中川学『群馬県ブラジル町に住んでみた』



 中川学著『群馬県ブラジル町に住んでみた――ラテンな友だちづくり奮闘記』(メディアファクトリー/1026円)を読んだ。

 「ブラジル町」とは、町民の1割以上がブラジル人・ペルー人だという、群馬県邑楽郡大泉町のこと。
 一度も海外に行ったことがなく、外国人と接したこともほとんどないマンガ家の著者が、「ブラジル人と交流したい。友だちになりたい」という目的で大泉町に移り住んだ体験を描くコミックエッセイである。

 企画としては非常によいと思う。移民受け入れの是非に揺れる昨今の時宜にかなっており、テーマがアクチュアルだ。
 しかし、コミックエッセイとして面白いかといえば、うーん、微妙。そこそこ楽しめたが、もう一度読み返したいとは思えない。

 何より、中川学は絵がヘタで、マンガとしての躍動感に乏しい。「ヘタウマ」ではなく、明確にヘタ。「これでよくマンガ家としてやっていけてるな」と思ってしまうレベル。

 ただ、構成力はなかなかのものだと思った。ドラマティックなことはほとんど起きないにもかかわらず、構成の妙で、最後まで退屈させずに読ませるのだ。

西村しのぶ『メディックス』


メディックス (IKKI COMICS)メディックス (IKKI COMICS)
(2006/06/30)
西村 しのぶ

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 西村しのぶの『メディックス』(小学館/900円)を読んだ。

 1990年代初頭の『ビッグコミックスピリッツ』に不定期連載されるも未完に終わり、2006年にこの単行本が出るまで「幻の作品」となっていたもの。

 神戸の医大を舞台に、医学生たちの青春を描いた作品。私は初読だが、たいへん面白かった。

 医学生の勉強ぶり、暮らしぶりが、綿密な取材に基いてリアルに描かれている。解剖実習のあとはホルマリンの匂いが洗ってもなかなか取れないとか、外からではわからないディテールがいちいち興味深い。
 それでいて、堅苦しいお勉強マンガにはなっていない。主人公たちの恋愛模様が巧みに織り込まれ、オシャレな青春マンガとしても十分に楽しめるのだ。

 セリフのうまさはさすがで、印象に残るセリフが随所にちりばめられている。

 もう20年以上前に描かれた作品だから、時代風俗に古さを感じる部分もあるが(物語の中では携帯電話が普及し始めで、インターネットもまだない)、普遍的な青春ストーリーになっているから気にならない。

 面白いし、いくらでも広げられそうな物語なのに、わずか10話で中断されてしまったのは不思議だ。
 主人公たちは医者になるどころか、まだその入り口に立ったくらいの段階。「彼らが立派な医者になるまでの物語を読んでみたい」という思いにかられる。

中村珍『羣青(ぐんじょう)』


羣青 上 (IKKI COMIX)羣青 上 (IKKI COMIX)
(2010/02/25)
中村 珍

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 岩明均『ヒストリエ』の6巻と、中村珍の『羣青(ぐんじょう)』上巻を購入。

 『ヒストリエ』は、この巻でいよいよ若き日のアレクサンダー大王が登場(ヘファイスティオンも)。一気に面白さが倍増。
 岩明は『寄生獣』のころは絵に魅力がないことが唯一の欠点だったと思うが、最近はずいぶんうまくなった。

 中村珍(なかむら・ちん/こんな名前だが、妙齢の女性)の『羣青』は、最初の連載誌『モーニング・ツー』での打ち切りに至る経緯を本人が赤裸々にブログに綴ったことで、ずいぶん話題になった作品。
 私もその騒動で初めてこの作品を知り、興味を抱いた。そういう読者はほかにもたくさんいるだろうから、結果的にはトラブルが宣伝になったわけだ。人間万事塞翁が馬ですな。

 『モーニング・ツー』での打ち切り後、単行本化も宙に浮いていたこの作品を『IKKI』が拾い上げ、コミックスも小学館から出た。この上巻は正味460ページのボリューム。上・中・下の三巻構成になるそうだ。

 カバー画からして、尋常ならざる迫力がみなぎっている。そして、帯には作家・本谷有希子の「魂と引き換えに描いてるとしか思えない。」という強烈な推薦の辞。思わず手が伸びる。

 カバー裏の紹介文を引用する。

 日常的に続く夫の暴力。そんな日々に耐えかねた女は、友人のレズビアンに夫を殺すように持ちかける。
 想い人からの頼みを断りきれず、レズビアンは彼女の夫を殺し、そして――。



 2人の絶望的な逃避行が、過去をフラッシュバックさせつつ描かれていく。
 いわば、舞台を日本に置き換えた“暗色の『テルマ&ルイーズ』”、もしくは、『モンスター』をもっと耽美的にした物語……そんな印象がある。

 『モンスター』は、私のお気に入り映画の一つ。実在の殺人者アイリーン・ウォーノスと、そのレズビアンの恋人の逃避行を描いたデスペレートなラブストーリーである(→当ブログのレビュー)。

 この『羣青』も、デスペレートなラブストーリーとして胸に迫る。

 絵は私の好みではないし、ストーリーにもずいぶん強引な部分が散見される。しかし、そんなことはどうでもいいと思わせるパワーが、この作品にはある。この物語を書かずにはいられないという強い意志と、「伝えたいことさえ読者に伝われば、細かいことなどどうでもいい」とでも言いたげな荒々しいエネルギーが、全編にみなぎっているのだ。

