グリーンスレイド『ベッドサイド・マナーズ・アー・エクストラ』ほか



 グリーンスレイドのファースト・アルバム『グリーンスレイド』と、セカンド・アルバム『ベッドサイド・マナーズ・アー・エクストラ』を聴いた。

 グリーンスレイドは、キーボード奏者のデイヴ・グリーンスレイドが、コロシアム解散後の1972年に結成したプログレッシヴ・ロック・バンド。
 先日聴いたコロシアムのアルバムで、デイヴ・グリーンスレイドのオルガンが素晴らしかったので、こちらにも手を伸ばしてみた。

 ツイン・キーボード(つまり、デイヴともう1人)でギターレスという、ほかにあまり類を見ない編成のバンドである。

 コロシアムとはまったく異なる音楽性のバンドで、ブルース色は皆無。
 ただし、アンディ・マクローチという人のドラムスは、手数の多さなどがジョン・ハイズマンに似ている気がするし、ジャズ・ロック的要素もあるプログレである。

 音全体に淡いヴェールがかかったような、ファンタジックな美しさに満ちたプログレ。
 『ベッドサイド・マナーズ・アー・エクストラ』は、ロジャー・ディーンのイラストを用いたジャケットがおどろおどろしい感じだが、音のほうにおどろおどろしさはない。むしろ、上品であたたかい音楽だ。

 全体に、英国的なヒネリのあるユーモアとリリシズムが感じられる。その点で、ハットフィールド・アンド・ザ・ノースやナショナル・ヘルスなどのカンタベリー系ロックにも近い。

 幻想性一辺倒ではなく、随所にスリリングな展開やフレーズがあり、静と動のダイナミズムが素晴らしい。
 このファーストとセカンドはいずれも、ブリティッシュ・プログレの名盤の一つに数えられているというが、納得。


↑ファーストのオープニング曲「翼のある友(Feathered Friends)」。まさに静と動のダイナミズム。美しい。
 

『キース・エマーソン・バンド・フィーチャリング・マーク・ボニーラ』ほか



 “キース・エマーソン追悼聴き”三昧はつづく。

 AmazonのPrimeMusicには、キース・エマーソンが手がけたすべての映画音楽を集めた『at the movies』というセットが、丸ごとアップされている。
 これがスゴイ! シルベスター・スタローン主演のアクション映画『ナイトホークス』から、角川映画のアニメ『幻魔大戦』まで、7作品のサントラ盤がぎっしり収録されているのだ。CDだと3枚組、3時間30分・全67曲というボリューム(ただし、キース以外の人が書いた一部の曲は省かれている)。



 ここ2日ほど、これを流しっぱなしにして原稿書いています。

 『キース・エマーソン・バンド・フィーチャリング・マーク・ボニーラ』も聴いた。
 こちらは、ELPよりもポップな仕上がり。
 マーク・ボニーラのヴォーカルがジョン・ウェットンに似ているせいもあって、ヴォーカル入りの曲の一部は、まるでエイジア。プログレというより、プログレ風味の産業ロックという趣なのだ。

 それでも、いい曲が多い。とくに「ジ・アート・オブ・フォーリング・ダウン」という曲は群を抜いてカッコイイ。本作でいちばんELP的な曲でもあり、グレッグ・レイクのヴォーカル版をぜひ聴いてみたいところ。

 また、キース・エマーソンが全編弾きまくりで、シンセ/生ピアノ/ハモンドオルガン/パイプオルガンの音色がそれぞれ堪能できるので、聴き応えはなかなかだ。
 私は『スリー・フェイツ・プロジェクト』のほうが気に入ったけど。

キース・エマーソンほか『スリー・フェイツ・プロジェクト』



 キース・エマーソンの訃報に、自分でも意外なほどショックを受けた。
 病気で指が思うように動かなくなったことに悩んで(パートナーの川口真里さんの証言による)の拳銃自殺という最期が衝撃的だったせいか、デヴィッド・ボウイの訃報からまだ日が浅いせいか……。

 ELP(エマーソン、レイク&パーマー)は少年時代に大好きだったバンドだが、近年のキースの活動にはあまり興味が向かなかった私。
 しかし、訃報に接してから手元にあるELPのアルバムを聴きまくり、キースの最近作『スリー・フェイツ・プロジェクト』(2012年)と『キース・エマーソン・バンド・フィーチャリング・マーク・ボニーラ』(2008年)を、追悼の意味で入手した。

■ELPについての過去エントリ
『The Essential Emerson, Lake & Palmer』
エマーソン、レイク&パーマー『ELP四部作』

 で、まずは『スリー・フェイツ・プロジェクト』を聴いているのだが、これは素晴らしい!
 キースとマーク・ボニーラ(キース・エマーソン・バンドのギタリスト兼ボーカリスト)、そしてノルウェー人指揮者テリエ・ミケルセンの3人によるプロジェクト。ミュンヘン放送管弦楽団との共演により、ELPの音よりもぐっとクラシック寄りの内容になっている。

 とはいえ、プロジェクト名はELPの曲「運命の三人の女神(The Three Fates)」に由来するし、アルバム中でも「タルカス」「永遠の謎」「奈落のボレロ」といったELPの名曲をオーケストラ・アレンジで取り上げている。
 「タルカス」をオーケストラで演る試みとしては、吉松隆編曲の『タルカス~クラシック meets ロック』(2010年)などもあったが、こちらは作曲者自らのアレンジであり、さすがのカッコよさ。

 私は『ELP四部作』に入っていたキースの“もろクラシック”な曲「ピアノ協奏曲第1番」が大好きなのだが、このアルバムはあの曲に近い雰囲気――クラシカルなアレンジの中にも、ロック的なダイナミズムとスピード感がある――で全編が統一されている印象だ。
 ただし、ディストーションの効いたギターがうなりを上げるなど、随所にロック的要素があり、「ピアノ協奏曲第1番」ほど“もろクラシック”ではない。

 パワフルなのに詩情豊かで美しく、ワイルドなのに細部は緻密に構築されていて、キース・エマーソンらしさが全編に横溢するアルバム。
 こんなにも生命力あふれる音楽を創っていたキースが、自ら命を絶ってしまうとは……。R.I.P.

