矢野顕子『音楽堂』

2010年02月10日 17:42

音楽堂音楽堂
(2010/02/10)
矢野顕子

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 予約しておいた矢野顕子のニュー・アルバム『音楽堂』(ヤマハ/3150円)が届いた。本日発売の、ピアノ弾き語りシリーズ第4弾。
 私にとって、予約してまで新作を買うアーティストは、いまでは矢野顕子ただ1人である。

 矢野顕子のピアノ弾き語りシリーズは、これまでに『SUPER FOLK SONG』(1992)、『Piano Nightly』(1995)、『Home Girl Journey』(2000)の3作が出ている(番外編的に『出前コンサート』のライヴ盤もあるが)。

 3作とも大傑作であり、いずれも名匠・吉野金次がレコーディング・エンジニアをつとめている。この第4弾は4年前から企画がスタートしていたそうだが、吉野が2006年に脳梗塞で倒れたため、彼の回復を待って制作が再開され、シリーズ前作からじつに10年ぶりのリリースとなった。

■収録曲目(カッコ内はオリジナルアーティスト)
01. グッドモーニング(くるり)
02. へびの泣く夜
03. 椅子(上條恒彦)
04. 春風(くるり)
05. 犬の帰宅(ムーンライダーズ)
06. 嘆きの淵にある時も(岡林信康)
07. おかあさん(唱歌)
08. Say It Ain't So(WEEZER)
09. きよしちゃん
10. My Love
11. 右手(ELLEGARDEN)
12. Vincent(ドン・マクリーン)
13. さあ冒険だ(和田アキ子)
14. Green Tea Farm(上原ひろみ)
15. いい日旅立ち(山口百恵)



 まだ2〜3回しか聴いていないが、本作もすごくいい。過去3作を好きな人なら満足のいく仕上がりだと思う。

 後日ゆっくり感想を書きたいが、とりあえず、いまの段階で気に入った曲を挙げる。

 「へびの泣く夜」は、幾多の名曲を生み出してきた作詞・糸井重里/作曲・矢野顕子のゴールデンコンビによる新曲。ピアノ弾き語りシリーズに、このコンビの新曲が収録されるのは初めて(「SUPER FOLK SONG」は新曲ではなかったので)。傑作。

 中田喜直作曲の唱歌「おかあさん」が、びっくりするくらいよい。唱歌がこんなに透明で切ないなんて。子をもつ母が聴いたら泣くね、きっと。

 「きよしちゃん」は、深い交友のあった故・忌野清志郎の闘病中に、彼を励ますために作られたという曲。泣ける。終盤に、「どうしたんだ Hey Hey Baby」というフレーズ(もちろん、「雨上がりの夜空に」からの引用)が哀切にリフレインされる。

 ELLEGARDEN(エルレガーデン)のカヴァー「右手」は、終盤のドラマティックな盛り上がりがすごい。矢野顕子のヴォーカリストとしての底力を示した熱唱である。

 猫が青空にジャンプするジャケもキュート。どこにでもいるフツーの和猫であるあたりもいい。

津田大介『Twitter社会論』

2010年02月08日 05:36

Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y)Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y)
(2009/11/06)
津田 大介

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 津田大介著『Twitter社会論――新たなリアルタイム・ウェブの潮流』(新書y/777円)読了。

 私自身はツイッターをやっていないし、やる気もないのに、ツイッター本2冊目である。ま、これでだいたい理解できたから、もうほかのツイッター本は読まなくてもいいか。

■関連エントリ→ ツイッターは「時間食い虫」――『Twitterの衝撃』を読んで

 著者は、「ツイッターでイベント等を生中継すること」を意味するネット用語「tsudaる」の語源となったメディアジャーナリスト。ツイッター本を書くのに最適な人物といえよう。
 本書はさすがに、ツイッター入門として非常によくできている。ツイッターをめぐる海外/国内のトピックをまんべんなく紹介し、さまざまな論点を手際よく盛り込んでいるのだ。

 が、本書を読んでも、「私にはツイッターは必要ない」という思いは微塵も変わらなかった。
 そもそも本書自体、私がツイッターの最大の難点だと感じている「中毒性」の症例報告のようだ。

 タイムラインに表示されるつぶやきが増えていくと、今度はそれを追いかけることに多くの時間が割かれることとなり、当時の(今も?)筆者はツイッターのおかげで本当にまったく仕事がはかどらない状態になってしまったのだ。


