柳本光晴『きっと可愛い女の子だから』



 柳本光晴の『きっと可愛い女の子だから』(アクションコミックス)を読んだ。
 例によって、Kindle日替わりセールで安かった(99円!)ので買ってみたもの。

 柳本は、この春「マンガ大賞2017」に輝いた『響~小説家になる方法~』の作者である。
 本書は、『響』で大ヒットをかっ飛ばす前に出された初期短編集だ。

 15歳の天才文学少女・鮎喰響(あくい・ひびき)の物語である『響』は、いま私が連載(『ビッグコミックスペリオール』)を楽しみに読んでいる作品の一つ。
 『響』のジェットコースター的面白さ(最近やや停滞ぎみだが、コミックス1巻あたりの面白さは非の打ち所がない)に比べると、この『きっと可愛い女の子だから』に収録の5編はまだ「習作」という趣だが、それでも十分楽しめる。

 

 クラスで孤立しているオタク少女、勉強の出来ないガングロギャル、行き遅れの堅物女教師など、普通のラブコメなら脇役にしかならないような女の子達をあえて主役として扱った異色のラブコメ短編集



 ……というのが、版元がつけた本書の惹句。そのコンセプトは十分奏功している。

 いまの時点から本書を読むと、どの短編も『響』の原型、プロトタイプに見えてくる。
 とくに、短編「保健室にて」に出てくる黒髪メガネっ娘は「もう一人の響」という感じだし、「図書館LOVER」に出てくる高校文芸部の世界は、そっくりそのまま『響』ワールドである。

 『響』が好きな人なら、そのスピンオフを読む感覚で楽しめる好短編集。
 

山田参助『あれよ星屑』


あれよ星屑 2 (ビームコミックス)あれよ星屑 2 (ビームコミックス)
(2014/10/25)
山田 参助

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 山田参助の『あれよ星屑』(ビームコミックス)の既刊1~2巻を、電子書籍で購入。

 この人のマンガを読むのは初めて。元々は、おもにゲイ・マンガの世界で活躍してきた人らしい。これまで私の視界に入らなかったのはそのためだろう。
 
 終戦から1年を経た東京の闇市を舞台に、男臭いドラマが展開される。
 戦争で地獄を見た男と女が、その地獄を心に引きずりながら、懸命に日々を生きていく。

 闇市で雑炊屋を営みながら、酒浸りの日々を送る川島徳太郎。その前に、兵隊時代の部下であった黒田門松が現れる。再会を喜ぶ黒田に、川島は「俺はな、あのとき死んだほうが良かったと思っとる」とつぶやく。

 インテリの川島と、“脳みそ筋肉”で陽気な熊のような男・黒田。2人の再会によって、川島の虚無的な日々に新たな光が射し込み、物語が動き出す――。

 ……と、いうような話。
 版元がつけた惹句には、「闇市、パンパンガール、戦災孤児、進駐軍用慰安施設など、戦後日本のアンダーワールドの日常を、匂い立つような筆致で生々しく猥雑に描き出す、敗戦焼け跡グラフティ、開幕」とある。

 たしかに、男女いずれのキャラとも非常に生々しく活写されており、表情の一つひとつに血の通った色気がある。往年のバロン吉元の絵をもっとイラスト的にしたような、ハイセンスで味わい深い絵柄が素晴らしい。とくに、女たちの醸し出す儚いエロティシズムは絶品だ。

 コミックスの2巻は丸ごと、戦争末期の中国大陸での出来事を描く軍隊時代回想編である。
 この回想編はかなりキワドイ描写を含んでおり、「メジャーなコミック誌で、よくここまで突っ込んで描いたな」と驚かされる。たとえば、川島が将校の命令で八路軍の兵士を斬首させられる場面などが、すさまじいリアリティで描かれるのだ。

 戦中と終戦直後の日本を、一切のきれいごとを排して描いた、大人のためのマンガ。

ヤマザキマリ+とり・みき『プリニウス』


プリニウス (1) (バンチコミックス45プレミアム)プリニウス (1) (バンチコミックス45プレミアム)
(2014/07/09)
ヤマザキマリ、とり・みき 他

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 ヤマザキマリ+とり・みきの『プリニウス』1巻と、吉田秋生『海街diary』6巻を購入。

 『海街diary』6巻の帯には、「実写映画化決定」と大書されている。
 監督は是枝裕和。主人公の四姉妹にはそれぞれ、綾瀬はるか・長澤まさみ・夏帆・広瀬すずというキャスティングだそうだ。
 ワタシ的には中原俊さんに監督してほしかったところだが、是枝さんでも十分納得(及川中でなくてよかった)。
 キャスティングは……三女役の夏帆がイメージ違いすぎ(笑)。ほかは、まあ納得。

 『プリニウス』は、第一線のマンガ家2人による共作というチャレンジングな試み。よくある「原作担当と作画担当」という形ではなく、また一回限りの「企画もの」でもない、本格的な共作である。
 第1巻を読むと大長編になりそうな雰囲気だし、月刊誌(『新潮45』)連載だから、完結まで何年かかるかわからない。無事につづいてほしいものだ。

