岩明均・室井大資『レイリ』



 原作・岩明均、漫画・室井大資の『レイリ』(少年チャンピオン・コミックス エクストラ)を、既刊1~3巻を買って一気読み。
 『寄生獣』『ヒストリエ』の岩明均が初めて原作に回り、『秋津』や『イヌジニン ―犬神人―』 の室井大資に作画をまかせた戦国活劇である。

 いやー、これはメチャメチャ面白い。

 主人公・レイリ(零里)は、百姓の娘でありながら、「長篠の戦い」(1575年)の落ち武者狩りの巻き添えで両親と弟を惨殺されてしまう。
 そのとき自らも殺されかけるが、敗走中だった武将・岡部丹波守元信(今川家家臣を経て、甲斐武田家家臣)に救われ、彼に育てられる。

 戦に出て、恩人「丹波さま」のために戦い、家族を惨殺した敵方(織田・徳川連合軍)の武士を一人でも多く殺したい。そして、最後は討ち死にして家族の元に行きたい。一日も早く……。そんな狂おしい思いを胸に、剣術の稽古に明け暮れるレイリ。
 4年後――。天賦の才が開花し、15歳のレイリは雑兵たちが誰もかなわないほどの腕になっていた。

 だが、レイリの顔が武田勝頼の嫡男・信勝(当時13歳)に瓜二つであったことから、彼女は男のなりをして信勝の影武者となることを命じられる。

 ……という感じのストーリー。

 滅法強い美少女剣士を主人公に据えている点は、小山ゆうの『あずみ』を彷彿とさせる。
 『あずみ』は長期連載の過程で似たような話のくり返しになり、だんだんテンションが下がっていった。対照的に、『レイリ』のストーリーは緊密で、遠からぬクライマックスに向けて少しずつ盛り上がっていく感じがたまらない。

 また、とっくに誰かが指摘しているだろうが、レイリと信勝の関係は、『キングダム』(原泰久)における信と政(のちの秦の始皇帝)の関係とオーバーラップする。
 「『キングダム』と『あずみ』を足して2で割ったようなマンガが作れないかなァ」というのが、最初の着想だったのかもしれない。もちろん、岩明均のオリジナリティで染め上げられているので、パクリ感は微塵もないが……。

 岩明も『寄生獣』のころと比べたら絵がうまくなったが、それでも絵の魅力で売るタイプのマンガ家ではないから、原作に徹したことは正解だと思う。
 とくに、随所で展開されるスピード感みなぎる戦闘シーンは、岩明の絵柄では迫力不足だったろう。

 「死にたがりの美少女剣士」という主人公造型のキャラ立ち感がハンパない。印象的な場面もたくさんある。岩明のストーリーテリングはさすがだ。

 私たちは、現在のストーリーのわずか3年後に甲斐武田家が滅亡し、最後の当主となった信勝が16歳で自害して果てることを知っている。
 そのとき、レイリはどう死ぬのか? あるいはどう生きるのか? これから目が離せないマンガである。

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コロシアム『ヴァレンタイン組曲』ほか



 イギリスのジャズ・ロック・グループ、コロシアムの『コロシアム・ファースト・アルバム(For Those Who Are About to Die We Salute You) 』と、セカンドに当たる『ヴァレンタイン組曲(Valentyne Suite)』を1枚にまとめた2in1のCDを購入。ヘビロ中。
 2枚とも1969年発表のアルバムなのだが、「この時代にこんなすごいことをやっていたのか」と驚かされる。

 コロシアムといえば、この2枚のあとに出た『COLOSSEUM LIVE』(1971年)が、名盤として挙げられることが多い。



 が、私はどうもこのライヴ盤が肌に合わない。野太い声を張り上げるクリス・ファーロウのヴォーカルが、オペラ歌手が無理してロック風に歌っているみたいな感じで、暑苦しくて苦手なのである。

 ファースト/セカンド時点ではまだファーロウが参加しておらず、ギターのジェイムス・リザーランドがヴォーカルも兼ねている。
 リザーランドのヴォーカルはヘタウマ風で、歌唱力ではファーロウの圧勝だろう。だが、うまければいいというもんでもない。枯れた味わいで目立たないリザーランドのヴォーカルのほうが、むしろ他のメンバーの演奏力が際立つと思うのだ。

 一口にジャズ・ロックと言っても、どんなジャズとどんなロックを混ぜ合わせるのかによって、出てくる音はまるで違ってくる。
 コロシアムの場合、ブルース・ロックにオーソドックスなモダン・ジャズを混ぜ合わせ、スパイスとしてプログレも加えました……という趣。
 ジャズ的要素をおもに司るのがディック・ヘクストール=スミスのサックスで、プログレ的要素をおもに司るのがデイヴ・グリーンスレイドのオルガンである。
 ゆえに、ブルース・ロックが好きな人なら抵抗なく楽しめるだろう。クリームとか、けっこう近い。クリームにサックスとオルガンを加えたようなサウンドといってもよい(※)。

※……と書いたあと、松井巧著『ジャズ・ロック』のコロシアムの項を読み直したら、“コロシアムはリーダーのジョン・ハイズマンが、クリームに対抗意識を燃やして結成したバンド”という主旨の記述があり、「やっぱり」と思った。


↑『ヴァレンタイン組曲』のタイトル・チューン。緻密に構築された名曲。

 コロシアム解散後、リーダーで凄腕ドラマーのジョン・ハイズマンがギタリストのゲイリー・ムーアらと結成したのが「コロシアムⅡ」である。
 このコロシアムⅡは、同じジャズ・ロックでもフュージョン寄り、インスト・ロック寄りで、ブルース色は希薄。コロシアムとコロシアムⅡは、まったく別物と捉えたほうがいい(私はコロシアムⅡも好きだが)。

