中山康樹ほか『ジャズ・ロックのおかげです』



 今日は、確定申告書を税務署に提出。

 〆切から約1ヶ月遅れただけ……というのは、私にしては上出来(笑)。
 還付金が返ってくる立場の場合、多少遅れてもノープロブレムなのである(ただし、収入がメチャ多くて追加の税金を払う立場=源泉徴収税額では足りない立場の場合、期限に遅れたら1日ごとに延滞金が発生し、どえらい目に遭う)。


 中山康樹、ピーター・バラカン、市川正二著『ジャズ・ロックのおかげです』(径書房)を読了。
 
 1994年刊。前から欲しかった本で、長らく入手困難(中古市場でも高値を呼んでいた)であったのだが、ようやく相場が下がって買えた。

 ジャズ・ロックの名盤を著者3人が各15枚ずつ選び、その解説をしていくパートがメインの本。
 そのパートの前に、ジャズ・ロックの定義をめぐって3人がてい談しているのだが、各人の定義が噛み合っておらず、微妙に食い違っている。

 ゆえに、3人が選ぶ名盤15枚のセレクトも、ほとんどは重なっていない。
 本書のカヴァーにも用いられているスティーヴ・マーカスの名盤『カウンツ・ロック・バンド』や、トニー・ウイリアムス・ライフタイムの『エマージェンシー!』などが、わずかに重なっているのみだ。

 そうしたズレ具合自体が、ジャズ・ロックという不思議であいまいなジャンルに対する一種の“批評”にもなっている。

 まあ、プログレッシブ・ロック、ブルース・ロックなどの他ジャンルも、その定義には相当あいまいな面があるわけだが、それにも増してジャズ・ロックはあいまい極まりないジャンルなのだ。

■関連エントリ→ 松井巧『ジャズ・ロック』『ブリティッシュ・ジャズ・ロック』

 3人の著者のうち、中山康樹の文章は終始おちゃらけていて、ひどい。しかも、笑いを狙った箇所がことごとくオヤジギャグ的ダダ滑りで、少しも笑えないし。
 2015年に亡くなった人なので死者に鞭打つようだが、「もっと真面目に書けや!」と言いたくなる。

 逆に、ピーター・バラカンのパートは、ジャズ・ロック黎明期のロンドンで青春を過ごした人ならではのヴィヴィッドな現場感覚に満ちており、面白い。「へーえ。イギリス人の目にはそう映るんだぁ」という驚きが随所にあるのだ。

橘川幸夫『ロッキング・オンの時代』



 橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』(晶文社/1728円)読了。

 1972年、渋谷陽一らとともにロック雑誌『ロッキング・オン』を創刊した著者が、創刊からの約10年間の舞台裏を綴った書。

 私自身が『ロッキング・オン』を読むようになったのは1979年のことで(いまはもう読んでいない)、創刊当時のことは「伝説」としてしか知らない。が、私が読み始めたころの同誌には、草創期の青臭さ・文学臭がまだ濃厚に残っていた。普通の商業ロック誌でしかない現在の「ロキノン」とは別物なのだ。

 少年時代に毎月買っては貪るように読んでいた、あのころの『ロッキング・オン』の空気感が本書にも濃密に流れていて、懐かしくなった。

 創刊当時の著者や渋谷は、まだ大学生。出版界の常識も何も知らないまま、試行錯誤の連続で新しいメディアを創り上げていくプロセスが、読んでいてすがすがしい。

 今の学生であれば、世の中の仕組みをそれなりに理解しているから、いろいろ始める前に事業計画を立てたり、出資を募ったりすることもあるのだろう。当時は、そんなことを考える学生はいなかった。まずやりたいものを作る。あとは、成り行きで動いていくしかない。



 当時のことは、渋谷の著書『音楽が終わった後に』でも章を割いて綴られていたが、橘川の視点から見るとまた違う景色が見えてくる。

 『ロッキング・オン』という一雑誌の歴史であると同時に、「ロックがいちばん熱かった時代、70年代カウンターカルチャーの息吹を伝えるノンフィクション」(版元の惹句)として、読み応えのある一冊。

 橘川は、読者からの投稿のみで成り立っていた「全面投稿雑誌」『ポンプ』の創刊者でもある。
 本書には、ソーシャルメディアの源流のような雑誌『ポンプ』の、草創期の舞台裏も綴られている。無名時代の岡崎京子(『ポンプ』にイラストを投稿していた)との思い出などは、大変興味深い。

 「参加型メディア」は今では「CGM(Consumer Generated Media)」と呼ばれ、一般的になったが、「参加型メディア」という言葉を使ったのは僕がはじめてだと思う。当時、言葉もなかったし、そういうコンセプトでメディアに向かっていた人は、他に知らない。


