竹熊健太郎『フリーランス、40歳の壁』



 竹熊健太郎著『フリーランス、40歳の壁――自由業者は、どうして40歳から仕事が減るのか?』(ダイヤモンド社/1512円)読了。

 書名の「40歳の壁」とは、副題のとおり、〝自由業者は40歳を境に仕事依頼が減り、キャリアの危機が訪れやすい〟傾向のこと。
 私も以前、自分のサイトに「ライター『40歳の壁』」という文章を書いたことがある。

■関連エントリ→ ライター「40歳の壁」

 この文章でも紹介した竹熊のインタビュー記事(「人材バンクネット」に載った「40代で訪れた人生最大の危機」)が本書のきっかけになったのかと思ったら、そうではなかった。
 吉田豪の『サブカル・スーパースター鬱伝』が「サブカル(者)は40歳を超えたら鬱になる」というテーマで書かれていたのに対し、竹熊が次のように応答し、「自由業40歳の壁」をテーマに連ツイしたことが、きっかけになったのだという。



■関連エントリ→ 吉田豪『サブカル・スーパースター鬱伝』

 仕事柄と年齢柄、私にとっては読まずにはいられない本であり、予約注文してゲット。
 昨日Amazonから届いたのでさっそく一気読みしたが、共感しすぎて息苦しくなるほど、共感ポイントに満ちた本であった。

 版元がダイヤモンド社であるため、ビジネス書っぽい体裁になっているし、ある種のビジネス書として読めないこともない。各界のフリーランサーが、40歳を過ぎても生き残るためのヒントが、随所にちりばめられてはいるからだ。
 が、ビジネス書としてよりも、「読み物」としての色合いのほうがはるかに強い。

 本書はまず、竹熊自身がどのように「40歳の壁」にぶつかり、どう乗り越えてきたかの赤裸々な記録である。そして、合間に入る5人の自由業者(田中圭一、都築響一、FROGMAN、とみさわ昭仁、杉森昌武)へのインタビューも、それぞれ「私はいかにして壁を乗り越えたか?」の記録になっている。

 竹熊自身をはじめ、50代中心の人選であるため、40代以下の人よりも、むしろ私のような50代フリーランサーのほうが、深く共感できる内容だ。

 自身が脳梗塞で倒れたときのことなど、深刻な話も多いのに、それを楽しめる読み物に仕立てるあたり、竹熊の書き手としての才能だろう。

 フリーの物書き/クリエイターとして40歳以後も生き残っていくために、肝に銘じるべき名言も随所にある。たとえば――。

 フリーが生きていく要諦は、なにかの仕事が当たったら、そこから「自分の二番煎じ」を続けることに耐えられるかです。二番煎じ、三番煎じを平然とやれて、しかも(ここが難しいのですが)「マンネリ」だと読者に思わせないことが肝心です。



 結局、最初の数年間にどういう人脈を築き上げたかで、フリーの進路は決まってしまうのです。



 私はフリーの身にもかかわらず、「営業」をしたことがほとんどありません。
 フリーランスの最大の営業は、仕事そのものです。版元編集者は、そのフリーが実際に行った仕事を見て、次の仕事を発注するのです。向こうから来る仕事であれば、意に沿わない仕事は、断ることもできます。持ち込みだと、まさかこちらから断るわけにはいきません。


 
■関連エントリ
竹熊健太郎『篦棒な人々』
竹熊健太郎『ゴルゴ13はいつ終わるのか?』
竹熊健太郎『マンガ原稿料はなぜ安いのか?』

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リーフ・ハウンド『グロウワーズ・オブ・マッシュルーム』



 リーフ・ハウンドの『グロウワーズ・オブ・マッシュルーム』をヘビロ中。

 リーフ・ハウンドは、1971年にこのアルバム一枚のみを遺して解散した、伝説のブリティッシュ・ハードロック・バンド。
 ……だったのだが、2006年にヴォーカルのピーター・フレンチが若手ミュージシャンたちを集めて再結成。2007年にはニューアルバム『Unleashed』も発表。12年には初来日公演も行い、そのライヴ盤まで出ている。

