リンダ・グラットンほか『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』



 一昨日から昨日にかけて、取材で岩手へ――。

 一関まで新幹線で行き、そこからカメラマン氏運転のレンタカーで、大槌町→宮古市→「『あまちゃん』の里」久慈市→野田村と移動。
 最後は二戸から新幹線で帰京。北海道の次に広い岩手県の、ほぼ端から端まで走破したことになる。今回も東日本大震災の関連取材である。


 行き帰りの新幹線で、リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社/1944円)を読了。書評用読書。

 100歳まで生きることは、いまはまだ稀な長寿だが、半世紀後にはあたりまえになる。
 本書で知って驚いたのだが、国連推計によれば、日本の100歳以上人口は2050年までに100万人を突破すると考えられているという。
 とくに、日本は平均寿命の伸びが顕著になると考えられており、「2007年に生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想されている」そうだ。

 

 いまこの文章を読んでいる50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつもりでいたほうがよい(「日本語版への序文」より)



 もうすぐ到来する「人生100年時代」には、働き方など、ライフスタイルのあらゆる面に激変が起きる。
 たとえば、“60代でリタイアする時代”は終わり、人は80代まで現役で働くのが普通になるという。
 そのような激変にどう備えたらよいのかを、さまざまな角度から提言したのが本書である。

 少子高齢化のトップランナーたる日本のことに、著者たちは随所で言及している。世界のどこよりも、日本でまず読まれるべき書だ。

 本書はジャンル的にはビジネス書ということになるだろうが、粗製濫造されがちな日本のビジネス書の薄っぺらさと比べ、ケタ違いの濃密さを持つ良書である。

 

伊賀泰代『生産性』



 昨日は、取材で仙台と多賀城市へ――。
 朝5時前に家を出て、夜に帰宅するという強行軍。さすがに疲れて、夕食をとってすぐにバタンキュー(死語)で爆睡。

 来月11日で東日本大震災から丸6年になることから、今月、来月と震災関連取材がつづく。


 行き帰りの新幹線で、伊賀泰代著『生産性――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの』(ダイヤモンド社/1728円)を読了。
 著者の伊賀泰代とは、社会派ブロガー・ちきりんの「中の人」である。
 ちきりんは昨今、ツイッター上などでやや迷走ぎみであり、私も彼女のブログを読まなくなった。が、それはそれとして、本書は大変面白かった。

 著者は、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社で、コンサルタント→人材育成マネージャーとして計17年間働いた経歴を持つ。その経験をふまえ、マッキンゼー流の生産性の上げ方を明かした本だ。

 いわゆる「トヨタ生産方式」が象徴するように、日本は、製造業においてだけは圧倒的に高い生産性を誇る。
 ところが、サービス業など、製造業以外の企業は、世界的に見ても生産性が低い。本書はその理由を、さまざまな角度から解き明かしていく本でもある。

(つづきます)

永江一石『金がないなら頭を使え 頭がないなら手を動かせ』



 永江一石(ながえ・いっせき)著『金がないなら頭を使え 頭がないなら手を動かせ――永江一石のITマーケティング日記2013-2015 ビジネス編』(プチ・レトル)読了。

 いつも読んでいる人気ブログ「永江一石のITマーケティング日記」の、過去3年分のビジネス関連エントリをまとめた電子書籍。

 先日、kindleの日替わりセールで100円だったので購入したもの。セールが終わったあと(つまり定価)も378円なのだから、激安である。読み応え十分で、コスパが高い。

 私にとってはブログで一度読んだ文章ばかりが並んでいるわけだが、それでも、まとめて再読してみたら大変面白かった。
 各エントリに「後記」が付され、その後の状況変化や現時点からの感想が加筆されているし。

 私がいちばん感心して読んだのは、「政治にも顧客視点とマーケティングの考え方を加えるべし」の章。
 「拝啓安倍首相殿 東京オリンピックはいまなら間に合うから運営を民間委託に」という項目など、「官僚と政治家主導ではオリンピックは絶対赤字になる」との主張に激しく同意した。

岩出雅之『負けない作法』


 
 岩出雅之著『負けない作法』(集英社/1296円)読了。

 今年1月、前人未到の全国大学選手権7連覇を成し遂げた(本書刊行時は6連覇)帝京大学ラグビー部監督が、自らの指導法を明かした一冊。来週、監督を取材予定なので、資料として。

 ラグビーの専門用語はほとんど使われていないし、著者の言う「負けない作法」も技術以前の心構えの話が主である。ゆえに、ビジネス書として読むことができる。

 つまり、著者が強いチームを作り上げるまでのプロセスを、ビジネスマンが部下たちをまとめあげて結果を出すための参考にできるのだ。
 帝京ラグビー部は部員150人と中小企業程度の規模だから、中小企業経営者が読んでも参考になるだろう。組織論・リーダー論として読むこともできる。

