s-ken『Tequila the Ripper』



 s-ken(エスケン)の26年ぶりのニューアルバム『Tequila the Ripper』をヘビロ中。

 音楽ライターの内本順一さんがs-kenへのインタビューで書くように、「ニューオリンズ・ファンク、アフロビート、R&B、スカ、ブーガルー、ジャズ、パンク、ヌーベルシャンソンといったさまざまな音楽要素のうま味が煮込まれたアルバム」である。

 多彩なサウンドでありながら、アルバム全体のイメージには統一感がある。大人のロック、夜のロック、そしてハードボイルドなロック……といったイメージである。
 「ジャックナイフより尖ってる」「夜を切り裂くテキーラ」「泥水の中で泳ぐ鮫たち」などという曲タイトルからしてハードボイルド小説のようだし、歌詞も音もそう。


↑オープニング曲「酔っ払いたちが歌い出し、狼どもが口笛を吹く」の、フィルム・ノワールのようなPV。

 「オールドディック」という曲もあって、これはおそらく、78歳の老探偵を主人公とした異色のハードボイルド(私も大好きな小説)『オールド・ディック』(L.A.モース作)に由来するのだろう。
 この曲が象徴するように、御年70歳のs-kenが自らをタフで粋な老探偵に擬したようなイメージが、アルバム全体に通底している。

 大げさにシャウトしたりはせず、たゆたうように、つぶやくように歌うs-kenのヴォーカルが、なんともカッコイイ。
 
 36年前のデビューアルバム『魔都』のころから、s-kenはまるで映画のようにイメージ喚起力に満ちた曲を作る人だった。
 このアルバムも、一曲ごとに映像とドラマが鮮やかに浮かぶ。そして、アルバム一枚を通して聴くと、一編の上質な映画を観たような感動が味わえる。



大村憲司『外人天国~GAIJIN HEAVEN~』



 大村憲司の1983年のソロアルバム『外人天国~GAIJIN HEAVEN~』を、中古で購入してヘビロ中。

 このアルバムは発売当時、NHK-FM「サウンドストリート」の坂本龍一の担当回で特集された。それを私はリアルタイムで聴き、オープニング・ナンバー「SLEEP SONG」のカッコよさに強烈な印象を受けた。が、お金のない少年時代だったので、アルバムは買わなかった。

 ……のだが、そのときの「サウンドストリート」の音源がYouTubeに丸ごとアップされており(↓)、懐かしさのあまり聴いてみて、やっぱりカッコよかったのでアルバムをポチったのである。



 考えてみれば、大村憲司は生前に4枚しかソロアルバムを出しておらず、この『外人天国』は最後のアルバムである。

 最初の2枚はもろフュージョン。3枚目の『春がいっぱい』は、YMOの影響(大村はYMOの2度目のワールドツアーにギタリストとして参加)丸見えのテクノポップだった。
 この『外人天国』はどちらでもない。フュージョンもYMO的要素も消化したうえで、大村憲司にしか作り得ない、ハイクオリティな大人のロックになっているのだ。

 「サウンドストリート」の中で大村自身は、「(今回のアルバムは)AORですね」と言っている。
 たしかに、スティーリー・ダンの「リキの電話番号」のカヴァーが入っていたりして、広い意味ではAORなのだが、一般的なAORのような甘ったるさはなく、じつに渋く、しかもエッジの効いたサウンドだ。
 大村憲司の作品ではあまり目立たないアルバムだが、つまらない曲など一つもないし、むしろソロの中では最高傑作ではないか。

 大村のギターが素晴らしいのは当然のこととして、彼のヴォーカルも意外によい。けっしてうまくはないが、味がある。
 「リキの電話番号」のカヴァーも、ロバート・ワイアットの「アット・ラスト・アイ・アム・フリー」のカヴァーもよい。歌詞はすべて英語なのだが、日本のアーティストだとは思えないほどさまになっている(全10曲中、4曲はインスト)。

 『春がいっぱい』は、テクノポップ・ブーム真っ只中に出ただけに、いま聴くと古臭く感じる。対照的に、この『外人天国』は、発表から34年経ったいまでも古びていない。日本ロック史の隠れた名盤だと思う。


