三田紀房・関達也『銀のアンカー』



 三田紀房・関達也作『銀のアンカー』全8巻をセットで購入し、一気読み。
 
 仕事上の必要があって読んだ。コミックスのカバーに「内定請負漫画!!」とあるとおり、他にほとんど類を見ない(少なくとも、2006年の連載開始当時には類似作がなかった)「就活マンガ」である。

 アメリカ帰りの伝説的ヘッドハンターである主人公が、日本の大学生たちに就活の極意を指南していくというストーリー。
 作者が大ヒット作『ドラゴン桜』の三田紀房であることから、「就活版『ドラゴン桜』」と呼ばれている。

 三田とともにクレジットされている関達也という名前は、原作者かと思ったらそうではなく、三田の元チーフアシスタントで、途中まで(3巻まで)作画をまかされていたのだそうだ。

 私自身は就活というものをした経験がなく、そもそも「企業の正社員になる」という意味での就職をしたことがない(編プロにいたときはバイト扱いだったし)。
 なので、“就活という未知の世界”を垣間見る思いで読んだ。そのせいか、大変面白く読めた。

 三田紀房の絵柄は雑で好きになれないが、それでも彼のマンガはいつも水準以上の面白さを保っていると思う。高校生が株式投資をする『インベスターZ』なども、設定自体が卓抜だし、じつに面白い。

 絵柄については、三田自身が「自分は絵の魅力で売るタイプではないから、最低水準さえクリアすればよい」と割り切っているのかもしれない。
 彼の著書『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術』 を読むと、じつにドライにビジネスと割り切ってマンガ作りに取り組んでいるようだし……。

■関連エントリ→ 三田紀房『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術』

 この『銀のアンカー』は、就活に勝つためのノウハウ集としても読めるし、何より「就活に頑張って取り組もう!」と若者を鼓舞する効果が高いマンガだと思う。

「面接とは相手に本気を伝えることだ。それができれば必ず成功する。本気じゃない一流大生に、本気の三流大生は勝てる!」(句読点は引用者補足)



 ……などという、メモしておきたいような熱いセリフも多い。

南勝久『ザ・ファブル』



 〈「青海」と「青梅」、駅間違えてライブ間に合わず〉という記事を見て、身につまされた。私も駆け出しのころ、川口と川越を間違えて取材に1時間以上遅れたことがある。
 昔はメールがなくて、待ち合わせ場所も電話で聞いてメモるだけだったから、そういう失敗がありがちだったのだ。


 最近気に入って、コミックスの新刊が出るたび買っているのが、南勝久の『ザ・ファブル』(『ヤングマガジン』連載中)。「ヤンマガ」はヤンキー系マンガが多く、私には縁遠いマンガ誌だが、まれにツボにはまる連載もある。

 てゆーか、南勝久のマンガ家としてのセンスが好きなのだな。
 彼の代表作『ナニワトモアレ』は関西の「走り屋」たちの物語で、私にはビタイチ縁のない世界が描かれていたが、にもかかわらず私にも面白かったし。

 『ザ・ファブル』は、「ファブル(寓話)」という通り名で知られる天才的な殺し屋の物語。
 ……というと、『ゴルゴ13』の亜流のようなハードボイルド・アクションを思い浮かべるかもしれないが、全然違う。殺し屋がボスから「今年は仕事をしすぎた(殺しすぎた)から、1年間休め」と命じられ、大阪で一般人として暮らす物語なのだ。

 殺人技術とサバイバル技術は卓越しているが、生活常識がポッカリ欠落している殺し屋が、頑張って普通の日常に溶け込もうとする。そのときに起きるさまざまな不協和音が、笑いとスリルを生む。そう、これは他に類を見ない“殺し屋アクション・コメディ”なのである。→第1話試し読み

 前に当ブログで取り上げた新機軸のヤクザマンガ『ドンケツ』に、タイプとしては近い。

 『ザ・ファブル』はヤクザマンガというわけではないが、ヤクザもたくさん出てくる。大阪で暮らすにあたって、一般人としての生活を邪魔しないでもらうよう、街を仕切るヤクザの組に話を通してある、という設定だからだ。
 「干渉しない」という約束なのに、伝説の殺し屋であるため、ちょっかいを出してくるヤクザもいる。そこからまたドラマが生まれる。

 『ドンケツ』も『ザ・ファブル』も、ヤクザ社会・裏社会のディテール描写は非常にリアルだが、キャラやストーリー展開にマンガ的な飛躍があり、その飛躍が笑いを誘う。そこが共通項である。

 いまどきの目の肥えたマンガ読者は、細部にリアリティがなければ受け付けない。さりとて、ただリアルであればよいというものではない。マンガには、マンガならではの飛躍――ぶっ飛んだ設定や展開、突出したキャラなど――が絶対不可欠なのだ。『ドンケツ』と『ザ・ファブル』は、細部のリアリティと良質な「マンガ的飛躍」を兼備しており、だからこそ傑作たり得ている。

 とくに『ザ・ファブル』は、これほど先の展開が読めないマンガも珍しく、一度ハマったら読むのをやめられない面白さがある。
 「1年間限定の一般人生活」という縛りがあるから大長編にはならないだろうが、最後までこのクオリティを保ってほしい。

『闇金ウシジマくん』「フーゾクくん編」再読



 『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平)は、シリーズ各編によって当たり外れの振幅が大きい。「スーパータクシーくん」編なんかひどいものだったし、「洗脳くん」編も、現実の「北九州監禁殺人事件」をただなぞっただけのようで、いただけなかった。

