サンダーキャット『ドランク』



 サンダーキャットの『ドランク』(BEAT RECORDS / BRAINFEEDER)をヘビロ中。

 世にも暑苦しいジャケットの中に収められた、世にも涼しげなブラック・ミュージック。こういう暑い日に流すと、部屋の温度が2、3度下がるような気がする。

 

 縦横無人(※)のベースプレイにスウィートな歌声が溶け込む酔いどれコズミックソウル

     ※原文ママ。「縦横無尽」の間違いだと思う。

 ――という、日本盤の帯の惹句そのままの音。全24曲が万華鏡のように変化していくのだが、アルバム全体に見事な統一感があり、一つの流れがある。

 ジャンルは違えど、どこか、ビーチ・ボーイズの『スマイル』や『ペット・サウンズ』を彷彿とさせる。たとえば、甘やかなメロディとハーモニーの底に流れる切ない寂寥感・喪失感とか。

■関連エントリ→ ビーチ・ボーイズ『スマイル』 
 


 マイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスが参加した怒涛のポップチューン「Show You The Way」(↑)が象徴するように、サンダーキャットのアルバムの中でも際立ってポップで聴きやすい。

 久々に、「聴いていて時が止まるアルバム」に出合った。心地よさに時間を忘れて聴き入ってしまうのだ。

ジョー・ママ『ジョー・ママ』『ジャンプ』



 最近はもっぱら、60~70年代あたりの古いアルバムをディグっては聴いている私。 
 今日は、ジョー・ママの『ジョー・ママ』(1970年)、『ジャンプ』(1971年)を聴いた。

 ジョー・ママは、ダニー・コーチマーを中心に結成されたアメリカのロック・グループ。この2枚のアルバムを発表したのみで、あっさり解散してしまった。

 ダニー・コーチマーはジョー・ママ以前に、キャロル・キング、チャールズ・ラーキーと3人で「シティ」というトリオを組んでいたが、この「シティ」も68年にアルバム『夢語り(Now That Everything's Been Said)』を出したのみで解散している。
 コーチマーとラーキーが参加し、キャロル・キングの代わりにアビゲイル・ヘイネスという女性シンガーを加えたジョー・ママは、いわばシティの発展形であった(ただし、ジョー・ママは5人組)。

 私は恥ずかしながらこのバンドを知らなかった。この前聴いたザ・セクションのアルバムがよかったので、「ダニー・コーチマーのほかの作品も聴きたい」と思って、何の気なしに手を伸ばしてみたのだ。

 が、これが大当たり! 2枚ともすごくいいアルバムだった。

 ソウルフルでファンキーでブルージー。ほんのりジャジー、ちょっぴりフォーキー。
 アメリカン・ロックの源流的要素をごった煮したような、どこか懐かしい多彩なサウンド。それでいてジジむささは皆無で、都会的で知的で洗練されている。

 とくに、ファーストの『ジョー・ママ』は非の打ち所のない名盤だ。
 アルバム中いちばんキャッチーで、普通ならオープニングに持ってきそうな曲「Love'll Get You High」を、あえてラストに入れるあたりのヒネリも心憎い。



 セカンドの『ジャンプ』(原題は“J Is For Jump”=「JはジャンプのJ」)は、ファーストよりも渋さと黒っぽさが大幅に増した内容。予備知識なしに聴いたら、白人ばかりのバンドだとはとても思えないだろう。



 ゆえに、キャッチーな内容のファーストよりもとっつきにくい。が、くり返し聴くほどに味わいが増していく深みはなかなかのもので、ファーストとセカンドは甲乙つけがたい。


↑セカンドのオープニング曲「Keep on Truckin'」。


↑ジャズ・ロック的な長いオープニングが後のザ・セクションを思わせる「3 A.M. In L.A.」。ヴォーカルが始まるとブルージーでジャジー。

 

マシュー・スウィート&スザンナ・ホフス『Completely Under the Covers』



 プリンスの訃報には驚いた。デヴィッド・ボウイの訃報に始まった2016年は、モーリス・ホワイトが逝き、キース・エマーソンが逝き……と、まったくなんという年なのであろうか。
 私もプリンスは人並みに好きだったが、下記のような熱烈な追悼文を読んでしまうと、付け加える言葉とてなく、こと改めて追悼エントリを書く気がしない。
 
プリンスがすべてだった 宇野維正による追悼文|Real Sound

プリンスのこと。|「怒るくらいなら泣いてやる」

 遺された大量の未発表曲を小出しにすれば、あと10年くらいは優に「ニュー・アルバム」を出しつづけることができるのだろう(権利関係の処理が大変だろうが)。
 「真の天才は大量生産する」という桑原武夫の言葉のとおり、まさにプリンスこそ天才であった。


 プリンスとも縁深いスザンナ・ホフス(バングルスの「マニック・マンデー」は、プリンスが彼女に惚れ込んで贈った曲)がマシュー・スウィートと作った『Under the Covers』3作のボックスセット『Completely Under the Covers』が、Amazonのプライムミュージックにアップされていた。
 買おうかどうしようか迷って「ほしい物リスト」に入れておいたものなので、さっそく聴き倒す。

