矢野顕子×上原ひろみ『ラーメンな女たち - LIVE IN TOKYO -』



 矢野顕子×上原ひろみの『ラーメンな女たち - LIVE IN TOKYO -』(Universal Music)を聴いた。

 6年前の『Get Together -LIVE IN TOKYO-』に続く、天才2人の競演ライヴ・アルバム第2弾。
 基本的には前作の延長線上にあるので、前作が気に入った人なら今作も気に入るだろう。

 互いにジャズを基盤にしながらも、ジャンルにとらわれない音楽を創り続けてきた2人らしく、ジャンル分け不可能なアルバムに仕上がっている。

 たとえば、今作には異なるジャンルの2曲を合体させた曲が3つもある。
 わらべうたの「おちゃらかほい」とウェイン・ショーターの「フットプリンツ」を合体させた「おちゃらかプリンツ」、美空ひばりの「真っ赤な太陽」とビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」を合体させた「真っ赤なサンシャイン」などである。
 それらの“合体曲”は、この2人でなければ絶対にさまにならないだろう。

 前作以上に矢野顕子のヴォーカルに比重がかけられている印象で、上原ひろみのピアノは一聴するとあまり目立たない。
 ただ、矢野の「飛ばしていくよ」で、原曲の打ち込み音を上原が正確無比な速弾きのピアノに置き換えていくあたり、ゾクゾクする凄みがある。

 矢野顕子は「癒し系」イメージとは裏腹に、ソウルフルに熱唱しても素晴らしいシンガーである。
 そのことは私も重々承知なのだが、このアルバムはソウルフルに熱唱するタイプの曲ばかりが多すぎて、彼女の歌声がちょっと暑苦しく感じられる。それが今作の難点だと思った。

 ただ、どの曲も上原ひろみの編曲は素晴らしい。
 ラストを飾る「ラーメンたべたい」は前作『Get Together』でも演奏していたが、今作はスピード感あふれるスリリングなアレンジで、この名曲がじつにカッコよく生まれ変わっている。

 また、「東京は夜の7時」や「ドリーマー」(上原の『ALIVE』所収曲に矢野が歌詞をつけたもの)の“疾走するリリシズム”という趣は絶品だ。

矢野顕子『Welcome to Jupiter』



 矢野顕子のニューアルバム『Welcome to Jupiter』(ビクターエンタテインメント/3996円)を、2枚組仕様の初回限定盤で聴いた。

 スタジオアルバムとしては前作に当たる昨年の『飛ばしていくよ』は、私にとってかなりガッカリ度の高い作品であった。
 本作は、『飛ばしていくよ』の続編的位置づけ(「オトナテクノ」第2弾だそうだ)ということで、「またガッカリするかなァ」とイヤな予感を抱きつつ聴いてみた。

 なにしろ、前作に「在広東少年」や「電話線」のセルフカバーが収められていたように、今作にも「Tong Poo(東風)」(YMOの曲だが、アッコちゃんも『ごはんができたよ』でカバー)や「悲しくてやりきれない」(フォーク・クルセダーズのカバー)、パット・メセニー作の「PRAYER」の再演が入っているし……。

 前作のセルフカバー曲について、私は当ブログで次のように酷評した。

 「電話線」と「在広東少年」という初期~中期の代表曲をセルフカバーしているのだが、2曲とも「劣化コピー」という感じの出来。
 とくに、「在広東少年」は原曲とアレンジもほとんど同じ。これなら原曲を聴いたほうがいいわけで、いまさらオリジナルアルバムの曲目を割いてカバーする必然性が理解できない。
 ボーナストラック扱いならまだしも、「電話線」なんか今作のオープニングナンバーになっているし……。



 今作における「Tong Poo」「悲しくてやりきれない」「PRAYER」についての印象も、おおむね同じだ。
 『ごはんができたよ』『愛がなくちゃね。』『SUPER FOLK SONG』に入っていた元バージョンのほうがずっといいし、なぜいまさらリメイクするのか、意図がよくわからない。そして、出来の悪い「Tong Poo」のリメイクをわざわざオープニングナンバーに据える意図も、さらにわからない。

