栗山英樹『栗山魂』ほか



 昨日は札幌ドームで、日本ハムファイターズの栗山英樹監督を取材。

 周知のとおり、日本ハムは大谷翔平、中田翔ら主力選手に故障続出で、昨日まで悪夢の6連敗。
 しかも、「7連敗をどう免れるか」という大事な試合の前の練習の合間に、試合と関係のない内容のインタビューを行うという、タイミング的にかなりシビアなもの。
 取材スタッフ一同、「監督がピリピリしていたらどうしよう」と緊張して臨んだ。

 が、ドームの「インタビュールーム」(という部屋がある)にやってきた栗山監督は、終始ていねいに、にこやかに質問に答えてくださった。
 監督就任以前に長くスポーツキャスターをされていたこともあり、取材陣への細やかな気配りもさすがであった。

 栗山監督の近著『栗山魂』(河出書房新社/1404円)、『「最高のチーム」の作り方』(KKベストセラーズ/1458円)と、これまでの取材記事多数を読んで、取材に臨む。

 このうち『栗山魂』は、「14歳の世渡り術」シリーズの一冊で、中学生くらいの子どもたちに向けて書かれた自伝。大人が読んでも十分感動的な内容である。

 インタビューのあとには練習の様子も見させていただき、その臨場感に興奮。
 そして、昨夜の試合ではやっと日ハムが連敗を脱出。私も、我がことのように胸をなでおろしたのであった。
 

こだま『夫のちんぽが入らない』



 こだま著『夫のちんぽが入らない』(扶桑社/1404円)読了。

 話題のベストセラーである。
 タイトルの図抜けたインパクトがアイキャッチとなった面は当然あるにせよ、内容がよいからこそベストセラーになったのだと思う。

 ある一組の夫婦の、交際開始から現在までの20年の歳月を、妻の視点から綴った実話。
 エッセイと呼んでもよいが、私はむしろ私小説として優れた内容だと思った。

 ヘタな専業小説家がかなわないほど文章は巧みで、ちりばめられた自虐的ユーモアが心地よい。
 何より、主人公夫婦の“世間の片隅にひっそりと生きている”という佇まいが、妙に胸に迫る。

 私たちには親しい友人がおらず、のめり込むような趣味もなく、お互いが唯一の友人で、恋人だった。



 この一節を読んで思い出したのは、名作『無能の人』(つげ義春)の、「考えてみると私たちって親しい友達もないし親兄弟とも疎遠だし、なんだか世の中から孤立して、この広い宇宙に三人だけみたい」というセリフだ。
 つげ義春の世界に共感できる人なら、本作にも共鳴できるだろう。

 また、著者たちの置かれた状況(=「入らない」という状況)は特殊であるにせよ、もう一つ枠を広げて、たんに「セックスレスの夫婦」ならばたくさんいるわけで、その人たちにとっても共感を覚える内容だろう。だからこそのベストセラーなのだと思う。

中川淳一郎『バカざんまい』



 中川淳一郎著『バカざんまい』(新潮新書/821円)読了。

 『週刊新潮』連載のコラムの書籍化。
 世にはびこるさまざまなバカを「鋭いツッコミで成敗していく」「現代日本バカ見本帳」とのことだが、あまり笑えなかったし、痛快でもなかった。

 私は中川淳一郎がこれまでに出してきた、“ネットにはびこるバカども”を笑い飛ばす本はわりと好きだ。

■関連エントリ 
中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの』
中川淳一郎『ネットのバカ』
中川淳一郎『ウェブを炎上させるイタい人たち』

 中川はネットニュース編集者であり、ネット言論については専門家だから、ネットに的を絞るかぎり、プロならではの鋭い視点が感じられた。
 しかし、本書のように社会全般にフィールドを広げると、たちまち底の浅さが露呈してしまう。

 中には面白いコラムもあるが(本書でもネット・ネタの回はわりと面白い)、首をかしげる主張も目立つ。

 たとえば、「『行列』を持ち上げるバカ」という項目があって、新製品を買うために行列する人々などを揶揄しているのだが、著者が自明の前提のように書いている次のことが、私には理解できない。

 行列に関しても「好きなものに情熱を注ぐのは悪くないネ」「新しいものに関心を示すのは見上げたもんゼ」みたいに持てはやす風潮があります。



 行列する人=善意の人という世間の了解、本当にそれでいいの?



 そんな「風潮」や「世間の了解」が、いったいどこにあるのだろう? むしろ世間全般が、行列する人たちに対して冷ややかなのでは?

 このコラムにかぎらず、“連載のネタに困って、無理くり「バカ」を作り上げているような苦しさ”が目立つ本である。

 この手の本では、呉智英の80年代のベストセラー『バカにつける薬』が最も優れていたと思う。
 同書の冒頭に収められたコラム「折々のバカ」は、「折々のうた」を模したスタイルでさまざまな「バカ」をやり玉に上げたものだが、見開き2ページのコラム(元は『噂の眞相』に連載されたもの)の中に見事な「文の芸」があり、感心させられた。

 本書にも呉智英に対する言及があるし、他の週刊誌では中川と呉智英が週替りでコラムを連載しているから、中川も当然『バカにつける薬』は読んでいるだろう。

 呉智英の「洗練された悪口の芸」を手本に、中川はもう少し芸を磨くべきだと思う。 

西原理恵子『洗えば使える 泥名言』



 西原理恵子著『洗えば使える 泥名言』(文藝春秋/1080円)読了。

 4年前の『生きる悪知恵』などと同系列の本である。つまり、サイバラの波瀾万丈の半生をふまえ、読者にある種の人生訓を説くトークエッセイなのだ。
 構成(=話を聞いて文章にまとめる)は、サイバラと縁深い新保信長が担当している。

