コロシアム『ヴァレンタイン組曲』ほか



 イギリスのジャズ・ロック・グループ、コロシアムの『コロシアム・ファースト・アルバム(For Those Who Are About to Die We Salute You) 』と、セカンドに当たる『ヴァレンタイン組曲(Valentyne Suite)』を1枚にまとめた2in1のCDを購入。ヘビロ中。
 2枚とも1969年発表のアルバムなのだが、「この時代にこんなすごいことをやっていたのか」と驚かされる。

 コロシアムといえば、この2枚のあとに出た『COLOSSEUM LIVE』(1971年)が、名盤として挙げられることが多い。



 が、私はどうもこのライヴ盤が肌に合わない。野太い声を張り上げるクリス・ファーロウのヴォーカルが、オペラ歌手が無理してロック風に歌っているみたいな感じで、暑苦しくて苦手なのである。

 ファースト/セカンド時点ではまだファーロウが参加しておらず、ギターのジェイムス・リザーランドがヴォーカルも兼ねている。
 リザーランドのヴォーカルはヘタウマ風で、歌唱力ではファーロウの圧勝だろう。だが、うまければいいというもんでもない。枯れた味わいで目立たないリザーランドのヴォーカルのほうが、むしろ他のメンバーの演奏力が際立つと思うのだ。

 一口にジャズ・ロックと言っても、どんなジャズとどんなロックを混ぜ合わせるのかによって、出てくる音はまるで違ってくる。
 コロシアムの場合、ブルース・ロックにオーソドックスなモダン・ジャズを混ぜ合わせ、スパイスとしてプログレも加えました……という趣。
 ジャズ的要素をおもに司るのがディック・ヘクストール=スミスのサックスで、プログレ的要素をおもに司るのがデイヴ・グリーンスレイドのオルガンである。
 ゆえに、ブルース・ロックが好きな人なら抵抗なく楽しめるだろう。クリームとか、けっこう近い。クリームにサックスとオルガンを加えたようなサウンドといってもよい(※)。

※……と書いたあと、松井巧著『ジャズ・ロック』のコロシアムの項を読み直したら、“コロシアムはリーダーのジョン・ハイズマンが、クリームに対抗意識を燃やして結成したバンド”という主旨の記述があり、「やっぱり」と思った。


↑『ヴァレンタイン組曲』のタイトル・チューン。緻密に構築された名曲。

 コロシアム解散後、リーダーで凄腕ドラマーのジョン・ハイズマンがギタリストのゲイリー・ムーアらと結成したのが「コロシアムⅡ」である。
 このコロシアムⅡは、同じジャズ・ロックでもフュージョン寄り、インスト・ロック寄りで、ブルース色は希薄。コロシアムとコロシアムⅡは、まったく別物と捉えたほうがいい(私はコロシアムⅡも好きだが)。

 私は『コロシアム・ファースト・アルバム』のほうは初めて聴いたが、これもなかなかよい。名盤の誉れ高い『ヴァレンタイン組曲』にひけを取らない出来だ。

MASH『MASH』



 MASHのアルバム『MASH』(ワーナーミュージック・ジャパン/1404円)を聴いた。

 MASHは、1981年にこのアルバム1枚を発表しただけで消滅してしまった幻のロック・バンド。
 松岡直也 (key) を中心に、村田有美 (vo)、清水信之 (key)、青山徹 (g)、富倉安生 (b)、村上“ポンタ”秀一 (ds) 、ペッカー (per)という錚々たる面々が参加している。

 MASHは、「もう一つのマライア・プロジェクト」ともいうべきバンドであった。
 もっとも、「マライア・プロジェクトのディーヴァ」 村田有美が加わっていることを除けば、マライアとはメンバーが重なっていない。それでも、ジャズ/フュージョン系の一流ミュージシャンが集結して作ったロック・バンドという点で、マライア・プロジェクトとよく似ているのだ。登場時期もほぼ同じだし。

 このアルバムは長らく入手困難で、中古市場で高値を呼んでいたのだが、先月、待望のリイシューがなされた。
 私もずっと聴いてみたかったアルバムなので、さっそくゲットしたしだい。

 私は村田有美のヴォーカル目当てで手を伸ばしたのだが、全8曲中、村田が歌っているのは3曲のみ。ほかはインスト曲が3曲と、ギタリストの青山徹とパーカッションのペッカーが歌っている曲が1つずつ。

