中野潤『創価学会・公明党の研究』



 中野潤著『創価学会・公明党の研究――自公連立政権の内在論理』(岩波書店/1944円)読了。

 創価学会を「選挙」という一点に絞って、公明党を「創価学会による支援」という一点に絞って描いたノンフィクションである。
 著者が岩波の『世界』に寄せてきたレポートがベースになっているが、基本的には書き下ろしだ。

 取材も丹念でよく調べてあり、なかなかの労作だと思った。
 著者の名は『世界』と本書以外では見覚えがないが、大新聞の政治記者の変名なのかもしれない。

 本書の半年前に刊行された同傾向の本、『公明党――創価学会と50年の軌跡』(薬師寺克行)は、中立を装った偏向が目立つ本だった。それに対して、本書はニュートラルな立ち位置で、「ためにする批判」や悪意は感じられない。

 ただ、読みながらずっと違和感を覚えつづける本ではあった。
 「事実でないことが書かれているわけではない(と思う)けど、うーん……、こういうことじゃないんだよなァ」という感じの違和感である。
 たとえば、次のような一節――。

 単純化して言えば、個々の学会員にとって、選挙でどれだけ票を出せるかが、いわばその人の信心が試される「勤務評定」となっており、それゆえ選挙になるとみな必死にならざるを得ない。



 「勤務評定」って(笑)。
 この一節に象徴されるように、著者は創価学会の公明党支援も、公明党のあらゆる政治活動も、損得勘定・メリット/デメリットの範疇でしか捉えていない。
 「見返りがあるから頑張る」だけではなく、宗教者ゆえの無償の情熱というものがある。むしろ、それこそが創価学会・公明党の選挙に関する「内在論理」の核なのだが、著者にはそのことが見えていないと思う。

 同様の偏見は、島田裕巳の創価学会本にもよく見られる。
 たとえば島田は、『民族化する創価学会』の中で次のように書いた。

 東京大学に合格したにもかかわらず、創価大学への進学を選ぶ者もいるほどで、そこには、組織でのし上がるためには、東京大学よりも、組織の内部で高い価値が与えられている創価大学へ進学したほうが、はるかに有利だという判断がある。



 これは要するに、“「東大卒になる」という大きなメリットをあえて捨てるからには、もっと大きなメリットがあるに違いない。それは、「組織でのし上がる」ためには創価大卒のほうが「はるかに有利」だということなのだろう”……という邪推である。

 損得ずくでしか物事を考えられないという点で、島田も本書の著者も、同じ色眼鏡で学会・公明党を見ているのだ。 
 
 巻末の「主要参考文献」に私の著書も挙げられていて、いささか複雑な気分になった。

佐々木俊尚『21世紀の自由論』



 今日は西麻布のコスタリカ大使館で、ラウラ・エスキベル・モラ駐日コスタリカ共和国特命全権大使を取材。
 4年前からときどきやっている、各国の女性大使を1人ずつ取材していく「世界の女性大使たち」というシリーズの仕事だ(日本でいちばん有名な駐日女性大使であるキャロライン・ケネディ氏を取材しないまま、彼女が離日してしまうのは残念)。

 コスタリカは20世紀半ばに軍隊を全廃し、浮いた軍事予算を教育予算などに回し、平和国家として歩んできた。ゆえに「中米の奇跡」とも呼ばれる。
 世界に先駆けて政府に「女性省」を作り、女性の社会進出や人権保護にも国を挙げて取り組んできた。
 環境保全にも先駆的に取り組み、国土の4分の1以上が国立公園や自然保護区だという。
 語の本来の意味で「先進国」と呼ぶべき国なのだ。

 そのような国の駐日大使らしく、ラウラ大使のお話には随所に深い哲学が感じられた。


 行き帰りの電車で、佐々木俊尚著『21世紀の自由論――「優しいリアリズム」の時代へ』(NHK新書/842円)を読了。仕事の資料として。

 今日、明日と原稿の〆切で修羅場ってるので、感想はそのあとに書き加えます。

水島治郎『ポピュリズムとは何か』



 今日は、都内某所で打ち合わせが一件。

 行き帰りの電車で、水島治郎著『ポピュリズムとは何か――民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書/886円)を読了。仕事の資料として。

 ポピュリズムが破壊的作用を及ぼした2つの歴史的事件――イギリスのEU離脱と、米国のトランプ大統領誕生――が起きた直後に刊行されるにふさわしい、ポピュリズムの概説書である。
 トランプの当選が昨年11月で、本書の刊行日は昨年12月25日だから、トランプ当選後についての記述は突貫工事で加筆したのだろうが、そのことを感じさせない丁寧な内容になっている。

 著者はオランダ政治史、ヨーロッパ政治史が専門の政治学者だから、ヨーロッパのポピュリズムについての解説には厚みと説得力がある。
 逆に、日本のポピュリズムについては、橋下徹と「維新」への言及が随所にあるのみ。ただし、欧米や南米のポピュリズムについての解説がそのまま日本の状況にもあてはまるから、日本の政治を考えるためにも大いに参考になる。