 連載開始時、作者が22歳の若さだったということが信じられないほど、心の深みにまで届く異形のラブストーリーである。

中村光『聖☆おにいさん』

聖☆おにいさん 1 (1) (モーニングKC)聖☆おにいさん 1 (1) (モーニングKC)
(2008/01/23)
中村 光

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 吉祥寺拓也さんのオススメを受けて、中村光の『聖(セイント)☆おにいさん』の1巻を買ってきた。
 ウィキペディアを見たらこの作品の項目がすでに立てられており(→こちら)、その説明文を読んだだけで「これは絶対面白いに違いない!」とあわてて書店に向かったのである。

 なにしろ、「ブッダとイエスが、下界のバカンスを満喫しようと、東京都立川のアパートの一室で暮らす、という設定で描かれる日常コメディ」(ウィキペディア)である。このぶっ飛んだ設定だけで、すでに面白さは約束されたようなものだ。で、読んでみたら期待に違わぬ面白さであった。

 この作品でブッダ(釈尊)とイエスがどのように描かれるかというと、たとえば――。
 マンガ喫茶で手塚治虫の『ブッダ』を読んで感涙するブッダ、女子高生に「超ジョニー・デップに似てる」と言われてうれしがるイエス、「なんで芸術家の皆さんってたいてい、私の一番太ってた状態を選ぶのかなあ!」と仏像に不満をもらすブッダ、ひそかにミクシィでブログを開いているイエス(マイミクにユダがいる)……。うーむ、シュールでしみじみおかしい。

 隅々まで細かいくすぐりが仕掛けられており、ブッダとイエスの生涯についてひととおりの知識がないと意味がわからないギャグが、全体の3分の1くらいある。
 とはいえ、コメディだから、さほど高度な素養が必要なわけではない。それこそ手塚の『ブッダ』とか、キリストの生涯を描いた映画の1本でもあらかじめ予習しておけば、十分楽しめる。

 ただ、立川市民の一人として言わせてもらえば、立川カラーがほとんど活かされていないのはちょっと残念。単行本カバーに明記されていなければ、誰も立川が舞台だとは気づかないと思う(てゆーか、じつはこの作者は立川のことをよく知らないのではないか? そんな印象を受けた。ま、どーでもいいことだけど)。

 P.S. 
 作者の中村光が別のマンガ誌に連載中の『荒川アンダー ザ ブリッジ』のコミックスも立ち読みしてみた。こちらもなかなか面白い。
 『荒川アンダー ザ ブリッジ』1巻のカバーに作者近影が載っていたのだが、わりと美人。「うーむ、美人のくせにこんなマンガを描いておるのか」と思うと、なおさら面白い。

永島慎二『黄色い涙』


黄色い涙黄色い涙
(2006/11/22)
永島 慎二

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 コンビニのブックコーナーで永島慎二の『黄色い涙』(マガジンハウス/1200円)を売っていたので、つい購入。
 「つい」というのは、この『黄色い涙』とまったく同内容である『若者たち』のコミックスを、私はすでに持っているから。

 ちょっとややこしいけれど、『黄色い涙』のもともとのタイトルは『若者たち』であった。かつてNHKでテレビドラマ化された際、『若者たち』というタイトルが使えなかった(同題の有名青春ドラマが過去にあったから)ために、副題の「シリーズ黄色い涙」(※)からドラマのタイトルがつけられた。
 今回、そのドラマ版をふまえて映画化されたため、『黄色い涙』というタイトルで原作が復刊されたというわけである。

※永島作品の多くには、こうしたシリーズ名が付されている。かの『漫画家残酷物語』もやはり「シリーズ黄色い涙」であり、『そのばしのぎの犯罪』や『少年期たち』は「シリーズ青いカモメ」である、というふうに……。

 永島慎二は私がこよなく愛するマンガ家だが、その作品の大半はいまや絶版状態だ。彼の作品が映画化され、しかも著作がコンビニで売られるなんて、私にとっては狂喜に値する出来事なのである。

 この再刊本、巻末の付録がわりと充実している。

 1.夏目房之介さんによる解説
 2.ドラマ版と映画版の脚本を書いた市川森一による回想エッセイ
 3.映画版の監督である犬童一心へのインタビュー
 4.ドラマ版と映画版にそれぞれ主演した森本レオと二宮和也による「新旧“栄介”対談」

 ……と、4本も記事があって、それぞれ読みごたえがあるのだ。永島ファンならマストバイ。

 犬童一心は『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』の監督だが、そもそも少年時代にテレビドラマ版の『黄色い涙』を観て感動し、それがきっかけで映画監督を志した人なのだそうだ。なんとなく納得。『ジョゼ~』には永島マンガと同じ“空気感”がある。

(私自身はドラマ版の『黄色い涙』を見ていない。1974年放映だから、まだ10歳だったし。自殺してしまったアイドルタレント・保倉幸恵がヒロインを演じたことでも伝説化しているドラマらしいけど……)

 犬童監督インタビューのこんな一節に、度肝を抜かれた。

 永島慎二が亡くなったときに永島慎二を追悼したいって思った人っていっぱいいると思うんですよ。でも、それをちゃんとやったのは俺だっていう。「ざまあみろ」ってことなのかな。いかにも私が永島慎二の最高のファンだみたいなこといってる人たちがいっぱいいるけど、少なくとも『黄色い涙』を復刻させたのは俺だっていう。そのことがすごいうれしい。


 うーん、負けた(笑)。「ざまあみろ」と言われた側の1人として、映画版『黄色い涙』を襟を正して観るとしよう。 

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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