神保彰『JIMBO de CTI』



 神保彰の『JIMBO de CTI』がAmazonのプライムミュージックにアップされていたので、聴いてみた。

 Amazonのプライム会員なら聴き放題のプライムミュージック、少しずつ登録アルバム数も増えてきて、かなり使えるサービスになってきた。
 この『JIMBO de CTI』なんて、発売は今年初頭だから一応「最新作」なわけで、タダで聴かせてしまっていいのだろうかと心配になる。たぶん、1回聴かれるごとにアーティスト側にも少しずつ使用料が入るのだろうけど……。

 本作は、名ドラマー・神保彰による「CTIレーベル」の名曲カバー集だ。
 CTI――クリード・テイラー・インクは、1970年代のクロスオーバー(のちのフュージョン)・ブームを先導した米国のレーベル。いわば現在のスムース・ジャズの源流である。
 
 CTI名曲集といっても、本作は全9曲中5曲までがデオダートの2枚のアルバムから選ばれており、実質的にはデオダート名曲集となっている(ほかに、アイアート・モレイラの「Tombo in 7/4」、フレディ・ハバードの「Red Clay」のカバーなどを収録)。
 ジャケットも、デオダートの『ラプソディー・イン・ブルー(デオダート2)』のパロディというか、オマージュだ。



 デオダートは、CTIレーベルの看板アーティストであった。そもそもCTIは、彼のアルバム『ツァラトゥストラはかく語りき』(1972年)の大ヒットによって世界に知られたのだ。

 本作で5曲がカバーされている『ツァラトゥストラはかく語りき』『ラプソディー・イン・ブルー』は、私も少年時代にLPレコードで聴きまくったアルバム。神保彰もこの2枚に決定的影響を受けたと知って、シンパシーを覚える。

 デオダートとCTIに対する私の思い入れについては、以前このエントリに書いたので、興味ある向きはご一読を。

 さて、本作の感想だが、うーん……、よくできてはいるが、原曲をしのぐカバーは一つもないなあ。
 原曲が完全に脱臭・消毒されているというか、きれいにまとまりすぎている。雑味とかエグみを除去したら、曲の味わいまで薄まってしまった感じ。

黒船『BREAKTHROUGH』



 黒船のセカンド・アルバム『BREAKTHROUGH(ブレイクスルー)』(PEACE OF CAKE/2700円)をゲット。昨年のファースト・アルバム『CROSSOVER』が大変気に入ったので……。

 黒船は、ジャズと日本の伝統芸能を融合させた、ユニークなクロスオーバー・ジャズ・バンドである。
 ベース、キーボード、ドラムスの3人に、奄美島唄の里アンナ、津軽三味線の白藤ひかりを加えた編成。


↑このアルバムのオフィシャル・トレイラー。ほぼ全曲のさわりが聴ける。

 前作のレビューで、私は次のように書いた。

 全曲ヴォーカル入りにすればよいものを、余計なインスト・ナンバーも入っていて、それらはイマイチ。
 いや、演奏はうまいし、けっして悪くはない。ただ、普通の和風コンテンポラリー・ジャズであって、「うーん、なにも黒船のアルバムでやらなくても……」という気がしてしまうのだ。
 次作はぜひ、全曲ヴォーカル入りの島唄カヴァーで作ってほしい。



 その提案を聞き入れてくれたわけでもあるまいが(笑)、本作はファーストよりも曲目に奄美島唄・民謡が増え、それ以外の曲でも里アンナのヴォーカルの比重がぐっと上がっている。
 私にとっては「我が意を得たり」の変化で、好ましい。とはいえ、基本的には前作の延長線上にあるサウンドだが。

 ジャズ/フュージョンのカバー曲が3曲入っているのだが、それらもわりと伝統芸能寄りのアレンジになっている。
 そのうち私が気に入ったのは、パット・メセニー・グループのカバー「Have You Heard」。
 元曲は、マイ・フェイバリット・アルバムでもあるPMGの『レター・フロム・ホーム』のオープニング・ナンバー。
 パット・メセニーのギターの代わりに白藤ひかりの津軽三味線がメロディーを奏で、ペドロ・アズナールのスキャットの代わりに里アンナが島唄風スキャットを聴かせる。


↑本作のリード曲「行きゅんにゃ加那節」。あわれが深うてよろしいなあ(アラカン風)。

 奄美島唄・民謡を取り上げた5曲はそれぞれ素晴らしいが、中でも、ラストを飾る「やんばる」がダントツにカッコイイ。
 島唄とコンテンポラリー・ジャズの見事な融合。まさに「クールジャパン」である。2020年の東京オリンピック開会式には、こういう曲、こういうアーティストこそが取り上げられて欲しいものだ。