 自分の思考や行動をつぶやけばつぶやくほど、そのダイナミズムに身をまかせる快楽は深まっていく。ある種「麻薬」のような話だが、これだけツイッターのヘビーユーザーが増えている理由を理解するには、そうしたツイッターの持つ「中毒性」がどこから来ているのか押さえておく必要があるだろう。



 もっとも、「おわりに」によれば、著者自身はのちにそういう状態を乗り越え、距離を置いてツイッターとつきあえるようになったとのことだ。

 フォロー数が増えると、情報の流れも速いため、「タイムライン上の情報はすべて見なければいけない」といった強迫観念から解放される。



 ホントかね? いまでもツイッターが著者の仕事の妨げになっているのではないかと、他人事ながら心配になる(笑)。
 まあ、この著者の場合、いわば「ツイッターで一山当てた」わけだから、ツイッターに多大な時間を割くことにも意味があるだろう。が、なんの意味もないのにツイッターにハマって仕事を失うフリーランサーとか、今後絶対増えると思う。

 巻末には著者と勝間和代の対談が載っていて、これがわりと面白い。とくに、次のような発言はツイッターの本質を衝いている(ような気が)。

勝間―ツイッターって、本来だったら空気の中に消えちゃうはずの想いや会話を文字化してアーカイブしてくれるサービスなんですよ。
津田―行き場のない言葉や思いを「供養」するメディアとも言えますね(笑)。



 本書に紹介されたトピックで思わず笑ってしまったのが、「#twinomi」というハッシュタグ(意味がわからない人はググられたし)の話。

 これは日本発のムーブメントで、飲酒しているときにこのハッシュタグと共に「今こんな酒を飲んでます」とつぶやくというもの。「#twinomi」を検索することで、自分と同じように飲んでいる人たちのつぶやきを一覧で見ることができる。同じ場所にいるわけではないユーザーたちが「今同じ時間に飲んでいる」ということだけで、何となくつながることができるのだ。1人で飲んでいてもツイッターを見ながら「#twinomi」タグを検索すれば寂しくないという人もいるくらいだ。



 そこまでして見知らぬ他人と「つながりたい」かね? みんな、どんだけ寂しがりやなんだ(笑)。私にはその気持ちがわからない。

鈴木貴博『会社のデスノート』

2010年02月07日 19:46

会社のデスノート トヨタ、JAL、ヨーカ堂が、なぜ?会社のデスノート トヨタ、JAL、ヨーカ堂が、なぜ?
(2009/11/06)
鈴木 貴博

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 鈴木貴博著『会社のデスノート――トヨタ、JAL、ヨーカ堂が、なぜ?』(朝日新聞出版/1575円)読了。

 アイキャッチとして優れたタイトルだ(書店で思わず手が伸びる)。が、誤解を招きやすいタイトルでもある。この書名だと、「次はどの大企業が倒産しそうか?」と無責任に予測して面白がる本のように思われかねない。
 実際にはそうではなく、むしろ日本経済再生への願いがこめられた前向きで真摯な内容である。

 売れっ子経営コンサルタントが、大企業が滅び去る理由/繁栄する理由の両方を、コンサルタントとしての経験をふまえ、実例を挙げて説明していく本。

 たとえば著者は、サブプライムショックでトヨタがすさまじいダメージを受けた理由を、第1章を丸ごと割いて解説している。と同時に、今後何年かの間にトヨタの業績がV字回復すると予測し、その理由を説明していく。
 そうした解説は、「短期所得弾力性」などという経済学のキーワードをちりばめたものなのだが、少しもむずかしくない。私のような経済オンチが読んでも「なるほど、そういうことか」とすっきり腑に落ちるのだ。

 むずかしい話をわかりやすく解説する著者の知的咀嚼力はたいへんなもので、そのわかりやすさたるや、ほとんど『週刊こどもニュース』並みである(ホメてます)。
 カバーそでの著者紹介欄には、「どんなに複雑なビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力者」という一行がある。そのとおりだと感じた。

 ほかにも、日航が経営危機に陥った背景要因の解説とか、映画館の「レディースデー」はなぜ水曜・女性限定の値下げなのかとか、“「エコポイント」を使って大型テレビを買う人が多いのはエコに反するが、それでも日本経済のためにはよいことだ”という解説とか、目からウロコの話がたくさん。

