『漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018』



 狩撫麻礼を偲ぶ会・編 『漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018――《そうだ、起ち上がれ!! GET UP . STAND UP!!》 』(双葉社/1944円)読了。

 2018年1月に亡くなったマンガ原作者・狩撫麻礼の追悼ムックである。

 生前の狩撫が多くの仕事をした4つの出版社――双葉社・小学館・KADOKAWA・日本文芸社の「共同編集」という、この手のムックではおそらく前例のない形で作られている。

 狩撫麻礼と「セッションした」(=仕事を共にした)マンガ家たち、狩撫作品を映像化した監督たち、交友のあったマンガ家・マンガ原作者、彼の作品に深く影響を受けた小説家、伴走した担当編集者たちなど、縁深い60数名が登場。
 彼らは、マンガ・イラスト・インタビュー・対談・文章など、それぞれのスタイルで、狩撫麻礼の人となりや彼との思い出を語っている。

 本の隅々にまで、狩撫麻礼へのリスペクトと愛があふれている。詰め込まれた熱量がすごいし、資料的価値もすこぶる高い。

 つい2ヶ月ほど前、私は『闇金ウシジマくん』の完結記念ムック(『闇金ウシジマくん本』)を買い、その内容の薄さにガッカリした。
 比べるのも酷だが、同書と本書は、マンガ関連ムックの「悪い見本」と「よい見本」だと思う。

■関連エントリ→ 『漫画家本SPECIAL  闇金ウシジマくん本』

 面白い記事はたくさんあるが、私がベスト3を選ぶなら、カネコアツシ、江口寿史、櫻井稔文(桜井トシフミ、桜壱バーゲンとしても知られる)という、3人のマンガ家たちへのインタビューだろうか。
 とくに、カネコと櫻井へのインタビューは、そのまま一編のマンガになりそうなほどドラマティックで面白い。

 狩撫麻礼について語るべき人たちが、漏れなく登場している印象。

 惜しむらくは、谷口ジローが狩撫よりも先に亡くなったことだ。
 『青の戦士』『ナックル・ウォーズ』『LIVE!オデッセイ』といった初期傑作で仕事を共にした谷口は、マンガ家の立場から原作者・狩撫麻礼を語る最適任者だったはずだから……。

■関連エントリ
ひじかた憂峰・たなか亜希夫『リバースエッジ 大川端探偵社』
田辺剛・カリブsong『サウダージ』

『漫画家本SPECIAL  闇金ウシジマくん本』



 『漫画家本SPECIAL  闇金ウシジマくん本』(小学館/1512円)を読了。
 今年2月に完結した〝国民的アウトロー・マンガ〟『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平)のファン・ムックである。

 「漫画家本」とは、1人の人気マンガ家を深掘りしたファン・ムックのシリーズ。「あだち充本」「吉田秋生本」「藤田和日郎本」「浅野いにお本」などが、すでに出ている。
 今回は「真鍋昌平本」ならぬ「闇金ウシジマくん本」だから、通常の「漫画家本」とは異なるということで「SPECIAL」となったのだろう。

 全編を一読した感想として、まず「期待したよりも内容が薄い」と感じた。
 「15年も連載して、累計1700万部も売れた超人気作の完結記念に出す本が、こんなクオリティなの?」と、愛読者としては正直ガッカリした。

 「内容の薄さ」の例を挙げよう。
 『闇金ウシジマくん』第1話のネーム(コマ割り、各コマの構図、セリフ、キャラクターの配置などを大まかに示したもの)を、20ページ以上も費やしてそのまま掲載している。
 こんなの、作者のサイトで無料公開でもすればよいことで、商業書籍でやるべきことじゃないと思う。

 また、〝歴代スタッフによるウシジマ同人誌〟なるものが、24ページも費やして掲載されている。
 これは、よくいえば真鍋の「スタッフを大切にする心」を示しているのかもしれない。だが、一般読者から見れば、「アシスタントが作った同人誌を、なぜここで読まされなければならないのか?」という思いになる。

 映画版でウシジマを演じた山田孝之と真鍋の対談(過去に『スピリッツ』に掲載されたものの再録)、ウシジマくんファンだという芸人・ケンドーコバヤシと真鍋の対談(CS番組の再録)あたりは、まあ「賑やかし」としてあってもいい。

 ただ、評論パートと資料パートが弱い。
 たとえば、今年4月に出た『総特集 石ノ森章太郎』(河出書房新社)の評論パート・資料パートの充実ぶりと比べると、スカスカな印象である。



