矢島賢&ヴィジョンズ『REALIZE』



 矢島賢&ヴィジョンズの『REALIZE』(ワーナーミュージック・ジャパン)を聴いた。
 アナログ盤では1982年に発売された、矢島賢にとって生涯唯一のリーダー・アルバム。今回、初CD化だそうだ。

 私は、恥ずかしながら矢島賢というギタリスト自体を知らなかった。
 いつも愛読している金澤寿和さん(音楽ライター)のブログ「Light Mellow on the web」で記事になっていたのを読み、興味を持って手を伸ばしてみたしだい。

 80年代日本のフュージョン系ギタリストにはそれなりに目配りしていたつもりだが、私がこれまで知らなかったのは、矢島がキャリアの大半をJ-POP系のスタジオ・ミュージシャンとして生きたからだろう。
 「長渕剛からは、“唯一頭が上がらないソロ・ギタリスト”と呼ばれるほど、厚い信頼を置かれていた」(金澤氏ブログ)人なのだそうだが、あいにく私は長渕剛に微塵も興味がないし。

 それはさておき、このアルバムはJ-POPとはまったくかけ離れた内容である。全曲インスト。ギター中心の、プログレ色の濃いフュージョンなのだ。

 レコード会社側がつけた宣伝文句には、「ジェフ・ベックの名盤『ブロウ・バイ・ブロウ』への日本からの回答というべき強烈なギター・インストゥルメンタル・アルバム」という言葉が躍っている。
 『ブロウ・バイ・ブロウ』も『ワイアード』も大好きな私としては、この惹句で大いに期待して聴いた。

 だが、うーん……、期待したのとはちょっと違った。
 全8曲中、「おお、これはもろジェフ・ベック!」と思わせる曲は2曲だけ。「D.Box」と「Elephant Dance」がそうで、この2曲はたしかにジェフ・ベック好きならたまらない仕上がりだ。





 で、残り6曲はといえば、ジェフ・ベックというよりはピンク・フロイドのデイヴ・ギルモアに近い線。
 「Wet Dream」なんて曲もあって、ピンク・フロイドのキーボーディスト、リック・ライトに同名のソロ・アルバムがあったことを彷彿とさせる(ちなみに、「Wet Dream」とは「夢精」の意)。
 ハードなインスト・ロックというより、夢幻的でドラマティックなプログレ・フュージョンのアルバムなのである。

 むろん、そのことが悪いわけではない。むしろ、映像喚起力に富む荘厳華麗なギター・インスト・アルバムとして、非常によくできている。
 プログレ色が濃くなっていた時期のプリズムが好きな人なら、絶対気に入ると思う。

 

ザ・ブレッカー・ブラザーズ 『ザ・ヘヴィ・メタル・ビバップ・ツアー'14・イン・ジャパン』



 ザ・ブレッカー・ブラザーズの 『ザ・ヘヴィ・メタル・ビバップ・ツアー'14・イン・ジャパン』(ワードレコーズ)をヘビロ中。
 2014年に日本で行ったリユニオン・コンサートの2枚組ライヴ盤である。

 ブラザーズの一翼であるマイケル・ブレッカーは07年に白血病で早逝してしまったから、そのままのメンツでのリユニオンは不可能なわけだが、マイケルの代役はランディ・ブレッカーの妻である美熟女サックス奏者、アダ・ロヴァッティが務めている。

 「ザ・ヘヴィ・メタル・ビバップ・ツアー」と銘打たれているとおり、このときのツアーは、名盤『ヘヴィ・メタル・ビバップ』(1978年)の全曲再演がウリになっていた。同作は、ブレッカー・ブラザーズの代表作にしてジャズ・ロック史上の金字塔であり、私も大好きなアルバム。
 最近よくある、「往年の名盤・完全再現ライヴ」という、いかにも中高年狙いの企画だ。



 ただ、『ヘヴィ・メタル・ビバップ』収録曲の再演はアルバム全体(13曲)の半分以下であり、たんなる「名盤再現」の枠に収まるものではない。
 ノスタルジーを味わうというより、最先端のジャズ・ロック/ハイパー・テクニカル・フュージョンの好ライヴ盤として楽しめる。

 代役のアダ・ロヴァッティも含め、すべての奏者が素晴らしいが、とくに目立つのはテリー・ボジオのドラムス。最初から最後までキレッキレである。
 UK、ミッシング・パーソンズのころからボジオの叩きまくるドラムスが好きな私は、快哉を叫んだ。