 1960年代から80年代までの英米の大ヒット曲・名曲のカバー集である。→曲目などはこちらを参照

 総じて原曲に忠実なアレンジだし、とくに独創性があるわけでもない、ごく趣味的なシリーズだ。が、スザンナ・ホフスのヴォーカルが魅力的なので、すこぶる耳に心地よい。ロック界最高の美熟女スザンナは、50代のいまなお容姿も声もキュート。

 マシュー・スウィートは、私にとってはわりとどうでもいい。まあ、優秀なポップ職人ではあるのだろうし、昔の『ガールフレンド』とかはよく聴いていたけれど。
 なので、マシューがメイン・ヴォーカルになっている曲は聴き飛ばし、スザンナがメイン・ヴォーカルの曲ばかり聴いている。

 とくによいのが、原曲が男性ヴォーカルの曲をスザンナが歌ったカバー。ロッド・スチュワートの「マギー・メイ」とか、ニール・ヤングの「シナモン・ガール」とか、デレク・アンド・ドミノスの「ベルボトム・ブルース」とか。



 イエスの「I've Seen All Good People」のカバーなんて、もう最高である。



リズ・ライト『フリーダム&サレンダー』



 リズ・ライトが昨年9月に出したアルバム『フリーダム&サレンダー』の評判がやたらとよいので(昨年のベストアルバムに選ぶ人が多かった)、遅ればせながら聴いてみた。

 リズ・ライトは、ファースト・アルバム『ソルト』(2003)が素晴らしかった。以来注目していたのだが、セカンド、サードとつづくにつれ、どんどん内容が地味になり、ルーツであるゴスペル色が強くなっていったので、「うーん、これならもう聴かなくてもいいかな」と心が離れてしまった。なので、前作にあたる『フェローシップ』(2010)は現時点では未聴である。

 が、久々に聴いたこのアルバム(通算5作目)はじつによい!
 ゴスペルが土台になっているのは従前通りだが、全体にロック色がやや濃くなって、メリハリのある聴きやすいサウンドに仕上がっている。
 
 今作で最もロック色が強い「ザ・ニュー・ゲーム」や、ファンキーなオープニング曲「フリーダム」などは、問答無用のカッコよさ。じつに「男前」なヴォーカルを聴かせてくれる。



 かと思えば、グレゴリー・ポーターとのデュエット曲「ライト・ホエア・ユー・アー」はホーリーな雰囲気に満ちたバラードで、すでにしてスタンダードのような風格を漂わせている。

 後半にはゴスペル的な宗教性を感じさせる曲も多いが、それがたんに「地味な曲」になっておらず、素晴らしい深みを湛えている。「リヴァー・マン」におけるフリューゲルホーン(ティル・ブレナー)の絶妙な使い方など、名匠ラリー・クラインのプロデュース手腕の冴えも随所に感じられる。



 ラリー・クラインは、ジョニ・ミッチェルの公私にわたるパートナーだったことで知られる人気プロデューサー。ことに、女性アーティストの魅力を引き出す名伯楽として名を馳せている。
 今作においても、若くして世に出ながら伸び悩んでいたリズ・ライトの底力を、見事に引き出してみせた。

■関連エントリ→ リズ・ライト『オーチャード~禁断の果実』

キャプテン&テニール『デジタル・リマスター・ベスト』



 むしょうにキャプテン&テニールの曲が聴きたくなって、『デジタル・リマスター・ベスト』なるベスト盤を入手。

 女性がヴォーカル、男性がキーボードの二人組という点が同じであるため、何かとカーペンターズと比較された、70年代アメリカン・ポップスの人気デュオ(カーペンターズは兄妹だが、こちらは夫婦)。
 だが、いまになって聴き直してみると、カーペンターズよりもずっと黒人音楽、とくにR&Bやゴスペルの影響が顕著であり、全然違う。



 たとえば、上に貼った「ショップ・アラウンド」(ミラクルズのカヴァー)など、ソウルフルな歌いっぷりといい、モータウンぽいコーラスといい、思いっきり黒い。まったく予備知識なしにこの曲を聴いたら、白人デュオの曲だとは思わないだろう。
 アメリカン・ポップスの上澄みをすくったように「真っ白」なカーペンターズ(もちろん、それはそれで素晴らしい)とは、方向性が真逆なのである。

 どちらが上という話ではなく、好みでしかないが、いまの私ならキャプテン&テニールのほうが好きだなァ。

 このベスト盤も、名曲がいっぱい。
 全米№1ヒットの代表曲「愛ある限り(love will keep us together)」は、ニール・セダカの曲を凝ったアレンジでパワーアップした超名曲だし、「雨に想いを(Come In From the Rain)」(メリサ・マンチェスターとキャロル・ベイヤー・セイガーの共作曲)はドラマティックなバラードのお手本のようだ。





 1970年代ポップスの、一つの模範型のようなデュオだったと思う(近年のトニ・テニールは、ジャズ・ヴォーカリストとして活躍しているらしい)。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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