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フリーライター前原政之の、感想日記(本・映画・音楽・マンガetc.)+日常雑記

『ダークナイト』

ダークナイトダークナイト
(2008/08/06)
サントラ

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 立川シネマシティで『ダークナイト』を観た。言わずと知れた、バットマン・シリーズ最新作である。

 公式サイト→ http://wwws.warnerbros.co.jp/thedarkknight/

 私はアメコミにまったく興味がないし、バットマン・シリーズもティム・バートンが監督した第一作しか観ていない。しかし、この 『ダークナイト』、私のウェブ巡回先の目利きの方々がこぞって絶賛(粉川哲夫氏、竹熊健太郎氏、「超映画批評」の前田有一氏など)しているので、「これは観ておかないと……」と思ったのだった。

 評判どおりの傑作。アメコミを題材にして、ここまでダークでシリアスな映画が生まれるとは思わなかった。最初から最後まで重々しい緊張感が張りつめ、それでいて娯楽アクション映画としても一級品に仕上がっている。

 ジョーカー役のヒース・レジャーが公開前に急死したためか、テレビ等の宣伝ではジョーカーにウエイトが置かれており、まるでジョーカーが主人公のように思える。
 しかし、実際に観てみればそんなことはなく、バットマンとジョーカーは同等の重みをもって映画の中でせめぎ合っている。ダークな味わいではあるものの、単純に「ヒーローもの」として観ても、バットマンのカッコよさは十分堪能できる作品だ。

 ジョーカーは、金銭にすら興味がなく、ただ悪のための悪を行いつづける、いわぱ「ピュアな悪」「全き悪」として造型されている。
 自らの保身など微塵も考えない、型破りな悪の権化・ジョーカー。彼はバットマンや副主人公ともいうべき検事ハービー・デントに、「お前たちが拠って立つ正義は、ほんとうに正義なのか?」と問いつめるような挑発を次々と仕掛ける。その挑発に、バットマンの正義は大きく揺らぐ。その揺らぎようがドラマの駆動力となる映画だ。

 粉川哲夫氏は本作のレビューで「善悪の問題をこれほど深くあつかった映画作品はいままでなかったと言えるほどの傑作だ」と書いていたが、同感である。この『ダークナイト』と比較して論ずるべきは、過去のバットマン・シリーズより、むしろ我が国が誇る名作マンガ『デビルマン』(永井豪)だろう。

 映像もものすごい。闇に沈むゴッサムシティにバットマンがビルの上から舞い降りるそのワンカットだけでも、もううっとりするほど美しい。
 そして、ジョーカーとバットマンの闘いのなかでビルや車が次々破壊されていくプロセス自体、えもいわれぬ悲壮美に満ち、しかも苦いカタルシスがある。随所にちりばめられた、街の闇を切り裂く炎と爆発――その「破滅の美」を味わうためだけにでも、映画館に足を運ぶ価値がある。

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『パリ、ジュテーム』

パリ、ジュテーム プレミアム・エディションパリ、ジュテーム プレミアム・エディション
(2007/10/24)
ナタリー・ポートマン;イライジャ・ウッド;ジュリエット・ビノシュ;スティーヴ・ブシェミ;ウィレム・デフォ

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 ケーブルテレビで録画しておいた『パリ、ジュテーム』を観た。

 2006年のフランス映画。各国の一流監督(コーエン兄弟、ウォルター・サレス、ガス・ヴァン・サントなど)とスター俳優たちがパリに集い、パリ20区のうち18の区をそれぞれ舞台にした約5分のショート・ムーヴィーを撮る、という趣向のオムニバスだ。

 タイトルが示すとおり、作品の共通テーマは「愛」。パリの街角でくり広げられる、18の出会いと別れの物語だ。
 中には「ボーイ・ミーツ・ボーイ」の話もあったり、異文化交流の形を取った出会いもあったりする。ホラー仕立てのものもあればファンタジー仕立てもあり、5分間長廻しで撮ったものもある。短い枠の中で、それぞれの監督が個性を競い合っている。