 期待を裏切らない、充実のセカンド・アルバム。


↑奄美島唄「よいすら節」をジャズ化した「YOISURA」。美しい。

フローラ・プリム『バタフライ・ドリームス』ほか


Open Your Eyes You Can FlyOpen Your Eyes You Can Fly
(2000/04/18)
Flora Purim

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 フローラ・プリムの1970年代のソロ・アルバム2枚――『オープン・ユア・アイズ・ユー・キャン・フライ』と『バタフライ・ドリームス』を聴いた。

 フローラ・プリムといえば、第1期リターン・トゥ・フォーエバーでのさわやかな名唱が印象的であったが、私が彼女のソロ・アルバムをちゃんと聴いたのは初めて。

 もっと甘ったるい音楽を想像していたのだが、聴いてみたら超クール! むしろ第1期RTFよりもハードエッジなくらいだ。

 もちろん、ブラジリアン・ミュージックが基盤になってはいるのだが、一般の(というのもヘンだが)ブラジリアンよりもはるかに都会的なサウンド。曲によってはギンギンのギターが入っていたりして、ビートも強烈で、ジャズ・ロックと呼んで差し支えないほど。

 スタンリー・クラーク作曲の「ドクター・ジャイヴ」(『バタフライ・ドリームス』所収)なんて、もう思いっきりファンクでロック。カ、カッコいい……。



 第1期RTFの「ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ」での可憐なヴォーカルのイメージが強すぎて、ソロ・アルバムでこんなに強烈な曲をやっているとは思いもよらなかった。



 よい意味で予想を裏切られた。ほかのアルバムも聴いてみよう。

■余談その1
 手元にある『バタフライ・ドリームス』の日本盤(2002年発売)では、アーティスト名表記が「フローラ・プリン」になっている。中原仁という人のライナーノーツによると、日本では長い間「フローラ・プリム」と表記されてきたが、「~プリン」のほうが正しい表記なのだという。
 アントニオ・カルロス・ジョビンなどの「ジョビン」は、「Jobim」と書くが「ジョビム」とは読まない。それと同じで、「Purim」という綴りでも「プリン」なのだ、と……。
 また、中原氏はアイアート・モレイラ(フローラの夫でパーカッショニスト)についても、ブラジル読みの「アイルト・モレイラ」が正しい表記だとしている。

 うーん……。たしかに正しい(原音に忠実な)表記なのだろうが、日本では「フローラ・プリム」「アイアート・モレイラ」で定着しているのだから、それでいいじゃないかという気もする。
 ピーター・ガブリエルを「ピーター・ゲイブリエル」と表記したり、ブルースを「ブルーズ」と表記したりする「こだわりの人」がよくいるが、日本人が日本で日本風に表記して何が悪いのかと言いたくなる。
 だいたい、フローラ・プリンでは食べるプリンが頭に浮かんでしまうではないか。

■余談その2
 マイケル・フランクスの「タイム・トゥギャザー」という曲がある。マイケルの亡き愛犬「フローラ」に捧げられた曲だ。
 「君を取り戻す魔法の杖があったらいいのに」「いつかまた、愛が僕たちを結びつけてくれるよ」と、ペットロスな気持ちを切々と歌い上げて、犬好きなら涙なしには聴けない名曲である。



 あの犬の名も、フローラ・プリムにちなんだものなのではないか。マイケルはブラジリアンに強い影響を受けた人で、いかにもフローラ・プリムとか好きそうだし。

板橋文夫『WATARASE』


WATARASEWATARASE
(2005/07/23)
板橋文夫

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 板橋文夫の『WATARASE』(ウルトラ・ヴァイヴ)を聴いた。

 板橋文夫は私と同郷(栃木県足利市)のジャズピアニストで、『渡良瀬』は彼のソロアルバムの代表作。
 タイトルナンバーの「渡良瀬」は、足利など北関東を流れる渡良瀬川をイメージして作られた、郷愁と詩情に満ちた名曲だ。

 で、話が少しややこしいのだが、今日聴いた『WATARASE』は、元のソロアルバム『渡良瀬』とは別物である。

 こちらの『WATARASE』は、「板橋文夫アンソロジー」と銘打たれているとおり、板橋のベストアルバムであると同時に、彼がこれまで発表してきた「渡良瀬」の別バージョンを集めたもの。
 2枚組で、ディスク1が「渡良瀬」の元バージョンを含むベストアルバム、ディスク2が「渡良瀬」のバージョン違い7曲を集めたアンソロジーになっている。

