眉月じゅん『恋は雨上がりのように』



 眉月じゅん『恋は雨上がりのように』の既刊1~8巻(ビッグコミックス)を読んだ。
 前から連載誌『ビッグコミックスピリッツ』で時々読んで、気になっていたマンガ。一気読みしてみたら、なかなか面白かった。

 ファミレスの店長をしている45歳の冴えないバツイチ男に、その店でバイトする17歳の美少女女子高生が恋をするという、“年の差恋愛マンガ”。
 中年男の妄想をそのままマンガ化したような話(作者は女性だが)であり、一種のファンタジーだ。

 文芸評論家の斎藤美奈子は、ハードボイルド小説を「男性用のハーレクイン・ロマンス」と呼んだ。「うまいこと言うなァ」と思ったものだが、むしろ本作のような物語こそ「男性用ハーレクイン・ロマンス」と呼ぶにふさわしい。ハーレクイン・ロマンスは大衆恋愛小説だが、ハードボイルド小説において恋愛はメイン要素ではないのだから……。
 本作はいわば、「中年男のためのハーレクイン・ロマンス」なのだ。

 ヒロイン・橘あきらは、主人公の中年男のダメな部分、非モテ要素までも受け入れ、むしろそこを好きになってくれる。ほかのバイトからは「クサイ」と嫌がられる加齢臭すら嫌がらないという天使っぷりである。
 そんな“都合のいい天使”がいるはずもないのだが、私は「ありえねー」「絵空事だ」と思いつつ、けっこう楽しく読んでいる。
 世の腐女子たちは、BLマンガ・小説を、現実にはあり得ないことを百も承知でファンタジーとして楽しんでいるのだろう。それと同じだ。

 「恋雨」(と略すそうだ)はコミックス累計160万部突破、『マンガ大賞2016』で第7位、『このマンガがすごい!2016』でオトコ編第4位に食い込み、来年1月から深夜枠ながらもTVアニメ化……と、スマッシュヒットになっている。
 それだけ広がりがあると、さすがに読者が中年男ばかりとは思えない。この作品が幅広い層に受けていることが、いち中年男としては不思議である。

未知庵『三時のお水』『きなこ体操』



 未知庵(みちあん)の『未知庵の1 三時のお水』『未知庵の② きなこ体操』(Nemuki+コミックス)を購入して、読み倒す。

 まったく知らなかったマンガ家なのだが、変なマンガばかり集めてウェブ公開している「劇画狼のエクストリームマンガ学園」で、未知庵の「餅」「乳」という2編を読み、すっかり気に入ってしまった。

 で、いま買えるこの人の作品集2冊を、あわててゲットしたしだい。
 朝日新聞出版の『ネムキ』、『Nemuki+(ネムキプラス)』に掲載された作品を中心とした掌編集である。

 どの話も、シュールで不気味でおかしい。一言で言えばキモ面白い。しみじみとくだらなくて、それでいて妙に深みもあり、読んだあとに余韻が残る。

 絵はとてもうまい。描き込みもていねいで、時に執拗な印象を受けるほど。劇画的な陰影に富む絵柄でシュールなギャグを連発するから、そのギャップのせいでよけいにおかしい。

 2冊合計して40編以上の掌編が収録されている。そのすべてが傑作とは言わないまでも、かなり高水準な作品集である。
 細部までよく作り込まれているから、アイデア勝負の作風なのに、何度も読み返しても面白い。

 時々、すごくツボにハマる場面がある。
 「少年ファラオ」(『きなこ体操』の表紙に描かれているキャラ)がよろめいてぶつかり、郵便ポストがボコっとひん曲がってしまう場面など、声を上げて笑ってしまった(読んでいないとなんのことかわからないだろうが)。



 量産のきく作風ではないだろう。この2冊に収められた作品も、古いものは2006年くらいに発表されていて、約10年を費やして2冊分になったという感じだ。
 次の作品集も気長に待っているので、ぜひコツコツと描き続けてほしい。

三田紀房・関達也『銀のアンカー』



 三田紀房・関達也作『銀のアンカー』全8巻をセットで購入し、一気読み。
 
 仕事上の必要があって読んだ。コミックスのカバーに「内定請負漫画!!」とあるとおり、他にほとんど類を見ない(少なくとも、2006年の連載開始当時には類似作がなかった)「就活マンガ」である。

 アメリカ帰りの伝説的ヘッドハンターである主人公が、日本の大学生たちに就活の極意を指南していくというストーリー。
 作者が大ヒット作『ドラゴン桜』の三田紀房であることから、「就活版『ドラゴン桜』」と呼ばれている。

 三田とともにクレジットされている関達也という名前は、原作者かと思ったらそうではなく、三田の元チーフアシスタントで、途中まで(3巻まで)作画をまかされていたのだそうだ。

 私自身は就活というものをした経験がなく、そもそも「企業の正社員になる」という意味での就職をしたことがない(編プロにいたときはバイト扱いだったし)。
 なので、“就活という未知の世界”を垣間見る思いで読んだ。そのせいか、大変面白く読めた。

 三田紀房の絵柄は雑で好きになれないが、それでも彼のマンガはいつも水準以上の面白さを保っていると思う。高校生が株式投資をする『インベスターZ』なども、設定自体が卓抜だし、じつに面白い。

 絵柄については、三田自身が「自分は絵の魅力で売るタイプではないから、最低水準さえクリアすればよい」と割り切っているのかもしれない。
 彼の著書『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術』 を読むと、じつにドライにビジネスと割り切ってマンガ作りに取り組んでいるようだし……。