 もっとも、「ブレッカー・ブラザーズはペットとサックスが主役であるべき」と考える人にとっては、「ドラムスが目立ちすぎ」かもしれないが。

コロシアム『ヴァレンタイン組曲』ほか



 イギリスのジャズ・ロック・グループ、コロシアムの『コロシアム・ファースト・アルバム(For Those Who Are About to Die We Salute You) 』と、セカンドに当たる『ヴァレンタイン組曲(Valentyne Suite)』を1枚にまとめた2in1のCDを購入。ヘビロ中。
 2枚とも1969年発表のアルバムなのだが、「この時代にこんなすごいことをやっていたのか」と驚かされる。

 コロシアムといえば、この2枚のあとに出た『COLOSSEUM LIVE』(1971年)が、名盤として挙げられることが多い。



 が、私はどうもこのライヴ盤が肌に合わない。野太い声を張り上げるクリス・ファーロウのヴォーカルが、オペラ歌手が無理してロック風に歌っているみたいな感じで、暑苦しくて苦手なのである。

 ファースト/セカンド時点ではまだファーロウが参加しておらず、ギターのジェイムス・リザーランドがヴォーカルも兼ねている。
 リザーランドのヴォーカルはヘタウマ風で、歌唱力ではファーロウの圧勝だろう。だが、うまければいいというもんでもない。枯れた味わいで目立たないリザーランドのヴォーカルのほうが、むしろ他のメンバーの演奏力が際立つと思うのだ。

 一口にジャズ・ロックと言っても、どんなジャズとどんなロックを混ぜ合わせるのかによって、出てくる音はまるで違ってくる。
 コロシアムの場合、ブルース・ロックにオーソドックスなモダン・ジャズを混ぜ合わせ、スパイスとしてプログレも加えました……という趣。
 ジャズ的要素をおもに司るのがディック・ヘクストール=スミスのサックスで、プログレ的要素をおもに司るのがデイヴ・グリーンスレイドのオルガンである。
 ゆえに、ブルース・ロックが好きな人なら抵抗なく楽しめるだろう。クリームとか、けっこう近い。クリームにサックスとオルガンを加えたようなサウンドといってもよい(※)。

※……と書いたあと、松井巧著『ジャズ・ロック』のコロシアムの項を読み直したら、“コロシアムはリーダーのジョン・ハイズマンが、クリームに対抗意識を燃やして結成したバンド”という主旨の記述があり、「やっぱり」と思った。


↑『ヴァレンタイン組曲』のタイトル・チューン。緻密に構築された名曲。

 コロシアム解散後、リーダーで凄腕ドラマーのジョン・ハイズマンがギタリストのゲイリー・ムーアらと結成したのが「コロシアムⅡ」である。
 このコロシアムⅡは、同じジャズ・ロックでもフュージョン寄り、インスト・ロック寄りで、ブルース色は希薄。コロシアムとコロシアムⅡは、まったく別物と捉えたほうがいい(私はコロシアムⅡも好きだが)。

 私は『コロシアム・ファースト・アルバム』のほうは初めて聴いたが、これもなかなかよい。名盤の誉れ高い『ヴァレンタイン組曲』にひけを取らない出来だ。

MASH『MASH』



 MASHのアルバム『MASH』(ワーナーミュージック・ジャパン/1404円)を聴いた。

 MASHは、1981年にこのアルバム1枚を発表しただけで消滅してしまった幻のロック・バンド。
 松岡直也 (key) を中心に、村田有美 (vo)、清水信之 (key)、青山徹 (g)、富倉安生 (b)、村上“ポンタ”秀一 (ds) 、ペッカー (per)という錚々たる面々が参加している。

 MASHは、「もう一つのマライア・プロジェクト」ともいうべきバンドであった。
 もっとも、「マライア・プロジェクトのディーヴァ」 村田有美が加わっていることを除けば、マライアとはメンバーが重なっていない。それでも、ジャズ/フュージョン系の一流ミュージシャンが集結して作ったロック・バンドという点で、マライア・プロジェクトとよく似ているのだ。登場時期もほぼ同じだし。

 このアルバムは長らく入手困難で、中古市場で高値を呼んでいたのだが、先月、待望のリイシューがなされた。
 私もずっと聴いてみたかったアルバムなので、さっそくゲットしたしだい。