 
 ……と書いているとおり、橘川のメディアの未来を見通す慧眼は群を抜いていたと思う。

 これはうろ覚えで書くので細部は違っているかもしれないが、80年代初頭の『ロッキング・オン』で、橘川が打ち出した「ファクシミリ・マガジン」なるコンセプトに対し、渋谷陽一が批判をしていた。
 「ファクシミリ・マガジン」とは、“既成の雑誌の好きなページだけを読者が選んで買い、ファクスで送ってもらい、自分だけの一冊を作れる雑誌”……というアイデアだったと思う。
 それに対して渋谷は、「そういう“足し算の発想”ってダメだと思う」「いまあるもので間に合わせられるものって、けっきょく大したことはないんだ」などと批判したのだ。 

 だが、現時点から振り返れば、橘川の発想のほうが、ネット時代のメディアのありようを正確に予見していた。
 「note」のように欲しいコンテンツのみを個別に買ったり、好きなウェブページのみをブックマークして読んだりするという、いまではあたりまえのメディア享受の姿勢は、「ファクシミリ・マガジン」の発想そのものだ。
 ネットなど影も形もないころから、ネット時代のメディアを見通していた橘川の慧眼畏るべしである。

■関連エントリ→ 篠原章『日本ロック雑誌クロニクル』

柴那典『ヒットの崩壊』



 一昨日から昨日にかけて、取材で福島へ――。

 東日本大震災の関連取材。6年目の「3・11」を福島で過ごし、追悼式典にも参加して、深い感慨があった。

 また、一昨日は取材を終えてホテルに戻ると、「NHKスペシャル――15歳、故郷への旅 〜福島の子どもたちの一時帰宅〜」というのを放映しており、当の福島にいたものだからなおさら胸に迫り、じっと見入ってしまった。


 行き帰りの新幹線で、柴那典(とものり)著『ヒットの崩壊』(講談社現代新書/864円)を読了。

 過去10数年間に起きた音楽業界の構造転換を、音楽ジャーナリストの著者がさまざまな角度から浮き彫りにしていくルポルタージュ。
 
 「国民的ヒット曲」が生まれなくなり、CDが売れなくなった。そうした変化をふまえて『ヒットの崩壊』というタイトルになったのだろうが、タイトルから受ける印象よりもずっと明るい内容だ。
 CDが売れなくなったといっても、それは「音楽業界の崩壊」を意味せず、業界のありようが変わっただけであり、むしろ、いまの音楽業界は活気に満ちている――ということが書かれているからだ。

 なぜ「音楽は売れない」のに「バンドもアイドルも生き残る」時代になったのか?
 そこには、一つのシンプルな解答がある。
 音楽業界の構造が変わり、いまや音源よりも興行が重要な収益となっているから。つまり、CDよりもライブで稼ぐ時代になっているのだ。



 著者はそのような業界の大転換を、キーパーソンへのインタビューと、第一線の音楽ジャーナリストとしての経験・知識から、鮮やかに浮き彫りにしていく。文章は明晰で、論の進め方にもあいまいさがなく、大変わかりやすい本だ。
 私自身がヒット曲、ヒットチャートというものにほとんど興味がないせいもあって、目からウロコが落ちまくる内容であった。

高木壮太『新 荒唐無稽音楽事典』



 一年ぶりくらいに風邪を引いて、昨日一日ボーっと寝て過ごす。
 年明けからずっと忙しかったので、“体内サーモスタット”が働いたのであろう。
 「ルル」を飲んで一日布団の中にいたら、熱も下がり、今朝にはかなりスッキリしていた。


 昨日寝ていた間に、平山夢明著『いま、殺(や)りにゆきます RE-DUX(リダックス)』(光文社文庫/555円)と、高木壮太著『新 荒唐無稽音楽事典』(平凡社/1404円)を読了。

 『いま、殺りにゆきます』は、平山夢明の旧作。ストーカーなどに襲われた、おもに女性たちの恐怖体験を描いた短編を31編集めたものである。
  「恐怖実話集」と銘打たれているが、「どこまで実話なのかね?」と眉ツバで読みたくなる話ばかり。

 面白いものもあるが、全体にワンパターン(狂気の男が女性の部屋に侵入する話が多い)で、イマイチ。平山夢明は、『ダイナー』以降の近作のほうが優れていると思う。

 『新 荒唐無稽音楽事典』は、先週出たばかりの本。アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』の流れを汲む「パロディ事典」である。
 音楽にまつわるあらゆる単語・アーティスト名などの「事典」の体裁を取りながら、その内容はブラックユーモアとアイロニーに満ちており、一つとして真面目な定義や解説はない。

