中島岳志『保守と立憲』



 中島岳志著『保守と立憲――世界によって私が変えられないために』(スタンド・ブックス/1944円)読了。
 ほかに、大著『アジア主義』(潮文庫)の数章も拾い読み。仕事の資料として。

 過去数年間にさまざまなメディアに寄せた政治時評的文章を集めたもの(一部書き下ろし)。
 安倍首相再登板後の数年間と重なる時期に書かれたものだから、安倍政権批判の文章も多いのだが、保守主義者としての目線から書かれているので、一部サヨクによるエキセントリックな安倍批判よりはずっと読みやすい。

 左翼の人たちがリベラルを名乗るようになってから生じている「ねじれ」をていねいに解きほぐし、本来は「保守こそリベラル」なのだという解説が、わかりやすくて素晴らしい。

ノーム・チョムスキー『アメリカンドリームの終わり』



 ノーム・チョムスキー著、寺島隆吉・寺島貴美子訳『アメリカンドリームの終わり―― あるいは、富と権力を集中させる10の原理』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/1944円)読了。書評用読書。

 卓越した言語学者であると同時に、米国を代表する左派論客としても活躍してきたチョムスキーの、語り下ろしによる新著。

 タイトルのとおり、“アメリカにはもはやアメリカンドリームはない”という苦い真実を伝える書。何年か前に出たヘドリック・スミスの『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』の類書といえる。

■関連エントリ→ ヘドリック・スミス『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』

 スミスもチョムスキーも、上位1%の富裕層が国の富をほぼ独占する米国の超・格差社会化を、諸悪の根源と見ている。
 ただ、チョムスキーの批判のほうが、より激越で徹底している。
 というのも、チョムスキーは建国以来の米国の歴史を振り返り、“この国のエリート層は元々、民衆を隷属させ、富と権力を独占しようとし続けてきた”と断じているからだ。
 つまり、“アメリカンドリームの終わりは、建国以来進められてきた民衆支配のプロセスが、いま完成に近づいた結果にすぎない”との見立てである。

 チョムスキーは、米国の支配層が民衆を操り、「富と権力を集中させる」ために続けてきたやり口を、10の行動原理に集約する。そして、それぞれをくわしく説明し、米国の歴史からその例証を引いてみせる。
 一つの「原理」ごとに、それを証し立てる資料も付されており、資料的価値も高い。

 ただ、チョムスキーの言葉遣いは随所であまりにもエキセントリックで、ついていけない気分になった。たとえば――。

 共和党はいまや、世界史上、もっとも危険な組織になってしまっています。(中略)
 共和党は、ここのところ、全速力で人類を破滅の途へと促してきているからです。それは、かつてないほどの勢いです。



 (米国の)軍事費は、国民の安全保障とは、ほとんどなんの関わりもありません。(中略)それはただ、世界の支配者だけを守るものなのです。



 こういうアジビラまがいの言葉は、著者と立場を同じくする人は快哉を叫ぶだろうが、中立的読者にとってはドン引きだ。

 若者たちがiPhoneなどを買ったりすることまで、“権力者が民衆を支配するために積み重ねてきた情報操作の結果だ”とか言ってみたり、チョムスキーの見方は極端すぎ。

 とはいえ、そのようなアジテーションを差し引いて読めば、米国政治に対する根源的批判として、傾聴に値する内容ではある。

佐藤優・北原みのり『性と国家』



 佐藤優・北原みのり著『性と国家』(河出書房新社/886円)読了。一昨年末に刊行された対談集で、仕事の資料として読んだ。

 北原みのりはフェミニストであると同時に、経営するアダルトグッズ・ショップをめぐる「わいせつ物陳列罪」で逮捕・勾留された経験を持つ。
 一方、佐藤さんは「鈴木宗男事件」に連座して逮捕・勾留された際、「国家というものが男権的で、とても暴力的なものであることを再認識し」、そこからフェミニズムの重要性に関心を持ち始めたという。

 獄中体験を通じて国家と対峙し、フェミニズムについて改めて思索したという共通項を持つ2人が、「性の視点で語る、新・国家論」(帯の惹句)である。
 この2人にそういう角度で対談させることを考えた編集者の、企画の勝利、キャスティングの勝利ともいうべき好著だ。

 とくに、従軍慰安婦問題を俎上に載せた第二章「戦争と性」は、従来の右派・左派による紋切り型の慰安婦論議に陥らない視点から語られており、目からウロコの卓見が多数ある。

