近藤ようこ・田中貢太郎『蟇の血』



 近藤ようこが田中貢太郎の短編怪奇小説をマンガ化した『蟇(がま)の血』(KADOKAWAビームコミックス/720円)を、電子書籍で購入。さっそく、2度くり返し読んだ。

 近藤が『コミックビーム』などで近年多数手がけてきた、近・現代日本文学コミカライズ・シリーズ(なのか?)の一作。
 私は一連のシリーズの中では、津原泰水の短編をマンガ化した『五色の舟』がいちばん好きだ。その評価は本作を読んでも変わらないが、これもなかなかの出来。

■関連エントリ→ 近藤ようこ・津原泰水『五色の舟』

 恥ずかしながら原作を読んだことがなかったので、本書を読んだあとに「青空文庫」で読んでみた。かなり原作に忠実なコミカライズである。

 私は近藤作品の中にときどき出てくる、怪異でエロティックな女性キャラが好きだ。本作にもそのようなキャラが出てくる。しかも、儚い系キャラと恐ろしいキャラの2タイプが揃って……。
 その魅力を堪能するだけでおなかいっぱいになる、上質な幻想怪奇譚である。

 恐ろしい場面でも飄々としたユーモアが隠し味になっていて(蟇の血を操るババアのキャラとか)、そのへんの複雑玄妙な味わいもなかなか。

 あと、本作は近藤作品の中でもひときわ、風景/背景描写に力が込められている気がした。
 暗い夜道に電灯の明かりでポッカリ浮かぶ家並みとか、月明かりに照らされた夜の海辺の松林とか、前半の何気ない風景が、強い印象を残す(後半は主人公がある屋敷に閉じ込められる展開なので、なおさら)。

くりきあきこ『ブレッチェン ~相対的貧困の中で~』



 くりきあきこの『ブレッチェン ~相対的貧困の中で~』1巻(ぶんか社/648円)を、Kindleで購入(紙版は出ていないようだ。最近そういうケースも多い)。

 ぶんか社の、「本当にあった女の人生ドラマ」というレディースコミックの月刊誌がある。
 読者投稿のマンガ化など、ノンフィクション、もしくはノンフィクションに近い女性向けマンガを集めたもの。社会問題を扱った作品も多く、狙いはよいのだが、エグい話、ドギツイ話がけっこうあって、正直、あまり人前では読みたくないマンガ誌である。


↑こんな感じのマンガ誌。

 同誌に連載されているなかで、私が唯一続きを楽しみに読んでいるのが、この『ブレッチェン』である。
 これは、ベテラン・マンガ家くりきあきこが、日本の貧困問題――とくに、母子家庭の貧困や子どもの貧困――を真正面から描いた作品。

 主人公の18歳の少女・楓花は、生活保護を受けながら母親と2人暮らしをし、コンビニでバイトをしながら大学進学の学費を貯金していた。
 だが、高校卒業の直前に母親が他界したことで生活保護を打ち切られ、進学をあきらめる。そして、たった一人で働いて生きていこうとする……という物語。
 タイトルの「ブレッチェン」とは、楓花が働くことになる小さなベーカリーの店名だ。

 楓花が天涯孤独になったことで、急に冷たくなる知り合いもいれば、弱みにつけこもうとする「悪い大人たち」もいる。その一方で、力を貸してくれる「よい大人たち」もいる。
 そうした周囲の人々の姿と、自力で新しい人生を切り拓こうとする楓花の奮闘が、重いリアリティで描かれていく。

 パン作りの工程などもよく調べて描かれており、確かな生活感覚に満ちた、とてもよいマンガである。ドラマ化・映画化してもよいかもしれない。

夾竹桃ジン『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』



 昨日は、都内某所で脳科学者の中野信子さんを取材。

 これで今月は、池谷裕二さん、篠原菊紀さん、中野さんと、人気脳科学者3人を取材したことになる(後日、お三方への取材を一本の長い記事にまとめる)。

 同じ脳科学者であっても、それぞれ語り口・視点に個性があって、大変面白かった。


 夾竹桃ジン作(シナリオ:水野光博、取材・企画協力:小宮純一)『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』の全6巻と、続編『新・ちいさいひと』の既刊1巻をまとめ読み。

 仕事上の必要があって読んだのだが、とてもよいマンガである。
 アマゾンのカスタマーレビューではなぜか酷評が多いが(まあ、アマレビュなんかあてにはならないが)、私はウェルメイドな力作だと思った。

