタジーが読者を選ぶ異形の物語と化しているのだ。

 まあ、赤松利市が変態であることは、アナル・セックスのシーンがくり返し登場する私小説『ボダ子』によって、読者にはすでにバレバレなわけで……。
 これは、その変態ぶりをさらに全面開花させた作品といえよう。

 読者を選ぶ小説ではあるが、赤松利市の才能をさらに強烈に印象づける傑作だ。誰にも真似できない独創性と、タガの外れた想像力が炸裂している。

澤村伊智『ひとんち』



 澤村伊智著『ひとんち  澤村伊智短編集』(光文社/1728円)読了。

 「比嘉姉妹シリーズ」の短編集としては先日読んだ『などらきの首』があるが、これは同シリーズ以外の作品を集めた短編集。

 8編の短編ホラーを収めている。出来にはかなりバラツキがあり、玉石混交。
 最初の3編があまり面白くなかったので、「やっぱり、澤村伊智は比嘉姉妹シリーズじゃないとダメかな」と思いかけた。

 が、後半の「宮本くんの手」と「シュマシラ」は2編とも傑作だ。
 とくに、「宮本くんの手」は完成度が高い。斬新なアイデア、意表をつく展開、バッチリ決まった見事なラストの三拍子が揃い、澤村伊智ならではの好短編に仕上がっている。

 「シュマシラ」は、タイトルからして澤村ワールド。
 「比嘉姉妹シリーズ」の「ぼぎわん」や「ししりば」同様、〝日本に古くからいた伝説の化け物が人を襲う〟というテイで創り上げられた、ジャパネスクなホラーである(「シュマシラ」=「朱猿」。「ましら」は猿の古名)。
 冒頭の伏線が、ラストでまさかこんな形で回収されるとは……という、「一本取られたな」感が味わえる。

 その2編に次ぐ出来なのが、「死神」。
 いわゆる「不幸の手紙」から発想した、おぞましい「不幸の◯◯」(ネタバレ回避)の物語。

 残りの5編は一段落ちるが、それでもキラリと光る部分は随所にある。
 たとえば「夢の行き先」は、ラストにもうひとひねり欲しい気がしたが、アイデア自体はすごく斬新だ。
 ホラーのサブジャンルに「悪夢もの」というのがあるかどうか知らないが、かりに「悪夢ものホラー」を集めたとしたら、その中でもアイデアの独創性では上位にランクされるだろう。よくこんなことを思いつくものだ。

 あと、一見地味なのに細部が凝っている装幀(坂野公一)も素晴らしい。

澤村伊智『などらきの首』



 澤村伊智著『などらきの首』(角川ホラー文庫/690円)読了。

 「比嘉姉妹シリーズ」4冊目にして、初の短編集である。

 収録作6編がそれぞれタイプの異なる作品で、多彩。
 「ワンパターンには陥らず、どんどん新しい趣向に挑戦するぞ」という作者の覚悟を感じさせる。その意気やよし。

 のちに結婚する比嘉真琴と野崎の最初の出会いが描かれた「ファインダーの向こうに」、『ずうのめ人形』で非業の死を遂げた比嘉美晴(真琴の姉で琴子の妹)の小学生時代を描く「学校は死の匂い」、野崎が高校生のころに出合った最初の怪異を描く表題作……などが収録されている。

 一見、「比嘉姉妹シリーズ」と無関係に見える作品もある。
 「悲鳴」は、比嘉姉妹の誰も登場しない。だが、シリーズの愛読者なら、登場人物の一人が『ずうのめ人形』で呪いの発信源となった「あの女」であることがわかる。つまり、これは『ずうのめ人形』の前日譚なのだ。

 また、「居酒屋脳髄談義」は、途中までは居酒屋で3人のおっさんサラリーマンが部下のOLにモラハラ・セクハラ的議論を吹っかけるだけの話に見える。ところが、最後まで読むと、じつは比嘉姉妹シリーズであることがわかる仕掛けなのだ。

 澤村伊智は技巧的構成を得意とする作家だが、本書の6編にもその才がいかんなく発揮されている。
 「ああ、こういうオチね」と思わせておいて、その先にさらなるどんでん返しのオチがあったりして、トリッキーな仕掛けが幾重にもなされているのだ。

 私が気に入ったのは、「学校は死の匂い」「ファインダーの向こうに」「ゴカイノカイ」の3編。

 とくに「学校は死の匂い」は、今年の日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞したことでもわかるとおり、短編としてすこぶる完成度が高い。
 よくある「学校の怪談もの」のホラーと思わせておいて、じつはその怪談の裏には過去の隠蔽された事件が……というどんでん返しのミステリになる構成が見事。ラストシーンのゾワっとくる怖さも鮮烈だ。

 澤村伊智は短編もうまいなァ、と感心させられる一冊。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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