■関連エントリ→ 三田紀房『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術』

 この『銀のアンカー』は、就活に勝つためのノウハウ集としても読めるし、何より「就活に頑張って取り組もう!」と若者を鼓舞する効果が高いマンガだと思う。

「面接とは相手に本気を伝えることだ。それができれば必ず成功する。本気じゃない一流大生に、本気の三流大生は勝てる!」(句読点は引用者補足)



 ……などという、メモしておきたいような熱いセリフも多い。

南勝久『ザ・ファブル』



 最近気に入って、コミックスの新刊が出るたび買っているのが、南勝久の『ザ・ファブル』(『ヤングマガジン』連載中)。「ヤンマガ」はヤンキー系マンガが多く、私には縁遠いマンガ誌だが、まれにツボにはまる連載もある。

 てゆーか、南勝久のマンガ家としてのセンスが好きなのだな。
 彼の代表作『ナニワトモアレ』は関西の「走り屋」たちの物語で、私にはビタイチ縁のない世界が描かれていたが、にもかかわらず私にも面白かったし。

 『ザ・ファブル』は、「ファブル(寓話)」という通り名で知られる天才的な殺し屋の物語。
 ……というと、『ゴルゴ13』の亜流のようなハードボイルド・アクションを思い浮かべるかもしれないが、全然違う。殺し屋がボスから「今年は仕事をしすぎた(殺しすぎた)から、1年間休め」と命じられ、大阪で一般人として暮らす物語なのだ。

 殺人技術とサバイバル技術は卓越しているが、生活常識がポッカリ欠落している殺し屋が、頑張って普通の日常に溶け込もうとする。そのときに起きるさまざまな不協和音が、笑いとスリルを生む。そう、これは他に類を見ない“殺し屋アクション・コメディ”なのである。→第1話試し読み

 前に当ブログで取り上げた新機軸のヤクザマンガ『ドンケツ』に、タイプとしては近い。

 『ザ・ファブル』はヤクザマンガというわけではないが、ヤクザもたくさん出てくる。大阪で暮らすにあたって、一般人としての生活を邪魔しないでもらうよう、街を仕切るヤクザの組に話を通してある、という設定だからだ。
 「干渉しない」という約束なのに、伝説の殺し屋であるため、ちょっかいを出してくるヤクザもいる。そこからまたドラマが生まれる。

 『ドンケツ』も『ザ・ファブル』も、ヤクザ社会・裏社会のディテール描写は非常にリアルだが、キャラやストーリー展開にマンガ的な飛躍があり、その飛躍が笑いを誘う。そこが共通項である。

 いまどきの目の肥えたマンガ読者は、細部にリアリティがなければ受け付けない。さりとて、ただリアルであればよいというものではない。マンガには、マンガならではの飛躍――ぶっ飛んだ設定や展開、突出したキャラなど――が絶対不可欠なのだ。『ドンケツ』と『ザ・ファブル』は、細部のリアリティと良質な「マンガ的飛躍」を兼備しており、だからこそ傑作たり得ている。

 とくに『ザ・ファブル』は、これほど先の展開が読めないマンガも珍しく、一度ハマったら読むのをやめられない面白さがある。
 「1年間限定の一般人生活」という縛りがあるから大長編にはならないだろうが、最後までこのクオリティを保ってほしい。

『闇金ウシジマくん』「フーゾクくん編」再読



 『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平)は、シリーズ各編によって当たり外れの振幅が大きい。「スーパータクシーくん」編なんかひどいものだったし、「洗脳くん」編も、現実の「北九州監禁殺人事件」をただなぞっただけのようで、いただけなかった。

 だが、連載で現在佳境を迎えている「逃亡者くん」編は、私にとっては「当たり」だ。
 前作「ヤクザくん」編でついにウシジマを裏切り、加納を死に至らしめたマサルを、ウシジマが逃亡先の沖縄で追いつめるストーリーである。

 この「逃亡者くん」編には、連載初期の「フーゾクくん」編で彼氏の借金のカタとして沖縄に売られていった風俗嬢・杏奈が、重要キャラとして再登場する。それを読んで、「『フーゾクくん』編ってどんな話だっけ?」と再読したくなった。

 「フーゾクくん」編はコミックスでは5~7巻の3巻に及ぶのだが、ちょうどいいことに一冊にまとめたムック(「My First Big」)が出ていた。これを中古で安くゲット。

 改めて読んでみて、『闇金ウシジマくん』全編の中でも屈指の好編だと思った。

 タイプの異なる3人の風俗嬢――杏奈・瑞樹・モコ――が、それぞれウシジマと関わりを持ち、三者三様の地獄を味わう。3人の物語は絶妙のさじ加減で混じり合い、異なる角度から性風俗の世界に光が当てられる。
 救いのないストーリーながらも、暗闇に一条の光が射し込むラストになっているところが、また心憎い。
 
 『闇金ウシジマくん』の一編であることを脇に置き、たんに「フーゾクの世界を描いたマンガ」として考えても、これをしのぐ作品はいまのところ見当たらない。

 

「私が沖縄でどんだけの地獄だったか想像できる?」



 ――「逃亡者くん」編で、杏奈は再会したマサルにそう言う。
 「フーゾクくん」編を再読することで、「逃亡者くん」編がいっそう味わい深くなった。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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