ヤマザキマリさんがネームと人物画、とり・みきさんが背景・仕上げを担当。毎回、ストーリーについて議論しながらネームを起こし、まずはヤマザキさんが人物を中心に描画。それを受けてとりさんが背景などを描き、往年の特撮映画のように2人の絵を合成して仕上げてゆく――。

 

 ……という形の共作なのだそうだ。
 この贅沢なコラボが、1+1が10にも100にもなるようなケミストリーを生んでいる。すごいクオリティーである。
 『テルマエ・ロマエ』のヤマザキマリが、こんどはコメディではなくガチンコで描く古代ローマ社会。我々にはなじみのない遠い世界が、鮮やかなリアリティで紙上に再現されていく。

  「世界史上もっとも著名な博物学者にして、ローマ艦隊の司令長官。古代ローマ一の知識人にして、風呂好きの愛すべき変人」である主人公プリニウスは、すこぶるキャラが立っている。マンガの主人公たるにふさわしい、描き甲斐のある人物なのだ。
 とはいえ、古代ローマ社会に精通したヤマザキマリでなければ、プリニウスが主人公のマンガなど、そもそも考えもつかなかったのではないか。

 『ヒストリエ』(岩明均)や『チェーザレ 破壊の創造者』(惣領冬実)と並んで、日本のマンガの豊穣さ、表現ジャンルとしての成熟度を思い知らされる作品。

柳内大樹『軍艦少年』


軍艦少年(1) (ヤンマガKCスペシャル)軍艦少年(1) (ヤンマガKCスペシャル)
(2013/01/04)
柳内 大樹

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 柳内大樹(やなうち・だいじゅ)の『軍艦少年』(ヤンマガKCスペシャル)全2巻を読んだ。

 ヤンマガに連載されたヤンキー系マンガ。本来なら、私にとってはいちばん縁遠い世界である(趣味嗜好の上でも、実生活上も)。
 しかしこの作品は、作家の深町秋生が連載コラム「コミックストリート」で絶賛していたのを読んで、「お、なんかよさげだな」と思ったのだ。で、アマゾンでポチってみたしだい。

 読んでみたら、けっこうよかった。

 主人公は、最愛の母の死をきっかけに荒れまくり、ケンカばかりしている高校生。したがってヤンキー系マンガには違いないのだが、この手のマンガにはあまり見られない哀切さに満ちている。ヤンマガに載るヤンキー・マンガより、むしろ少女マンガに登場するヤンキー/不良に近いテイスト。たとえば、紡木たくの『ホットロード』とか、吉田秋生の『河よりも長くゆるやかに』あたりを彷彿とさせる。

 なぜタイトルが『軍艦少年』なのかというと、軍艦島(正式名称は端島)にほど近い長崎の沿岸部が舞台で、なおかつ軍艦島が重要な役割を果たすから。
 主人公の少年の両親は、いまは無人島と化した軍艦島で生まれ育った、という設定なのである。

 妻/母の死によって「生きる意味」を見失った父と子が、紆余曲折を経て再生していくまでの、荒々しくも美しい物語。
 まあ、クサイといえばクサイし、ベタといえば思いっきりベタな話ではある。しかし、絵柄もストーリーもストレートで力強く、読む者の心にグイグイと迫ってくるため、クサさやベタさがまったく気にならない。

 ヤンキー系マンガの枠を超えた、正統派青春マンガの佳編だと思う。

山岸凉子『日出処の天子』


日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス)日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス)
(2011/11/22)
山岸 凉子

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 仕事上の必要があって、山岸凉子の『日出処の天子』(ひいづるところのてんし)を10数年ぶりに全巻再読。

 言わずと知れた、少女マンガの最高峰の一つ。いや、少女マンガなどという狭い枠を超え、日本のマンガが生んだマスターピースの一つであろう。

 最初から最後まで通読すると、何度読んでも決まって泣けてしまう長編マンガ(劇画)が、私には何作かある。
 その一つがこの『日出処の天子』であり、あと2作挙げるなら『子連れ狼』(小池一夫+小島剛夕)と『寄生獣』(岩明均)だ。ほかにもいくつかあるが、恥ずかしいのでナイショ。

 『子連れ狼』の場合、終盤、裏柳生一門との最後の戦いにおいて、死を覚悟した拝一刀が息子の大五郎に語りかける場面にさしかかると、もうダメ。『寄生獣』の場合、悪逆非道のパラサイト・田村玲子が自らの赤ん坊をかばって殺される場面が、最大の泣きツボだ。

 『日出処の天子』の場合、主人公・厩戸王子(聖徳太子)が想い人の蘇我毛人(えみし)にすべてをさらけ出し、決定的に拒絶されるクライマックスが泣ける。
 てゆーかこのマンガは、厩戸王子にかぎらず、主要キャラの多くが報われない想いを抱えたまま終わる物語なのだね。まるで“片恋のロンド”のように……。

 厩戸王子も毛人も、毛人の妹・刀自古も、その他もろもろのキャラも、家柄・美貌・才智などさまざまな面で恵まれ、多くの人に求愛されながらも、いちばん愛した「たった1人の人」の愛だけは得られない。あるいは、愛が成就せずに終わる。なんという不条理だろう。

 そんな「愛の不条理」をとことん描き尽くしたがゆえに、この作品は30年以上を経たいまも読み継がれ、愛されているのだ。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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