『麻雀放浪記2020』



 『麻雀放浪記2020』をNetflixで観た。



 ピエール瀧逮捕問題に巻き込まれたり、何かと不遇な映画である。
 あまり期待しないで観たのがよかったのか、けっこう面白く感じた。

 突然起きてあっという間に日本が敗けた戦争のせいで、2020年の東京五輪が中止になってしまった至近未来の東京が舞台。
 そこに『麻雀放浪記』の主人公「坊や哲」が1945年からタイムスリップしてくるという、奇想天外な設定だ。

 その設定は事前にネット記事で読んで知っていたため、「わりと政治的な主張が盛り込まれているのかな」と思っていた。
 実際に観てみれば、戦争については二、三のセリフで触れられるのみで、内容にはほとんど関係なし(日本がどの国に敗けたのかさえ語られない)。政治色など薬にしたくもない。

 東京五輪についても同様だ。
 「五輪が中止になったから、代わりに麻雀五輪を開催する」というフザけた展開(笑)になってはいるが、それ以外は五輪関係なし。

 阿佐田哲也の小説を和田誠が映画化した名作『麻雀放浪記』へのオマージュが随所にあるものの(ドサ健や出目徳も登場)、全体にコメディ寄りに振っているし、オリジナルとはまったく別物だ。

 ただ、作り手側が中途半端に照れたりせず、「真剣に遊んでいる」姿勢は好ましいと思った。
 坊や哲(斎藤工)が2020年の東京で「ふんどしの哲」として人気者になるとか(笑)、「ううむ……、振り切ってるなァ」という感じ。

 私自身は麻雀をやったことがないし、ルールも知らないので、私には気付けなかった微妙なくすぐりもいろいろあるのだと思う。
 その意味で、麻雀好きの人が観たらもっと楽しめるかも。

『こんな夜更けにバナナかよ』



 『こんな夜更けにバナナかよ』を映像配信で観た。



 大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞をダブル受賞した、渡辺一史の傑作ノンフィクションの映画化。
 難病「筋ジストロフィー」と闘う鹿野靖明(1959~2002)と、彼を支えるボランティアたちの日常を描いている。

 脚本(橋本裕志)がすこぶるウェルメイドである。最初から最後まで、少しも退屈がない。

 こんなふうに、障害者の日常を笑いをまじえて描く映画というのは、日本映画にはこれまで例がなかったのではないか(洋画なら『最強のふたり』などがあるが)。

 これまで、日本の映画やテレビドラマではもっぱら、身障者は哀れみの対象として、また、清らかで欲望も悪意も持たない、いわば〝純粋弱者〟として描かれてきたからである(邦画のわずかな例外は『ジョゼと虎と魚たち』くらいか)。

 しかし、自分では寝返りすら打てない重度身障者であっても、欲望もあれば悪意もある。あたりまえのことだ。本作はその「あたりまえ」を、軽快かつリアルに描いている。

 身障者を描いた映像作品としては、1979年放映の山田太一脚本作品「車輪の一歩」(連続ドラマ『男たちの旅路』の一話)が、画期的であった。
 それまでの「欲望も悪意も持たない清らかな身障者」像から離れた、等身大の身障者像が初めてテレビドラマに描かれた作品だったのだ。



 『こんな夜更けにバナナかよ』は、「車輪の一歩」から40年の時を経て、〝映像に描かれた身障者像〟の期を画した作品だと思う。

『乾いた花』



 『乾いた花』を映像配信で観た。



 篠田正浩による、石原慎太郎の短編小説の映画化。
 和製フィルム・ノワールであり、〝ヌーヴェルヴァーグなヤクザ映画〟である。タイトルだけは知っていたが、初めて観た。

 1964年――つまり、前の東京オリンピックの年に作られた映画。
 いまから55年も前の作品なのに、すこぶるクールでスタイリッシュ。封切り当時に観ていたら、さぞ斬新に思えたことだろう。

 モノクロの画面に躍動する、光と影のダイナミックなコントラスト――。暗い夜の場面が多いのに、ヴィヴィッドな色彩感覚が感じられる。撮影が素晴らしい。

 組のために人を殺して服役し、出所してきたばかりのヤクザ・村木(池部良)と、賭場に現れては後先考えない金の張り方をする謎めいた若い女・冴子(加賀まりこ)。2人の出会いと別れの物語だ。

 賭博のスリルくらいにしか生の実感を感じられない2人が、少しずつ破滅に向けて歩を進めていくプロセスが、物語の主軸となる。

 一般的なヤクザ映画のようなカタルシスはなく、むしろ奈落の底に落ちていくようなデカダンスに満ちた、奇妙な味わいのヤクザ映画。

 「手本引き」など、ヤクザが仕切る賭博をじっくりと描いたギャンブル映画としても貴重だ。
 ハードボイルドな雰囲気を全身から発散する池部良がやたらとカッコよく、「妖精」と呼ばれていた若き日の加賀まりこがチャーミング。

