『君の名は。』



 いまさらながら、『君の名は。』を初めて観た。今日から映像配信/レンタルが開始されたので。

 世界的大ヒットを記録しただけのことはあって、とてもよくできている。
 リアルな背景描写とキャラクターの適度なデフォルメの絶妙なバランスなど、アニメとしての美点も数多い。

 ストーリーの底流になっている「運命の赤い糸」伝説(赤い組紐に置き換えて、わざわざ視覚化されているところがうまい)は、中国発祥で東アジア全般に広く伝播しているのだそうだ。
 してみると、この映画が中国及びアジア各国でも大ヒットしたのは、そこに一つの要因があったのかも。

 「赤い糸伝説」を持ち出すまでもなく、「あたかも自分の半身であるかのような、完璧に理解し合える『たった一人の運命の人』が、世界のどこかにいる」という幻想は、人間がウブなうちは誰しも抱いているものだろう。

 その幻想が21世紀的意匠のもとに巧みにストーリー化されているのだから、大ヒットしたのも当然だ。
 この作品は、人がまだイノセントなころに抱いていた“恋愛感情の原初形態”とでもいうべきものを、思い起こさせるのだ。

 まあ、「運命の人なんて、どこにもいない」と苦く覚ってしまったオッサンの私には、観ていてこそばゆいような作品だったけど。

『マイマイ新子と千年の魔法』



 
 『マイマイ新子と千年の魔法』を、映像配信で観た。
 高樹のぶ子の自伝的作品『マイマイ新子』のアニメ映画化であり、『この世界の片隅に』を作り上げた片渕須直監督の旧作。てゆーか、『この世界の片隅に』の前作に当たる(2009年作品)。

 いまになってこのアニメを観る人の9割方は、「『この世界の片隅に』が素晴らしかったから、同じ監督の旧作を観てみよう」と思った人であろう。私もそうだ。
 そして、その人たちの9割9分くらいがきっと同じ感想を抱いたであろうが、うーん……、『この世界の片隅に』には遠く及ばないなァ。

 繊細・緻密な自然描写は素晴らしく、その点は『この世界の片隅に』と共通である。
 とくに、コトリンゴの曲「こどものせかい」をバックに、舞台となる山口県防府市の自然のみが描かれるエンドロールは絶品で、ここだけでも独立した価値を持つ。



 しかし、自然描写以外にこれといった見どころはなく、大人の鑑賞には堪えないと感じた。

 ただ、「この作品がなければ、『この世界の片隅に』も生まれなかったのだろう」とは思った。『この世界の片隅に』という宝石の原石であり、あの作品へのジャンピングボードであったのだ。
 

『この世界の片隅に』



 今日は、取材で八王子へ――。
 その帰途、立川シネマシティに寄って、『この世界の片隅に』を観た。



 言わずと知れた、各界絶賛の話題作である。
 町山智浩が本年度ベスト1に挙げ、ライムスター宇多丸も「おそらく日本映画史に残る大傑作」「5千億点!」と大絶賛。斎藤環に至っては、「人類の作り上げてきた映像文化史上、最高の作品のひとつ」とまで言っている。
 宇多丸や斎藤環の言葉はさすがに過大評価だという気がするが、大変な傑作であることはたしか。

 私はこうの史代の原作も好きだし、名作だと思うが、このアニメ版は原作を超えていると思う。
 遊郭の娼妓・リンと周作の関係を描く場面が割愛されているなど、ごく一部にアレンジが加えられているほかは、原作に忠実なストーリー展開。それでも、原作以上に胸に迫るシーンがたくさんあった。
 たとえば、すずが空襲の中でシラサギを追う場面や、すず・周作夫妻と母を被爆で亡くした孤児との出会いのシークエンスでは、その美しさ・哀切さ・迫力に鳥肌が立った。

 戦時中の広島や呉の街や自然が、隅々まで丁寧な作画によって見事な質感で表現されており、圧倒される。

 徹頭徹尾、「銃後」の視点・庶民の視点・日常生活の視点から描かれた戦争――。
 我々戦争を知らない世代(そもそも、原作者も監督も「戦争を知らない世代」だが)に、これほど戦争を日常の延長にあるものとして「実感」させ得た日本映画は、幾多の実写戦争映画の中にもなかったのではないか。 

 かつて野坂昭如は、自らの小説を高畑勲がアニメ化した『火垂るの墓』を観て、「アニメ恐るべし」と書いた。こうの史代も、この映画を観て同じように思ったのではないか。私も、本作を観て「アニメ恐るべし」と思った。