■関連エントリ→ 西原理恵子『生きる悪知恵』

 タイトルどおり、名言集の体裁を取っている。サイバラが過去に誰かから言われた言葉などを一つひとつ俎上に載せ、その言葉をなぜ自分が心に刻んでいるかを語る、というスタイルなのだ。

 「人生訓の名言集」といっても、サイバラのことだから、名経営者とかが書く類書のようになるはずもない。下ネタ満載、四文字言葉もバリバリに駆使しながら、ゲスい人生訓、ゲスい名言を語っている。
 私のツボにハマった名言を挙げると……。


歴代の女が泣いてわめいて角取ってくれた中古の男がちょうどええ。



 歴代パートナーとくり返し衝突し、バツがついたりしている人のほうが、その反省をふまえて丸くなってるから、つきあいやすい。ゆえに、頑張って「角取ってくれた」前カノたちに感謝すべき、というのだ。なるほどなるほど。

 あと、これは「名言」ではないが、次の一節に爆笑した。

 テレビの仕事とかでよくあったのが、さくらももこが断った仕事が私に来るのね。で、私が断るとくらたま(倉田真由美)に行くという。だから、マンガ読んでる人たちにとっては全然違うジャンルでも、テレビの人とかは誰でもいいんだな、というのは思いましたね。
 「誰でもいいんだったら、どうして私がさくらももこになれねぇんだ」って思うんですけど、「見てる人は見てるんですよ」って言われて「そうですね」みたいな。やっぱり邪悪なものがにじみ出てるんですかねぇ……。



 わりと面白い本だったけど、名著だった『生きる悪知恵』に比べると、内容が薄い。1時間かからずに読めてしまうくらいだ。右ページには「名言」がデッカイ字で書かれているだけの場合が多いし。
 これは、文庫オリジナルにして500円くらいで出すべき本だったと思う。

カレー沢薫『ブスの本懐』



 昨日は、都内某所で打ち合わせが一件。
 行き帰りの電車で、カレー沢薫著『ブスの本懐』(太田出版/1080円)を読了。

 「cakes(ケイクス)」連載のコラム「ブス図鑑」の単行本化である。
 
 カレー沢薫はマンガ家兼コラムニストだが、私はマンガ家としてよりも、むしろコラムニストとして評価している。
 そして、旧著のコラム集『負ける技術』『もっと負ける技術』でいちばん笑えたのは、「ブスネタ」のコラムであった。
 ゆえに、ブスネタのコラムのみを集めた本書が面白くないはずがない……と思って予約購入したもの。

 


 “ブスに厳しいブス”カレー沢薫がすべての迷える女性に捧げる、逆さに歩んだ「美女への道」



 ……と、帯の惹句にはあるが、実際のカレー沢薫は意外にも「ふんわり美人」であるらしい。
 まあ、「ブスが書いている」ということにしなければ、とてもこんな本は出せまい。ましてや、男のコラムニストが書いたら取り返しのつかないことになろう。

 内容は、半ば期待どおりだが、半ばガッカリ。
 途中までは快調で大いに笑えたのだが、終盤になるとさすがにネタ切れしてきた様子で、明らかにボルテージが下がってしまっているのだ。
 ブスネタのコラムだけで本1冊を書くこと自体、かなり無理があるわけだから、途中の失速もむべなるかなではある。

 とはいえ、値段分はしっかり楽しめるし、カレー沢薫のコラムが好きな人なら必読・必携の1冊といえよう。

 以下、笑えた一節を例として引用。

 日本は天然物志向が強いのか、整形美人は叩かれがちである。
 それを言うなら、こっちだって「産地直送もぎたてブス」として、良い値がついてもいい気がするのだが、大体「規格外品」でワゴンに乗せられてしまうのだ。



 ブスが食生活に気をつけると、「スタイルがよく、肌が綺麗で天使の輪を持つブス」という、単純にブスと呼ばれた方が良かったんじゃないか、というような評価を下されてしまうわけだが、逆に「肌と髪が汚く、新弟子検査の基準をクリアした体型のブス」というのは、鬼に金棒というよりも、金棒を持った鬼が逃げるレベルになる。



 この本の最初に「『美人は3日で飽きるが、ブスは3日で慣れる』は、どう考えてもブスが考えた言葉」と書いたが、同じくエスプリの効いたブスが考えたと思われる言葉に「美人は全部、同じに見える」というものがある。
(中略)
 その点、ブスはすべて一点もの、オーダーメイドで作られた感がある。顔のパーツ一つひとつはそんなに悪くないのに、それらが絶妙な配置によりブスになっている職人技の光るブスもいる。おそらく1ミリずれたら普通の顔になってしまう。そんな繊細な世界なのだ。
 つまり、バリエーションだけならブスは美人に圧勝なのである。



 ところで、帯に載っている読者からの感想コメントが、なにやら“女性向け自己啓発書”の感想のようで、ちょっと違和感。

「美人は大変そう、ブスで良かった!と思った。学生時代にこの本に出会いたかった」(40代/女性)

「ありのままの自分で良いのだ、と思える一冊です」(30代/主婦)



 という具合。「いやいや、これってそういうマジメな本じゃないから」と言いたくなる。
 まあ、このコメント自体がヒネリにヒネったギャグなのかもしれないが……。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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