施川ユウキ『バーナード嬢曰く。』



 昨日は、54年ぶりだという11月の初雪のなか、都内へ――。午前中に打ち合わせ、午後に取材。
 毎日出かける仕事ではないのに、よりによって半日出かける日に雪かよ。


 施川ユウキの『バーナード嬢曰く。』の既刊1~3巻を読んだ。
 他に類を見ない、読書をめぐるギャグマンガである。

 読書についてのマンガや、図書館や古書店が舞台のマンガはけっこう増えてきたが、ギャグマンガとなると本作くらいだろう。

 学校(高校?)の図書室を主舞台に、図書室の常連である女子3人・男子1人がくり広げる読書談義が描かれていくマンガ。
 「バーナード嬢」とは、主人公の町田さわ子がバーナード・ショーをもじってつけた“自称ニックネーム”。ファンの間では、本作は「ド嬢」と略称されているそうだ。


↑つい最近、テレビアニメ化もされた。

 抱腹絶倒という感じではないが、微苦笑を誘う細かいくすぐりが山盛りで、とても面白い。本好きなら間違いなく楽しめる。

 私も、ライターをしているくらいだから少年時代から読書好きだったし、図書室の常連でもあったから、本作にちりばめられた「読書家あるある」には共感しまくり。

 「読むとなんだか読書欲が高まる“名著礼賛”ギャグ!」というのが、版元のつけた惹句。たしかに、名著・名作案内としても読めるマンガである。

鈴木良雄『フルーツ宅配便』



 鈴木良雄の『フルーツ宅配便』1巻(ビッグコミックス)を、Kindle電子書籍で購入。

 『ビッグコミックオリジナル』連載中の、地方都市のデリヘルを舞台にした連作短編シリーズ。ツイッター上で、「エロくない、泣けるデリヘル・マンガ」として話題になっていたので買ってみた。

 高名なジャズベーシストと同姓同名の作者は、昨年に「ビッグコミック&ビッグコミックオリジナル合同新作賞」(新人賞)を受賞しているから、このマンガが初連載で初単行本なのかな? そのわりには手慣れた作画と構成で、マンガ家としての個性がすでに確立されている印象だ。

 舞台となる地方都市ははっきり特定されていないが、茨城・群馬・栃木あたりのイメージ。海が出てくるから茨城か。
 デリヘル「フルーツ宅配便」の見習い店長となる主人公の「サキタ(咲田)」に、オーナーの「ミスジ」は次のように言う。

 都会のデリヘルと違って、ここらじゃ面接でかわいい子来る確率低いんだ、これが。



 この言葉どおり、毎回のサブ主人公となるデリヘル嬢たち(※)は、派手な「ザ・風俗嬢」というイメージから遠く、みんなどこかビミョーでワケアリで、地味で貧しげだ。しかし、その“くすんだ感じ”こそが、類似作にはない「味」になっている。随所でオフビートなユーモアがはじけるのも楽しい。

※店名が「フルーツ宅配便」なので、嬢の源氏名はゆず・レモン・スイカ・ブドウなどの果物名であり、その名前が各編のタイトルとなる。

 最近新書でよくある、「貧困女子の問題をフーゾクの世界からえぐってみました」的なルポに近い色合いも、ないではない。版元による「内容紹介」を見ると、そういう角度でこの作品を売りたがっているようだ。
 だが、実際に読んでみれば“社会問題を告発する”というトーンは希薄で、もっと「人情話」寄りである。

 ビッグコミック系の作品で言うと、斎藤なずなの初期作品あたりを彷彿とさせる、ウェルメイドな短編になっている回が多い。
 フーゾクの世界を、煽情的にならず淡い人間ドラマとして描き出す手際は、新人離れした鮮やかなもの。続巻を買いつづけることに決めた。

佐々大河『ふしぎの国のバード』


 
 私は某月刊誌のCDレビュー・コーナーをもう足掛け9年も担当(執筆)しているのだが、レコード会社にサンプル音源やジャケ写を提供してもらう際、「バンドのイメージがそちらの雑誌と合わないので」などという理由で掲載を拒否されることがある。

 洋楽を取り上げる場合、そう言われることはまずない。断られるのは十中八九、日本のバンド/アーティストのケースである。レコード会社が断るというより、アーティストの所属事務所がブランディングとして露出メディアを絞っているのだろう。

 日本のアーティスト、とくにロック系の場合、5~6回に1回くらいの割合で断られる。
 最近は事前に、「あ、このバンド、事務所が媒体選定にうるさそうだな」と勘が働くようになってきた。

 私としてはそのアーティストが好きだからこそCD評で取り上げようとするわけで、掲載を拒否されると、女性をデートに誘ってフラれたような気分になる(笑)。アーティストを好きな気持ちすら薄れ、レコード会社の対応によっては「可愛さあまって憎さ百倍」になり、「こんなバンド、2度と聴かねーよ!」とすら思う。