 ただ、北原みのりは時々おかしなことを言っている。
 とくに、宗教改革の先駆者ヤン・フスが教会権力によって火刑に処されたことが話題にのぼったくだりで、「カトリック、かっこいい(笑)」「いいじゃないですか、カトリック!」と、フスを虐殺した側を賛美しているところは、目がテンになった。
 いったいどういう感覚をしているのか。冗談だとしてもまったく笑えないし、これはジョークにしてはいけないたぐいの話ではないか。

 あと、佐藤さんは性風俗やAVに対する見方が少し厳しすぎる印象を受けた。キリスト教を根幹に持つがゆえの厳しさなのだろうが。

 ……と、ケチをつけてしまったが、全体としては質の高い対談集だと思う。

中野潤『創価学会・公明党の研究』



 中野潤著『創価学会・公明党の研究――自公連立政権の内在論理』(岩波書店/1944円)読了。

 創価学会を「選挙」という一点に絞って、公明党を「創価学会による支援」という一点に絞って描いたノンフィクションである。
 著者が岩波の『世界』に寄せてきたレポートがベースになっているが、基本的には書き下ろしだ。

 取材も丹念でよく調べてあり、なかなかの労作だと思った。
 著者の名は『世界』と本書以外では見覚えがないが、大新聞の政治記者の変名なのかもしれない。

 本書の半年前に刊行された同傾向の本、『公明党――創価学会と50年の軌跡』(薬師寺克行)は、中立を装った偏向が目立つ本だった。それに対して、本書はニュートラルな立ち位置で、「ためにする批判」や悪意は感じられない。

 ただ、読みながらずっと違和感を覚えつづける本ではあった。
 「事実でないことが書かれているわけではない(と思う)けど、うーん……、こういうことじゃないんだよなァ」という感じの違和感である。
 たとえば、次のような一節――。

 単純化して言えば、個々の学会員にとって、選挙でどれだけ票を出せるかが、いわばその人の信心が試される「勤務評定」となっており、それゆえ選挙になるとみな必死にならざるを得ない。



 「勤務評定」って(笑)。
 この一節に象徴されるように、著者は創価学会の公明党支援も、公明党のあらゆる政治活動も、損得勘定・メリット/デメリットの範疇でしか捉えていない。
 「見返りがあるから頑張る」だけではなく、宗教者ゆえの無償の情熱というものがある。むしろ、それこそが創価学会・公明党の選挙に関する「内在論理」の核なのだが、著者にはそのことが見えていないと思う。

 同様の偏見は、島田裕巳の創価学会本にもよく見られる。
 たとえば島田は、『民族化する創価学会』の中で次のように書いた。

 東京大学に合格したにもかかわらず、創価大学への進学を選ぶ者もいるほどで、そこには、組織でのし上がるためには、東京大学よりも、組織の内部で高い価値が与えられている創価大学へ進学したほうが、はるかに有利だという判断がある。



 これは要するに、“「東大卒になる」という大きなメリットをあえて捨てるからには、もっと大きなメリットがあるに違いない。それは、「組織でのし上がる」ためには創価大卒のほうが「はるかに有利」だということなのだろう”……という邪推である。

 損得ずくでしか物事を考えられないという点で、島田も本書の著者も、同じ色眼鏡で学会・公明党を見ているのだ。 
 
 巻末の「主要参考文献」に私の著書も挙げられていて、いささか複雑な気分になった。

佐々木俊尚『21世紀の自由論』



 今日は西麻布のコスタリカ大使館で、ラウラ・エスキベル・モラ駐日コスタリカ共和国特命全権大使を取材。
 4年前からときどきやっている、各国の女性大使を1人ずつ取材していく「世界の女性大使たち」というシリーズの仕事だ(日本でいちばん有名な駐日女性大使であるキャロライン・ケネディ氏を取材しないまま、彼女が離日してしまうのは残念)。

 コスタリカは20世紀半ばに軍隊を全廃し、浮いた軍事予算を教育予算などに回し、平和国家として歩んできた。ゆえに「中米の奇跡」とも呼ばれる。
 世界に先駆けて政府に「女性省」を作り、女性の社会進出や人権保護にも国を挙げて取り組んできた。
 環境保全にも先駆的に取り組み、国土の4分の1以上が国立公園や自然保護区だという。
 語の本来の意味で「先進国」と呼ぶべき国なのだ。

 そのような国の駐日大使らしく、ラウラ大使のお話には随所に深い哲学が感じられた。


 行き帰りの電車で、佐々木俊尚著『21世紀の自由論――「優しいリアリズム」の時代へ』(NHK新書/842円)を読了。仕事の資料として。

 今日、明日と原稿の〆切で修羅場ってるので、感想はそのあとに書き加えます。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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