ドリームス『ドリームス』『イマジン・マイ・サプライズ』



 昨日は、取材で長野県茅野市へ――。
 脳科学者で諏訪東京理科大学教授の篠原菊紀さんの取材である。

 東京はもう桜が散ってしまったが、茅野市は昨日あたりがちょうど満開で、つかの間お花見気分を味わった。


 ドリームスの『ドリームス』と『イマジン・マイ・サプライズ』を聴いた。

 ドリームスは、この2枚のアルバムを発表したのみで解散してしまった、幻のジャズ・ロック・バンド。
 マイケルとランディのブレッカー兄弟や、ドラムスのビリー・コブハム、ギターのジョン・アバークロンビーらが参加した、ある意味「スーパーグループ」である。
 もっとも、ブレッカー兄弟は「ブレッカー・ブラザーズ」としてのデビュー前であり、当時(1970年代初頭)はほぼ無名の若手ミュージシャンであったのだが……。

 私は、このバンドの名前だけは知っていたが、先日読んだ『ジャズ・ロックのおかげです』で市川正二が「ジャズロック名盤15枚」の一つに『ドリームス』を挙げていたことから、手を伸ばしてみた。
 折よく、昨年に「クロスオーヴァー&フュージョン1000」シリーズのラインナップとして、2作とも廉価でリイシューされたばかりだった。



 ブレッカー・ブラザーズには『ヘヴィ・メタル・ビ・バップ』というジャズ・ロックの名盤があるが、ドリームスのサウンドは同作とはまったく違う。
 全曲ヴォーカル入りで、どちらかといえば初期のシカゴやブラッド・スウェット&ティアーズのような「ブラス・ロック」に近い音なのだ。

 さりとて、「これはブラス・ロックだ」と言い切ってしまえるほどロック寄りではなく、サックスなどは濃厚にジャズっぽい。
 一般的なジャズ・ロックのイメージにはあてはまらないが、ジャズとロックの要素がせめぎ合っているという意味で「ジャズ・ロック」としか言いようがない。じつに不思議で独創的なバンドである。

 シカゴほどポップではないから、大ヒットしなかったのもうなずけるが、いい曲目白押しで、渋い「大人のジャズ・ロック」として、半世紀近くを経たいまも十分鑑賞に堪える。


↑ファーストでいちばんジャズ寄りの曲「ホリー・ビー・ホーム」。


↑逆に、ブラス・ロック寄りの曲「トライ・ミー」。

 とくに、ファーストの『ドリームス』は素晴らしい。ルネ・マグリットの名画「ゴルコンダ」を用いたジャケもよい。
 隠れた名バンドであり、名盤だと思う。
 

川口千里『CIDER ~Hard&Sweet~』



 川口千里の新作『CIDER ~Hard&Sweet~』(キングレコード/3240円)を聴いた。
 「世界が注目する女子大生ドラマー」の、満を持してのメジャーデビュー作である。

 「スムース・ジャズを中心に数多くの実績をもつプロデューサー、フィリップ・セスをサウンド・プロデューサーに迎え、ロサンゼルスにてレコーディングした渾身作!」という惹句を見て、一抹の不安を感じた。
 スムース・ジャズの好きな人には悪いが、私にとってスムース・ジャズは「毒にも薬にもならない、つまらない音楽の代名詞」なのである。「音楽は毒か薬にならなければつまらない」と思っているので、 「あんまりスムース・ジャズ寄りにならないでほしいなァ」と思いつつ聴いた。

 なるほどたしかに、千里ちゃんのソロアルバム3作のうち、いちばんジャズ・ロック色が薄く、「普通のフュージョン」色が濃いアルバムになっている。

 ジャズ・ロック好きな私としては、もっとハード一辺倒のアルバムにしてほしかったが、これはこれで悪くない。
 「もろスムース・ジャズ」という感じの甘ったるい曲はほとんどなく、曲によってはかなりハード。タイトルのとおり、ハードかつスイートなアルバムなのだ。

 千里ちゃんのドラミングも、タイトで手数が多くて心地よい。「とにかく彼女のドラムスを聴きたい」という狙いで購入した場合、その期待を裏切られることはないと思う。


↑オープニング曲「FLUX CAPACITOR」のMV。この曲はちょっとパット・メセニー・グループ的かな。千里ちゃんは、ドラムスを叩いているときの楽しそうな表情がカワイイ。