 では、前作『飛ばしていくよ』同様、本作は私にとってガッカリ・アルバムか?
 ……それが、意外にそうでもなかった。
 リメイク曲はいただけなかったが、オリジナル曲の出来が素晴らしい。「あたまがわるい」「そりゃムリだ」「わたしとどうぶつと。」「わたしと宇宙とあなた」「大丈夫です」など、みんなよい。つまり、彼女は「ソングライターとして枯れてしまったからセルフカバー/リメイクに走っている」というわけではないのだ。

 また、オリジナル曲以外では、はっぴいえんどの『風街ろまん』所収曲「颱風」のカバーが、ファンキーかつブルージーでカッコイイ。終盤のマーク・リーボウのギターが絶品だ。

 全体的に、前作よりはずっと楽しめるアルバムに仕上がっている。
 チープなピコピコ音の比重が前作よりも下がり、その分生ピアノの比重が上がっている点も好ましい。私は何よりもピアニストとしての矢野顕子のファンであるから。

 それに、初回限定盤の特典であるディスク2「Naked Jupiter」が、意外なほど出来がよい。
 これは、ディスク1収録曲から7曲を選び、「オフヴォーカルにし矢野顕子のピアノと各ビートメイカーのトラックのみで再ミックスされたオトナテクノトラック集」である。

 「どうせ、たんなるカラオケ集みたいなもんでしょ?」と思う人もいるだろうが、そうではない。独立した作品として価値をもつインスト集に仕上がっているのだ。BGMにしても心地よいし、随所に胸を鷲づかみにされる切なさがあって、アッコちゃんならではの“ジャズ風味の抒情派エレクトロニカ”という趣のミニアルバムになっている。
 ファンなら、少し高めでも初回限定盤を手に入れたほうがいい。

 『飛ばしていくよ』のガッカリ感がかなり払拭され、長年のファンとしては少しホッとした(もちろん、私とは逆に『飛ばしていくよ』を高く評価したファンもいるわけだが……)。

矢野顕子+TIN PAN『さとがえるコンサート』


さとがえるコンサートさとがえるコンサート
(2015/03/18)
矢野顕子+TIN PAN(細野晴臣/林立夫/鈴木茂)

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 矢野顕子+TIN PAN(細野晴臣/林立夫/鈴木茂)の『さとがえるコンサート』(ビクターエンタテインメント)を聴いた。

 40年来のつきあいであるTIN PANの3人との共演となった、昨年末の「さとがえるコンサート」のファイナル公演を収めたライヴ・アルバム。



 前作『飛ばしていくよ』は私には不満足なアルバムで、珍しく酷評してしまったのだが、本作はいい! 「これぞ矢野顕子」という感じの極上のライヴ・アルバムに仕上がっている。

 長いつきあいの一流ミュージシャンだけが揃ってこそ出せるグルーヴが、全編に満ちている。
 心地よいゆったり感と心地よい緊張が、不思議な共存を見せる。リラックスした演奏なのに、空気がピンと張りつめていて隙がないのだ。

 私はアッコちゃんのライヴ盤では1979年の『東京は夜の7時』がいちばん好きだが、本作はあれをしのぐかもしれない出来。

 唯一の新曲「A Song For Us」も、極上の迫力。
 ロック/ソウル色の強いカッコイイ曲で、アッコちゃんのヴォーカルも冴え渡っている。じつは彼女はソウルフルに熱唱しても素晴らしい歌い手なのだが、この曲はまさに「ヴォーカリスト・矢野顕子」の真骨頂を見せるものだ。

 レコーディング・エンジニア界の名匠・吉野金次のミックスも素晴らしく、一音一音がつややかに輝いている。
 とくに、ディスク2の「へびの泣く夜」から「終りの季節」に至るシークェンスにおけるピアノの音の美しさに、陶然となった。