 体育会的な根性論が微塵も混入していない、著者の合理的な考え方に好感が持てる。

 また、“いちばん重要なのは強いチームを作ることではなく、部員たちが卒業してから幸せな人生を歩むことだ”という主旨の言葉がくり返し登場するのだが、その点にも共鳴を覚える。

 大学の4年間は、彼らの人生のごく一部でしかない。ラグビー部での鍛えがその後の長い人生にどうプラスとなっていくかのほうが、はるかに重要なのだ。
 それはあたりまえのことであるはずだが、強いチームを作ることが目的化し、負けたらすべてが終わるかのような本末転倒の考え方をしているリーダーも、大学スポーツの世界には多いのではないか。

 その中にあって、岩出監督は“教育者としてまっとう”である。そのまっとうさが、結果的に強いチームを作ることにつながっているのだろう。

松岡真宏『時間資本主義の到来』


時間資本主義の到来: あなたの時間価値はどこまで高められるか?時間資本主義の到来: あなたの時間価値はどこまで高められるか?
(2014/11/20)
松岡 真宏

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 松岡真宏著『時間資本主義の到来――あなたの時間価値はどこまで高められるか?』(草思社/1512円)読了。

 ビジネス書だが、社会の変容を腑分けして名前をつけ、鮮やかに可視化してみせたという点では、アルビン・トフラーの諸作を彷彿とさせる。
 トフラーと大前研一を足して2で割って、もっとくだいて俗っぽくしたような(笑)内容なのだ。

 「時間をもっと有効に使え」「すきま時間を活用せよ」と説く「時間術」本なら、ビジネス書や「知的生産の技術」本の定番の一つだ。
 本書にもそういう側面はあるが、それだけで終わらない。スマホの普及、ソーシャルメディアの発達などによって、すき間時間の価値が急激に上昇し、時間資本主義の時代が到来した、とぶち上げるのだ(そういえば、少し前に『里山資本主義』という本もあった)。

 「時間資本主義」とは、時間というものの価値がこれまでのどの時代よりも大きくなり、あらゆるビジネス、サービスが時間価値という観点から(も)選ばれる時代の謂である。

 企業も、個人も、「時間価値」を追求したものが有利となる、時間資本主義の時代が、幕を開けようとしています。(版元の内容紹介より)



 著者によれば、時間価値には「節約時間価値」と「創造時間価値」の2方向があるという。
 前者は「時間の効率化」、後者は「時間の快適化」に置き換えられる。その2つの時間価値のどちらか(もしくは両方)を消費者に提供するビジネスが、これからは有望だというのだ。

 人々が時間価値に重きを置き始めていることを、著者はさまざまな事例から裏付けていく。たとえば、通勤時間の短縮化。

 時間が希少なものになり、みんなが必死で自由な時間を作り出そうとしているのに、通勤に1時間以上かけるということが、時代に逆行しているのである。家計主の通勤時間が1時間以上の世帯は、2008年の時点で16・2%であり、2003年の22・2%から大きく減っている。逆に、通勤時間が30分未満の世帯は、2003年では46・3%だが2008年では53・3%と過半数を超えている。全体的に、通勤時間は短くなってきているのだ。



 このような具体例の積み重ねで、時代の変化を浮き彫りにする手際はなかなかのもの。ビジネス書である以前に、読み物として面白い。

 かつて、日商岩井の激烈な商社マン・海部八郎(「ダグラス・グラマン事件」で失脚)は、昼間からパチンコをしている人を見て、「ああ、あいつの時間を買いたいなあ」としみじみ言ったのだそうだ(本書ではなく、田原総一朗氏の本で昔読んだ話)。
 いまや、富裕層や一流ビジネスマンが、低所得層の「時間を買う」ビジネスも生まれてきている。昨秋のiPhone6発売時に、日本のアップルストアにたくさんの中国人が並んだが、あれは富裕層から金をもらい、代わりに並んで買った人たち(中国発売はなかったため)なのだという。
 そのような、メモしておきたい話もたくさん紹介されている。

 ただ、著者の主張に首をかしげた点もある。

 たとえば、著者はスマホによって人々の生産性は高まったというのだが、一概にそうは言えないのではないか。私もスマホを使っているが、スマホで生産性が上がったという実感はまったくない。
 スマホは、「最強のヒマつぶしツール」でもあるネットをポケットの中に拡張させてしまったわけで、むしろ人々の生産性を押し下げた面が強いのではないか。

 中川淳一郎は、2009年刊の『今ウェブは退化中ですが、何か?』の中で、「携帯電話がもたらすものなんて『暇つぶし』がほとんどなんだから、それにハマっていて、能力は上がるの?  そいつらの生産性は上がるの?」と皮肉っぽく書いた。私は、著者の見方よりもこちらに説得力を感じる。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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