池上彰・佐藤優『僕らが毎日やっている最強の読み方』



 池上彰・佐藤優著『僕らが毎日やっている最強の読み方――新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』(東洋経済新報社/1512円)読了。

 売れっ子2人が、互いの情報収集術・知的生産の技術について開陳した対談集。
 2人はこれまでにも多くの対談集を出しているが、その中で「ありそうでなかった」テーマである。

 新聞・雑誌・ネット・書籍……それぞれとの付き合い方のコツがおもに語られている。そのうえで、最後の章ではオマケ的に、人に直接会って情報を得るためのコツが語られる。

 両者とも、いまだに新聞からの情報収集に重きを置いている点が印象的だ。
 大新聞が軒並み部数を減らし、若い世代が購読しなくなったいまも、新聞が「『世の中を知る』ための基本かつ最良のツールであること」は変わらない、と……。

 これは、私もそのとおりだと思う。むしろ、新聞記事をネットで断片的にしか読まない人が増えれば増えるほど、新聞をちゃんと読む習慣を持つ人のアドバンテージは高まるだろう。

 全体に、内容が非常に具体的・実践的で、机上の空論や観念論が混入していない点が好ましい。ネットにしろ雑誌にしろ、具体的なサイト名や誌名を挙げたうえで“上手な付き合い方”が語られているのだ。

 学校教科書や受験参考書などを活用した、いわゆる「大人の学び直し」についても、一章を割いて語られている。その点で、現役世代のみならず、定年退職したシニア世代にとっても一読の価値があるだろう。

 何より、両著者自身がいまなお貪欲に学びつづけ、読書などのインプットに相当の時間を割いていることに、感服させられる。

 とくに佐藤さんは、「どんなに忙しくても、毎日4時間はインプットの時間を死守すること」を自らに課しているという。
 読書の時間として割り当てた時間には、「ネット絶ち」をして読書に集中。また、いまなおチェコ語の学校(週1回)とロシア語の学校(月1回)に通って、語学力のブラッシュアップをつづけているそうだ。

 その他、印象に残った一節を引用。

 小泉信三は、学問に対して「すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」という言葉を残しています。漢方薬のように、じわじわと効いてくるのが基礎知識であり、教養というものなのでしょう。(池上氏の発言)


  

池澤夏樹『知の仕事術』



 昨日は都内某所で取材。
 久々にゴースト本の聞き書き仕事をしている。

 ゴーストだからお相手はナイショだが、今回で数回目の取材。
 本一冊をまとめるための取材というのは、回を重ねるごとに相手と気心が知れてくる感じが醍醐味である。一期一会の単発記事取材には、それがない。

 
 行き帰りの電車で、池澤夏樹著『知の仕事術』(集英社インターナショナル新書/799円)を読了。

 一流のプロの書き手が自らの「知的生産の技術」を開陳した本は、数多い。私も仕事柄、その手の本をわりとたくさん読んできた。
 その中からオススメを挙げるなら、立花隆の『「知」のソフトウェア』と、ノンフィクション作家・野村進の『調べる技術・書く技術』である。この2冊を超える本は、いまだにない。

■関連エントリ→ 野村進『調べる技術・書く技術』

 本書は、個人で文学全集を編むなど、碩学として知られる作家・池澤夏樹が、自らの「知のノウハウ」を開陳したもの。
 池澤は「芥川賞作品を初めてワープロで書いた作家」であり、元は理系の人だからITとかにもくわしそうだし、画期的な技術が披露されるのではないかと、大いに期待して読んだ。
 
 が、かなり期待はずれ。
 「仕事術」と銘打ちながら、内容は7割方「読書術・読書論」でしかない。しかも、読書論としても陳腐で、ほとんどあたりまえのことしか書かれていない。

 終盤(全12章中の第10章)の「アイディアの整理と書く技術」に至って、やっとタイトルに即した内容になる。
 ……のだが、そこから先も、参考になるノウハウ(=「私も取り入れたい」と思うようなこと)は一つもなかった。
 

小谷野敦『面白いほど詰め込める勉強法』



 小谷野敦著『面白いほど詰め込める勉強法――究極の文系脳をつくる』(幻冬舎新書)読了。

 3年前に出た本で、Amazonマーケットプレイスで1円(+送料)だったので買ってみたもの。
 渡部昇一のミリオンセラー『知的生活の方法』(1976年刊)を意識して書かれた、小谷野敦流『知的生活の方法』ともいうべき本である。

 “『知的生活の方法』を呉智英は馬鹿にしていたが、それほど悪い本ではないと思う”という意味のことを小谷野は以前の著作(『バカのための読書術』)でも書いていたが、私も同感。じつは私も、少年時代に『知的生活の方法』にけっこう影響を受けた。

■関連エントリ→ 渡部昇一『知的余生の方法』

 本書は、Amazonのカスタマーレビューでおおむね酷評されている。批判の主旨は、「タイトルと中身に乖離がありすぎる。著者の自分語りが多すぎる」というもの。

 小谷野敦が出す新書は、歴史の本であれ読書術の本であれ、随所に自分語りがある。誰かが言っていたが、「私小説ならぬ“私新書”」なのであって、それはこの人の芸風だから、目くじら立てても仕方ない。愛読者はそこまで「込み」で彼の著書を楽しんでいるのだ。

 ただ、本書はほかの新書に比べても、自分語りの混入率が高い。
 たとえば、全五章のうち第一章は「私の知的生活の系譜」で、章題のとおり、小谷野自身の少年時代からの読書遍歴、知的遍歴が綴られている。ほとんど自伝に近い内容で、およそ読者の勉強法の参考になるようなものではない。