 なお、原作についてのネットで読めるレビューの中では、ネット界屈指のマンガ読み巧者である「漫棚通信ブログ版」さんのものがベストだと思う。なんと深い読み解きであることか。
 原作を読んでからこれを読み、その後にアニメ映画版を観ると、いっそう深く味わえるはずだ。

『ベイマックス』



 仕事部屋の本の山を整理した。段ボール5箱分の本を、「ブックオフ」の「宅本便」で処分。本棚からはみ出て床にうずたかく積んであった分が、きれいになくなった。
 すべての本が本棚にスッキリ並んでいる爽快感を、何年ぶりかで味わう。

 宅本便は、買い取り価格は恐ろしいほど安いものの(※)、不要な本の処分方法としては最高だ。箱に詰めてネットで買い取りを申し込むだけで佐川急便が無料で(てゆーか、ブックオフ側が着払いで負担して)集荷に来てくれるし、値がつかない本も引き取ってくれるところがよい。

※5箱分売っていくらになったのかを書いておこう。ご参考まで。売った本は計338冊で、そのうち「お値段がつかなかった商品」となったのは154冊。値がついたのは184冊で、買い取り価格はトータルで8825円であった。


 『ベイマックス』を映像配信で観た。
 ディズニー・アニメの前作『アナと雪の女王』は未見だし、興味もないが、こちらは予告編を観ただけで心惹かれるものがあった。

 ハリウッド産CGアニメと、藤子・F・不二雄的「スコシ・フシギ」な世界(=SFのセンス・オブ・ワンダー、「男の子」的イノセンス、柔らかいユーモア、「カワイイ」のミクスチャー)の、理想的融合といえる作品。
 いまは亡き藤子先生に、この作品を観せたかったとしみじみ思った。

 田中圭一が見事な“藤子風ベイマックス”を描いていたが(↓)、たしかに、「藤子・F・不二雄が原作だ」と言われても信じてしまいそうな物語(ホントの原作はアメコミで、この映画版とはかなりテイストが違うらしい)。



 基本は子供向けだから、ストーリーは大人にとっては単純すぎるのだが、それでも大人にも十分愉しめる。とくに日本人にとっては……。

藤城清治 『銀河鉄道の夜』

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(2007/07/18)
藤城清治

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 藤城清治の 『銀河鉄道の夜』をケーブルテレビで観た。
 日本が世界に誇る影絵作家による、宮沢賢治の代表作の「影絵劇」化。2007年に「初演から50年を経て、ハイビジョン撮り下ろし映像にて初DVD化」されたものの放映である。

  『銀河鉄道の夜』の映像化作品といえば、ますむらひろしの猫キャラを使ったアニメ映画版(1985年)が私は好きだが、こちらの影絵劇もたいへん美しくてよかった。宮沢賢治本人が観たら、気に入るのはこちらのほうではないかと思う。

 『銀河鉄道の夜』については、主人公ジョバンニが賢治の分身であり、彼の親友カムパネルラには賢治の妹・トシの姿が反映されている、という解釈がある。
 行方不明の父と病気の母をもち、同級生からもいじめられている孤独で貧しい少年ジョバンニ。そのただ一人の友カムパネルラ――そんな関係に、賢治とトシの関係が投影されているという見方である。

 日本女子大学を優秀な成績で卒業した、当時の田舎では珍しいインテリであったトシは、賢治にとって最大の理解者でもあった。賢治の身近には、文学や芸術について思う存分語り合える相手はトシしかいなかったのだ。また、賢治の法華経信仰にほかの家族が反対であったなか、トシだけはあたたかい理解を寄せていた。

 だが、かけがえない理解者であり最愛の妹であったトシは、「あめゆじゅとてちてけんじゃ」の「永訣の朝」に描かれたとおり、24歳の若さで病死してしまう。
 いっぽう、トシの死後に書かれた『銀河鉄道の夜』で、夢から覚めたジョバンニは、カムパネルラが川で級友を救おうとして溺死したことを知る。ジョバンニが見た銀河鉄道の夢とは、カムパネルラの冥界への旅に同行することでもあった。
 賢治は、トシを喪った深い悲しみと、彼女がいなくても1人で立派に生きてみせるという決意を、『銀河鉄道の夜』という物語に託したのだった。

 そんなことをふまえて観ると、この影絵劇版『銀河鉄道の夜』はいっそう哀切だ。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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