 玉石混淆ではあるけれど、総じてよくできた、オシャレで気の利いたオムニバス。さすがにどの監督も、これ見よがしに名所を映すような「観光映画」にはしておらず、作家性の高いショート・ムーヴィー集として愉しめる。

 コーエン兄弟のものは、スティーヴ・ブシェミを主演に据え、むしろ「愛の街、パリ」を痛烈におちょくる内容。さすがの毒気とブラック・ユーモアだ。
 ほかの作品では、シルヴァン・ショメ(アニメの監督として有名で、これは初の実写作品)が撮ったパントマイム・ネタのものと、トム・ティクヴァ監督(『パフューム ある人殺しの物語』の人)のものがよかった。
 あと、『ベッカムに恋して』のグリンダー・チャダが撮った一編では、ヘジャブをかぶって登場するムスリムのヒロインがすこぶるチャーミング。

↓公開時の予告編



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『鉄コン筋クリート』

鉄コン筋クリート (通常版)鉄コン筋クリート (通常版)
(2007/06/27)
二宮和也蒼井優

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 ケーブルテレビで録画しておいた『鉄コン筋クリート』を観た。松本大洋の同名マンガのアニメ化。監督はアメリカ人のマイケル・アリアスだが、日本のアニメである。主題歌はアジカンの「或る街の群青」。

 これまでに見たこともないようなアニメだった。恐るべき独創性。
 松本大洋のマンガといえばこれまでに『ピンポン』や『青い春』が実写映画化されていて、私はそれぞれ好きだが、たぶん、松本ファンにとっていちばん納得のいく映画化はこれではないだろうか。

 とにかく、映像としてスゴイ。アニメーション技術的にどうこうということはよくわからないのだが、絵としての構図と動きが、旧来的な“アニメ文法”とはまったくかけ離れた感じで、すこぶる斬新。舞台となる「宝町」を、上へ下へ、右へ左へと「神の目」のごとくダイナミックに飛び回るカメラワークが快感だ。
 CGを駆使しながらも過度に無機質にならず、手描きのあたたかさを感じさせるところもよい。

 松本大洋のマンガから飛び出してきたような「不気味カワイイ」キャラクターたちが、精緻に描きこまれた無国籍タウンの中を駆け回る。キッチュな色遣いも絶妙。

 
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『サイドカーに犬』

サイドカーに犬サイドカーに犬
(2007/12/21)
竹内結子

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 『サイドカーに犬』をケーブルテレビで鑑賞。長島有のデビュー作(文學界新人賞受賞作)を根岸吉太郎が監督した邦画である。

 原作は、私にとっては2番目に好きな長嶋作品(1番はやっぱり「猛スピードで母は」)である。その私から見ても、十分納得のいく映画化であった。
 とくに、ヒロインの竹内結子と長女・薫役の松本花奈は原作のイメージにぴったりで、絶妙のキャスティング。2人とも、演技も素晴らしかった。

 そもそも原作が地味な小説だから、当然この映画版もものすごく地味だ。名作でも傑作でもないけれど、「愛すべき小品」という趣。
 小学生の目から見た夏休みの空気感が見事に映像に焼きつけられていて、この季節に観るにふさわしい作品だ。その空気感だけで、私はこの映画を買う。

 長嶋有の「猛スピードで母は」と「サイドカーに犬」については、主人公が小学生であることもあって、「まるで児童文学みたいな小説」という揶揄がよくなされた。しかし私は、「児童文学みたい」であることはこの2作の短所ではなく、むしろ長所だと思う。
 長嶋有ほど「子どもの目線」を自らのものとして小説を書ける作家もめったにいないのであって、たとえば本格的な児童文学を手がけたとしても、彼ならきっといい作品を書くにちがいない。

 そういえば、長嶋の『ジャージの二人』も映画化されたそうだ。それなら「猛スピードで母は」を映画化すればよいのに……。


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『クローサー』

クローサークローサー
(2004/08/04)
スー・チー

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 『クローサー』をDVDで観た。2002年の香港・米国合作映画。
 台湾のスー・チー、香港のカレン・モク、中国のヴィッキー・チャオ――アジアの人気女優3人がゴージャスに競演したアクション大作だ。
 