 たしかに、「人物造形がステレオタイプにすぎるかな」という粗は感じなくもない。
 主人公のありがちな熱血キャラとか、児童相談所の所長が保身ばかり考えて「私の管理責任が問われます」と決まり文句のように言う点とか、キャラが単純すぎるのだ。
 しかし、それは作品全体から見れば小瑕で、読んでいるうちに気にならなくなる。

 「描かれている児相の現場対応にリアリティがない」という批判的レビューもあったが、私はむしろ、よく取材されていて、児相の現場の雰囲気がわかるマンガだと思った。
 フィクションである以上、ドラマを盛り上げるために現実をデフォルメしてある部分も、当然あるだろう。が、それも許容範囲内だと思う。

 児童虐待を描いたマンガといえば、ささやななえの『凍りついた瞳』という傑作がすでにある。これは、いまのように児童虐待が一大社会問題になる以前の先駆的・問題提起的作品であった。

■関連エントリ→ ささやななえ『凍りついた瞳』

 対して、『ちいさいひと』は、誰もが児童虐待の深刻さを知っている「いま」にふさわしい切り口で作られている。このような啓蒙的作品が少年マンガ誌に連載されているのは、なかなかすごいことではないか。

 

神坂智子『T・E・ロレンス』



 仕事上の必要があって、神坂智子の『T・E・ロレンス』を全巻再読。それから、映画『アラビアのロレンス』も映像配信で再見した。

 それにしても、たいていの名作映画が家ですぐに観られるのは、思えばすごいことだ。私が10代のころは、名画座にかかるのを待つしかなかったのだから。

 『T・E・ロレンス』は、「アラビアのロレンス」ことトーマス・エドワード・ロレンスの生涯を描いた大作である。
 『アラビアのロレンス』が、映画史上に輝く名作であることはいうまでもない。だが、この『T・E・ロレンス』には、『アラビアのロレンス』が描けなかったロレンス像までが活写されており、日本のマンガの底力を改めて思い知らされる。

 たとえば、『アラビアのロレンス』がほのめかす形でしか描けなかったロレンスの性指向――ホモセクシュアリティとマゾヒズムも、『T・E・ロレンス』は思いっきり踏み込んで描いている。
 それは、竹宮惠子が『風と木の詩』で切り拓き、山岸凉子の『日出処の天子』などに開花した「BL」の伝統が、日本のマンガにあればこそだろう。

 また、ロレンスの複雑きわまる内面についての描写も、『アラビアのロレンス』より重層的で深い。マンガという表現形式そのものが持つ力のなせる技であろう。

 もっと高く評価されてしかるべき、マンガ史に残る傑作。

雁屋哲・由起賢二『野望の王国』



 金曜日は、上野の「国立西洋美術館」の馬渕明子館長を取材。テーマは、同館の世界文化遺産登録について。

 ル・コルビュジエの建築作品の特徴から始まり、美術館の役割、ひいては「文化の力」というところまで話が広がる。私は建築も美術も門外漢なので、一方的にご教示いただく形だが、とても面白い話がうかがえた。

 で、今日も明日も、それぞれ別件の取材。


 ……と、そのようにバタバタしているのだが、「Kindle Unlimited」で雁屋哲・由起賢二の『野望の王国』 全27巻が読み放題になっているので、思わず一気読みしてしまった。

 伝説の「馬鹿(バロック)マンガ」(=呉智英のネーミング)だが、私は初めて読んだ。
 竹熊健太郎・相原コージの傑作『サルでも描けるまんが教室』の主人公2人のキャラ造形は、『野望の王国』のパロディであることが知られている。私も、『サルまん』を読んで『野望の王国』を知ったクチだ。



 呉智英は、厳選の「馬鹿<バロック>漫画24冊」 というウェブページでも『野望の王国』をセレクトしており、同作について次のようにコメントしている。

 二人の青年が日本を制覇しようと覚悟するところから話がはじまるが、その方法がものすごく遠い! 普通なら政治家、官僚を目指すのが確実だと思うが、彼らはヤクザを目指した! 何人殺しても進まない日本制覇。このペースでは日本制覇するのに300年はかかるだろう。まさにバロック。



 このコメントの通り、噂に違わぬ怪作であった。
 荒唐無稽な展開の連続で、「クダラナイなあ」と思いつつ、異様な迫力に引きこまれてページを繰る手が止まらず、最後まで読まずにいられない。「面白いか、つまらないか?」と問われれば、「クダラナイけど面白い」と答えざるを得ない。名作とは言いがたいが、けっして駄作ではないのだ。

 で、「Kindle Unlimited」には青木雄二の『ナニワ金融道』も全巻入っているので、これまた全19巻一気読み(こちらは再読)してしまった。なかなか「時間食い虫」なサービスである。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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