 つまり、このアルバムには「渡良瀬」が計8つのバージョンで収められているわけだ。
 ピアノソロあり、カルテット・バージョンあり、ライヴ録音あり。さらに、民謡歌手をヴォーカルに据え、オーケストラと共演した歌詞入りの「交響詩」バージョンもある。

 私は「渡良瀬」こそ、日本が世界に誇るジャズの名曲の一つだと思う。ハービー・ハンコックの「処女航海」あたりに匹敵する価値を持つ曲であろうし、「これぞ『和』のジャズ、ジャバニーズ・ジャズだ」と感ずる。
 まあ、私自身が渡良瀬川のほとりで生まれ育ったので、多少の身びいきはあるのだが。

 ……ただ、いかな名曲といえども、さすがに8つのバージョンをつづけざまに聴いたら、ちょっと飽きてきた(笑)。

 8つのバージョンのうち、私がとくに気に入ったのは次の3つ。
 森山威男のアルバム『スマイル』に収められた、カルテットでの演奏。
 神奈川県フィルハーモニー管弦楽団と民謡歌手・金子友紀のヴォーカルをフィーチュアした、雄大な「交響詩」バージョン。
 ソロアルバム『一月三舟』に収められた、水墨画を思わせる清冽なピアノソロ・バージョン。

 これら3つは、『渡良瀬』の元バージョンをしのぐ出来だと思った。
 もっとも、この曲が最初にレコーディングされたのはアルバム『スマイル』においてだそうだから、『渡良瀬』のものはそのセルフカバーという位置づけになるのだが……。


↑森山威男カルテット・バージョン。板橋自身が渡良瀬川のほとりでピアノを演奏する映像となっている。


↑「交響詩」バージョン。金子友紀のヴォーカルも、ストリングス・アレンジも素晴らしい。

 ちなみに、板橋文夫には、やはり川の名を冠した「利根」という曲もある(『渡良瀬』所収)。これも「渡良瀬」と甲乙つけがたい名曲である。

黒船『CROSSOVER』


CROSSOVERCROSSOVER
(2014/09/07)
黒船

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 黒船のファースト・アルバム『CROSSOVER』(ピースオブケイク/2700円)を購入。ヘビロ中。

 黒船は、「TRI4TH」(トライフォース)のメンバーであるベーシスト・ 関谷友貴を中心としたバンド。
 奄美の歌姫・里アンナをヴォーカルに据え、リードギターの代わりに津軽三味線の白藤ひかりを迎えた、ユニークな編成のクロスオーバー・ジャズ・バンドである。

 YouTubeで偶然このアルバムのリード曲「豊年節」のMVを観て、カッコよさにノックアウトされ、アルバムを買ってみたしだい。



 民謡とコンテンポラリー・ジャズの見事な融合。里アンナの伸びやかな歌声が素晴らしいし、間奏のベース・ソロから三味線ソロ(!)へとつなぐ流れは絶品で、背筋がゾクゾク。これぞクールジャパンである。

 和楽器を一部に用いたフュージョンといえば、昔の「ヒロシマ」とか横倉裕のアルバムがあったし、三味線の吉田兄弟のアルバムにもフュージョン的色彩がある。つまり、それだけならさして独創的ではないのだ。

 しかし、黒船の場合は和楽器フュージョンの上に里アンナのヴォーカルが乗ることで、さらに重層的なケミストリーが生じている。
 同じ奄美出身のシンガーである元ちとせより、個人的には里アンナのヴォーカルのほうが好みだ。

 時を同じくして、和楽器でボカロ・カバーをやった「和楽器バンド」も今年登場した。
 私は和楽器バンドのファーストも気に入ったが(こっちはレンタルで聴いた)、比べてみれば黒船のほうが本格的でイロモノ臭がなく、海外でも評価されそう。

 「豊年節」と同じく奄美島唄を取り上げた「六調」もよい。
 また、何曲かあるヴォカリーズ(スキャット)・ナンバーもよい。とくに、ハービー・ハンコックの「アクチュアル・プルーフ」は、疾走感あふれる演奏に里アンナのヴォカリーズが色を添え、見事な出来栄えだ。
 
 全曲ヴォーカル入りにすればよいものを、余計なインスト・ナンバーも入っていて、それらはイマイチ。
 いや、演奏はうまいし、けっして悪くはない。ただ、普通の和風コンテンポラリー・ジャズであって、「うーん、なにも黒船のアルバムでやらなくても……」という気がしてしまうのだ。

 次作はぜひ、全曲ヴォーカル入りの島唄カヴァーで作ってほしい。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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