↑「リキの電話番号(Rikki Don't Lose That Number)」。吉田美奈子がバックグラウンド・ヴォーカルを務めていたりと、豪華な布陣の絶品カヴァー。間奏のギターのカッコいいこと。

日食なつこ『逆光で見えない』



 最近気に入ってます、日食(にっしょく)なつこ。
 Amazonのプライムミュージックにアップされていたので何の気なしに聴いてみたのだが、一聴してぐっと引き込まれた。

 私は不覚にも知らなかったのだが、このファーストフルアルバム『逆光で見えない』は、ちょうど一年前に出たものだ。



 生ピアノ弾き語りというスタイル(ただし、多くの曲はバンド形式)でありながら、フォークでもポップスでもなく、まぎれもないロック。本人の不敵な面構えからしてロック。ピアノから美しい火花が散るジャケが、彼女の音楽性をよく表現している。

 歌詞が素晴らしい。言葉のセンスが、いまの若手アーティストの中で抜きん出ている(日食なつこというアーティスト名自体に、すでに才気が見える)。

■参考→ 日食なつこの歌詞一覧リスト

 世の中には「人生応援ソング」というものがあって、それらの歌を聴いて「元気をもらった」り「勇気をもらった」りしている人がたくさんいる。
 だが、私はひねくれているせいか、一般に「人生応援ソング」にカテゴライズされる曲を聴いても、まったく元気や勇気をもらえない。どちらかというとサブイボが立つ。

 日食なつこの歌は、そんな私にとってさえ「人生応援ソング」として聴こえる。一般の「人生応援ソング」にある「クサさ」がなく、それでいて「生きづらさを感じている若者に力を与える歌になる」と感じさせるのだ。
 たとえば、次のようなフレーズ。

火花散らして飛んでゆけ非売品少女
ご無礼散漫で上等、せいぜい高くまで飛べよ
火花散らして飛んでゆけ非売品少女
花束なんていらない ひた走るには邪魔くさいよ(「非売品少女」)



 一般の「人生応援ソング」に私が感じるサブイボ感は、「ポジティヴなことが善」的な押し付けがましさと、「無意識の上から目線」ゆえなのだと思う(「それが大事」とか「愛は勝つ」とか)。

 いっぽう、日食なつこの創る歌詞には、そうした押し付けがましさと「上から目線」がない。
 たとえば「跳躍」の歌詞は、たぶん「引きこもり」に向けて書かれたものなのだと思うが、生きづらさを抱えた若者にも違和感なく聴ける「人生応援ソング」だと思う。

 「黒い天球儀」も、語の本来の意味で「人生応援ソング」になり得る素晴らしい曲。ピアノとドラムスのみのシンプルな編成なのに、ダイナミックにドライヴする演奏もよい。
 「いつか吐き出す最後の一呼吸が ためいきで終わってしまわないように」って、すごいフレーズだな。



 日食なつこ、2017年の大ブレイク候補だと思う。
 

ハルカトミユキ『LOVELESS/ARTLESS』



 ハルカトミユキの新作『LOVELESS/ARTLESS』(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)をヘビロ中。
 3年前の初フル『シアノタイプ』につづくセカンド・フルアルバムである。→公式サイトのアルバム特設ページ



 『シアノタイプ』もよいアルバムだったが、今作はさらに捨て曲なしの傑作になっている。
 ファーストにはまだあったフォークっぽさや、なまじルックスがよいだけに感じられたアイドル的な甘ったるさが、本作では払拭されている。ここでのハルカトミユキは、もはや完全に本格ロックユニットである。



 ハルカトミユキのことを、ヴィジュアル・イメージから食わず嫌いしている大人のロックファンも多いだろう。だが、このアルバムはむしろ、長年ロックを聴いてきた耳の肥えたリスナーにこそオススメしたい。

 私がかねてよりその才能を高く評価している二千花(にちか)の野村陽一郎が、アルバムのプロデューサーを務めている。そのことも、本作が傑作となった大きな要因だろう。
 野村は、アルバムのクロージング・ナンバー「夜明けの月」の作曲もしている。荘厳さすら感じさせるストレートなラブソング。素晴らしい曲だ。