 『チャーリーズ・エンジェル』をもっとシリアスにして、『マトリックス』的な電脳風味(ただしSFではない)と、『シティーハンター』や『キル・ビル』のテイストも加えてみました、という感じの映画。

 ストーリーはアホくさいといえばアホくさいのだが、純度100%の娯楽映画なのだから野暮な文句は言いっこなし。めっぽう美しい3人の女優が、美脚を見せつけたりするチラリズムのサービスをちりばめつつ、全編にわたって華麗なアクションをくり広げる。それだけで「おなかいっぱい」になる作品。つかの間の娯楽としてハイクオリティーである。

 アクション・シーンがどこをとってもスタイリッシュで、見ごたえ十分。


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『ぐるりのこと。』

 渋谷のシネマライズで『ぐるりのこと。』を観た。

 公式サイト→ http://www.gururinokoto.jp/

 いまや夏川結衣、南果歩、麻生久美子を抜いて「日本一の薄幸顔美人」の座に輝いた(私の中で)木村多江の映画初主演作。
 彼女が演じるのは、赤ん坊を喪った悲しみからうつ病になってしまう妻。ううむ、一世一代のハマリ役ですな。

 絶対観たいと思って前売り券を買っておいた映画。期待を上回る素晴らしい作品だった。

 木村多江は小さな出版社の編集者で、夫のリリー・フランキーは法廷画家。編集の現場とか法廷の雰囲気とかが、すこぶるリアル。登場するマスコミ人すべてに血が通っている感じ。「あー、いるいる、こういう人」とうなずく場面が山ほどあるのだ。

 1990年代初頭から2000年代初頭までの、10年間にわたる夫婦愛のドラマ。その背後に、夫が法廷画家として描く重大事件の被告たちの姿を通して、日本の10年間が浮き彫りにされていく。

 夫婦愛のドラマといっても少しもベタベタしていないし、クサくない。淡いユーモアをちりばめて、重い題材を軽やかに描いている。重さと軽さの配合具合が絶妙。

 木村多江ももちろんよかったが、それ以上に目を瞠ったのはリリー・フランキーの演技力。主演男優賞ものの名演である。
 序盤とクライマックスに、かなりの長廻しで夫婦のやりとりを撮った場面が出てくる。その2つのシーンが映画全体のキモといってもよいのだが、そこでの彼の間の取り方など、もう絶品。
 いやー、びっくりした。「作家の片手間仕事」の域をはるかに超えている。リリー・フランキーは画才も文才もあるうえに演技もうまいとは……。「多才」とはこういう人のためにある言葉だなあ。

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 「この映画の空気感、何かに似てるなあ」と考えていて、ふと思い当たった。高村光太郎の詩「梅酒」だ。

 

死んだ智恵子が造つておいた瓶の梅酒は
十年の重みにどんより澱んで光を葆み、
いま琥珀の杯に凝つて玉のやうだ。
(中略)
おのれのあたまの壊れる不安に脅かされ、
もうぢき駄目になると思ふ悲に
智恵子は身のまはりの始末をした。
七年の狂気は死んで終つた。
厨に見つけたこの梅酒の芳りある甘さを
わたしはしづかにしづかに味はふ。
狂瀾怒濤の世界の叫も
この一瞬を犯しがたい。
あはれな一個の生命を正視する時、
世界はただこれを遠巻にする。
夜風も絶えた。



 いうまでもなく、『智恵子抄』の中の一編。集中最も名高い「レモン哀歌」や、「東京に空が無い」の一節で知られる「あどけない話」より、私はこの詩がいちばん好きだ。
 
 『ぐるりのこと。』は、心の病の世界から蘇生する“もう1人の智恵子”の物語なのかもしれない。夫婦が2人とも美大卒で、妻がふたたび絵筆をもつことによって癒されていくという設定も、監督が『智恵子抄』を意識していたがゆえではないか(光太郎は彫刻家でもあり、智恵子は画家だった。為念)。

