福満しげゆき『終わった漫画家』



 福満しげゆきの『終わった漫画家』1巻(ヤングマガジンコミックス/540円)を、Kindle版で購入。

 「ヤンマガ」はどちらかというと私には縁遠いマンガ誌だが、いまは南勝久の『ザ・ファブル』を目当てに毎週読んでいる。
 で、その「ヤンマガ」で最近『ザ・ファブル』とともに楽しみにしているのが、福満しげゆきの『終わった漫画家』である。
 
 コミックスの1巻が出たばかり。
 福満しげゆきの作品には私小説的なものが多いが、本作の「終わった漫画家」とはさすがに自分のことではない。
 10年前に小ヒットを出したものの、その後はジリ貧。完全に編集に見捨てられたわけではなく、いまも連載はあるが、早晩「終わる」ことが自分でも重々わかっている……そんな、才能の枯渇した独身童貞マンガ家が主人公だ。

 “どうせ廃業が近いなら、若い女の子をアシスタントに雇い、その子と恋仲になって結婚しよう。そして田舎暮らしでもしよう”――そんな安直な考えのもと、仕事も少ないのにアシスタントを募集する。

 そして、マンガを描いた経験ゼロの20代女性(経験ゼロであることは隠し、マンガ家と結婚して「小規模な玉の輿」に乗ろうと考えている)と、マンガ家志望の女子高生をアシスタントにする。

 その女子高生は売れっ子マンガ家になるという野望を抱いており、「ちょうどいい感じの小物のとこに行き 産業スパイのように技術だけ盗む」ことを目的に、ファンでもなかったマンガ家のアシスタントに応募したのだった。

 三者三様の思惑のもと、この奇妙なトライアングルの共同作業は進んでいく……というマンガ。

 三人とも、心が複雑に屈折しまくっていて、一筋縄ではいかない。
 たとえば、20代のアシスタントA子(ホントにそういうキャラ名)は、かつてはデブでまるでもてなかったのだが、交通事故で生死をさまよったのち、退院するころには激ヤセして美人になっていた、という強引な設定だ(笑)。
 美人になってからまだ日が浅く、それまでは恋愛と無縁の人生だったので、彼女の男性観・恋愛観は微妙に歪んでいる。

 童貞と処女ばかりの「ヘンな3人」が、互いの心を妄想まじりに深読みしていく。その“妄想モノローグ”の連鎖が物語を駆動していくさまが、なんともおかしい。

 福満しげゆきの新境地であり、個人的には彼の作品の中でいちばん面白く感じた。
 「『マンガ家マンガ』に駄作なし」と言われる。『漫画家残酷物語』から『バクマン。』に至るまで、多くの傑作が生まれてきたこのジャンルに、また新たな地平が拓かれそうである。

■関連エントリ→ 福満しげゆき『グラグラな社会とグラグラな僕のまんが道』

蛇蔵・鈴木ツタ・たら子『天地創造デザイン部』



 予約注文しておいた、蛇蔵&鈴木ツタ原作、たら子作画の『天地創造デザイン部』第1巻(モーニングKC)Kindle電子書籍版が届いたので、さっそく読む。本日発売。

 「大人が読める学習マンガ」の傑作『決してマネしないでください。』で、私はすっかり蛇蔵のファンになってしまった。

 今作では蛇蔵は鈴木ツタ(マンガ家)とともに原作に回り、作画は「たら子」という別のマンガ家にまかせている。私は蛇蔵のすっきりした絵柄も好きだけどなァ。

 それにしても、蛇蔵・鈴木ツタ・たら子と3人の名が並ぶと、「ホントに人の名前か、これ?」って感じで、字面がスゴイ。

 神様が忙しいので、一部の動物のデザインと製造はアウトソーシングしている、という設定(笑)。その外注先が「天地創造社のデザイン部」で、天使たちが神様とデザイン部の連絡役を務める。

 「クライアント」である神様の“無茶ぶりなオーダー”に振り回されつつ、天地創造デザイン部は新しい動物を創造する仕事に大わらわ。それぞれキャラの立った数人の「デザイナー」たちが、自分の作りたい生き物を作ろうとする。

 そのデザインが神様のお眼鏡にかなった場合(=生物としてのクオリティが高く、地球で生き残っていける条件をきちんと備えていた場合)、天使たちに「天啓!」がビビッと下って「採用」となり、実在する生物となる。

 つまりこれは、地球上に生息する生き物たちが、なぜそのような形状と生態を持っているのかを、動物学・生物学などの知見をふまえ、笑いにくるんで解き明かしていくマンガなのだ。→ 版元サイトによる第1話試し読み

 科学史や科学の基礎知識をコメディ仕立てにして読者に提示した快作――『決してマネしないでください。』を生んだ蛇蔵らしい作品といえる。
 「理系のコメディ」という、ほとんど例のない(電子工作コメディの傑作『ハルロック』などを除けば)ジャンルを切り拓いている作家さんなのだ。
 
 ちなみに、『決してマネしないでください。』がファンの間で「決マネ」と略されていたのに対し、本作は「天デ部」と略すそうだ。

 独創的コメディを楽しむうち、生物に関するさまざまな知識がおのずと身につくマンガである。
 もっとも、このマンガで得た知識は、話のネタになるくらいが関の山で、およそ実用的ではないけれど……。

 