 CD評は広告料をもらって書くわけではないし、酷評する気など毛頭なく、基本はホメるレビューである。いわば「タダで宣伝してやっている」のだ。
 にもかかわらず、「バンドのイメージに合わない」「事務所が掲載メディアをかなり厳しく選んでおりまして……」などという理由で拒否してくるのが理解できない。
 世界的に活躍する大物アーティストならまだしも、デビューしたての新人の事務所にまでそんなことを言われると、「ケッ! 何をエラソーに」と思う。

 一度など、デビューしたてのインディーズ・バンドをCDレビューで取り上げようとして、「イメージに合わないので」と断られたこともある。「ハァ? 何様?」と思いましたね。

 CDがまるで売れない時代になっているのに、いまだに媒体を選ぶような殿様商売をしているJ-ポップ/J-ロック業界の一部のアーティスト気取りは、まったく度し難い。

 ……と、壁打ちのように、誰に言うともなく憤懣をぶつけてみました。


 「ニコニコカドカワ祭り2016」が開催中で、KADOKAWAグループの電子書籍が大量に半額セールになっているので、コミックスをあれこれポチる。
 そのうちの一つが、前から気になっていた佐々大河(さっさ・たいが)の『ふしぎの国のバード』(ビームコミックス)。19世紀英国の女性旅行家イザベラ・バードの日本紀行を元にしたマンガである。

 じつに面白い。明治初頭の日本社会が鮮やかに描かれているし、ちゃんとエンタメになっている。
 これは「ヴィクトリアン・レディ・トラヴェラー」の冒険譚であり、異文化との邂逅のドラマであり、出色の明治風俗絵巻でもある。このような作品を生み出す日本のマンガ文化の豊穣さを、改めて思う。

 イザベラ・バードと、通訳兼ガイドの青年・伊藤鶴吉が、実物とはかけ離れた美男美女に描かれているが、これはマンガならではのデフォルメとして許容範囲。
 そういえば、私は未読だが、「伊藤鶴吉はイザベラ・バードに恋をしていた」という設定の中島京子の小説(『イトウの恋』)もあった。この『ふしぎの国のバード』でも、今後、旅する2人の間に恋愛感情が芽生えていくのだろうか。

 文明開化の時代を知るための資料として、高校生あたりにぜひ読ませたい良作。
 既刊はまだ2巻のみだが、続巻も買うことにする。

志村貴子『放浪息子』



 志村貴子の『放浪息子』(ビームコミックス)全15巻を、仕事上の必要があって一気読み。

 積み上げたコミックスを寝っ転がって読んでいる姿は、傍目にはボーッと遊んでいるようにしか見えないだろう。
 「年末進行で忙しいとか言ってるわりには、こいつヒマそうやな」と思われている気がして、家人に「これ、仕事で読んでるからね」と、しなくてもいい言い訳をしてしまう(笑)。

 ちなみに、私はこんなのも書いているのです。

 先ごろ、ゲイ・エロティック・アートの巨匠・田亀源五郎の初の一般誌連載マンガ『弟の夫』が、「文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門で優秀賞を獲得した。

 時代は変わったなあ、と感慨深いわけだが、LGBT(性的少数者)の問題を先駆的に取り上げたマンガといえば、なんといってもこの『放浪息子』である。
 連載当時、『コミックビーム』で読んではいたものの、最初から最後まで通しで読んだのは初めて。改めて素晴らしい作品だと思った。

 「女の子になりたい男の子」と「男の子になりたい女の子」が小学校で出会い、中学・高校と進んでいく年月を、10年超の長期連載でじっくり描いた作品。「LGBT大河マンガ」というか、「LGBT群像劇」というか……。

 主人公たちが性的アイデンティティをめぐって悩み、葛藤するさまが描かれてはいるが、少しも「声高な感じ」がないところがいい。
 「LGBT」という言葉も、「性同一性障害」という言葉も、作中ではただの一度も使われていない。説教臭さもなければ、「社会問題を扱ってる、啓発的で意識高い系マンガです」的な「どや顔」感もない。
 水彩画のような淡く美しい絵柄とあいまって、淡々としたタッチで「LGBT」の問題が描かれているのだ。

 むしろ、版元がつけた惹句のとおり、「思春期学園ラブストーリー」としてフツーに楽しめる。そこがよい。

貞本義行『新世紀エヴァンゲリオン』



 貞本義行によるマンガ版『新世紀エヴァンゲリオン』が、Kindle電子書籍で1巻50円の激安価格で売られていたので、全14巻をまとめ買い。まとめて買っても700円!

 私は元のテレビアニメ版も観ていないし、劇場版の第1作をレンタルDVDで観たことがあるだけ。
 なので、『新世紀エヴァンゲリオン』に関してはほとんど何もわかっていないのだが、このマンガ版は面白くて全巻一気読み。なるほど~、こういう話だったのか(アニメ版とは展開がかなり違うらしいが)。

 『エヴァンゲリオン』については、すでにあらゆる人に語られ尽くされているのだろうし、いまさら私ごときが屋上屋を架してもアレなのでコメントは差し控えるが、思っていたよりもずっと深みのある内容だった。


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

里親募集中

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
23位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
18位
アクセスランキングを見る>>