 「狂瀾怒濤の世界の叫」にあたるのは、映画の中で裁かれる狂った殺人者たちの姿。だが、その「狂瀾怒濤」も、夫婦の静かな絆を「犯しがたい」のだ。 
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『僕らのミライへ逆回転』

Be Kind RewindBe Kind Rewind
(2008/01/22)
Original Soundtrack

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 渋谷のショウゲート試写室で、『僕らのミライへ逆回転』の試写を観た。晩夏公開予定のアメリカ映画。

 公式サイト→  http://www.gyakukaiten.jp/

 原題は「BE KIND REWIND」(=「巻き戻してご返却ください」の意)。
 少し前に町山智浩氏がブログで紹介しているのを読んで、「おお、これはメチャメチャ面白そうだ!」と試写を楽しみにしていた映画である。

 ジャック・ブラック主演のコメディで、監督は『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリー。この組み合わせだけでもワクワクするではないか。

 ニュージャージーの古びたレンタルビデオ屋「BE KIND REWIND」が舞台。このDVD時代にVHSのビデオしか置いていない、冴えない店だ。
 店の店員マイクを演じるのがモス・デフ(ラッパー兼俳優)で、その幼なじみのトラブル・メーカー、ジェリーがジャック・ブラック。

 ある日、発電所で感電して身体に強力な磁気を帯びたジェリーが、店のビデオをすべて消去してしまうという事件が起きる。
 2人はその窮地をしのぐため、とんでもない弥縫策を考える。消えてしまった旧作・名作を、自作自演で“リメイク”してビデオに収め、それをレンタルすることにしたのだ。

 2人が“主演”するチープな手作りリメイク映画は、意外にも常連客にバカウケ。口コミで評判を呼び、寂れた店は時ならぬ大繁盛、客が長蛇の列をなす。

 だが、こすっからいハリウッドのビジネスマンが噂を聞きつけ、著作権侵害を理由に手作りビデオの廃棄と巨額の損害賠償を求めてくる。その新たな窮地を乗り越えるため、2人が考えた打開策とは……。

 ……と、いうような映画。ダンボールや稚拙なイラストなどの手作りSFXを駆使した「リメイク」のプロセスが、馬鹿馬鹿しくもおかしい。

 町山氏が紹介していた裏話によれば、ゴンドリーはこの映画の中で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も“リメイク”させる予定だったが、監督のロバート・ゼメキスに許可をもらえなかったのだという。
 ハハア、なるほど。『僕らのミライへ逆回転』という邦題には、そのことへの皮肉が隠されているわけか。「わかる人にだけわかる」隠し味にニヤリ。

 ジャック・ブラック主演のコメディとしては、あの傑作『スクール・オブ・ロック』に勝るとも劣らない出来だ。

 この映画をアメリカ人の二線級が監督したなら、『ナッティ・プロフェッサー』みたいなたんなるB級「おバカ映画」に終わったことだろう。
 だが、そこはフランス出身の鬼才ゴンドリーのこと、そんな単純な作品にはしない。「おバカ映画」としても十分楽しめる一方で、二重三重の深みを用意しているのだ。

 ネタバレになるので詳述できないが、終盤に自然な転調があって、ラストはなんと感涙の大団円を迎える。そして、そのラストから改めて映画全体を振り返ったとき、ジェリーとマイクが悪戦苦闘して手作りリメイクをしていく過程の数々が、新たな輝きをもって観る者の心に迫ってくる。

 これは、かつてない角度から作られた「メタ映画」(映画作りそのものをテーマにした映画)であり、「映画本来の楽しさとは何か?」を観客に問いかける作品なのである。
 「メタ映画」というとゴダールの小難しい作品などがまず思い浮かぶが、この映画はそれをB級コメディの形式でやったところが斬新だ。 

 「映画への愛」を通奏低音とした、愛すべきおバカ映画。
 くわえて、ジャズ・ピアニストのファッツ・ウォーラーがストーリーの重要な鍵となるため、「音楽への愛」にも満ちている。音楽にも造詣の深いゴンドリーの映画らしく、サントラの選曲も抜群のセンス。

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