 マーティン・スコセッシやフランシス・コッポラにも影響を与えた映画だそうだ。
 また、関川夏央原作の一連のハードボイルド劇画(『真夜中のイヌ』や『事件屋稼業』『海景酒店』など)も、明らかにこの映画に影響を受けている。
 たとえば、『事件屋稼業』にも「乾いた花」と題した一編があった(ストーリーは別物)。また、ハードボイルド短編集『海景酒店』所収の「東京式殺人」は、賭場のシーンやラストシーンなどが、明らかに『乾いた花』へのオマージュとして作られている。

 「東京式殺人」は当時、フランス人アラン・ソーモンが書いた脚本を関川が潤色したという形で発表されたが、ソーモンは架空の人物であることを、最近関川が明かした。

『ギャングース』



 『ギャングース』をDVDで観た。
 鈴木大介(ルポライター)・肥谷圭介(マンガ家)コンビによる同名マンガの映画化。



 『ギャングース』というタイトルは、ギャングとマングースの合成語である。
 マングースが毒蛇と戦うように、ギャング(犯罪者集団)専門のタタキ(窃盗・強盗)を稼業とする主人公3人組を指している。
 ギャングたちは、タタキ被害に遭っても警察に届けることができない。ゆえにターゲットをそこに絞っているわけだが、当然、捕まれば警察に逮捕される以上の制裁が待っている。

 極貧の崩壊家庭に育った少年院上がりで、犯罪で食っていく以外に道がなかった主人公3人――。
 彼らは、鈴木大介のルポ『家のない少年たち』(マンガ『ギャングース』がヒットしたため、文庫版では『ギャングース・ファイル』と改題)に登場する実在の少年たちをモデルにしている。

■関連エントリ→ 鈴木大介『家のない少年たち』

 触法少年少女など、社会の底辺に生きる者たちに取材した鈴木の一連のルポは、彼にしか書けない社会的意義の高いものだと思う。
 ルポがベースになっているからこそ、この映画の犯罪描写、裏社会の人間たちの描写はすこぶるリアルだ。

 ストーリーの核となるのは振り込め詐欺集団だが(主人公3人組はその「上がり」を強奪しようとする)、それも、振り込め詐欺グループに取材した鈴木の著作『老人喰い』を参考にしている。

■関連エントリ→ 鈴木大介『老人喰い』

 金子ノブアキ演ずる振り込め詐欺グループの番頭が、部下たちに振り込め詐欺の社会的意義(!)を熱弁するシーンがあるが、ここなどは『老人喰い』そのままだ。



 主人公たちがくり返すタタキは、もちろん犯罪である。それでも、観ているうちにだんだん彼らに感情移入し、応援したくなってくる。原作のマンガや鈴木大介のルポのファンにも、十分納得のいく映画化だと思う。

 役者たちも揃って好演。とくに、3人組の一人・カズキを演じた加藤諒は、「彼以外にはありえない」と思わせるハマりっぷりだ。

 振り込め詐欺集団のボスを演じたロック・アーティストのMIYAVIも、強い印象を残す。
 MIYAVIは、ハリウッド映画『キングコング:髑髏島の巨神』でも日本兵役を好演していた。今後、俳優としても十分やっていけるだろう。

 ただ、元「AKB48」の篠田麻里子が、刺身のツマみたいな脇役をさせられているのが、なんとも不憫。かりにも元トップアイドルなのに、こんなもったいない使い方をしてはイカンと思う。

『菊とギロチン』



 『菊とギロチン』をDVDで観た。

 昨年度キネ旬ベストテンで、日本映画第2位になった作品(1位は『万引き家族』)。

 同年のベストテンでは同じ瀬々敬久監督の『友罪』が8位にランクインしたが、私は『友罪』にはまったく感心しなかった。この『菊とギロチン』のほうがずっといいと思う。

 関東大震災直後の日本を舞台に、当時実在した女相撲の力士たちと、テロをくり返したアナキスト集団・ギロチン社の面々が「もしも出会っていたら……」という設定で紡がれた物語。この設定がすこぶる魅力的である。

 当初は、「女相撲とアナキスト」という副題がついていたという。「菊とギロチン」の「菊」は、直接にはヒロインとなる女相撲の力士「花菊」を指すが、同時に天皇も意味するダブルミーニングなのだろう(「天皇陛下万歳!」を叫ぶシーンが何度も登場する)。

 女相撲の話だけでも十分成立していた気もするし、女相撲とギロチン社の接合にはやや〝無理やり感〟がある。
 それでも、印象的なシーンも多く、全編に熱い情念がみなぎっていて、見ごたえある力作だ。

 夭折したロックスターのようなイメージで描かれた大杉栄など、なかなかよい。大杉の登場シーンをもっと増やしてもよかったのではないか。

 ただ、いまどき3時間超はちょっと長すぎ。
いろんな要素を詰め込みすぎな感もあり、もっと刈り込んで2時間以内に絞ったらよかったと思う。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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