ボブ・ウェルチ『スリー・ハーツ』



 ボブ・ウェルチが1979年に発表した2枚目のソロアルバム『スリー・ハーツ』を再聴。
 ソロ1枚目の『フレンチ・キッス』が生涯最高の大ヒットとなり、一躍脚光を浴びるなかで作られたものである。本作も無事に「二匹目のドジョウ」となり、『フレンチ・キッス』には及ばなかったもののヒットし、ゴールド・アルバムになった。

 そんな経緯から、どうしても〝『フレンチ・キッス』の二番煎じ〟と見られがちなアルバムであり、私自身もあまり印象に残っていなかった。が、いまになって聴き返してみたら、なかなかよいのである。

 ボブ・ウェルチはソロ以前に、「パリス」というハードロック・バンドをやっていた。商業的成功はしなかったものの、ツェッペリンをもっとスタイリッシュにしたような都会的ハードロックで、隠れた名バンドであった。

 『フレンチ・キッス』も、元々は『パリス3』――すなわちパリスのサード・アルバムにする予定で作り始めたものだったという。
 そのわりには、『フレンチ・キッス』にはハードロック的要素はほとんどない。わずかに、シングルヒットした「エボニー・アイズ」のギター・リフがハードロック的である程度。

 むしろこの『スリー・ハーツ』のほうが、「『パリス3』になる予定だった」と言われても信じられる。ポップでキャッチーな曲が並ぶアルバムではあるが、ボブ・ウェルチのギターは曲によってはかなりハードに弾きまくっているからだ。

 「チャイナ」のギターなんかもろハードロックだし、ビートルズの「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」のカバーも、ハードかつファンキーなギターが渋い。



 ゆえに、パリスからボブ・ウェルチのファンになった人なら、甘々の『フレンチ・キッス』より、この『スリー・ハーツ』のほうが気に入るはずだ。「どうせ『フレンチ・キッス』の二番煎じだろ」と先入観で判断したり、悪趣味の極みのようなヒドいジャケットで食わず嫌いせず、一聴してほしい。

 ボブ・ウェルチのソロでよいのは、これにつづくサード・アルバム『ジ・アザー・ワン』まで。それ以降のアルバムは、無残なまでにクオリティが下がる。

 ボブ・ウェルチは2012年に拳銃自殺で生涯を終えたが、それは才能の枯渇でアーティストとして行き詰まったためではないかと、私は推察している。

ボニー・レイット『ギヴ・イット・アップ』



 ボニー・レイットの1972年のセカンド・アルバム『ギヴ・イット・アップ』を、中古で購入してヘビロ中。

 少し前に『コレクション』という彼女のベスト盤を買ってこれも愛聴していたのだが、そうするうちにオリジナル・アルバムを買い揃えたくなってきた。
 で、とりあえず、ボニーの最高傑作との呼び声も高いこのアルバムを買ってみたしだい。

 いやー、これはたしかに名盤だ。捨て曲なし。約37分のトータルプレイングタイムはいまの感覚では短いが、中身が濃いから短く感じない。
 極上のヴォーカル・アルバムにして、グレイトなギター・アルバム。ブルース、ジャズ、ゴスペル、カントリーなど、アメリカン・ルーツ・ミュージックの諸要素を絶妙にブレンドし、渋いアメリカン・ロックにまとめ上げている。

 当時まだ22歳だったボニー・レイットが、ヴォーカリストとしてもギタリストとしても円熟の境地を見せているのがすごい。すでにして風格すら漂っている。

 オープニングの「ギヴ・イット・アップ・オア・レット・ミー・ゴー」などで聴かせるスライド・ギターも絶品だが、私がいちばん気に入ったのはもろブルースの「ラヴ・ミー・ライク・ア・マン」。この曲の生ギターの音色の、なんと心地よいこと。





コック・ロビン『BEST OF COCK ROBIN』



 1980年代に好きだったコック・ロビンの曲がむしょうに聴きたくなって、『BEST OF COCK ROBIN』を輸入盤で購入。ヘビロ中。

 コック・ロビンは、男女2人からなるアメリカのポップ・ロック・デュオ。本国アメリカではまったく人気が出ず、対照的にフランス、ドイツ、イタリアなどヨーロッパ各国で人気を得た。

 その理由は、彼らの曲を聴けばわかる。陰影に富む繊細な曲作りが、とてもヨーロッパ的なのだ。
 私も、ずっとイギリスのバンドだとばかり思っていた。なにしろ、英カンタベリー・ロックの大物スティーヴ・ヒレッジが、彼らのファースト・アルバムをプロデュースしていたし。
 それに、コック・ロビン(=クック・ロビン/駒鳥)といえば「マザー・グース」の「誰がこまどり殺したの?/Who killed Cock Robin?」がまず思い浮かび、バンド名からして英国的だし。

