深町秋生『卑怯者の流儀』



 風邪を引いて熱が出てしまった。昨日までの一日半寝ていたら、かなりラクになったが……。

 今回の風邪は、原因がはっきりしている。
 先週取材で札幌に行った際、「もう春だから大丈夫だろう」とスーツの上に薄いコートだけ羽織っていったら、現地はすごーく寒くて(雪も降った)ブルブル震えていたのだ。北海道の春を甘く見た報いの風邪である。


 寝床で過ごしていた間、仕事する気力も湧かなかったので、軽い本ばかり読んでいた。
 そのうちの一冊が、深町秋生の『卑怯者の流儀』(徳間書店/1836円)。警視庁組対四課――いわゆる「マル暴」のベテラン刑事・米沢英利を主人公とした、「悪徳警官もの」の短編連作だ。

 ヤクザなどから依頼を受けては、本来の業務とは関係ない“私的捜査”を行う。そのために警察の情報網などを不正利用することも厭わず、悪党どもから謝礼を受け取って私腹を肥やす……という、絵に描いたような悪徳警官の物語。
 全6編中のラスト2編で、かつては普通の熱血刑事であった米沢が道を踏み外したきっかけが明かされる。

 適度にコミカルで、適度にシリアス。
 海千山千の暴力刑事である米沢が、巨漢で柔道猛者の女上司(通称「関取」)にだけは頭が上がらない、というキャラ設定も面白い。

 悪徳警官である米沢にとって天敵の、警視庁人事一課(通称「ヒトイチ」)・奈良本京香監察官のキャラもよい。ひそかに「ゴースト」というあだ名で呼ばれている、不吉な雰囲気を漂わせる中年女――。
 全体に、『踊る大捜査線』的なわかりやすいキャラ立ちを、ドス黒い方向に転換させて用いている感じだ。
 
 全6編それぞれに工夫があって、「同じような話」がない点も好ましい。
  

柚月裕子『孤狼の血』



 柚月裕子著『孤狼の血』(KADOKAWA/1836円)読了。
 2年前に出た本だが、「仕事の息抜きに面白い小説が読みたいな」と、なんとなく手を伸ばしてみた。

 ハードボイルド色の濃い悪徳警官小説である。
 「タイトルがダサイなぁ」というのが第一印象。いまどき「孤狼」って……。作者が主人公のことを「一匹狼」と規定する自己陶酔は、「イタい」の極みだと思う。それが許されるのは大藪春彦までだ。

 もっとも、本作の舞台は昭和末期の広島だから、「昭和っぽいタイトルにしよう」と、あえて狙ったダサさなのかもしれない。

 タイトルはともかく、中身は面白かった。
 暴力団と癒着し、違法捜査も辞さない、絵に描いたような悪徳警官・大上が、ストーリーが進むにつれてだんだんカッコよく思えてくる。粗野で下品な男という第一印象が少しずつ崩れ、その内面に隠したピュアな心が見えてくる……という構成は、なかなかのもの。400ページ超の長編を一気に読ませる。

 各章の冒頭に抜粋された「日誌」の意味が明かされるラストのどんでん返しも、きれいに決まっている。

深町秋生『探偵は女手ひとつ』



 深町秋生著『探偵は女手ひとつ』(光文社/1620円)読了。

 30代後半でシングルマザーの私立探偵、椎名留美を主人公にした短編連作。本書には6編が収められている。
 作者の地元・山形を舞台にしており、飛びかう山形弁がいい味出してる。

 探偵の仕事がしょっちゅうあるわけではないため、留美は半ば「便利屋」と化している。さくらんぼの収穫手伝いや雪かき、パチンコ屋の開店待ち並び代行など、なんでもやって自分と娘の生活費を稼ぐのだ。そうした設定がリアルでよい。山形あたりには、現実にもそんな探偵がいそうな気がする。