 村田有美という傑出したヴォーカリストが参加していながら、なぜ2人に歌わせたのか、解せない。青山徹は「愛奴」時代にも歌っていたからまだしも、ぺッカーは歌については素人なのに……。全曲村田のヴォーカル曲にすればよかったのだ。

 ただ、村田有美が歌っている3曲はいずれも素晴らしい仕上がり。とくに、ダイナミックなロック・チューン2曲「パルス」「ラヴ」のなんとカッコイイこと。

 サウンド的には、マライア・プロジェクトの一作である村田のソロ『KRISHNA』や、マライアのファースト『YENトリックス』に近い。ただ、マライア・プロジェクトほど先鋭的ではなく、「普通のフュージョン」色が随所に残っている。

 インスト曲3曲は、いまでいえばトリックス(TRIX)に近い、ロック寄りで疾走感あふれるハイパーテクニカルフュージョン。なかなかよい。
 ただ、やはり村田有美のヴォーカル曲が抜きん出ている。

 あと、せっかくSHM-CD仕様になっているにもかかわらず、音質がペラペラでショボすぎ。元のアルバムの録音がよくなかったのだろうか。

■関連エントリ
村田有美『KRISHNA(クリシュナ)』
マライア『YENトリックス』

ザ・セクション『ザ・セクション』『フォーワード・モーション』



 ザ・セクションの『ザ・セクション』(1972年)と『フォーワード・モーション』(1973年)を聴いた。

 ザ・セクションは、当時ジェイムス・テイラーのバックバンドを務めていた面々が、そのかたわらやっていたバンド。
 メンバーは、ダニー・コーチマー、クレイグ・ダーギ、ラス・カンケル、リー・スクラーの4人。
 いずれも一流スタジオ・ミュージシャンで、ジェイムス・テイラー以外にも、キャロル・キング、リンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウンらのアルバムに参加。70年代のウエスト・コースト・ロックを陰で支えてきた面々とも言える。

 ザ・セクションは3枚のアルバムを残したのみで自然消滅してしまうが、今回聴いた2枚はファーストとセカンドに当たる。

 私がいまごろ手を伸ばしたのは、先日聴いたドリームスのアルバムとの関連からである。
 ザ・セクションのファーストにはマイケル・ブレッカーがサックスでゲスト参加しているし、この2枚のアルバムもドリームス同様、「FUSION 1000」という廉価盤シリーズで最近リイシューされたのだ。

 2枚とも、全曲インスト。ジェイムス・テイラーの音楽との共通性は、ファーストのほうに少しだけ感じられる。「ウェストコースト・ロックの香りを感じさせるロック・インスト」という趣の曲が少なくないのだ。

 いまではザ・セクションはフュージョン・バンドにカテゴライズされているが、70年代初頭の発表当時には、まだフュージョンというジャンル自体がなかった。
 にもかかわらず、「1980年代半ばに発表されたフュージョンのアルバムだ」と言われても信じられるほど、サウンドが洗練されている。驚くべき先駆性であり、「10年早すぎたバンド」だと思う。

 ファーストのピザを用いたジャケットはオシャレで気が利いているが、対照的にセカンドのジャケットはショボい。ライヴ・フォトが「どうでもいい感」満々に用いられていて、ブートレッグみたいだし、「これってライヴ・アルバム?」と勘違いさせてしまう点もひどい。



 しかし、ジャケのショボさとは裏腹に、このセカンドの中身はなかなかスゴイ。

 ファーストにはアメリカン・ロック的なレイドバック感があったのに対し、こちらは曲によっては非常に先鋭的で、しかも全体にカンタベリー系ジャズ・ロック的な詩情と陰影に満ちている。予備知識なしに曲だけ聴いたら、アメリカのバンドとはとても思えないほど。


↑セカンド所収の「Bullet Train」。複雑な曲構成、スリンングな展開は、ややブランドX的。

 フュージョンの源流の一つ……というより、「フュージョン以後のジャズ・ロック」を1970年代初頭に先取りしていたバンド、という趣だ。

ドリームス『ドリームス』『イマジン・マイ・サプライズ』



 昨日は、取材で長野県茅野市へ――。
 脳科学者で諏訪東京理科大学教授の篠原菊紀さんの取材である。

 東京はもう桜が散ってしまったが、茅野市は昨日あたりがちょうど満開で、つかの間お花見気分を味わった。


 ドリームスの『ドリームス』と『イマジン・マイ・サプライズ』を聴いた。

 ドリームスは、この2枚のアルバムを発表したのみで解散してしまった、幻のジャズ・ロック・バンド。
 マイケルとランディのブレッカー兄弟や、ドラムスのビリー・コブハム、ギターのジョン・アバークロンビーらが参加した、ある意味「スーパーグループ」である。
 もっとも、ブレッカー兄弟は「ブレッカー・ブラザーズ」としてのデビュー前であり、当時(1970年代初頭)はほぼ無名の若手ミュージシャンであったのだが……。