 私は『コロシアム・ファースト・アルバム』のほうは初めて聴いたが、これもなかなかよい。名盤の誉れ高い『ヴァレンタイン組曲』にひけを取らない出来だ。

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宝木範義『パリ物語』



 月に一度くらいの割合で、仕事が詰まっているのに、まったく原稿を書く気にならない日がやってくる。
 私にとっては昨日がその日で、何もせずにダラダラと過ごしてしまった。

 昔はそんなときに「ああ、丸一日無駄にしてしまった。俺はなんてダメな奴なんだ」と落ち込んだりしたものだが、最近は「女性の生理のようなもの」だと思うことにしている。
 そのココロは、「あってあたりまえだし、ネガティブに捉える必要もない」ということ。「あ、今月は今日きちゃったかァ。しょうがないな。今日はダラダラしよう」という感じ。

 「何もせずにダラダラする日」も、人間にとっては時に必要であり、大切な「人生のすき間」なのである。
 そうした「すき間」をもうけないまま、長年ギチギチの状態で生きていると、心や体の病の引き金になりかねないのだと思う(と、怠けの自己弁護)。


 宝木範義(たからぎ・のりよし)著『パリ物語』(講談社学術文庫)読了。仕事の資料として。

 タイトルやカバーの印象は、「パリに旅する人のための旅行ガイド的エッセイ」という感じだ。じっさい、そのような読み方・用い方もできる本だが、内容はもっと高尚で文化的である。

 これは何より、「芸術の都」としてのパリの歴史をたどった文化史であり、とくに美術史にウェートが置かれた内容なのだ。
 しかも、「パリの文化史」が編年的に、無味乾燥に記録されるのではなく、薫り高いエッセイとして綴られている。
 元は新潮選書の一冊だったそうだが、講談社学術文庫に収められるにふさわしい本だ。

 著者は、世田谷美術館学芸部長なども務めた美術評論家。『ウィーン物語』という、同系列の著書もある。

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PANTA & HALのアルバムがPrime Musicに!



 Amazonのプライム会員なら無料で利用できるPrime Musicに、PANTA の主要作品がほぼすべてアップされた。頭脳警察時代からソロ作品、PANTA & HAL名義の作品まで。

 私は、77年から81年までの短期間活動したPANTA & HALこそ、当時の日本で最高のロックバンドだったと思う(いや、いまの時点で考えても、彼らを超えるバンドはいないのでは?)。
 PANTA & HALが残した3作のアルバム(『マラッカ』『1980X』と、ライヴ盤『TKO NIGHT LIGHT』)は、いずれも日本ロック史上に残る傑作だ。

 全編に「溢れるラディカリズムとロマンティシズム」(これはPANTAの詩集『ナイフ』の帯の惹句)――。
 楽曲の素晴らしさ、「HAL」の演奏の質の高さ(ギターの1人は若き日の今剛だったりする)、PANTAの精悍なヴォーカルの魅力、圧倒的なオリジナリティ……どこをとっても非の打ち所がない。

 もちろんソロ名義の『クリスタルナハト』や『R☆E☆D』なども素晴らしいのだが、私はPANTA & HAL時代がいちばん好きだ。

 PANTAを知らない若いロックファンは、この機会にぜひ聴いてほしい。

 なお、PANTAの諸作と一緒に、10年早すぎた隠れた名バンド「トルネード竜巻」の全作品(2枚のフルアルバム、3枚のミニアルバム、4枚のシングル)もPrime Musicにアップされた。これもAmazonグッジョブ!
 トルネード竜巻も忘れ去られるには惜しいバンドなので、これを機に新しいファンが増えるとよいと思う。

■関連エントリ→ トルネード竜巻『アラートボックス』ほか

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『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』



 『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を映像配信で観た。



 ランサム・リグズのファンタジー小説を、ティム・バートン監督が映画化したもの。
 なんだか日本ではあまり話題にならなかった気がするが、観てみたら大変面白かった。

 グロい場面は少しあるが、エロ要素は皆無なので、子どもも一緒に観られる映画。それでいて、随所にティム・バートンらしい毒気もたっぷりあって、十分大人の鑑賞に堪える。

 空気より軽くて浮かび上がってしまう少女(飛んでいってしまわないように重い鉛の靴を履いている)、お腹の中にたくさんの蜂を飼っている少年、手から火を放つ少女など、それぞれ異能力を持つ子どもたちが、共に暮らす屋敷――。
 時間を操る能力を持つ「ミス・ペレグリン」はその屋敷の主人で、子どもたちの護り人である。

 屋敷は1943年9月3日にドイツ空軍の空襲を受けて破壊され、子どもたちは全員が死んだ。しかし、同じ時間をくり返す「ループ」と呼ばれる状態を作ることによって、空襲のあった日を永遠にくり返し、彼らは子どものままそこで暮らしている。

 現代の少年である主人公ジェイクは、かつてその屋敷の住人であったという祖父の死の謎を解くため、ウェールズにある屋敷に向かう。
 廃墟にしか見えない屋敷にジェイクが足を踏み入れると、そこは1943年9月3日の世界だった。

 ……という感じのストーリー。
 ミス・ペレグリンと、異能力を持った子どもたちのキャラクター造型が素晴らしく魅力的だ。心地よい酩酊感に満ちた、極彩色の悪夢という趣。

 異能力を持った子どもたちを「狩り」、その目玉を貪り食うことで人間の姿を取り戻そうとする「ホロー(悪の異能者)」たちと、ミス・ペレグリンたちとの戦いがストーリーの核になる。その戦いの中で子どもたちがそれぞれの異能力を活かしていくあたり、ファンタジーの王道という感じだ。
 ティム・バートン作品が好きな人なら楽しめる映画だと思う。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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