 私は、87年のセカンド『ロビンの絆(After Here Through Midland)』を、とくに(アナログ盤で)愛聴していた。



 同作所収のヒット曲「エル・ノーテ」と「ジャスト・アラウンド・ザ・コーナー」は、いま聴いても非の打ち所がない絶品だと思う。
 美しいメロディーに、凝ったアレンジ。聴いていると心の中に見知らぬ風景が広がっていくような、映像喚起力に富む曲だ。





 男女2人が曲によってそれぞれリード・ヴォーカルをとるのだが、どちらもエモーショナルに歌い上げるタイプで、2人の相性が抜群。

 私はとくに女性のアンナ・ラカジオ(Anna LaCazio)の歌声が好きだったのだが、2012年の再々結成後は、彼女は加わっていないという。ニューアルバムも予定されているそうだが、アンナがいないコック・ロビンなんて……。

 アンナ・ラカジオは、イタリア系の父と中国系の母を持つダブルである。そういえば、ちょっと東洋的な顔立ちでもある。

 彼らのベスト・アルバムは何種類か出ているが、曲目を見比べて、この『BEST OF COCK ROBIN』がいちばんよいと思った。



 ほかにも、上に貼った「The Promise You Made」など、いい曲が目白押し。埋もれさせてしまうには惜しい名デュオだ。

ヴァレリー・カーター『The Way It Is/Find A River』



 ヴァレリー・カーターの『The Way It Is/Find A River』をヘビロ中。

 ヴァレリーは、「ウー・チャイルド」などの曲で知られるアメリカのシンガー・ソングライター。



 ソロ・アーティストとしては大ヒットに恵まれなかったが、バッキング・ヴォーカルの世界で幅広く活躍し、ウェストコースト・ロックの名盤に数多く参加している。
 透明感にあふれ、しかもよく通るハイトーンの美声が魅力的だ。まさに「鈴を鳴らすような声」。

 このアルバムは、96年に発表された『The Way It Is』に、98年のミニアルバム『Find A River』の収録曲5曲を追加したもの。2枚とも長らく入手困難で、中古市場でも高値を呼んでいたアルバムなので、ファン待望のリイシューといえる。
 ヴァレリーが今年3月に心筋梗塞で亡くなったがゆえのリイシューでもあるので、少々複雑な気分にもなるが……。

 彼女は80年代にドラッグに蝕まれ、一時期音楽シーンから姿を消した。
 『The Way It Is』『Find A River』は、ヴァレリーがようやくドラッグ禍を乗り越え、復活を果たした時期の作品。それでも、ヴォーカルにはまったく衰えが見られない。昔のままの伸びやかな美声だ。

 音楽的には、ウェストコーストの香りを濃密に漂わせるAOR。初期のアルバムはフォーキー・ソウルという趣だったが、本作はぐっとソウル寄りで、曲によってはかなりファンキー。

 AORといっても甘ったるさはなく、ちょっぴりアーシーで渋いセピアカラーの音作り。最初聴いたときには地味に感じるが、聴き込むほどに味わいが増してくるスルメ・アルバムだ。

 アース・ウインド&ファイアーの「That's the Way of the World」のカヴァーなど、ヴォーカルもアレンジも最高の仕上がりである。



サンダーキャット『ドランク』



 サンダーキャットの『ドランク』(BEAT RECORDS / BRAINFEEDER)をヘビロ中。

 世にも暑苦しいジャケットの中に収められた、世にも涼しげなブラック・ミュージック。こういう暑い日に流すと、部屋の温度が2、3度下がるような気がする。

 

 縦横無人(※)のベースプレイにスウィートな歌声が溶け込む酔いどれコズミックソウル

     ※原文ママ。「縦横無尽」の間違いだと思う。

 ――という、日本盤の帯の惹句そのままの音。全24曲が万華鏡のように変化していくのだが、アルバム全体に見事な統一感があり、一つの流れがある。

 ジャンルは違えど、どこか、ビーチ・ボーイズの『スマイル』や『ペット・サウンズ』を彷彿とさせる。たとえば、甘やかなメロディとハーモニーの底に流れる切ない寂寥感・喪失感とか。

■関連エントリ→ ビーチ・ボーイズ『スマイル』 
 


 マイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスが参加した怒涛のポップチューン「Show You The Way」(↑)が象徴するように、サンダーキャットのアルバムの中でも際立ってポップで聴きやすい。

 久々に、「聴いていて時が止まるアルバム」に出合った。心地よさに時間を忘れて聴き入ってしまうのだ。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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