 私はまったく知らなかったバンド。ディスク・ガイド本『ブルース・ロック』に紹介されていたのを読んで興味を持ち、You Tubeで検索して聴いてみたらよかったので、アルバムを輸入盤で買ってみた。

■関連エントリ→ 白谷潔弘 ・マッド矢野『ブルース・ロック』

 サウンドはブルージーなハードロックで、スピード感よりもけだるいヘヴィネスで聴かせる感じ。渋い。
 初期のツェッペリン(ファースト、セカンドあたり)にもちょっと似ているが、全体にツェッペリンよりもB級感が濃厚だ。
 ただ、そのB級感がむしろ捨てがたい魅力になっている。ピーター・フレンチのハスキーなヴォーカルにも迫力と色気があって、大スターにならなかったのが不思議。


↑かなり初期ツェッペリンぽい「Stray」。

 スローナンバーなどはかなりブルース色濃厚で、男臭い哀愁味がなかなか。
 私の知らないいいバンドがまだたくさんあるものだなァ、と改めて思った。

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櫻井武『睡眠の科学』『〈眠り〉をめぐるミステリー』ほか



 昨日は、筑波大学の「国際統合睡眠医科学研究機構(I I IS)」に赴き、副機構長である櫻井武教授を取材。
 「I I IS」(「トリプルアイエス」と発音すると関係者ぽくてカッコイイw)は、日本が誇る世界トップレベルの睡眠研究拠点である。 

 「つくばエクスプレス」が開業してから、つくばには行きやすくなった。東京の西の端・立川から行っても、つくばまで2時間かからないのだ。

 櫻井教授の著書『睡眠の科学 改訂新版』(講談社ブルーバックス)、『〈眠り〉をめぐるミステリー』(NHK出版新書)、『最新の睡眠科学が証明する 必ず眠れるとっておきの秘訣!』(山と渓谷社)の3冊を読んで、取材に臨む。

 3冊とも、最前線の睡眠科学をふまえた一般書だが、それぞれ角度が異なる。
 『睡眠の科学』は、睡眠科学の概説書。『〈眠り〉をめぐるミステリー』は、「読み物」色が濃い科学ノンフィクション。『必ず眠れるとっておきの秘訣!』は、よく眠るための実用書である。

 うち1冊だけ読むなら『睡眠の科学』であろうが、『必ず眠れるとっておきの秘訣!』も、たんなる実用書ではなく、科学ノンフィクションとしても楽しめる。

 3冊とも、睡眠についての誤った常識が覆され、目からウロコが落ちまくる。
 一例を挙げよう。「満腹になると眠くなるのは、消化のために胃腸に血液が集まって脳に行かなくなるから」という、一見もっともらしい〝常識〟が、次のように否定されている。

 脳は全身でもっとも血液が必要な臓器であり、脳への血流はつねに、できるかぎり確保されるように調節されている。たとえば大出血があった場合も、消化管や筋肉、皮膚などの血流を少なくして脳に集める機能がある。ましてや消化のために脳の血流を犠牲にすることなどありえないのだ。



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佐藤雅彦・菅俊一・高橋秀明『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』



 原作・佐藤雅彦&菅俊一、画・高橋秀明の『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』(マガジンハウス/1620円)を読んだ。仕事の資料として。

 タイトルのとおり、マンガの形を取った行動経済学入門である。
 経済学と心理学を融合させ、人間が時に取る非合理的な経済行動の背景を、心理学的観点から読み解く学問である「行動経済学」。そのおもなキーワードを取り上げ、一つのキーワードにつき4ページのマンガにしている。

 「ヘンテコノミクス」とは、行動経済学で俎上に載る非合理的経済行動が、ある意味で奇妙であることの謂だ。
 全23話のマンガは毎回、「――人間とは、かくもヘンテコな生きものなり。」という言葉でしめくくられる。

 取り上げられている言葉は、アンダーマイニング効果、メンタル・アカウンティング、極端回避性、代表性ヒューリスティック、双曲割引、おとり効果、感応度逓減性などなど。

 マンガを担当している高橋秀明は、広告の世界のアートディレクター/クリエイティブディレクターで、マンガを描くのはこれが初めてだという。
 昭和40年代くらいの古き良きギャグマンガを模した、シンプルで味のあるタッチは見事なもの。初めて描いたマンガとはとても思えない。