 私は村田有美のヴォーカル目当てで手を伸ばしたのだが、全8曲中、村田が歌っているのは3曲のみ。ほかはインスト曲が3曲と、ギタリストの青山徹とパーカッションのペッカーが歌っている曲が1つずつ。

 村田有美という傑出したヴォーカリストが参加していながら、なぜ2人に歌わせたのか、解せない。青山徹は「愛奴」時代にも歌っていたからまだしも、ぺッカーは歌については素人なのに……。全曲村田のヴォーカル曲にすればよかったのだ。

 ただ、村田有美が歌っている3曲はいずれも素晴らしい仕上がり。とくに、ダイナミックなロック・チューン2曲「パルス」「ラヴ」のなんとカッコイイこと。

 サウンド的には、マライア・プロジェクトの一作である村田のソロ『KRISHNA』や、マライアのファースト『YENトリックス』に近い。ただ、マライア・プロジェクトほど先鋭的ではなく、「普通のフュージョン」色が随所に残っている。

 インスト曲3曲は、いまでいえばトリックス(TRIX)に近い、ロック寄りで疾走感あふれるハイパーテクニカルフュージョン。なかなかよい。
 ただ、やはり村田有美のヴォーカル曲が抜きん出ている。

 あと、せっかくSHM-CD仕様になっているにもかかわらず、音質がペラペラでショボすぎ。元のアルバムの録音がよくなかったのだろうか。

■関連エントリ
村田有美『KRISHNA(クリシュナ)』
マライア『YENトリックス』

ザ・セクション『ザ・セクション』『フォーワード・モーション』



 ザ・セクションの『ザ・セクション』(1972年)と『フォーワード・モーション』(1973年)を聴いた。

 ザ・セクションは、当時ジェイムス・テイラーのバックバンドを務めていた面々が、そのかたわらやっていたバンド。
 メンバーは、ダニー・コーチマー、クレイグ・ダーギ、ラス・カンケル、リー・スクラーの4人。
 いずれも一流スタジオ・ミュージシャンで、ジェイムス・テイラー以外にも、キャロル・キング、リンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウンらのアルバムに参加。70年代のウエスト・コースト・ロックを陰で支えてきた面々とも言える。

 ザ・セクションは3枚のアルバムを残したのみで自然消滅してしまうが、今回聴いた2枚はファーストとセカンドに当たる。

 私がいまごろ手を伸ばしたのは、先日聴いたドリームスのアルバムとの関連からである。
 ザ・セクションのファーストにはマイケル・ブレッカーがサックスでゲスト参加しているし、この2枚のアルバムもドリームス同様、「FUSION 1000」という廉価盤シリーズで最近リイシューされたのだ。

 2枚とも、全曲インスト。ジェイムス・テイラーの音楽との共通性は、ファーストのほうに少しだけ感じられる。「ウェストコースト・ロックの香りを感じさせるロック・インスト」という趣の曲が少なくないのだ。

 いまではザ・セクションはフュージョン・バンドにカテゴライズされているが、70年代初頭の発表当時には、まだフュージョンというジャンル自体がなかった。
 にもかかわらず、「1980年代半ばに発表されたフュージョンのアルバムだ」と言われても信じられるほど、サウンドが洗練されている。驚くべき先駆性であり、「10年早すぎたバンド」だと思う。

 ファーストのピザを用いたジャケットはオシャレで気が利いているが、対照的にセカンドのジャケットはショボい。ライヴ・フォトが「どうでもいい感」満々に用いられていて、ブートレッグみたいだし、「これってライヴ・アルバム?」と勘違いさせてしまう点もひどい。



 しかし、ジャケのショボさとは裏腹に、このセカンドの中身はなかなかスゴイ。

 ファーストにはアメリカン・ロック的なレイドバック感があったのに対し、こちらは曲によっては非常に先鋭的で、しかも全体にカンタベリー系ジャズ・ロック的な詩情と陰影に満ちている。予備知識なしに曲だけ聴いたら、アメリカのバンドとはとても思えないほど。


↑セカンド所収の「Bullet Train」。複雑な曲構成、スリンングな展開は、ややブランドX的。

 フュージョンの源流の一つ……というより、「フュージョン以後のジャズ・ロック」を1970年代初頭に先取りしていたバンド、という趣だ。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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