根本橘夫『「自分には価値がない」の心理学』



 根本橘夫著『「自分には価値がない」の心理学』(朝日新書/842円)読了。

 教育心理学・性格心理学を専門とする心理学者の著者(東京家政学院大学名誉教授)が、無価値感を克服する方法についての提言をまとめた本。
 「自分には価値がない」と感じて苦しんでいる人たちに向けて書かれた、実用書としての側面が強い。

 「若い人たちへの遺言とも思って書いた」と、「おわりに」にはある。
 いまの日本の若者は、諸外国に比べて自尊感情が著しく低いことで知られている。無価値感の克服は、とくに日本人にとって喫緊の課題であり、本書は時宜を得た好企画と言えよう。

■関連エントリ→ 鈴木賢志『日本の若者はなぜ希望を持てないのか』

 1~3章では、無価値感がどのように生まれ、どのように人を苦しめるのかが、実例をふまえて綴られる。
 そして、残りの4~10章で、無価値感克服のための具体的アドバイスがなされていく。豊富な専門的知見をふまえたアドバイスは、傾聴に値する。

 また、書名のとおり、無価値感についての研究をまとめた心理学の概説書としても読める。以下、私が付箋を貼った箇所をいくつか引用。

 無価値感や自信のなさに悩む人の中には、「自分は過保護と思えるほど親から大事にされていたのに」と言う人が含まれる。大方の見方に反して、過保護は自己価値観よりも無価値感をもたらしやすいのである。(中略)過保護は子どもを無力化することで無価値感をもたらし、過干渉は子どもの自我を奪い取ることで無価値感をもたらす。



 信頼していた人に裏切られるという体験は無価値感をもたらす。
 なぜ怒りでなく無価値感になるのか。それは、信頼とは相互の価値を認めていることだからである。裏切られるということは、相手が私の価値を認めていなかったという事実に直面させられることである。

 
 

 無価値感の強い人は、快感に対する怖れがあり、快体験に没頭できない。
 のんびりとした時間を過ごしていると、怠惰を責める心が湧いてくる。楽しいときを過ごしている最中でも、脳裏にふと「これでいいのか」という不安がよぎる。
(中略)
 快感とは「今、ここ」を堪能することである。
 快楽を堪能できない人は、「今、ここ」を生きることができない。こうした人にとって、「今」とは、常に「後々」のための準備期間である。だから、いつも何かに追い立てられているようで、気持ちを休ませることができない。



 日本の若者の自尊感情が低い理由のくわしい分析が欲しかった気もするが、そのへんについてはズバリ『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』(古荘純一)という本も出ているから、そちらを読めばよいか。

信田さよ子『カウンセラーは何を見ているか』



 昨日は、取材で京都へ――。
 取材の前に、「京都国際マンガミュージアム」に行ってみた。前から観たいと思っていた「江口寿史展 KING OF POP」の「京都編」をちょうど開催していたので。



 京都国際マンガミュージアムに行くのは初めて。廃校になった小学校の校舎をリノベしてミュージアムにしたもので、「昔の小学校」っぽさがいい味出してる。歩くと床がギッシギシいうのだ。

 面白い常設展示も多いし、マンガ好きなら一度は行ったほうがよい施設だと思った。もっとも、「2度は行かなくていいかな」という気がしたが……。


 行き帰りの新幹線で2冊本が読めた。
 そのうちの1冊が、信田さよ子著『カウンセラーは何を見ているか』(医学書院)。取材の資料として読んだもの。

 ベテランカウンセラー・臨床心理士である著者が、カウンセラーとしての自らの歩みを綴った自伝的著作。自伝のスタイルを借りたカウンセラー入門という趣で、「カウンセラーの仕事がどういうものか」がざっくりわかるようになっている。

 印象に残った一節を引いておく。

 思い切った言い方をすれば、カウンセラーとは、バーやクラブのチーママ、占い師、そして新興宗教の教祖を足して三で割り、そこに科学的な専門性という装いをまぶした存在である。これは私の長年の持論であり、水商売と占いと宗教の三要素がカウンセリングには欠かせないと考えている。水商売というと引いてしまう人もいるかもしれないが、援助がサービスであるとすれば、サービス業の特徴をもっともよく表している業種である水商売とつながっていても不思議ではない。



 ただ、カウンセラー入門として読んだ場合、不要だと思える記述がけっこう多い。
 とくに、第2部の「カウンセラーは見た!」は、著者が狭心症で入院したときの出来事がメインになっていて、しかも“ヘタな小説仕立て”みたいな書き方をしている。

 この第2部は、丸ごとカットすべきだったと思う。カウンセラーの仕事について知りたい読者にはほぼ無意味な内容だからだ。

 私は信田さよ子の著作はけっこう読んでいて、『母が重くてたまらない』などは大変面白かった。
 しかし、著書をあれこれ読むうちに、当たり外れの振幅が大きい書き手であることがわかってきた(著書が多いだけに)。これまで読んだなかでいちばんひどかったのが『選ばれる男たち』(講談社現代新書)で、あまりのくだらなさに途中で投げ出したほど。

 本書も、前半はわりと面白かったが、全体としてはハズレだ。

■関連エントリ
信田さよ子『依存症』
信田さよ子『母が重くてたまらない』
信田さよ子『アダルト・チルドレンという物語』
信田さよ子『共依存・からめとる愛』

岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』



 岸見一郎・古賀史健著『嫌われる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社/1620円)読了。
 言わずと知れた、100万部突破の大ベストセラーである。前から気になっていた本で、仕事の資料としてようやく初読。

 フロイト、ユングと並ぶ「心理学の三大巨頭」の一人と目されながら、日本ではあまり知られていないアルフレッド・アドラー。その思想の核心を、対話形式で表現した“アドラー入門”だ。

