『バハールの涙』



 『バハールの涙』をDVDで観た。



 イスラム原理主義過激派組織「IS(イスラム国)」によってイラクのクルド人自治区が襲撃され、男たちは殺され、女たちは性奴隷として売られ、子どもたちはISの戦闘員として育てるために連れ去られた……現実に起きたそのような悲劇をベースにした映画である。

 ヒロインのバハールはフランス留学の経験もある弁護士で、家族とともに幸せに暮らしていた。彼女の村をISが襲撃し、夫は殺され、まだ幼い息子は連れ去られる。バハールは性奴隷として4度に渡って売られるが、命がけで脱出する。

 そして、「被害者でいるよりは戦いたい」という仲間の言葉に突き動かされ、元性奴隷の女性たちを集めた小さな部隊を結成し、息子を取り戻すためにISと戦う道を選ぶのだった。その部隊の名が「太陽の女たち」で、この映画の原題(Les Filles du Soleil)でもある。

 バハールは架空の人物だが、女性たちで構成された対IS抵抗部隊があったのは事実である(→「ISと戦う女性兵たちの正義と美と自由」)。バハールの人物像も、ISに拉致され脱出した女性たちの証言をベースに創られている。

 もう一人のヒロインになるのが、戦場ジャーナリストのマチルド。「太陽の女たち」部隊に密着して命がけの取材を行う彼女と、隊長バハールの間に生まれる友情が、ストーリーの横糸になる。

 マチルドも架空の女性だが、「アイパッチをした戦場ジャーナリスト」として知られたメリー・コルヴィン(シリア取材中に砲弾を受けて亡くなった)がモデルになっている。コルヴィン自身の生涯も、『A PRIVATE WAR』(2018年、アメリカ)という映画になった。



 IS戦闘員の間では(てゆーか、イスラム原理主義者の間では)、「女に殺されると天国に行けない」と信じられており、それゆえに女性たちの部隊はとりわけ恐れられたという。すごい話だ。

 レイプの直接的描写は注意深く避けられているが、ISによる女性たちの扱いはひどく、正視に耐えないようなシーンもある。

 それでも、バハールが兵士となってからは、心に残るシーンやセリフが多い。「奴ら(IS)が殺したのは私たちの恐怖心だ!」と隊員たちを鼓舞し、命がけの戦闘に打って出るバハールは、凛々しくも美しい。

 なお、本作のソフトが「戦争アクション大作」と銘打たれて売られていることに、私は強い違和感を覚えた。たしかに戦闘シーンは多いが、娯楽的な「戦争アクション」ではけっしてないからである。
 あえてカテゴライズするなら「女性映画」だろう。それも、とびきり力強い女性映画だ。

 あと、「自爆兵士」を意味する言葉として「カミカゼ」という日本語が使われていたので、ちょっとビックリ。神風特攻隊の名は世界に知られているのだね。

『A.K.  ドキュメント黒澤明』


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(2003/05/21)
黒澤明

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 震災報道ばかり見ていると気が滅入るので、気分転換に映画でも観ようと思い、ケーブルテレビで録画しておいた『A.K.  ドキュメント黒澤明』と『野獣死すべし』(須川栄三/仲代達矢の1959年版)を観た。

 『A.K.  ドキュメント黒澤明』は、フランスのクリス・マルケルが映画『乱』の撮影に密着して作ったドキュメンタリー。単独ではDVD化されていないようだが、『黒澤明 創造の軌跡』という3枚組セットの中に収録されている。

 「演出中の黒澤」が動画で見られる貴重な作品である。
 やはり、怒るときはすごい迫力。怒鳴るという感じではないが、声に有無を言わさぬ力がある。
 過剰なまでに文学的・詩的なナレーションは、好みが分かれるところだろうが、私は好きだ。

 「蒔絵のような効果」を狙ってススキに金色の塗料を塗る、という場面が面白かった。午前中から夜までかかって、スタッフ総出で黙々とススキにスプレーでペイントしていく。だが、この場面は編集段階でカットされたという。こうした贅沢さというか蕩尽ぶりこそが、黒澤映画の迫力を裏付けているのだろう。

 途中、よりによって関東大震災のすさまじい記録映像が挿入されていて、気分転換どころかいっそう気が滅入ってしまった。黒澤が9歳のときに目の当たりにした関東大震災の惨状が、『乱』や『影武者』などの凄惨な戦場シーン(一面に横たわる遺体や馬)の基となっている、という意味合いでの挿入である。
 
 『野獣死すべし』の感想は、改めて別エントリで。

『WATARIDORI』


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(2005/12/16)
ドキュメンタリー映画

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 ケーブルテレビで録画しておいた『WATARIDORI』 を観た。

 撮影期間3年、制作費20億円を費やし、世界20ヶ国以上を訪れ、100種類もの渡り鳥の旅物語を映画化したドキュメンタリー(2001年フランス/監督:ジャック・ペラン)。
 
 これはすごい! 観ながら、自分が一羽の渡り鳥になったかのような気分になる。まさに「バーズ・アイ・ビュー」。「いったいどうやって撮ったんだろう?」と不思議になる驚異的な映像の連打である。映画館で観ておけばよかった。