萩尾望都『ポーの一族 ~春の夢~』



 日野原重明さんの訃報に接する。105歳での大往生。

 10年前、95歳のころに、日野原さんを取材させていただいたことがある。

 耳がまったく遠くなくて、こちらがいつもの声量(私は声が小さい)で話しても普通に会話が成り立った。

 聖路加国際病院の敷地内にある「トイスラーハウス」(創立者ルドルフ・トイスラーが住んでいた家を移築したもの)で取材したのだが、取材後、ハウス前を流れる小川を日野原さんがピョンと飛び越えて渡ったので、びっくりした。

 何よりも驚かされたのは、取材の途中で日野原さんが一瞬眠ってしまったことだ。イスに座ったまま、静かな寝息を立てて。
 「あのぅ……、先生、先生!」と呼びかけたらすぐに目を覚まし、何事もなかったように話を続けられた。

 私はそのとき、「これこそが長寿の秘訣なのだな」と感じた。つまり、いつなんどき、どこででも自在に睡眠がとれることが、日野原さんの特殊能力であったのだと思う。

 ともあれ、ご冥福をお祈りいたします。


 萩尾望都の『ポーの一族 ~春の夢~』(フラワーコミックススペシャル/700円)を読んだ。
 昨年の『月刊フラワーズ』での連載開始から大反響を呼んだ、伝説的名作の40年ぶりの新作。

 私は近年の萩尾作品にはあまり馴染めないのだが、1980年代前半までの作品は夢中になって読んだ。もちろん『ポーの一族』も。
 
 絵柄が昔とは(微妙に)変わってしまったことは致し方ないが、ストーリーと雰囲気は昔のままである。かつての『ポーの一族』が好きだった人なら、間違いなく楽しめる作品に仕上がっている。

 難点は、今回の作品ではアランが“ただのお荷物”になってしまっていて、キャラとしての魅力がほとんど発揮されていないこと。
 次作では、ぜひもっとアランに光を当ててもらいたい。

蛇蔵&海野凪子『日本人なら知っておきたい日本文学』


日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典
(2011/08/25)
蛇蔵、海野 凪子 他

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 蛇蔵&海野凪子の『日本人なら知っておきたい日本文学――ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典』(幻冬舎/972円)を購入。

 蛇蔵の『決してマネしないでください。』がすごく面白かったので、旧作を読んでみた。
 このコンビの作品でいちばん売れているのは、『日本人の知らない日本語』シリーズらしい。じつはそっちの1巻も一緒に読んでみた。そこそこ面白かったが、「2巻以降はべつに読まなくてもいいかな」と思った。

 この『日本人なら知っておきたい日本文学』のほうが、私には面白かった。続編が出たら買いたいと思うのだが、とりあえず1冊で打ち止めらしい。

 日本語教師である海野がエッセイを担当し、蛇蔵がマンガを担当している。

 『朝日新聞』掲載の著者インタビューによれば、「この1冊のために読んだ関連書籍や資料は100冊を超える。一コマ描くのに、3冊を読み込んだこともあった」という。
 そのようによく調べて描かれているのに、お勉強の成果をガチガチに詰め込んで難しくするような愚は犯しておらず、ひたすら軽快で楽しい。
 紫式部も安倍晴明も鴨長明も、みんな可愛らしい三頭身キャラになって登場し、絵柄もスッキリ。

 大人が読んでも楽しくてためになる「教養コミック」だが、中高生に読ませたら古典への苦手意識が払拭される効果があるのではないか。学校で副読本に用いたらよいと思う。

 ところで、蛇蔵が女性(しかも女教師風美人)であることを、私は上記のインタビューで初めて知った。
 ううむ、マンガ家はペンネームでは性別がわからんなあ(久保ミツロウや荒川弘が女性だったり)。

蛇蔵『決してマネしないでください。』


決してマネしないでください。(1) (モーニング KC)決してマネしないでください。(1) (モーニング KC)
(2014/12/22)
蛇蔵

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 蛇蔵の『決してマネしないでください。』(講談社)1巻を、kindle電子書籍で購入。

 『モーニング』に月イチ連載中の「大人の学習マンガ」である。略称は「決マネ」だそうだ。
 子どものころ、「学研まんが ひみつシリーズ」が大好きだった私。「決マネ」は、「ひみつシリーズ」の面白さをそのままにして大人向けにしたような作品で、じつに楽しい。

 講談社のWebコミックサイト「モアイ」で第1話が丸ごと試し読みできるので、読んでみてほしい。
 
 架空の工科医大の「実験サークル」を舞台に、学生たちと教授が行うさまざまな面白実験が、毎回描かれる。
 ユニークな教授と学生たちのやりとりには、佐々木倫子の名作『動物のお医者さん』を彷彿とさせる部分もある。

 楽しみながら科学知識が得られる学習マンガとして上出来だし、科学史を学ぶ入り口にもなり得るマンガだ。というのも、ストーリーの合間に、科学史上の重要人物のエピソードが巧みに織り込まれているから。
 とくに、ラボアジエやニコラ・テスラ、ゼンメルヴァイス、ジョン・ハンターのエピソードは、箸休めの域を超えて面白い。

 物語のヒロインである「学食のおばさん」(といっても推定25歳)・飯島さんもキュートだし、それ以外の登場人物もキャラが立っている。
 小学生のころに『まんがサイエンス』(あさりよしとお)とかが好きだった人なら、絶対にハマるマンガだ。

■関連エントリ→ 児玉聡・なつたか『マンガで学ぶ生命倫理』レビュー


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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