 著者の一人・岸見一郎は、哲学者・アドラー研究者であり、日本アドラー心理学協会認定カウンセラー。その岸見に、フリーライターの古賀史健が数年越しの取材を重ね、まとめたのが本書である。

 プラトンの「対話篇」を模した、青年と哲人(=岸見の分身)の問答形式。青年が哲人に投げかける疑問の中に、一般読者がアドラー思想に抱きがちな疑問が反映されている。

 当初、アドラーの思想に強い反発を感じ、時には色をなす青年。だが、対話をくり返すなかでしだいに理解を深め、最後にはアドラー思想を心に据えて生き直す決意をする。
 まるで、日蓮の『立正安国論』(客と主人の問答形式で綴られ、最後に客が主人の主張を受け入れる)のようでもある。

 本書の抜きん出た平明さは、半ば以上が古賀史健の手柄だろう。「難解なことをわかりやすく整理してまとめること」こそ、ライターの能力の核なのである。
 古賀が優れたブックライターであることは当ブログでも過去に指摘しているが、このミリオンセラーによって、やっとその力に見合った大ホームランをかっ飛ばしたと言えそうだ。

■関連エントリ
古賀史健『20歳の自分に受けさせたい文章講義』
加藤嘉一『われ日本海の橋とならん』ほか

 本書は、アドラー思想をフィルターとした幸福論でもある。さる2月に発刊された続編はズバリ『幸せになる勇気』だが、本書が『幸せになる勇気』というタイトルであっても、違和感はなかっただろう。
 しかし、かりに第1弾が『幸せになる勇気』だったら、こんなに売れただろうか? あえて『嫌われる勇気』という目を引くタイトルにしたことも、100万部突破の要因の一つだと思う。

ジェームズ・R・フリン『なぜ人類のIQは上がり続けているのか?』



 ジェームズ・R・フリン著、水田賢政訳、斎藤環解説 『なぜ人類のIQは上がり続けているのか?――人種、性別、老化と知能指数』(太田出版/2700円)読了。

 IQ(知能指数)のスコアは、過去100年にわたって上昇をつづけている――この現象は、発見者の名を取って「フリン効果」と呼ばれる。
 本書は、「フリン効果」の発見者自身が、IQが上昇をつづけていることの理由と意味を探ったものである。

 本文は、かなり読みにくい。そもそも一般向け解説書ではなく、学術論文に近い専門書であるからだ。無味乾燥なデータの羅列がつづく部分も多い。
 また、IQ70以下の犯罪者は死刑が免除される、などというアメリカの特殊事情に準じた記述もあり、そのへんは我々日本人にはわかりにくい。

 そんなわけで、「面白く読める」というたぐいの本ではないが、それでも随所に驚きがあり、一読の価値はあった。

 また、精神科医の斎藤環が「はじめに」と「解説」を寄せているのだが、これが優れた文章で、独立した価値がある。本書の的確な要約になっていると同時に、本文にはない独自の視点も加えられた名解説だ。


↑フリン自身が「フリン効果」を解説した「TED」の動画。「字幕」ボタンを押すと日本語字幕が表示される。 

デイビッド・ルイス『なぜ「つい」やってしまうのか』


なぜ「つい」やってしまうのか 衝動と自制の科学なぜ「つい」やってしまうのか 衝動と自制の科学
(2015/02/26)
デイビッド・ルイス

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 昨日は、都内某所で作家の安部龍太郎さんを取材。今日もまた別の取材。

 毎日出かけるわけではないのに、たまたま私が取材のときに2日つづけて雨と雪(4月なのに雪!)というのはなんだかなァ。ふだんの行いが悪いのか(笑)。


 デイビッド・ルイス著、得重達朗訳『なぜ「つい」やってしまうのか――衝動と自制の科学』(CCCメディアハウス/2160円)読了。

 性衝動や過食衝動、衝動買いから自殺衝動に至るまで、さまざまな衝動的行動のメカニズムを探った科学ノンフィクション。
 著者は独立系研究機関「マインドラボ・インターナショナル」の創設者にして、研究主幹。心理学や脳科学、神経科学など、さまざまな科学的知見を総動員して「衝動」の正体に迫っている。

 前に読んだ、『WILLPOWER 意志力の科学』『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』の類書だ(※)。

※後者の類書であることはわかりにくいだろうが、先延ばしは目先の快楽に飛びついてやるべきことを後回しにする行為であり、衝動性とはコインの裏表なのだ。

 科学読み物としてなかなか面白い本だが、私のお気に入り本の一つ『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』(これは名著)に比べると、一段落ちるかな。
 構成がやや散漫だし、『ヒトは~』が先延ばし克服のための実用書でもあったのに対し、本書は衝動性コントロールのための実用書としてはほとんど役に立たない(ごく一部だけ、コントロールのコツが書かれてはいるが)。

 それでも、「衝動をめぐる雑学」の本だと割りきって読めば、メモしておきたい知見も多く紹介されており、一読の価値はある。

 本書を通読してしみじみ感じるのは、現代文明が人間の衝動性を引き出す誘惑に満ちた「欲望の文明」だということ。我々を衝動的過食や衝動的性行動、衝動買いなどに走らせる仕掛けが、社会の隅々にまで張り巡らされているのだ。

 たとえば、著者は次のように言う。

 買い物客は自らの意志の弱さを責めることも多いが、実のところ、衝動買いは非理性的な態度が原因であるというよりも、現代のマーケティング・広告・小売販売戦略が高度に洗練されているためなのである。スーパーマーケットの入口をくぐれば、あなたはすでに衝動買いの王国の中にいるのだ。



 カバーデザインも気が利いている。「ついつぶしたくなるプチプチ」で衝動性が表現されているのだ。

 

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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