『サマリア』

サマリアサマリア
(2005/09/23)
クァク・チミン; ハン・ヨルム; イ・オル

商品詳細を見る


 『サマリア』をDVDで観た。
 「三大国際映画祭制覇に最も近い男」と呼ばれる韓国のキム・ギドクが、2004年に撮った作品。ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞作。

 日本の援助交際のニュースにインスパイアされた物語だと聞いていたので、もっと下世話な映画だと思っていた。いい意味で予想を裏切られた。

 2人で援交をくり返す女子高生の親友同士とか、娘の援交を知って苦悩する父親とか、基本設定だけ取り出してみると陳腐なのだが、その展開のさせ方がすごい。少しも紋切り型に陥っていない。

 1970年代のATG映画みたいな暗い情念の迸りがあるのだが、それでいてジメジメしていない。全編に硬質な透明感があふれているのだ。
 インセストの匂いも漂う父と娘の関係など、一歩間違えば俗な事件読み物みたいな映画になりかねない題材。にもかかわらず、三面記事的な俗っぽさは皆無。むしろ神話的な深みを感じさせる。
 くり返し登場する水のイメージなど、映像の詩的な美しさはタルコフスキーを彷彿とさせる。

 つまり、「ATG映画meetsタルコフスキー」みたいな作品。キム・ギドクは「映画作家」と呼ぶにふさわしい。

『私のちいさなピアニスト』

私のちいさなピアニスト [DVD]私のちいさなピアニスト [DVD]
(2008/02/22)
オム・ジョンファシン・ウィジェ

商品詳細を見る


 京橋の映画美学校試写室で『私のちいさなピアニスト』の試写を観た。8月下旬公開の韓国映画。

 公式サイト→ http://www.mylittlepianist.com/

 国際的なピアニストになるという夢に挫折したヒロインのジスは、ソウル郊外に小さなピアノ教室を開く。
 教室への引っ越しの日、1人の少年が、彼女の荷物の中からメトロノームを奪い去って逃げる。少年は、7歳のキョンミン。両親はおらず、虐待癖のある祖母と2人で貧しい暮らしをしていた。
 情緒不安定で近所の住民とのトラブルが絶えないキョンミンだったが、ジスは彼が「絶対音感」の持ち主で、ピアニストとしても才能に恵まれていることを見抜く。

 ジスは、キョンミンをピアノ・コンクールに優勝させることで、ピアノ教師としての名声を得ようと考える。そしてその日から、厳しいレッスンが始まるのだった。
 みるみるピアノの腕を上げていくキョンミン。彼はジスに、4歳のころに事故で亡くした母の面影を見ていた。ジスも、打算からレッスンを始めたものの、やがてキョンミンに母性愛を感じ始めるのだった。

 不思議な絆で結ばれた孤独な師弟。その夢への道程を描いて、感動的な作品。コミカルな部分と「泣かせ」の部分の配合が絶妙で、気持ちよく観られる。

『とかげの可愛い嘘』

とかげの可愛い嘘 特別版 [DVD]とかげの可愛い嘘 特別版 [DVD]
(2007/05/04)
チョ・スンウカン・ヘジョン

商品詳細を見る


 東銀座のシネマート試写室で、『とかげの可愛い嘘』の試写を観た。12月16日公開の韓国映画。

 公式サイト→ http://www.cinemart.co.jp/tokage/

 ファンタジー仕立てのラブストーリーである。主人公の前に現れては消える謎のヒロイン、アリ。小学生時代から現在までの20年間に、わずか数日しかともに過ごさなかった2人の愛を、童話のように描き出している。

 アリは、主人公の前に現れるたび荒唐無稽な嘘をつく。そして、3度の別れのあとの4度目の出会いで、その嘘の意味と彼女が姿を消す悲しい理由が明らかになる。

 終盤で明かされる「アリの秘密」がありきたりだし、ファンタジー映画としてはB級という印象。ただし、アリ役のカン・ヘジョンがカワイイので、多少の瑕疵は大目に見たくなる。これは、彼女のためにある映画だ。

 カン・ヘジョンは、傑作『オールド・ボーイ』でヒロインのミドを演じていた女優である。黒目がちのつぶらな瞳が小動物のよう。手の届かない美女というより、「ガール・ネクスト・ドア」「学校でいちばんカワイイ子」タイプ。

『ユア・マイ・サンシャイン』

ユア・マイ・サンシャイン [DVD]ユア・マイ・サンシャイン [DVD]
(2007/04/18)
チョン・ドヨンファン・ジョンミン

商品詳細を見る


 昨日は九段会館で『ユア・マイ・サンシャイン』の試写を観た。11月公開の韓国映画である。

公式サイト→ http://www.sunshine-movie.jp/
 
 一般試写で映画を観るのは久しぶりだ。マスコミ用試写室はスクリーンが小さいので、大ホールの大きなスクリーンが心地よい。
 
 自分がHIVに感染しながらそのことに気づかず、客を取りつづけていた売春婦が逮捕された――2002年の韓国を騒がせたそんなニュースは日本でも報じられたので、覚えている向きも多いだろう。これは、あの事件をベースにしたラブストーリー。監督によれば、ストーリーの半分ほどは事実のままだという。

 暗い過去から逃げ回り、売春をつづける生活の末にHIVに感染した女性と、彼女のすべてを受け入れて妻として迎える農村の素朴な男性のラブストーリー……そんな骨子から、セカチュー系の甘ったるい「純愛もの」を想像していた。

 だが、その想像はよい方向に外れた。「純愛」を描いた映画にはちがいないが、セカチュー的な美化は皆無で、生々しさに満ちた激烈なラブストーリーになっている。主人公2人は運命に翻弄されて無様にのたうち回るのだが、その「無様さかげん」が観る者の胸を打つのである。