 著者の高木壮太自身がミュージシャンであり、ロックを中心に、あらゆるジャンルの音楽に造詣が深い。その造詣が、どの項目にもにじみ出ている。
 当然、本書を面白がるには、読者にもある程度の音楽知識が要求される。とはいえ、楽典的素養が必要というわけではない。ロックやジャズなどをかなりの年数聴き込んできた人なら、十分笑える本だ。

 たとえば、ジェフ・ベックについての項目は、次のような内容になっている。

 トーキング・モジュレーターの使いすぎで脳が壊れたために、一つのバンドで2枚以上アルバムが出せなくなった英国を代表するギター・ヒーロー。



 この記述で笑うためには、ジェフ・ベックのバンド遍歴や、トーキング・モジュレーター(いまは「トークボックス」という)の何たるかを知らなければならない。このように、一つひとつの項目で読者の音楽知識が試される、ハイブロウな笑いの書なのである。

 また、笑いにくるまれてはいるが、「一つの音楽批評として卓見だ」と感じさせる項目も多い。
 たとえば、「ブルーズロック」という項目は、次のようになっている。

 長髪の白人の若者が、黒人ブルーズのフィーリングを上手く表現できないので癇癪をおこし、髪を伸ばしてサイケデリックな服を着てやけくそになって大音量でブルーズをカバーした。そうしたら、それがなかなか良かった。何事も結果オーライである。



 高木壮太は「ツイッター界の鬼才」などと呼ばれている。たしかに、彼のツイッターは面白いと私も思う。
 「ツイッターから登場した文筆家」として、男は高木壮太、女は深爪が双璧であろう。

■関連エントリ→ 深爪『深爪式』

 なお、本書が『新 荒唐無稽音楽事典』というタイトルになっているのは、「焚書舎」なる版元から2014年に刊行された『荒唐無稽音楽事典』を、加筆修正したリニューアル版だから。
 音楽でいえば、インディーズで出した初期アルバムを、メジャーレーベルからリイシューするようなものである。

 じつは、私は旧版の『荒唐無稽音楽事典』を買おうと思っていたのだが、「ディスクユニオン」で現物を見たら、文庫本よりさらに小さいサイズでペラペラの「小冊子」的体裁で、「こんなチャチな本に1000円も出す価値はないなァ」と思い、購入を見合わせた経緯がある。

 今回の新版は、さすがに名門・平凡社の本だけあって、装丁やレイアウトなども立派なものだ。旧版を買わなくてよかった。
 
  

松任谷正隆『僕の音楽キャリア全部話します』



 松任谷正隆著『僕の音楽キャリア全部話します――1971/Takuro Yoshida▶2016/Yumi Matsutoya』(新潮社/1512円)読了。

 松任谷由実の伴侶にして、日本を代表するアレンジャーの一人である著者が、自らの45年に及ぶ音楽キャリアを語り下ろした本。
 インタビュー/構成は、著者と親しい音楽ライター・神館(こうだて)和典が担当している。

 当然、ユーミンとの共同作業(アルバム作り、コンサート・プロデュースなど)が話の中心になる。
 私はユーミンに思い入れがないので、その分つまらないかな、と危惧したのだが、十分面白く読めた。ユーミン以外のアーティストとの仕事の話もたくさん出てくるし、個人史がそのままJ-POP史になるような立ち位置の人だからである。

 考えてみれば、私は少年時代に、著者がDJをしていたNHK-FMの番組「サウンドストリート」をよく聴いていたし(著者の担当は月曜日だったか)、彼がそこでかけた曲を通じて音楽の好みが広がった部分もある。その意味ではわりと近しい存在なのだ。

 意外な裏話満載。たとえば――。

 私は著者の唯一のソロアルバム『夜の旅人』(1975年)が大好きで、ジャパニーズAORの名盤だと思っているが、意外にもあのアルバムは契約消化のために渋々作ったもので、「一時期は恥ずかしくて、廃盤にしてくれと、僕自身がレコード会社に頼んでいたほど」不本意な面があったのだという。

 また、ユーミンのアルバムがいちばん売れていた時期は、じつは著者が音楽作りに悩み、悪戦苦闘していた時期なのだという。次のような赤裸々な一節がある。

 由実さんのアルバムでは『ダイアモンドダストが消えぬまに』から五枚、組んではいけない人と一緒に音楽制作をしてしまいました。シンクラヴィアのプログラマーです。



 人間というのは、売れ始めると、その喜びよりも、落ちる怖さに意識がいくものです。だから『LOVE WARS』あたりは生きた心地がしなかった。



 ほかにも、「松任谷由実」として初(つまり結婚後初)のアルバム『紅雀』が受けた酷評に悩んだことなど、「成功の頂点にあるように見える人にも、やはり苦悩はあるのだなァ」と感慨深いくだりが多い。
 
 ユーミンの好きな人なら必読の一冊だろう。

■関連エントリ→ 井上鑑『僕の音、僕の庭――鑑式音楽アレンジ論』


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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