■関連エントリ→ 二千花『二千花』

 ナイフの切っ先を聴き手に向けてくるようなヒリヒリした感触は保ったうえで、全体にファーストよりも力強くポジティブなサウンドになっている。迷いを振り切ったような、すっきりとした自信が感じられるのだ。



 全体の構成もよく練られていて、アルバムとしての完成度も高い。
 37分というトータルプレイングタイムはいまどきのフルアルバムとしては短めだが、その中で一つの流れが緻密に構築されている。

Char『Rock十 Eve~Live at Nippon Budokan』



 11月中に終わらせる予定の仕事が、数本12月にずれ込んでしまった。
 そうこうするうち、なし崩し的に怒涛の「年末進行」に突入してしまい、修羅場っている。

 「7月中に夏休みの宿題を全部終わらせて、8月は目一杯遊ぼう」とか考えるくせに、けっきょくは8月末にヒイヒイ言っていた子ども時代から、私はまったく進歩がない。


 Charの『Rock十 Eve~Live at Nippon Budokan』を観た。
 発売元のZICCA RECORDS(Char自身が主宰するレーベル)さんよりご恵投いただいたもの。

 今年還暦を迎えたCharが、その記念に出したアルバム『ROCK十』(読み方は「ロック・プラス」だが、「六十」にかけたシャレ)。
 その全曲が披露された、還暦(の誕生日)前夜の武道館コンサートを、ほぼノーカットで収録したDVD+CDのセット。

 『ROCK十』は素晴らしいアルバムだった。今年の日本のロック・アルバムで、五指には入ると思う。
 このライヴ盤は、スタジオ盤以上に楽しくゴージャスな内容になっている。
 
 『ROCK十』は、Charがその長いキャリアの中で関わりのあった12人の大物と、1曲ずつコラボするという凝った企画。
 参加アーティストは、泉谷しげる、佐橋佳幸、布袋寅泰、ムッシュかまやつ、石田長生、奥田民生、松任谷由実、佐藤タイジ(シアターブルック)、JESSE(RIZE)、福山雅治、宮藤官九郎、山崎まさよしという面々だ。干支が一巡する還暦にちなみ、それぞれの干支から1人ずつ選ばれている。

 全曲書き下ろしの詞・曲のみならず、アレンジ、サウンドの方向性などのプロデュース全般に至るまでが、12人の参加アーティストに委ねられたという。

 コンサートには、12人のうち10人までが参加。宮藤官九郎作の曲「チャーのローディー」で、使えないローディー役で出演した阿部サダヲは、ビデオでの出演。
 そして、残る1人――「石やん」こと石田長生は、コンサートの際は食道ガンの闘病中であり、翌月(7月)に世を去った。

 10人の豪華ゲストが、自作曲を演るときだけステージに出てきて、曲が終わったらすぐに引っ込んでしまうという、なんとも贅沢なコンサート(ただし佐橋佳幸だけは、コンサート全体のサイドギタリストを務めたので、出ずっぱり)。

 それ以外の出演陣も豪華だ。一曲演奏するためだけにスカパラのホーン・セクションがゲスト出演したり、シンガーソングライターとして活躍している福原美穂がバックコーラスを務めたり……。

 全編でCharのギターが堪能できるのはもちろんのこと、それ以外にも見どころがいっぱい。
 布袋寅泰との華麗なギターバトルなどは、スタジオ・バージョンを凌駕する迫力だ。

 また、「次の人は、今日は来れないんですが、別のところで頑張っています」というMCから始まる石田長生作の「ニッポンChar, Char, Char」は、闘病中だった石やんに捧げる渾身の熱演。曲が終わったあとの「石やん、おおきに!」というCharの一言が泣ける。
 曲自体も絶品。石やんとCharが組んだアコースティック・デュオ「BAHO(馬呆)」のバージョンで、この曲が聴いてみたかった。 

 名ギタリストの還暦記念にふさわしい、素晴らしいコンサートである。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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