 

 世界トップクラスのスタッフが、命懸けで渡り鳥たちと共に地球全土を旅した。CGはいっさい使用せず、多くの危険と戦いながら人類が今だかつて目にしたことのない鳥たちの視点から、空、海洋、そして地球の姿を捉えている驚異と感動の映像。



 「いったいどうやって撮ったんだろう?」という疑問の答えは、この映画のプレス用資料(→こちらにそのまま転載されている)を読むとわかる。ううむ、そこまでやるかという感じ。

 一幅の名画のように美しい場面が目白押し。この映画はもはや「映像の世界遺産」である。

『中国の植物学者の娘たち』

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(2008/04/25)
リー・シャオラングエン・ニュー・クイン

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 ケーブルテレビで録画しておいた『中国の植物学者の娘たち』を観た。『小さな中国のお針子』などの作品で知られる中国人映画監督ダイ・シージエ(フランス在住)が、フランス・カナダ合作の形で作った映画。

 ■公式サイト→ http://www.astaire.co.jp/shokubutsu/

 中国南部の架空の町。湖に浮かぶ孤島の植物園を舞台に、2人の女性の同性愛を描いた耽美的なラブストーリー。

 厳格すぎる植物学者・チェン教授の娘・アンと、植物園に実習生として送り込まれた孤児院育ちのミン。ともに孤独な環境で育った2人は、互いの孤独が共鳴するように惹かれ合う。
 だが、軍隊から里帰りしてきたアンの兄がミンに一目惚れ。チェン教授も2人を結婚させようとする。知られてはならぬ愛を育んでしまったアンとミンが、その愛をまっとうするために選んだ道とは――。

 ……と、そんなふうな映画。ストレートな性描写はほとんどなく、エロティックではあるがポルノではない。それでも題材ゆえに中国では撮影が許されず(配給も禁止)、ヴェトナムで撮影されたという。

 ストーリーはかなり強引で無理がある。とくに、アンとミンが「すべてを捨てても愛をつらぬきたい」と決意するまでのプロセスがあまりに性急で、まったく説得力がない。「出会ってまだ日も浅いのに、いつの間にそんなに深く愛し合ったのか?」と問いつめたくなる。

 しかし、アンとミンを演ずる2人の女優(リー・シャオランとミレーヌ・ジャンパノワ)がたいへん美しく、彼女たちを見るだけで眼福なので、多少の瑕疵には目をつぶりたい。
 また、ストレートな性描写がないからこそ、婉曲な表現が目覚ましい効果を上げている。2人のヒロインの二の腕やうなじ、脚などをカメラが舐めるように映し出すだけで、品のよいエロスが薫り立つのである。映像も美しい。



 ラストの展開には目がテン。つい四半世紀ほど前(ミンは1976年の大地震で両親を喪ったという設定なので、1980年代が舞台と思われる)の中国で、同性愛が犯罪だったということに驚かされる。てゆーか、いまでもそうなのかな?

 

『パリ、ジュテーム』

パリ、ジュテーム プレミアム・エディションパリ、ジュテーム プレミアム・エディション
(2007/10/24)
ナタリー・ポートマン;イライジャ・ウッド;ジュリエット・ビノシュ;スティーヴ・ブシェミ;ウィレム・デフォ

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 ケーブルテレビで録画しておいた『パリ、ジュテーム』を観た。

 2006年のフランス映画。各国の一流監督(コーエン兄弟、ウォルター・サレス、ガス・ヴァン・サントなど)とスター俳優たちがパリに集い、パリ20区のうち18の区をそれぞれ舞台にした約5分のショート・ムーヴィーを撮る、という趣向のオムニバスだ。

 タイトルが示すとおり、作品の共通テーマは「愛」。パリの街角でくり広げられる、18の出会いと別れの物語だ。
 中には「ボーイ・ミーツ・ボーイ」の話もあったり、異文化交流の形を取った出会いもあったりする。ホラー仕立てのものもあればファンタジー仕立てもあり、5分間長廻しで撮ったものもある。短い枠の中で、それぞれの監督が個性を競い合っている。

 玉石混淆ではあるけれど、総じてよくできた、オシャレで気の利いたオムニバス。さすがにどの監督も、これ見よがしに名所を映すような「観光映画」にはしておらず、作家性の高いショート・ムーヴィー集として愉しめる。

 コーエン兄弟のものは、スティーヴ・ブシェミを主演に据え、むしろ「愛の街、パリ」を痛烈におちょくる内容。さすがの毒気とブラック・ユーモアだ。
 ほかの作品では、シルヴァン・ショメ(アニメの監督として有名で、これは初の実写作品)が撮ったパントマイム・ネタのものと、トム・ティクヴァ監督(『パフューム ある人殺しの物語』の人)のものがよかった。
 あと、『ベッカムに恋して』のグリンダー・チャダが撮った一編では、ヘジャブをかぶって登場するムスリムのヒロインがすこぶるチャーミング。

↓公開時の予告編



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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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