 前2作が第2期リターン・トゥ・フォーエヴァー的だとしたら、今作はチック・コリア・エレクトリック・バンドに近い、という感じ。ドラムスはちょっとデイヴ・ウェックルを彷彿とさせるし……。RTFのような重戦車的リズムではなく、もっと軽快できらびやかでスピーディーなのだ。

 悪くはないけど、私はやっぱりファーストソロ『A LA MODE』やKIYO*SENのハード路線のほうが好きだな。

アイソトープ『Live at the BBC』



 アイソトープの『Live at the BBC』を中古で購入し、ヘビロ中。

 アイソトープは、1970年代中盤に3枚のアルバムを発表して解散した、ブリティッシュ・ジャズ・ロック・グループ。
 ブランドXに近い、イギリス特有の陰影を帯びたジャズ・ロックを聴かせる。ただし、ギタリストのゲイリー・ボイルが中心なので、ブランドXに比べてギターの比重が高い。

 本作は、2004年に突如発表された発掘ライヴ音源集。タイトルのとおり、BBCの音楽番組に彼らが出演した際の演奏を集めたものだ。
 1973年から77年にかけての音源で、最後の3曲はゲイリー・ボイルのソロ名義。ゆえに、アルバムの原題は「ISOTOPE AND GARY BOYLE」名義になっている。

 ジャケットはブートレッグぽいチープなものだし、一見、いかにも「寄せ集め音源のコレクターズ・アイテム」という印象だ。
 なので、あまり期待せずに聴いたのだが、これがじつに素晴らしいライヴ・アルバムだった。

 むしろ、どの曲もオリジナルアルバムよりも迫力ある演奏となっている。
 ゲイリー・ボイルのギターは冴え渡っているし、リズムセクションも素晴らしい。とくに、ドラムスは手数が多くて最高である。

 初めて聴いたときのハードドライヴィンな爽快感と、くり返し聴くほどに細部のよさがわかってくるスルメ的味わい――両方を兼ね備えたアルバム。
 ブリティッシュ・ジャズ・ロックのライヴ盤としては、ブランドXの名盤『ライヴストック』に匹敵する出来だろう。

 素晴らしいギタリストであるわりには、いまいち目立たないし知名度も低いゲイリー・ボイルだが(もう少しルックスがよければギター・ヒーローだったろうに)、もっと再評価されてしかるべきだと思う。


↑「Almond Burfi」。これは、ゲイリー・ボイルのソロアルバム『ザ・ダンサー』に入っていた曲。

カウンツ・ジャズ・ロック・バンド『Count’s Jazz Rock Band』



 カウンツ・ジャズ・ロック・バンドの『Count’s Jazz Rock Band』を聴いた。

 聞き慣れないバンド名だと思うが、これは1998年に49歳の若さで世を去った名ギタリスト・大村憲司が、キャリアの最初期に当たる1969年から1971年にかけてやっていたジャズ・ロック・トリオ。
 「バンブー」や「カミーノ」を組むよりもさらに前、大村がスティーヴ・マーカスの『Count's Rock Band』(69年発表の、ジャズ・ロックの源流の一つとされる名盤)に影響されて始めたトリオなのだ。

 ほかのメンバーは、山村隆男(ベース)とマーティン・ウィルウェバー(ドラムス)。
 山村が個人で所蔵していたライヴ/スタジオ音源を、リマスタリングしてまとめたアルバムだという。

 発掘までの経緯からして仕方ないのだが、音はモコモコしていてよくない。
 しかし、演奏はすごい。全編インストのジャズ・ロックで、たしかに『Count's Rock Band』からの影響が強く感じられるが、曲によってはもっとヘビーでブルージー。60年代末から70年代初頭の日本に、これほどの演奏をするジャズ・ロック・トリオがいたのかと驚かされる。
 
 とくに、大村は当時20歳そこそこであったにもかかわらず、ここでの演奏は「ギタリストとしてすでに完成されている」という趣。
 アルバム中、最もジャズ寄りの曲「The Waltz 2」ではウェス・モンゴメリーばりのギターを聴かせ、最もブルース寄りの「Count's Rock Blues」ではマイク・ブルームフィールドばりにギターを歌わせる。この時点でもう自在に弾きこなせたのだ。