 何より、行動経済学入門として非常によくできていて、取り上げられたキーワードの意味がすんなり理解できるし、行動経済学の面白さもよくわかる(ただし、「マンガとして面白い」かというと、そこは微妙)。

 元は『ブルータス』に連載されたものだから、当然、大人が読んでもためになる。一方、小学校高学年くらいから読んでも大丈夫なくらいわかりやすい。

 佐藤雅彦といえば、竹中平蔵との対談形式で作った『経済ってそういうことだったのか会議』は、平明な経済学入門として出色であった(日本の格差を拡大させた竹中がキライな人も多いだろうが、それはさておき)。
 その佐藤が、こんどは行動経済学入門の傑作を作ったのである。

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伊図透『おんさのひびき』『辺境で』



 先日新装版で読んだ『ミツバチのキス』が大変気に入ったので、伊図透の『おんさのひびき』(ビームコミックス/新装版上・下巻)と、『辺境で 伊図透作品集』(ビームコミックス)を購入して読んだ。

 『おんさのひびき』は、小学6年生の男女3人を主人公にした、思春期の淡い物語。コミックスの帯の惹句では「ビルドゥングス・ロマン」ということになっているが、そういう印象はあまり受けなった。

 松本大洋の『Sunny』みたいな作品を期待したのだが、ちょっと違う。全体に説明不足でわかりにくい。「わかりやすい感動」をあえて避けて、ひとヒネリしてしまう感じというか。

 『辺境で』は、同人誌として発表された初期作品などを含む、初の短編集。



 玉石混交ではあるが、表題作の『辺境で』は素晴らしい。

 伊図透の何がすごいかというと、何よりも画面の演出力だと思う。「絵はすごくうまいのに、演出は下手だ」というマンガ家もいるが、伊図透は絵に味があってうまいうえに演出力が卓越している。
 ここぞという見せ場のコマにさしかかると、そのコマが音を立てて目に飛び込んでくるような印象があるのだ。

 私は『おんさのひびき』のストーリーに感動できなかったが、それでも、この作品はマンガとしては優れている。ページをめくった瞬間にハッとするような、何度も見返したくなるような、印象的なシーン/コマに満ちている。

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手塚るみ子『定本 オサムシに伝えて』ほか



 今日は、手塚治虫先生の長女・手塚るみ子さんを取材。高田馬場の手塚プロダクションにて。

 女性誌の「父の日」用企画「父を語る」のための取材である。
 手塚さんの著書『定本 オサムシに伝えて』(立東舎文庫)、『こころにアトム』(カタログハウス)を読み、以前読んだ『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(水木悦子・赤塚りえ子との共著)を再読して、取材に臨む。

■関連エントリ→ 水木悦子・赤塚りえ子・手塚るみ子『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』

 初対面の手塚るみ子さんは、取材スタッフに細やかな配慮をされる、「サービス精神と気配りの人」であった。

 〝偉大すぎる父を持ったがゆえの葛藤〟は特殊であるとしても、るみ子さんが語る「父と娘」の物語は普遍的で、娘を持つ父でもある私は深く胸打たれた。

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中島岳志『保守と立憲』



 中島岳志著『保守と立憲――世界によって私が変えられないために』(スタンド・ブックス/1944円)読了。
 ほかに、大著『アジア主義』(潮文庫)の数章も拾い読み。仕事の資料として。

 過去数年間にさまざまなメディアに寄せた政治時評的文章を集めたもの(一部書き下ろし)。
 安倍首相再登板後の数年間と重なる時期に書かれたものだから、安倍政権批判の文章も多いのだが、保守主義者としての目線から書かれているので、一部サヨクによるエキセントリックな安倍批判よりはずっと読みやすい。

 左翼の人たちがリベラルを名乗るようになってから生じている「ねじれ」をていねいに解きほぐし、本来は「保守こそリベラル」なのだという解説が、わかりやすくて素晴らしい。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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