加納秀人『Thank You』



 加納秀人の新作『Thank You ~Hideto Kanoh 50th Anniversary~』(テイチクエンタテインメント/3000円)を聴いた。

 1970年代J-ロックのレジェンドにして、いまなお現役バンドである「外道」の加納秀人が、キャリア50周年の佳節を記念して出したソロアルバム。

 ジャケットのシルエットの用い方が、ジャニーズのタレントを起用した雑誌の表紙(=ウェブ上で写真が使えないので、そこだけシルエットになる)みたいで、なんかヘン。

 内容は、最初から最後までギター弾きまくり。加納秀人のぶっとくうねるダイナミックなギターを堪能できる。

 ギターワークは素晴らしいのだが、ヴォーカル曲がどうも古臭い。グループサウンズ的というか演歌的というか、いかにも日本人な湿っぽい「泣きのフレーズ」に満ちていて、ちょっといただけない。

 70年代の「外道」のサウンド――「香り」とか「ビュンビュン」とか――は、もっとカラカラに乾いていて、そこが痛快だったのだが、なぜいまになって先祖返り的にGSっぽくなってしまうのか、不思議。


↑外道の代表曲「香り」。問答無用のキラーチューンである。

 本作における加納秀人のヴォーカルが、甲斐よしひろを少しヘタウマにしたような感じで、演歌的なエモーションを感じさせるため、なおさらそう思う。

 ……なので、アルバム中に3曲あるインスト曲のほうが、私は気に入った。3曲とも、ビリビリした緊張感に満ちていて最高である。
 ただし、ヴォーカル曲も、加納秀人のギター自体は最初から最後まで素晴らしい。

日食なつこ『鸚鵡(オウム)』



 日食なつこが9月に出した新作ミニアルバム『鸚鵡』(Living,Dining&kitchen Records/2160円)を、ようやくゲットしてヘビロ中。

 彼女は年頭にもミニアルバム『逆鱗マニア』を発表したから、2枚合わせてフルアルバム1枚分を今年出したことになる。

 『逆鱗マニア』もよかったが、この『鸚鵡』も素晴らしい。

 2015年末に発表された初のフルアルバム『逆光で見えない』が高く評価された彼女は、26歳にしてすでに鉄壁の個性を確立している。

■関連エントリ→ 日食なつこ『逆光で見えない』 

 椎名林檎と比較する向きもあるが、全然違うと思う(まあ、『逆鱗マニア』なんてタイトルはやや林檎風だが)。

 彼女の音楽は、生ピアノ弾き語りというスタイルながら、フォークでもポップスでもなく、ロック/ファンク/ソウル/ジャズのミクスチャーともいうべき硬派なもの。
 強い意志を感じさせる眼差しと凛としたヴォーカルは、一度その歌いぶりに触れたら心から離れない。

 何より素晴らしいのは、研ぎ澄まされた感性が光る独創的な歌詞だ。
 生きづらさを抱えた若者たちに寄り添い、彼らの背中を力強く押す歌詞。あるいは、日常性の中にも宇宙的スケールを感じさせる歌詞……言葉のセンスが、若手アーティストの中で突出している。

 この『鸚鵡』も、随所に胸に突き刺さるフレーズが登場する。

 日食なつこの曲のメインテーマとも言うべきもの――それは「生き急げ!」という呼びかけだ。
 もちろんテーマは一つではなく、いろんな曲があるのだが、聴く者に「生き急げ!」と呼びかけるような一連の曲が、抜きん出て素晴らしい。
 本作のリード曲になっている「レーテンシー」などは、まさにその典型。




 そりゃ待ってりゃいつかは来るさ痺れを切らした未来の方から
 待ってるだけしか能のない奴の面を拝みにさ



 ……なんてフレーズは、歌詞というよりも質の高い現代詩のようだ。
 傑作「黒い天球儀」の名フレーズ「いつか吐き出す最後の一呼吸が ためいきで終わってしまわないように」に匹敵する。

 日食なつこのツイッターで下のツイートを見たとき、アーティストとしての「核」の部分に触れた思いがした。



 「ああ、なるほど。こういう考え方で生きているからこそ、彼女の『生き急げ!』という呼びかけは深く心に響くのだな」と思った。

 チェ・ゲバラの名言――「明日死ぬとしたら、生き方が変わるのか? あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なのか」を思い出す。

ポルカドットスティングレイ『全知全能』



 近所のほぼ新築の家が、重機で解体され、更地になっていた。
 「新しい立派な家だったのに、なんで取り壊したんだろう? もったいないねー」と、界隈のウワサになっている。

 “ご近所事情通”に聞いたところ、住人家族は少し前に引っ越し屋を頼んで転居していったという。
 つまり、「夜逃げ」というわけではない。そもそも、夜逃げなら高い解体費用を払ってまで家を壊すまい。