 私は、このバンドの名前だけは知っていたが、先日読んだ『ジャズ・ロックのおかげです』で市川正二が「ジャズロック名盤15枚」の一つに『ドリームス』を挙げていたことから、手を伸ばしてみた。
 折よく、昨年に「クロスオーヴァー&フュージョン1000」シリーズのラインナップとして、2作とも廉価でリイシューされたばかりだった。



 ブレッカー・ブラザーズには『ヘヴィ・メタル・ビ・バップ』というジャズ・ロックの名盤があるが、ドリームスのサウンドは同作とはまったく違う。
 全曲ヴォーカル入りで、どちらかといえば初期のシカゴやブラッド・スウェット&ティアーズのような「ブラス・ロック」に近い音なのだ。

 さりとて、「これはブラス・ロックだ」と言い切ってしまえるほどロック寄りではなく、サックスなどは濃厚にジャズっぽい。
 一般的なジャズ・ロックのイメージにはあてはまらないが、ジャズとロックの要素がせめぎ合っているという意味で「ジャズ・ロック」としか言いようがない。じつに不思議で独創的なバンドである。

 シカゴほどポップではないから、大ヒットしなかったのもうなずけるが、いい曲目白押しで、渋い「大人のジャズ・ロック」として、半世紀近くを経たいまも十分鑑賞に堪える。


↑ファーストでいちばんジャズ寄りの曲「ホリー・ビー・ホーム」。


↑逆に、ブラス・ロック寄りの曲「トライ・ミー」。

 とくに、ファーストの『ドリームス』は素晴らしい。ルネ・マグリットの名画「ゴルコンダ」を用いたジャケもよい。
 隠れた名バンドであり、名盤だと思う。
 

川口千里『CIDER ~Hard&Sweet~』



 川口千里の新作『CIDER ~Hard&Sweet~』(キングレコード/3240円)を聴いた。
 「世界が注目する女子大生ドラマー」の、満を持してのメジャーデビュー作である。

 「スムース・ジャズを中心に数多くの実績をもつプロデューサー、フィリップ・セスをサウンド・プロデューサーに迎え、ロサンゼルスにてレコーディングした渾身作!」という惹句を見て、一抹の不安を感じた。
 スムース・ジャズの好きな人には悪いが、私にとってスムース・ジャズは「毒にも薬にもならない、つまらない音楽の代名詞」なのである。「音楽は毒か薬にならなければつまらない」と思っているので、 「あんまりスムース・ジャズ寄りにならないでほしいなァ」と思いつつ聴いた。

 なるほどたしかに、千里ちゃんのソロアルバム3作のうち、いちばんジャズ・ロック色が薄く、「普通のフュージョン」色が濃いアルバムになっている。

 ジャズ・ロック好きな私としては、もっとハード一辺倒のアルバムにしてほしかったが、これはこれで悪くない。
 「もろスムース・ジャズ」という感じの甘ったるい曲はほとんどなく、曲によってはかなりハード。タイトルのとおり、ハードかつスイートなアルバムなのだ。

 千里ちゃんのドラミングも、タイトで手数が多くて心地よい。「とにかく彼女のドラムスを聴きたい」という狙いで購入した場合、その期待を裏切られることはないと思う。


↑オープニング曲「FLUX CAPACITOR」のMV。この曲はちょっとパット・メセニー・グループ的かな。千里ちゃんは、ドラムスを叩いているときの楽しそうな表情がカワイイ。

 前2作が第2期リターン・トゥ・フォーエヴァー的だとしたら、今作はチック・コリア・エレクトリック・バンドに近い、という感じ。ドラムスはちょっとデイヴ・ウェックルを彷彿とさせるし……。RTFのような重戦車的リズムではなく、もっと軽快できらびやかでスピーディーなのだ。

 悪くはないけど、私はやっぱりファーストソロ『A LA MODE』やKIYO*SENのハード路線のほうが好きだな。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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