 「聖なる娼婦」の物語なら、『罪と罰』のソーニャ以来たくさん生まれすぎて、もうすっかり陳腐化してしまっている。
 だが、この映画は「聖なる娼婦の物語」ではなく、娼婦に恋をする男のほうが「聖」なのだ。風采のあがらない中年男が、あまりに一途なその愛し方ゆえにやがて聖なる存在と化し、傷ついたヒロインを癒していく物語なのである。

 「世界でいちばん不幸な女性が、世界でいちばんの愛を手にする」までを描いた感動作。「韓流ラブストーリーももう飽きたなあ」と感じている人にこそオススメだ。

『グエムル/漢江の怪物』

グエムル-漢江の怪物- スタンダード・エディション [DVD]グエムル-漢江の怪物- スタンダード・エディション [DVD]
(2007/01/26)
ソン・ガンホピョン・ヒョボン

商品詳細を見る


 紀尾井町の角川ヘラルド映画試写室で、『グエムル/漢江(ハンガン)の怪物』の試写を観た。9月公開の韓国映画。

 公式サイト→ http://www.guemuru.com/

 韓国映画には珍しい、大がかりなパニック・エンタテインメント。『殺人の追憶』の俊英ポン・ジュノの新作である。カンヌ映画祭で絶賛を浴びたこともあり、試写会も盛況。開始30分前に行ったのに補助イスでの観賞となった。

 韓国でいちばん大きい河・漢江に、ある日曜の昼下がり、突然正体不明の巨大な怪物「グエムル」が現れる。怪物は、河川敷で休日を楽しんでいた人々を次々と襲い、無造作に飲み込んでいく。
 阿鼻叫喚の地獄と化す河川敷。そこで売店を営むパク一家の孫娘ヒョンソも、グエムルの自在に動く尾に巻き取られてしまう。そして、ヒョンソを抱えたまま、グエムルは漢江の水底に消えるのだった。

 だが、殺されたとばかり思っていたヒョンソが、ケータイで父親(一家の長男)に助けを求めてくる。グエムルの棲む下水溝に身を潜めているというのだ。
 はたして、パク一家はグエムルの手からヒョンソを救出することができるのか…。

 パニック映画というより、「怪獣映画」といってもよい映画である。
 グエムルのキャラクター造形がすこぶる秀逸。こんなに不気味で「コワ面白い」クリーチャーを見たのは、『エイリアン』以来だ。大ナマズと恐竜をミックスし、エイリアンのテイストも加えてみました、という感じのルックスで、しかも動きがものすごい。

 監督のポン・ジュノは、前作『殺人の追憶』のときには「韓国の黒澤明」と評されたものだが、この『グエムル』に与えられた讃辞は「韓国のスピルバーグ」というもの。まだ36歳の若さで黒澤とスピルバーグに比肩されるとは、豪気な話である。

 黒澤・スピルバーグ級であるかはともかく、才気に満ちた監督であることはたしか。私は韓国映画にはあまりくわしくないが、パク・チャヌク(『JSA』『オールド・ボーイ』)とポン・ジュノの2人には、「この監督の映画なら観てみたい」と思わせるだけの独創性・作家性を感じる。

 この『グエムル』も、『ジョーズ』や『エイリアン』などの過去の傑作に目配りしつつ、それらの二番煎じにはけっして終わっていない。

 どこに独創性があるかといえば、一つは濃密な生活感であり、もう一つは全編にちりばめられた「笑い」である。
 『ジョーズ』にしろ『エイリアン』にしろ、そこで展開される物語は、よくも悪くも「遠い世界の出来事」であった。対して、『グエムル』は優れて日常的で、ごく普通の庶民の生活の中に突然怪物が入り込んでくる、というリアリティがある。

 たとえば、ストーリーのポイントとなる小道具がなんの変哲もない缶ビールであったり、カップ麺を食べるなどの生活感に満ちた場面が多く盛り込まれていたりする。

 並の監督なら、パニック映画を作る場合には排除するだろうそうした生活感を、あえて積極的に取り込んでいるところが面白い。

 「笑い」についてもしかり。パニック映画ならではの緊迫感を持続させるためには、こうした笑いは邪魔になるだろう。
 しかし、ポン・ジュノはあえて「笑い」をこの映画の駆動力にした。ギャグが全編にちりばめられている。主要登場人物の1人がグエムルに殺される場面や、クライマックスの対決場面にすらギャグが盛り込まれているのだ。

 ポン・ジュノの第1作『ほえる犬は噛まない』はブラック風味のコメディであったし、『殺人の追憶』も、サイコ・サスペンスでありながら随所に笑いが盛り込まれていた。つねに笑いを重要な武器としてきた監督なのだ。

 この『グエムル』も、パニック映画でありながら風変わりなコメディでもあるという、じつにユニークな作品に仕上がっている。

 笑いの要素を邪魔と感じるか、それとも独創性と感じるかによって、評価が分かれる作品だろう。私は独創性として受け止めた。ポン・ジュノにしか作れない、じつに面白い「怪獣映画」である。

 『ほえる犬は噛まない』のヒロインを演じたペ・ドゥナが、パク一家の長女ナムジュ役(ヒョンソにとっては叔母)で強烈な印象を残す。
 アーチェリー競技の銅メダリストという設定の彼女は、そのアーチェリーを手に「王子様の手を借りず、自力で竜退治に赴く闘うお姫様」となるのだ。


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

里親募集中

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
41位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
26位
アクセスランキングを見る>>