 「住宅ローンの支払いが滞って家をカタに取られ、競売にかけられる」という話も、最近よくある。しかしその場合も、ほぼ新築の家を壊さないだろう。

 私の貧弱な想像力で出した答え(仮説)は……。

1.住宅に重大な欠陥が見つかり、住宅メーカーの負担ですべて建て直すことになった

2.持ち主がメッチャ金持ちで、新築の家が「やっぱ気に入らない」と建て直すことにした

3.ヤバイ幽霊が出て、とても住める状態ではないので、転居して取り壊した

 うーん、どれもいまいちピンとこない。謎は深まるばかりである。


 ポルカドットスティングレイのメジャーデビュー・アルバム『全知全能』(ユニバーサル)をヘビロ中。
 
 インディーズ時代から気に入っていたバンドだが、このアルバムは期待以上の出来だった。

 デビュー当時には「雫(しずく)」のヴォーカルがもろ椎名林檎フォロワーという感じだったが、彼女もいつの間にか立派な個性を身につけていた。

 「さわやかでちょっと甘酸っぱいギターロック・バンド」という趣であった彼らだが、本作にはギターロックの枠に収まりきらない多彩な楽曲が並んでいる。

 傑作「テレキャスター・ストライプ」など、インディーズ時代の人気曲数曲を微妙に作り直して再録しているが、いずれもインディーズ版よりよい。



 ほかにも、「BLUE」「レム」「サレンダー」など、いい曲がいっぱい。





 何より、雫の魅力が圧倒的だ。
 美人かといえばビミョーだし、スタイルもよいわけではないが(失礼!)、不思議な色気を全身から発散している。
 いちばん男にモテるのは、そして「サークルクラッシャー」とかになるのは、絶世の美女よりもむしろこういうコケティッシュなタイプだという気がする。

ハルカトミユキ『溜息の断面図』



 ハルカトミユキの『溜息の断面図』(ソニー・ミュージックレーベルズ)をヘビロ中。

 傑作だった前作『LOVELESS/ARTLESS』からわずか10ヶ月のインターバルでリリースされた、サード・フルアルバムである。

■関連エントリ→ ハルカトミユキ『LOVELESS/ARTLESS』

 短期間で作られたにもかかわらず、全12曲捨て曲なしの充実作に仕上がっている。

 インディーズ・デビュー当時の、「メンヘラっぽい、線の細いフォークロック・デュオ」という印象で、ハルカトミユキのことを食わず嫌いしているロック・ファンも多いだろう。
 が、いまのハルカトミユキは日本でも第一級の本格ロック・ユニットであって、耳の肥えたロック・ファンにこそオススメしたい。

 前作も本作も、初期のヒリヒリした感覚はそのまま残しつつ、力強さと自信に満ちたロック・サウンドを展開している。
 とくに、本作のオープニングから5曲目までの疾走感は圧倒的で、聴く者の耳を釘付けにする。

 すごく多彩なアルバムでもある。
 ニルヴァーナばりの重く性急なオルタナ・ロック・チューンがあるかと思えば、1970年代のディスコ・ヒットを思わせるキャッチーなダンス・チューンがあったり、静謐で美しいバラードに心洗われたり……。







 しかし、バラエティ豊かな曲のすべてがハルカトミユキの個性で染め上げられていて、全体には確かな統一感がある。

 全編を聴き終えて思い出したのは、Coccoの傑作デビュー・アルバム『ブーゲンビリア』(1997年)だ。
 Coccoはデビュー・アルバムでいきなり頂点を極めてしまった人だと私は思うのだが、ハルカトミユキも本作で一つの頂点を極めたといえるのではないか。

PANTA & HALのアルバムがPrime Musicに!



 Amazonのプライム会員なら無料で利用できるPrime Musicに、PANTA の主要作品がほぼすべてアップされた。頭脳警察時代からソロ作品、PANTA & HAL名義の作品まで。

 私は、77年から81年までの短期間活動したPANTA & HALこそ、当時の日本で最高のロックバンドだったと思う(いや、いまの時点で考えても、彼らを超えるバンドはいないのでは?)。
 PANTA & HALが残した3作のアルバム(『マラッカ』『1980X』と、ライヴ盤『TKO NIGHT LIGHT』)は、いずれも日本ロック史上に残る傑作だ。

 全編に「溢れるラディカリズムとロマンティシズム」(これはPANTAの詩集『ナイフ』の帯の惹句)――。
 楽曲の素晴らしさ、「HAL」の演奏の質の高さ(ギターの1人は若き日の今剛だったりする)、PANTAの精悍なヴォーカルの魅力、圧倒的なオリジナリティ……どこをとっても非の打ち所がない。

 もちろんソロ名義の『クリスタルナハト』や『R☆E☆D』なども素晴らしいのだが、私はPANTA & HAL時代がいちばん好きだ。

 PANTAを知らない若いロックファンは、この機会にぜひ聴いてほしい。

 なお、PANTAの諸作と一緒に、10年早すぎた隠れた名バンド「トルネード竜巻」の全作品(2枚のフルアルバム、3枚のミニアルバム、4枚のシングル)もPrime Musicにアップされた。これもAmazonグッジョブ!
 トルネード竜巻も忘れ去られるには惜しいバンドなので、これを機に新しいファンが増えるとよいと思う。

■関連エントリ→ トルネード竜巻『アラートボックス』ほか


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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