末井昭『結婚』



 末井昭著『結婚』(平凡社/1512円)読了。

 3年前の著書『自殺』に続いて、2文字のシンプルなタイトルのエッセイ集である。

 『自殺』は、少年時代に母親を自殺で喪った末井が、自殺をテーマに綴ったエッセイ集であった。それに対して本書は、末井の2度の結婚生活のことを中心にしている。
 『自殺』も『結婚』も自伝的エッセイであり、重複する話も少なくない。また、末井の現在の伴侶である写真家・神蔵美子の自伝的写真集『たまもの』に出てくる話もある。

■関連エントリ
末井昭『自殺』
神蔵美子『たまもの』

 なので、末井の著書をずっと読んでいる読者にとってはやや既視感のある本だが、同じエピソードでも取り上げる角度は異なるので、十分楽しめる。

 本書は、微温的な「結婚の心構え」などとはかけ離れた内容である。なにしろ、末井も神蔵美子も、世間の一般的常識にはあまり頓着しない破格の人物だから。

 本書の元になったウェブ連載の執筆依頼を受けたとき、末井は「『読んだら絶対結婚したくなくなる本』だったら書きたい」と思ったのだという。

 たしかに、エッセイの中で回想される著者の両親の結婚生活などは、すさまじいものだ。

 父親は食欲と性欲だけで生きている下等動物のような人間でした。



 とか、すごいインパクトのフレーズが頻出する。

 また、末井の最初の結婚生活が破綻していくプロセスも、自らの古傷を刃物でえぐるように容赦なく書かれている。

 妻をしあわせにしようと思ってがむしゃらに働いたのですが、その結果、妻に嘘ばかり言うようになっていました。妻がしあわせを感じていたのは、ひょっとして僕が失業してアパートでゴロゴロしていたころだったかもしれません。お金はなかったけど、いつも一緒にいて、僕を疑うことは一切なかったはずですから。



 ダブル不倫の果てに再婚した神蔵美子との結婚生活も、いまは落ち着いているようだが、最初のころは精神的修羅場の連続である。

 ……と、そのような内容でありながら、読後には結婚の肯定的側面のほうに目が向く。「あとがき」に次のような一節があることは、象徴的だ。

 人は変わっていけること、結婚はそのチャンスだということを、この本を書いて改めて認識したように思います。



 巻末の高橋源一郎(結婚5回・離婚4回のベテラン!)との対談で、高橋は末井昭の文章を絶賛している。
 たしかに、強烈なエピソードを淡々としたユーモアにくるんで綴る、末井ならではの文章である。

■ウェブ連載の第1回のみ、いまも読める→ 結婚 Marriage 末井昭
  

田中慎弥『孤独論』



 田中慎弥著『孤独論――逃げよ、生きよ』(徳間書店/1080円)読了。

 15年間のひきこもり生活を経て作家デビューをした著者が、孤独の価値と意義に焦点を絞った人生論。
 
 小説家に限らず、物書きというのはみんな孤独な稼業である。孤独に対する耐性がない人は、そもそも物書きに向いていない。
 私も一人で過ごすことがまったく苦痛ではないし、だからこそライターになったのだ。

 だから、著者が力説する孤独の価値については、深く同意する。
 ただ、孤独の持つプラス面に光を当てた人生論なら、近年になってたくさん出ているわけで(※)、これは屋上屋を架す本でしかないと思う。

※『孤独の価値』(森博嗣)、『孤独のチカラ』(齋藤孝)、『孤独が人生を豊かにする』(中谷彰宏)、『孤独のすすめ』(五木寛之)、『孤独がきみを強くする』(岡本太郎)などなど……。

 本自体も200ページに満たない薄いものだし、内容も薄くて、30分で読めてしまう。 
 人生論としても意外に陳腐で、「小説家ならもっと気の利いたことが言えないものか」と思ってしまった。
 一般的な人生論よりも、著者自身のひきこもり時代の思いなどをもっと掘り下げてほしかった。

 もっとも、本書はライターが著者の話を聞き書きでまとめたものなのだそうで、それもつまらなさの一因かもしれないが。

 作家の書いた人生論というと、丸山健二の80年代の著作『メッセージ――告白的青春論』などは、じつに面白い本であった。小説家の余技としても、あの程度の水準はほしいものである。
 

平田俊子『低反発枕草子』



 今日は、時々やっている「世界の女性大使」というシリーズ記事の仕事で、マケドニア共和国駐日大使のアンドリヤナ・ツヴェトコビッチさんを取材。品川区のマケドニア大使館にて。

 マケドニアと聞いたとき、アレクサンダー大王を生んだ古代マケドニア王国しか思い浮かばなかった私。
 だが、現代のマケドニアは、旧ユーゴスラビア崩壊後の1991年に独立した、バルカン半島の新しい国だ。