カーヴド・エア『リボーン』


リボーンリボーン
(2008/12/24)
カーヴド・エア

商品詳細を見る


 カーヴド・エアの『リボーン』(マーキー・インコーポレイティド)を聴いた。

 カーヴド・エアは、私が昔好きだったイギリスのプログレ・バンド。これは、2008年に22年ぶりの復活作として発表されたアルバム。復活していたのを知らなかった。

 ヴァイオリニストのダリル・ウェイを核に、ヴォーカルのソーニャ・クリスティーナを看板にして、クラシカルなプログレを聴かせるバンド。その点では、やはりイギリスのクラシカル・プログレ・バンドである「ルネッサンス」に近い。

 ルネッサンスの歌姫アニー・ハズラムは誰もが認める美声と歌唱力の持ち主だが、こちらのソーニャは美声というわけではないし、歌も大してうまくない(若き日の美貌は断然ソーニャに軍配が上がるのだが)。

 カーヴド・エアが1975年に発表した『ライヴ』は、それはそれは素晴らしいアルバムであった。この『ライヴ』でのソーニャは一世一代の熱唱を聴かせており、うまくはないものの、迫力がスゴイ。
 私はたまたま最初に聴いたカーヴド・エアのアルバムがこれだったもので、そのあとに聴いた彼らのスタジオ・アルバムは、どれもおとなしすぎて物足りないと感じた。

 さて、この復活作『リボーン』だが、新曲が3曲ある以外は過去のレパートリーの再録である。

 ソーニャの歌声は、年の割には衰えが見られないものの、高音シャウトがなくて物足りない。昔のようには高音が出ないのだろう。
 再録曲は、どれもきれいに小じんまりとまとまってはいるのだが、迫力不足。
 なぜそう感じるのかと考えてみるに、シンセサイザー類が1970年代に比べると格段に進歩していて、音がきれいになりすぎているのが大きな要因だろう。

 1970年代前半のELPのアルバムなどを聴くと、キース・エマーソンの弾くモーグ・シンセサイザーの音がなんとも古めかしいのだが、その無骨さ、ゴツゴツ感が逆に魅力的であったりする。

 古いシンセの無骨な音色と、ソーニャの力まかせのシャウト――『ライヴ』の大きな魅力であった2つの要素が、この復活作にはない。なので、あまり面白くなかった。ただ、ダリル・ウェイのヴァイオリンは相変わらず流麗で素晴らしい。


↑『ライヴ』の1曲「ヤング・マザー」。無骨なシンセと力まかせのシャウトの魅力。


↑若き日の美しきソーニャが歌う姿が見られる、1972年のテレビ映像。

アニー・ハズラム『ムーンライト・シャドウ』


ムーンライト・シャドウ(アニー・ハズラム) - リマスター(直輸入盤・帯・ライナー付き)ムーンライト・シャドウ(アニー・ハズラム) - リマスター(直輸入盤・帯・ライナー付き)
(2010/06/16)
アニー・ハズラム



 アニー・ハズラムの『ムーンライト・シャドウ』を、中古で購入。

 英プログレ界が誇る美声の歌姫が、ルネッサンス解散後の1989年に発表したセカンド・ソロである。

 アニーももう60代半ばだが、本作は30代末の作品。だから当然といえば当然だが、5オクターブの伸びやかな歌声はルネッサンス全盛期とまったく変わらない。

 邦題が示すように、マイク・オールドフィールドのヒット曲「ムーンライト・シャドウ」をカヴァーしている。原曲のヴォーカル、マギー・ライリーも美声の持ち主だから、アニーのヴォーカルともピッタリ合っている。原曲と甲乙つけがたい出来。

 ムーディー・ブルースのジャスティン・ヘイワード(ギター)や、元キング・クリムゾンのメル・コリンズ(サックス)など、豪華ミュージシャンが参加したサウンドもきらびやかである。


↑本作のサウンドを代表する曲「嘆きの天使(The Angels Cry)」

 ただ、「ルネッサンスそのものの再現」を求めてしまうと、肩透かしを食う。
 ルネッサンスはプログレ・バンドの中でもひときわクラシカルな、生ピアノ、生ギター、ストリングス中心のサウンドであった。対して本作は、プロデューサーでもあるラリー・ファーストのデジタル・シンセが核を成している。
 とはいえ、いわゆる「打ち込み」のペラい音とは一線を画しているのだが、それでもルネッサンス時代の音とはまるで別物である。もっとポップだし、もろ80年代的な音なのだ。そもそも、プログレ色も薄い。
 アニー自身もソングライティングに参加した「セレスティン」というバラードが、ほとんど唯一ルネッサンスぽいかな。

 それでも、曲は粒揃いだし、「ルネッサンスとは別物」とわきまえたうえで聴けば十分楽しめる良作。


↑ルネッサンス全盛期の名曲「Carpet Of The Sun」


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

里親募集中

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
31位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
22位
アクセスランキングを見る>>