 本書の評論パートでよかったのは、呉智英による『闇金ウシジマくん』論だけだ。
 『社会学ウシジマくん』という研究本を出した難波功士など、ウシジマくんを論ずるにふさわしい論客はほかにも多いはずで、もう少し充実させてほしかった。

■関連エントリ→ 難波功士『社会学ウシジマくん』

 本書には、語り下ろしの対談が2つある。一つは真鍋と弘兼憲史の対談。もう一つは真鍋といましろたかしの対談。
 2つのうち、弘兼憲史と真鍋昌平では何の共通項もない気がするが、意外にも真鍋は弘兼作品に大きな影響を受けているのだという。そのためか、一見ミスマッチに思えるこの対談は、予想外に面白かった。

 逆に、いましろたかしとの対談は、作風的には好マッチングに思えるが、中身がグダグダだった。

 ……と、ここまでさんざんディスってしまったが、いいところもある。
 とくに、本書の核ともいうべき真鍋昌平へのロングインタビューは素晴らしい。

 真鍋へのインタビューは2部に分かれていて、第1部はおもに取材の舞台裏を聞く内容。『闇金ウシジマくん』は綿密な取材に基づいて作品が作られていたことで知られるが、その内幕が明かされているのだ。

 インタビュアーの島田文昭(ライター/編集者)は、『闇金ウシジマくん』のコミックスの奥付に「取材協力」として名前がクレジットされていたことで、ファンにはおなじみ。真鍋の取材に同行することも多かったらしく、さすがにウシジマくんについて知り尽くしている。ゆえに質問も的確で、インタビューとして中身が濃い。

 ロングインタビューの第2部は、『闇金ウシジマくん』の第1話「奴隷くん」編から最終の「ウシジマくん」編まで、シリーズ各編について真鍋に振り返ってもらう内容。

 「ゲイくん」編を描くために真鍋が新宿二丁目で「実際にウリセンの男のひとを買ってみた」とか(相手が勃たず、行為には至らなかったそうだ)、「そこまでやるか」という驚愕のエピソードがちりばめられている。

 このロングインタビューを読むと、『闇金ウシジマくん』がどれほど厚い取材に裏付けられていたかがわかり、感動的ですらある。

 たとえば、「ギャル汚くん」編のラストで、イベントサークル代表・純はハチミツ入りのワインを身体にぶっかけられ、樹に縛られて樹海に放置される。
 あの衝撃的ラストシーンも、昆虫研究家への取材に基づいていたという。樹海ならどのような虫が多いか、虫を呼び寄せるためのいちばん効率的な方法は何かを聞いたうえで、あのように描かれたのだ、と……。

 このロングインタビューとともに、ファンにとって必読なのが、真鍋が描き下ろした10ページの『闇金ウシジマくん』特別編「もしも…くん」である。

 これはもう明かしてもネタバレにはならないと思うが、『闇金ウシジマくん』の最終回でウシジマは命を落とす。この「もしも…くん」編は、「もしもあの日、ウシジマが死ななかったとしたら?」という想定で描かれた「アナザー・ストーリー」になっている。

 全体として内容の薄いムックだが、真鍋へのロングインタビューとこの「もしも…くん」だけは、ファンにとって大きな価値がある。

佐藤敏章『手塚番 ~神様の伴走者~』



 佐藤敏章著『手塚番 ~神様の伴走者~』(小学館文庫/659円)読了。

 8年前に単行本が出たときから気になっていた本で、文庫化を機に初読。
 ちなみに、単行本では『神様の伴走者』のほうがメインタイトルだった。そのため、スポーツ書コーナーに置かれていた書店もあるらしい(笑)。そういう勘違いを避けるため、文庫版では『手塚番』をメインタイトルにしたのかも。



 タイトルどおり、各マンガ誌で手塚治虫の担当編集者(=手塚番)だった人たちへのインタビュー集。
 度外れた遅筆ぶり(※)など、断片的に知っていた「手塚伝説」の数々を、ひとまとめに読める面白さったらない。

※といっても、描くスピード自体はものすごく速かったらしい。キャパを大幅に上回る仕事を請けてしまうがゆえの「遅筆」だったのだ。

 すさまじいエピソードが随所にある。たとえば――。

「『鈴木氏、5分だけ、5分だけ眠らしてください』っていわれて、15分眠らせたら怒られて(笑)」
「『こんなに眠ったら、頭が元に戻らないですよ!』って」



 これほど命を削るようにして描き続けなかったら、手塚はもっと長生きできただろうに……。

「手塚さん、頼めば断らない人だから。掲載してくれる雑誌が山ほどあって、原稿の催促のために、そばに編集者が山ほどいてくれるっていうのが、手塚さんのベスト・コンディションですから」(丸山昭の発言)