 「便利屋」的仕事の合間に探偵としての調査依頼がきたり、「便利屋」仕事が縁となって探偵仕事が派生したりする……という感じのストーリー展開である。

 留美は元刑事で、やはり刑事であった夫が殉職したことから、生活のために探偵を始めたという設定になっている。
 夫を亡くした女刑事というと、深町の「組織犯罪対策課八神瑛子シリーズ」を思い出すが、本作はあのシリーズほどハードタッチではなく、もっとほのぼのとしている。

 各編とも、ラストには事件の謎解きがなされるミステリ仕立て。ただし、ハードボイルド系の小説だから、謎解きの面白さは主眼になっていない。

 本作の価値はむしろ、登場する人々の生活が確かなリアリティで描かれている点にある。
 さくらんぼ農家の苦労、雪かきの大変さ、スーパーで万引きする独居老人の孤独etc……。ハードボイルド小説としては例外的なほど、濃密な生活感が全編に満ちているのだ。

 深町秋生作品にしては薄味な気もするが、そこそこ楽しめるし、連続テレビドラマにしてもいい気がする(話が地味なので映画には向かないだろう)。

平山夢明『ヤギより上、猿より下』



 平山夢明著『ヤギより上、猿より下』(文藝春秋/1000円)読了。

 相変わらず、誰にも真似のできない独創的な小説世界が展開される最新作品集。

 一昨年に出た短編集『デブを捨てに』につづく〈イエロートラッシュ〉シリーズ第二弾、なのだそうで、アメリカン・ペーパーバックを模した製本も『デブを捨てに』と同一になっている。

 内容は、『デブを捨てに』に比べると少し勢いが落ちた気もするが、それでも十分楽しめた。

 凄絶な家庭内暴力を描きながらも、読後感は爽快ですらある「パンちゃんとサンダル」は、かつての傑作短編「或る愛情の死」(短編集『或るろくでなしの死』所収)を彷彿とさせる。書き方を少しチューニングすれば純文学になりそうな話なのに、それが「平山印」のブラック・ホラーに仕上がっている点が似ているのだ。

 「陽気な蠅は二度、蛆を踏む」もよい。殺し屋を主人公にした、「ちょっと見はハードボイルド・アクション」な話でありながら、いびつなユーモアと読後の寂寥感がやっぱり「平山印」な短編だ。

 表題作の「ヤギより上、猿より下」は、収録作4編中いちばん長い、唯一の中編。
 読んでタイトルの意味を知ったとき、読者はみな、「こんな話をよく思いつくもんだよなァ」と驚き、半ば呆れるに違いない。なんというか、「想像力のタガが外れている」感じなのだ。
 小説家が「想像力の商売」である以上、むろんそれは讃辞だが。
 

平岡陽明『松田さんの181日』



 昨日は、私用で群馬県桐生市へ――。

 行き帰りの電車で、平岡陽明著『松田さんの181日』(文藝春秋/1750円)を読了。

 昨夏に刊行された初長編『ライオンズ、1958。』が素晴らしかった気鋭の新人の、2冊目の単行本。
 オール讀物新人賞を受賞したデビュー作「松田さんの181日」を中心に、昨年までに『オール讀物』誌上で発表されてきた短編を集めたものだ(1編のみ書き下ろし)。

 素晴らしいクオリティの短編集である。
 収録作6編のうち、「寺子屋ブラザー篠田」だけはピンとこなかったが(失敗作だと思う)、ほかの5編は甲乙つけがたい傑作だ。「力の抜き方」まですでに心得ている手慣れた筆運びは、新人離れしている。

 いずれの作品も、広義の「人情ドラマ」である。
 ほどよいユーモア、巧みな「泣かせ」(とくに、表題作「松田さんの181日」と、その続編にあたる「マリーさんの101日」のクライマックスは泣ける)、快調なテンポとリーダビリティ、キャラ立ちの妙……といった特長を兼ね備えているあたり、浅田次郎を彷彿とさせる。

 浅田次郎の後継者になり得る人だと思うし、近い将来、直木賞が獲れる人だと思う。

■参考→ 「西鉄ライオンズの黄金期を背景に男の友情を描く、渾身の初長編」(私が書いた平岡さんへのインタビュー記事)


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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