 読書遍歴だけならまだしも、「竹下景子さんと『犬笛』の思い出」という項では、ファンだったという竹下景子がヒロインの映画『犬笛』について、6ページも費やして延々と紹介している。いくらなんでも脱線しすぎ。

 第五章「バカのための英語術」も同様で、内容の九割方は“自分はじつは英語が苦手で、これまでこんなにも英語の勉強に苦労してきた”という話。読者の参考になる勉強術は、残りの一割くらいしか書かれていない。

 ただ、あとの三章は悪くない。
 第二章「知を体系化するデータベース作成法」と第三章「ネット時代だからこその検索法」は、国会図書館の上手な利用法などの細かなテクが参考になる。
 第四章「古典をどこまでどう読むか」は、本書でも何度も言及されている呉智英の名著『読書家の新技術』の、小谷野敦版という趣がある。

伊藤洋一『情報の強者』



 伊藤洋一著『情報の強者』(新潮新書/756円)読了。

 著者はエコノミスト/経済評論家。テレビなどでのわかりやすい経済解説に、私はつねづね好感を抱いている。なのでこの本も読んでみたのだが、期待外れ。情報整理術・知的生産の技術の本としては凡庸な仕上がりで、参考になる点がほとんどない。

 主張の根幹になっているのは、“情報洪水・情報過多の時代だから、不要な情報をいかに切り捨てるかが大切だ”ということ。
 そんなあたりまえのことをいまさらドヤ顔で主張されてもねえ。

 たとえば、テレビ局は同じニュース映像を一日のニュース番組の中で何度も使い回すから、「ニュース番組は午前と午後(夜)で各30分も見れば十分である」と著者は言う。「番組全てのニュースを漫然と見る必要はない」と……。
 一日中ダラダラとテレビを見ているような情報弱者は、そもそも本書のような本を手に取りもしないだろうに。

 全編そんな調子で、内容の大半はあたりまえのわかりきったことである。

 私が本書で唯一「なるほど」と膝を打ったのは、「自分にとって好ましい情報、都合のいい情報」を「快楽情報」とネーミングしている点。

 往々にして私たちは社会問題や政治問題でも、快楽情報ばかりを摂取する傾向があることには自覚的であるべきだ。(中略)ネット中心に情報を追う場合、無意識に「快楽情報オンリー」になってしまうことが珍しくない。
(中略)
 世界でいったい何が起きているのか。その全体像を掴むためには、「不快情報」も必要だ。むしろ、そのほうが重要だと思っていてもいい。
 快楽情報にだけ溺れていたら、世の中が見えなくなってしまう。



 これはまったくそのとおり。立場の左右を超えて、ネットでの情報摂取がメインの人ほど肝に銘ずるべきことだろう。

野口悠紀雄『「超」集中法』



 野口悠紀雄著『「超」集中法――成功するのは2割を制する人』(講談社現代新書/799円)読了。
 「超◯◯法」シリーズ(?)最新刊である。

■関連エントリ
野口悠紀雄『クラウド「超」仕事法』
野口悠紀雄『実力大競争時代の「超」勉強法』
野口悠紀雄『超「超」整理法』
『「超」〇〇法』次作予想

 タイトルから「集中力を高める極意」が開陳された本を期待したのだが、そうではなかった。これは、いわゆる「80対20の法則」(本書は「2:8法則」と表記)「パレートの法則」についての本なのだ。
 野口は、“世の中のことはたいてい、2割の人・こと・モノが全体の8割の成果を上げている。「コア」となるその2割に力とリソースを集中することが、仕事・勉強・組織作りの極意である”とし、その実例を挙げ、2割の「コア」を見極める方途を探っていく。

 野口がたくさん出してきた「知的生産」本のうち、真に独創的なのは最初の『「超」整理法』だけだと思う。
 それ以後の著作は、そこそこ参考にはなるものの、独創性はあまりない(一般書の話。経済学者として出した専門書の独創性については、私にはわからない)。

 本書も、「80対20の法則」を援用したビジネス書・知的生産本ならほかにも多いし、とくに独創的ではない。

 それに、過去の著作の焼き直しにすぎない章もあって、その点でも感心しない。
 第3章は『「超」整理法』の焼き直しだし、第4章は『「超」勉強法』の焼き直しだ(『「超」整理法』も『「超」勉強法』も、じつは「2:8法則」に沿った方法論だった、というエクスキューズがつけられている)。

 あと、本書は過去の野口の著作と明らかに文体が違う。読点が妙に多い、ノロノロした感じの「です・ます調」になっているのだ。おそらく、ライター等に話をまとめさせたのだと思う。過去の著作は歯切れよい明晰な文体がそれ自体魅力的だったので、その点もマイナス。
 まあ、野口ももう後期高齢者だから、自分で書くのはシンドイのかもしれないが……。

 それでも、随所に卓見はあるので、「駄本」とまでは言わない。
 たとえば、古典や歴史を学ぶことの重要性についての指摘(140ページ~)。

 ビジネスであれなんであれ、何が2割の「コア」に当たるかを的確に見抜く目を持つためには、全体観を持たねばならない。その全体観を養うために大切なのが、古典や歴史を学ぶことなのだと、野口は言う。

 古典は、学問が現代のように専門化し細分化していなかった時代の知を表しています。ですから、古典をいま読むことは、全体像を把握する上で、有用です。
 歴史は、教養の中で重要な地位を占めています。技術が進歩し、資本蓄積が進んでも、社会活動とは、所詮人間集団の営みだからです。権力者や大国が勃興し、滅びるさまを見ると、現代社会の把握にも、重要な示唆を与えてくれます。



 これはまったくそのとおり。大前研一など、底の浅い「古典的教養無用論」を説く論者が最近散見するが、私はこれからの時代こそ、ビジネスシーンにおいても、古典をしっかり学んでいる人の重要性が増すと思う。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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