 命を削ることと引き換えにした充実――そんな印象を受ける。本業がそれほど超多忙だったうえ、アニメも作り、さまざまな文化人活動にもいそしんでいたのだから、「毎日が修羅場」だったろう。

 トキワ荘グループのマンガ家たちを育てた編集者としても知られる丸山昭(『トキワ荘実録』という著書もある)へのインタビューに、いちばん感銘を受けた。
 丸山の次の言葉が印象的だ。

「手塚さん、わがままだし、やきもち焼きだし、原稿遅いし、約束守んないし。『こんな野郎とは、1日でも早く別れたい』と思うけど、遠く離れるとね、富士山じゃないけど、その高さ、姿の美しさがわかる。手塚さんが手塚番を虜にするのはそこですね」



 著者は「手塚番」の経験こそないが、『ビッグコミック』編集長も務めたベテラン・マンガ編集者。
 マンガ編集を知り尽くした聞き手だからこそ、細部の深掘りが的確だ。インタビューイたちも著者に胸襟を開きやすい。

 惜しいのは、本書の基になった連載が行われた当時、伝説的手塚番・壁村耐三がすでに物故していたこと。ただし、「壁村伝説」の一端は、他のインタビューイの話の中に登場する。

 汗牛充棟の「手塚本」の中でも、トップクラスの資料的価値と読み応えを持つ好著。

手塚るみ子『定本 オサムシに伝えて』ほか



 今日は、手塚治虫先生の長女・手塚るみ子さんを取材。高田馬場の手塚プロダクションにて。

 女性誌の「父の日」用企画「父を語る」のための取材である。
 手塚さんの著書『定本 オサムシに伝えて』(立東舎文庫)、『こころにアトム』(カタログハウス)を読み、以前読んだ『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(水木悦子・赤塚りえ子との共著)を再読して、取材に臨む。

■関連エントリ→ 水木悦子・赤塚りえ子・手塚るみ子『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』

 初対面の手塚るみ子さんは、取材スタッフに細やかな配慮をされる、「サービス精神と気配りの人」であった。

 〝偉大すぎる父を持ったがゆえの葛藤〟は特殊であるとしても、るみ子さんが語る「父と娘」の物語は普遍的で、娘を持つ父でもある私は深く胸打たれた。

山上たつひこ『大阪弁の犬』



 山上たつひこ著『大阪弁の犬』(フリースタイル/1728円)読了。
 マンガ家・小説家の二足のわらじを履く著者の、自伝的エッセイ集である。

 マンガ家としての創作活動の舞台裏など、「マンガ史の生きた資料」としての内容を期待して手に取った。もちろんそういうエッセイもあるが、分量は全体の半分くらい。

 残りは、少年期の思い出や、いまの金沢での暮らしぶりを地元誌に連載したものなど、いかにもエッセイ然としたエッセイである。むしろ「随筆」と呼びたい感じの……。

 ただ、マンガとは直接関係のないその手のエッセイも、とてもよい。優れた小説家でもあるのだから当然だが、山上は文章がうまい。「名文家」と呼んでいい域に達している。
 印象に残った一節を引いてみよう。

 漫画家とは漫画という製品を作る小さな町工場の経営者であり、作者自身も背を丸め、製品の納期に向けて汗を流す虫のような労働者の一人なのである。漫画家の社会的地位が向上したといわれる今も作業の本質は変わらない。
 私小説作家が自己をなぞり懊悩を語る。しかしなあ、とぼくは泣き笑いの表情になる。太宰治がもし漫画家だったら、「生まれて、すみません」などとうそぶく前に「もう十分だけ寝かせてくれ」と言ったに違いない。
 一週間の平均睡眠時間が三十分と少し。一度あの眠さ、徹夜の辛さを体験してみなさいよ。懊悩も何も、あなた。(「あの頃ぼくは眠かった」より)



 マンガ・ネタのエッセイでは、山上がデビュー前、大阪の「日の丸文庫」で貸本漫画の編集者をしていたころのことを書いた一連の文章が、とくに面白い。貸本漫画末期の様相をヴィヴィッドに伝える、貴重な資料でもある。

 『喜劇新思想大系』や『がきデカ』などの舞台裏を綴ったエッセイも読み応えがあり、マンガ家・山上たつひこのファンなら必読の一冊になっている。

■関連エントリ 
山上たつひこ『追憶の夜』
山上たつひこ『天気晴朗なれども日は高し』ほか


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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