 日本では、「ポピュリズム政治家」という呼び方自体が蔑称であるようなイメージがある。しかし、著者は「ポピュリズム=民主主義の敵」とするような単純な二元論には陥っておらず、ポピュリズムのプラス面も虚心坦懐に評価している。
 たとえば、ポピュリズム政党の台頭は、「ラテンアメリカではエリート支配から人民を解放する原動力となり、ヨーロッパでは既成政党に改革を促す効果も指摘される」という。

 ポピュリズムの歴史と現状、そして先行のポピュリズム研究を、著者はじつに手際よく概観している。
 英国のEU離脱とトランプ大統領誕生の背景にあるものを、見事にあぶり出した好著だ。

アマルティア・セン『インドから考える』



 昨日は取材で京都へ(日帰り)――。
 「せっかく京都に行くのだから、少しは観光っぽいこともしなければもったいない」という“ケチのスピリット”を発揮し、朝6時に家を出て取材前に少し観光。
 京都国立近代美術館と京都市美術館を観て、ついでに平安神宮にも入ってみた(3つはそれぞれ隣接している)。

 京都国立近代美術館では「メアリー・カサット展 」をやっていて、けっこうよかった。母と子の絵を描きつづけた、19世紀後半から20世紀前半の印象派画家(アメリカ出身だが、活躍したのはフランス)である。

 私は美術には門外漢だが、それでも最近、取材の合間などに時間が空くと、なるべく美術館に入ってみるようにしている。わからないなりに、よい美術を鑑賞すると心洗われる思いがするのだ。


 行き帰りの新幹線で、アマルティア・セン著、山形浩生訳『インドから考える――子どもたちが微笑む世界へ』(NTT出版/2592円)を読了。書評用読書。

 アマルティア・センは言わずと知れた世界的経済学者だが、これは彼には珍しいエッセイ集だ。センの著作の中では異彩を放っていた『議論好きなインド人』と、同傾向の本。
 エッセイといっても、日々のよしなしごとを筆の赴くままに綴るようなものではなく、政治・経済・歴史・教育などをテーマとしたお堅い内容。それでも、センの論文系著作の難解さに比べたら、はるかに読みやすい。

 女神との問答形式で現代インドの問題点を綴った「一日一願を一週間」というエッセイなど、読者の笑いを誘うギャグが盛り込まれていて(あまり笑えなかったが)、センの意外にお茶目な一面を垣間見られる。

 邦題が『インドから考える』となっているように、インド社会が抱えるさまざまな病根をえぐるエッセイが多いのだが、日本人でもセンの思想に興味がある人なら面白く読めるだろう。

 インドの詩聖タゴールについて綴った「タゴールのもたらすちがいとは何か?」に、最も強い印象を受けた。
 センは、少年時代にタゴールが創立した学校で学んだ。「永遠に生きる人」を意味する「アマルティア」という名も、タゴールが名付け親だという。そのように深い縁をもつセンならではの、出色のタゴール論である。

 また、「人間の安全保障」や「開発なき成長」といった、センの思想の重要概念についてわかりやすく説いたエッセイもあり、「アマルティア・セン入門」としても格好の一冊だ。

 センの邦訳著作のうち、最初に読むべきは講演集ゆえに平明な『人間の安全保障』と『貧困の克服』(いずれも集英社新書)だろうが、これはその次に手を伸ばすべき本と言えそうだ。

■関連エントリ
アマルティア・セン『議論好きなインド人』
アマルティア・セン『人間の安全保障』
『安全保障の今日的課題』

デイヴィッド・ヴァイン『米軍基地がやってきたこと』



 デイヴィッド・ヴァイン著、市中芳江・露久保由美子・手嶋由美子訳、西村金一監修『米軍基地がやってきたこと』(原書房/3024円)読了。書評用読書。

 米国の研究者(ワシントンD.C.にあるアメリカン大学の准教授)が、世界各国にある在外米軍基地の問題点について、6年の歳月をかけて徹底調査してまとめたノンフィクション。
 
 著者は在外米軍基地の存在について一貫して批判的で、“それは本当に必要なのか?”と、全編を通じて問いかける。そして、米軍基地が各受け入れ国や米国そのものの重い負担となっていることを、さまざまな角度から立証していく。
 当然、日本の米軍基地――とくに沖縄の基地――についても随所で言及されている。

 この手の本にありがちなイデオロギッシュで感情的なトーンはなく、著者の筆致は終始冷静だ。
 在外米軍基地は“20世紀の遺物”であり、平和維持効果についても、受け入れ地に与える経済効果についてもすでにほぼ無意味であり、デメリットしかないことが、事実とデータの積み重ねによって明かされている。

 米軍基地についての認識を一変させる労作。

■関連エントリ→ 矢部宏治・須田慎太郎『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること』
 

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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