 日本に大使館を開設したのもつい最近で、アンドリヤナさんは初代駐日大使である。まだ30代半ばで、日本に100人以上いる駐日大使のうち、最年少だという。

 アンドリヤナさんは、元々は日本映画の研究者兼映画監督で、日本大学大学院で博士号をとった。流暢な日本語を操り、京都大学で准教授を務めたこともある。日本文化に通暁している点などから、初代大使として白羽の矢が立ったのだ。

■参考→ 『ジャパンタイムズ』掲載の、アンドリヤナ大使へのインタビュー記事

「うーむ、世界にはすごい人材がいるものだなァ」と、感服させられる取材であった。


 行き帰りの電車で、平田俊子著『低反発枕草子』(幻戯書房/2592円)を読了。詩人で、小説なども書く著者によるエッセイ集。

 すでに還暦を超えているわりに、著者の文章はすこぶる若々しい。30代だと言われても信じられる感じ。
 詩人ならではの鋭敏・繊細な言語感覚が随所で光る、楽しいユーモア・エッセイである。タイトルからして面白い。

 歌人の穂村弘や翻訳家の岸本佐知子など、著者よりやや若いユーモア・エッセイの書き手と比べると、「妄想力」がいま一つというか、ぶっ飛んだ感覚はあまりない。
 が、どうということのない四季折々の日常を、読者が愉しめるエッセイに仕立て上げるテクニックは、端倪すべからざるものだ。

 それこそ、日本の随筆の原点たる『枕草子』を、21世紀に移植したような趣。爆笑ではなく微苦笑を誘う上品で淡いユーモアが、全編に横溢している。

 どことなく『枕草子』っぽい一節を、例として引いておく。

 夏の間は見るのも嫌だった毛布が、恋しくてたまらない季節になった。この世に毛布があってよかった。毛布なしでは生きていけない。毎晩ベッドに入るたびにそう思う。夏の間親しかったタオルケットのことは、とうに忘却のかなたである。今にして思えばあいつは軽くて薄っぺらなヤツだった。温もりを知らないヤツだった。
 毛布は違う。温もりだけから出来ている。どこをいつ触っても温かい。機嫌が悪くてきょうは冷たいなんてことはない。


  

栗山英樹『栗山魂』ほか



 昨日は札幌ドームで、日本ハムファイターズの栗山英樹監督を取材。

 周知のとおり、日本ハムは大谷翔平、中田翔ら主力選手に故障続出で、昨日まで悪夢の6連敗。
 しかも、「7連敗をどう免れるか」という大事な試合の前の練習の合間に、試合と関係のない内容のインタビューを行うという、タイミング的にかなりシビアなもの。
 取材スタッフ一同、「監督がピリピリしていたらどうしよう」と緊張して臨んだ。

 が、ドームの「インタビュールーム」(という部屋がある)にやってきた栗山監督は、終始ていねいに、にこやかに質問に答えてくださった。
 監督就任以前に長くスポーツキャスターをされていたこともあり、取材陣への細やかな気配りもさすがであった。

 栗山監督の近著『栗山魂』(河出書房新社/1404円)、『「最高のチーム」の作り方』(KKベストセラーズ/1458円)と、これまでの取材記事多数を読んで、取材に臨む。

 このうち『栗山魂』は、「14歳の世渡り術」シリーズの一冊で、中学生くらいの子どもたちに向けて書かれた自伝。大人が読んでも十分感動的な内容である。

 インタビューのあとには練習の様子も見させていただき、その臨場感に興奮。
 そして、昨夜の試合ではやっと日ハムが連敗を脱出。私も、我がことのように胸をなでおろしたのであった。
 

こだま『夫のちんぽが入らない』



 こだま著『夫のちんぽが入らない』(扶桑社/1404円)読了。

 話題のベストセラーである。
 タイトルの図抜けたインパクトがアイキャッチとなった面は当然あるにせよ、内容がよいからこそベストセラーになったのだと思う。

 ある一組の夫婦の、交際開始から現在までの20年の歳月を、妻の視点から綴った実話。
 エッセイと呼んでもよいが、私はむしろ私小説として優れた内容だと思った。

 ヘタな専業小説家がかなわないほど文章は巧みで、ちりばめられた自虐的ユーモアが心地よい。
 何より、主人公夫婦の“世間の片隅にひっそりと生きている”という佇まいが、妙に胸に迫る。

 私たちには親しい友人がおらず、のめり込むような趣味もなく、お互いが唯一の友人で、恋人だった。



 この一節を読んで思い出したのは、名作『無能の人』(つげ義春)の、「考えてみると私たちって親しい友達もないし親兄弟とも疎遠だし、なんだか世の中から孤立して、この広い宇宙に三人だけみたい」というセリフだ。
 つげ義春の世界に共感できる人なら、本作にも共鳴できるだろう。

 また、著者たちの置かれた状況(=「入らない」という状況)は特殊であるにせよ、もう一つ枠を広げて、たんに「セックスレスの夫婦」ならばたくさんいるわけで、その人たちにとっても共感を覚える内容だろう。だからこそのベストセラーなのだと思う。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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