 「赤い鳥」時代からの盟友・村上“ポンタ”秀一が、『自暴自伝』の中で大村のことを「エリック・クラプトンよりすごいギタリストだった」と絶賛していた(本が手元にないのでうろ覚えだが、主旨はこの通り)。この若き日の発掘音源を聴くと「なるほど」と思う。

■関連エントリ→ 村上“ポンタ”秀一『自暴自伝』

ハミングバード『密会』『ダイヤモンドの夜』ほか



 1974~77年にかけて活動した短命なバンド、「ハミングバード」が遺した3枚のアルバム――『ハミングバード』『密会』『ダイヤモンドの夜』――を、まとめて聴いた。
 YouTubeとかで断片的に聴いたことはあるが、アルバム全編を聴いたのは初めて。

 ハミングバードは一言で言えば、第2期ジェフ・ベック・グループの残党が作ったバンドだ。
 第2期ジェフ・ベック・グループ、とくに『ラフ・アンド・レディ』(1971)や『ジェフ・ベック・グループ』(1972)は、ベックの数あるアルバム中、ブラック・ミュージックの影響が最も顕著に現れたものであった。
 基本はハードロックでありながら、ファンキーでソウルフル。演奏にはフュージョン的要素も強く、洗練された大人のロックを展開した時期だったのだ。

 とくに、「オレンジ・アルバム」の別名で知られる『ジェフ・ベック・グループ』(↓)はまことに素晴らしく、個人的には「ベック・ボガート&アピス」のアルバムなどよりもずっと好きである。



 その第2期ジェフ・ベック・グループのサウンドをそっくり受け継いだのが、このハミングバードなのだ。

 ジェフ・ベックこそいないものの、マックス・ミドルトンやボブ・テンチなど、ジェフ・ベック・グループのキーパーソンが参加。
 また、『ダイヤモンドの夜』では、ベックの名盤『ワイアード』のオープニング曲「レッド・ブーツ」のヴォーカル入りカヴァー(※)を、オープニングに据えている。本人たちも、ベックとのつながりを十二分に意識していたわけだ。

※「じつはハミングバード版のほうが先に作られていて、ベック版こそカヴァーではないか」とする説もある。リリース時期は『ワイアード』のほうが1年早いが、そもそも「レッド・ブーツ」の作曲者はハミングバードのキーボーディスト、マックス・ミドルトンなのである。くわしくは、この点について検証した、よそのブログ記事を。

 ハミングバードの3枚のアルバムは、いずれ劣らぬカッコよさ。ブリティッシュ・ロック、ファンク、ソウル、フュージョンのいいとこ取りをした、いぶし銀な大人のロックを聴かせてくれる。

 ただ、アルバムごとに微妙に音の傾向が変わっていて、ラストアルバムになった『ダイヤモンドの夜』では、ロック色はかなり薄れている。ホーン・セクションの比重が高まり、アース・ウインド&ファイアーの「ユー・キャント・ハイド・ラヴ」をカヴァーしていたりして、サウンド面でもかなりEW&Fに接近しているのだ。
 それはそれでカッコいいのだが、私はいちばんロック色が強いファースト『ハミングバード』がいちばん好きだな(むろん、好みの問題でしかないが)。

 ボブ・テンチの渋いヴォーカルを入れた曲とインスト・ナンバーがあるのだが、そのどちらもよい。
 以下、私のオススメ曲をいくつか貼っておく。


↑「Horrors」(邦題は「戦慄」)。同時期に発表されたジェフ・ベックの『ブロウ・バイ・ブロウ』と相通ずる、テンションみなぎるジャズ・ロック。


↑「Scorpio」。ツインリード・ギターがメチャメチャカッコいい。


↑「Got My "Led Boots" On」。ジェフ・ベックの「レッド・ブーツ」に歌詞をつけたヴォーカル入りカヴァー。


↑「Music Flowing」。ボブ・テンチのソウルフルなシャウトにもかかわらず、まったく汗臭くない。洗練された大人のロック。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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