 鈴木や細野が、彼ら自身の曲でヴォーカルをとる場面も多い。「矢野顕子のコンサート」というより、4人全員が主役だということを示しているのだろう。

 「このコンサートの現場にいたかった」という思いをひたすらつのらせる、見事なライヴ・アルバム。

 ジャケットもよい。私は4人がバラバラに座っている通常盤バージョンのほうが好きだ。

矢野顕子『飛ばしていくよ』


飛ばしていくよ飛ばしていくよ
(2014/03/26)
矢野顕子

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 先月末に発売された矢野顕子のニューアルバム『飛ばしていくよ』(ビクター・エンターテインメント/3240円)を、ようやくゲットした。

 ピアノ弾き語りカヴァーアルバム『音楽堂』や、ライヴアルバム『荒野の呼び声 -東京録音-』などを間に挟んではいるものの、オリジナルスタジオアルバムとしては2008年の『akiko』以来5年半ぶりの新作。

 レコード会社がつけた惹句には、次のようにある。

 YMOが全面バックアップして制作された80年代までのサウンドの延長線上に拡がる、現代のEDM・ボカロ世代をも唸らせる上質かつアバンギャルドに進化を遂げたエレクトロニックポップスワールド。(中略)テクノミュージックの進化と深化、矢野顕子の真価に触れる大作。質実剛健・豪華絢爛、ジャパニーズテクノの金字塔ここに立つ!



 「YMOが全面バックアップして制作された80年代までのサウンド」といえば、『ごはんができたよ』『ただいま。』あたりということになる。そのへんはまさに私が少年時代にすり切れるほど(LPレコード時代なので)愛聴しまくったアルバムだが、あの時期のアッコちゃんにあった輝きは、本作には感じられなかった。

 「電話線」と「在広東少年」という初期~中期の代表曲をセルフカバーしているのだが、2曲とも「劣化コピー」という感じの出来。
 とくに、「在広東少年」は原曲とアレンジもほとんど同じ。これなら原曲を聴いたほうがいいわけで、いまさらオリジナルアルバムの曲目を割いてカバーする必然性が理解できない。
 ボーナストラック扱いならまだしも、「電話線」なんか今作のオープニングナンバーになっているし……。

 「エレクトロニックポップス」として見ても、故レイ・ハラカミとコラボした一連の作品のほうがよっぽどいいわけで……(私は『ホントのきもち』所収の「Too Good To Be True」がいちばん好きだ)。 

 全体に、「わかりやすいけど薄っぺらいアルバム」という印象。
 「アバンギャルドに進化を遂げた」と惹句にはあるが、むしろ、矢野顕子のアルバムでこれほどアバンギャルド性皆無なものは珍しいと思う。

 『ごはんができたよ』『ただいま。』のころのアッコちゃんは、ポップではあったが、同時にものすごく先鋭的でアバンギャルドでもあった。
 とくに、『ただいま。』所収の「たいようのおなら」「VET」「ASHKENAZY WHO?」「ROSE GARDEN」あたりは、いま聴いてもビックリするほどアバンギャルドだ。
 本作は、テクノポップ風味なところだけ見ればあのころに回帰したように見えるが、先鋭性がごそっと削ぎ落とされている分だけ、あのころよりつまらない。

 矢野顕子が「春咲小紅」を大ヒットさせたあと、二匹目のドジョウを狙った売れ線のシングル「あしたこそ、あなた」というのを出したことがある。
 「春咲小紅」を劣化コピーしたようなつまらない曲で、私は発売当時にガッカリしたものだが、このアルバム全体に同じニオイを感じてしまった。
 レコード会社を移籍してから初めて出すオリジナルアルバムということで、「売れるものを作らないと……」というプレッシャーを感じすぎたのではないか。

 ちなみに、「あしたこそ、あなた」はオリジナルアルバムには収録されず、のちに『オン・エア』というコンピレーションに収められた。たぶん、アッコちゃん本人にも駄作という意識があったのだろう。