 だが、連載で現在佳境を迎えている「逃亡者くん」編は、私にとっては「当たり」だ。
 前作「ヤクザくん」編でついにウシジマを裏切り、加納を死に至らしめたマサルを、ウシジマが逃亡先の沖縄で追いつめるストーリーである。

 この「逃亡者くん」編には、連載初期の「フーゾクくん」編で彼氏の借金のカタとして沖縄に売られていった風俗嬢・杏奈が、重要キャラとして再登場する。それを読んで、「『フーゾクくん』編ってどんな話だっけ?」と再読したくなった。

 「フーゾクくん」編はコミックスでは5~7巻の3巻に及ぶのだが、ちょうどいいことに一冊にまとめたムック(「My First Big」)が出ていた。これを中古で安くゲット。

 改めて読んでみて、『闇金ウシジマくん』全編の中でも屈指の好編だと思った。

 タイプの異なる3人の風俗嬢――杏奈・瑞樹・モコ――が、それぞれウシジマと関わりを持ち、三者三様の地獄を味わう。3人の物語は絶妙のさじ加減で混じり合い、異なる角度から性風俗の世界に光が当てられる。
 救いのないストーリーながらも、暗闇に一条の光が射し込むラストになっているところが、また心憎い。
 
 『闇金ウシジマくん』の一編であることを脇に置き、たんに「フーゾクの世界を描いたマンガ」として考えても、これをしのぐ作品はいまのところ見当たらない。

 

「私が沖縄でどんだけの地獄だったか想像できる?」



 ――「逃亡者くん」編で、杏奈は再会したマサルにそう言う。
 「フーゾクくん」編を再読することで、「逃亡者くん」編がいっそう味わい深くなった。

マツオヒロミ『百貨店ワルツ』



 マツオヒロミの『百貨店ワルツ』(実業之日本社/1620円)を読んだ。

 娘の本棚にあったのを借りてきたもの(うちの娘は父親に似て思いっきりオタクですw)。
 著者のマツオヒロミは人気イラストレーターとのことだが、あいにく私は存じあげなかった。

 本書は、20世紀初頭(具体的な年は明示されていないが、雰囲気としては大正)を舞台に、架空のデパート「三紅(みつべに)百貨店」を一冊丸ごと費やして“紹介”したもの。
 マンガ仕立てになっているページも多い(計37ページ)が、ストーリーを楽しむという感じではなく、基本的にはイラスト集である。→本作の試し読みページ

 全ページカラーで、どのページもすこぶる美しい。次々と登場するあでやかな「モダンガール」たちの、表情や服装を眺めるだけでも陶然となる(男の私でも)。

 各階の売り場などの様子、商品の数々、百貨店の広告・ポスター、包装紙(!)に至るまで、「三紅百貨店」があたかも実在したかのように、凝りに凝って作り上げられている。その遊び心――著者は「本気で遊んで」いる――が楽しい。
 “フェイクの大正浪漫”の世界を堪能した。

 隅々まで、まったく手を抜かずに作られた本。この密度とクオリティーで1620円は安いと思う。

まんしゅうきつこ『まんしゅう家の憂鬱』



 昨日は、「ふるさと納税の達人」金森重樹さんを取材。都内某所のご自宅にて。

■関連エントリ→ 金森重樹『100%得をするふるさと納税生活 完全ガイド』

 当然「ふるさと納税」に関する取材なわけだが、金森さんの本業(企業グループ経営者)のほうの自伝である『借金の底なし沼で知ったお金の味』(大和書房)も読んで臨む。
 25歳のときに1億2千万円もの借金を背負い、そこから這い上がるまでの苦闘の記録である。これも面白く、次は企業経営のほうの話もお聞きしたいと思った。


 まんしゅうきつこの新刊『まんしゅう家の憂鬱』(集英社/1188円)がアマゾンから届いたので、さっそく読む。

■参考(著者インタビューの映像が見られる)→ 美人漫画家・まんしゅうきつこさんが明かす「まんしゅう家」のお話

 彼女の『アル中ワンダーランド』を当ブログで取り上げたとき、「ブログに描いていた、過去の自分を振り返ったエッセイマンガのほうが、はるかにこの著者のよさが出ていたと思う(あれは一冊にまとめないのだろうか?)」と書いたのだが、これはそのブログの待望の書籍化である。

 ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」は、いまではほとんどのエントリが削除されてしまったが、それはこの書籍化のためだったのかな。
 
 帯には「身の回りのゲスな話をユーモラスに、時にシュールに描く、抱腹絶倒の全17編!」とあるが、ホントにそのとおり。すごく笑えるし、笑ったあとに一抹の寂寥感が残る感じがたまらない。

 『小説すばる』に掲載された4編のエッセイ(マンガではなく文章)も併録されているが、それらもバツグンの面白さ。

 ただ、作者とその家族の実体験を描いたものだけに、量産のきくような作品ではあるまい。一回こっきり、一世一代の傑作エッセイマンガである(もしかしたら、こういう奇妙な体験のストックが彼女にはまだたくさんあるのかもしれないが……)。

 あと、ブログで発表されたマンガがすべて収録されているわけではない。何編かカットされているのだ。
 おそらく、登場人物の名誉・プライバシーに配慮してのカットだろうが、惜しい。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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