 しかも、面白い解説を読むうちに、「価格弾力性」とか「顧客獲得コスト」などという経済学/経営用語がすんなり理解できるように作られている。いわゆる「エデュテイメント」(エデュケーション+エンタテインメント)としても読めるのだ。
 ためになる良書だった。この著者のほかの本も読んでみよう。

大西順子『楽興の時』

2010年02月06日 13:24

楽興の時楽興の時
(2009/07/22)
大西順子

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 大西順子の『楽興の時』を聴いた。『三文ゴシップ』と一緒に借りてきたもの。
 日本を代表する女性ジャズ・ピアニストが、昨年、じつに11年ぶりに発表したアルバムだ。

 大西順子がアルバム・デビューしたころ、当時愛読していた『シティロード』(「マニアックな『ぴあ』」という趣のあった情報誌。すでに廃刊)に彼女へのインタビューだか絶賛記事だかが載って、ファーストアルバム『WOW』を聴いてみた。が、当時の私にはどこがすごいのかさっぱりわからなかった。「ああ、やっぱりオレにはジャズはわからないなあ」と思ったものだ。

 それから十数年を経て聴いてみた本作はしかし、私にもその素晴らしさが理解できるものだった。私もようやくジャズがわかる年になったのか(笑)、それとも大西順子のほうが変わったのか。
 過去のアルバムも改めて聴いてみようと思う。いまならよさがわかるかも。

 上原ひろみのような「ロック・ファンにも楽しめるジャズ」という感じではなく、本格的・正統的なジャズ(ですよね?)。
 とくに、「バック・イン・ザ・デイズ」「楽興の時」とエリック・ドルフィーの「G.W.」の3曲は、“美しき疾走”という趣ですごい。渓流のように音が激しく流れ、ほとばしる。ジーン・ジャクソンの暴れ回るようなドラムスも強烈。けっしてBGMにはならない、聴き流すことを許さないジャズ。

 硬質な緊張感みなぎるアルバムだが、ピアノソロの「煙が目にしみる」だけがデパートとかに流れているBGMみたいに甘ったるくて、浮いている。これはなくてもよかった気がする。

椎名林檎『三文ゴシップ』

2010年02月04日 15:52

三文ゴシップ三文ゴシップ
(2009/06/24)
椎名林檎

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 椎名林檎の『三文ゴシップ』を聴いた。
 昨夏に出たアルバムなのでいまさらだし、レンタルで済ませてしまったけれど……。

 椎名林檎が出ていたガムのテレビCMを見て、「キレイだなあ」と思った。これまでの彼女は「美人なのかブスなのか判断つかない」(失礼!)印象があったが、最近ははっきりと美人に見える。それにセクシー。本作のアートワークも、じつに色っぽい。



 さて、このアルバム、久方ぶりのソロ名義作品だが、東京事変との違いはよくわからない。オープニングの「流行」など、事変の『大人(アダルト)』に入っていても違和感がないだろうし。
 しいていえば、事変のほうが一貫してバンド・サウンドを追求しているのに対し、ソロは昭和歌謡路線の曲やジャズっぽい曲、エレクトロニカっぽい曲があったりして、バラエティに富んでいる点が違いか。しかも、いろんな曲が入っているのに、全体には不思議なほどの統一感がある。

 椎名林檎風エレクトロニカといもうべき「0地点から」という曲が、すごく気に入った。これは、たしかに東京事変ではできない曲だ。『勝訴ストリップ』所収の傑作「浴室」を彷彿とさせるところもある。

 衝撃のデビューアルバム『無罪モラトリアム』から10年以上を経て、椎名林檎も(よい意味で)大人になったなあ、という印象。オルタナっぽい荒々しさは薄れて、どの曲もすこぶる洗練されているのだ。
 どこへ向かうかわからないような初期衝動のエネルギーは消え、細部まで完璧にコントロールされたゴージャスなロック・エンタテインメントになった感じ。

 その変化を象徴するのが、アルバムのラストを飾る「丸の内サディスティック」の大人っぽい「EXPOヴァージョン」。原曲はもちろん『無罪モラトリアム』所収。個人的には椎名林檎でいちばん好きな曲だが、がらりと雰囲気が変わった今回のヴァージョンも大いに気に入った。

 椎名林檎の才能はいまだ涸れていない。『無罪モラトリアム』と並ぶ代表作になり得るアルバムだと思った。

■関連エントリ→ 椎名林檎『私と放電』レビュー