 もっとも、2ちゃんねるのアッコちゃんのスレッドを見たら、私がキライな「あしたこそ、あなた」を「矢野顕子の最高傑作」として挙げている人がいて、ビックリしたことがある。
 「音楽の評価ってホントに人それぞれだ」と、しみじみ思う。このアルバムも、ファンの中には絶賛する人もいるのだろう。

 まだ数回しか聴いていないので、今後聴き込んで評価が変わるかもしれない。


■後記
 聴き込むうちにだんだんよさがわかってきたので、上の文章の表現を少しやわらげた。とくに、随所でエレクトロサウンドとアッコちゃんの生ピアノがからむあたり、わりとスリリング。
 ただ、彼女のアルバムのなかで出来の悪い部類だという印象は変わらない。

矢野顕子『荒野の呼び声 -東京録音-』


荒野の呼び声 -東京録音-荒野の呼び声 -東京録音-
(2012/08/08)
矢野顕子

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 矢野顕子の『荒野の呼び声 -東京録音-』(ヤマハミュージック・コミュニケーションズ/3150円)を購入。さっそくヘビロ中。8月に出た最新ライヴ・アルバムである。

 矢野顕子は初期から節目節目にライヴ盤を出してきたが、それぞれが傑作でハズレがない。
 私がとくに好きなのは1979年の傑作『東京は夜の7時』で、いまでもときどき引っぱり出して聴く。バックはYMOの3人をはじめとした腕利きたちで、山下達郎と吉田美奈子がバックコーラスを務めている(!)という、いまでは考えられない豪華メンツのライヴ盤であった。
 また、昨年の上原ひろみとの共演ライヴ『Get Together』もよかった。

 本作は、「矢野顕子の様々なライヴ・スタイルを一枚にまとめたベスト・ライヴ・アルバム。2009年~2010年にBlue Note、NHKホール、鎌倉芸術館にて行ったライヴから選りすぐりの曲を収録」というものなので、タイプとしては『TWILIGHT~the“LIVE”best of Akiko Yano~』に近いか。でも、個人的には『TWILIGHT』よりこっちのほうが気に入った。

 全体に、「やさしくあったかいアッコちゃん」より、「カッコよくてパワフルなオトコ前の矢野顕子」が前面に出ている感じ。ピアノ弾き語りはラストの「椰子の実」だけで、ほかの曲には激しいドラムスやギターがフィーチャーされたものも多いし。
 たとえば、レッド・ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」のカヴァーを演っているのだが(アルバム『akiko』にスタジオ・ヴァージョン所収)、その後半のギターとドラムスの盛り上がりなど、「ほとんどハードロック」である。

 アッコちゃんのピアノの魅力はいまさら言うまでもないわけだが、本作は彼女のヴォーカリストとしての魅力も堪能できるものとなっている。
 とくに、キンクスの「ユー・リアリー・ガット・ミー」やラスカルズの「People Got To Be Free」のカヴァーでのヴォーカルはすこぶるソウルフルで、矢野顕子の一般的イメージを大きく覆すだろう。

 過去のアルバムですでにスタジオ・ヴァージョンが披露されている曲も、アレンジが全面刷新されているものが多く、別の曲として愉しむことができる。

 たとえば、沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」は、元はアルバム『ELEPHANT HOTEL』(1994)で取り上げていたものだが、本作での演奏は途中で渓流の水が迸るような透明感あふれるジャズになっていく。そこが鳥肌モノ。
 カントリー風のアレンジがなされた「気球にのって」は個人的にはイマイチだったが、ほかはだいたいスタジオ・ヴァージョンよりカッコいい。

 唯一スタジオ録音の新曲として収録された「こんなところにいてはいけない」は、コンビで多くの名曲を産み出してきた糸井重里との共同作詞によるもの。
 歌詞から察するに、東日本大震災からの復興の祈りが根底に込められた曲。シンプルでポップ。そして静かな力強さに満ちている。

 

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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