ウェルズ恵子『魂をゆさぶる歌に出会う』



 ウェルズ恵子著『魂をゆさぶる歌に出会う――アメリカ黒人文化のルーツへ』(岩波ジュニア新書/886円)読了。

 ブルースについてもっと知りたくて、関連書籍を読みかじっているのだが、これもその一つ。
 著者は立命館大学教授で、アメリカ文学・文化の研究者。

 アメリカ黒人音楽のルーツを探る本だが、音楽のみならず、黒人文化全体に広く目を向けている。たとえば、2章と3章は黒人たちに語り継がれてきた民話についての考察だ。

 高校生くらいを主な対象とした「岩波ジュニア新書」の一冊だから、語り口はすこぶる平明。それでいて内容は深く、私にとっても勉強になった。

 マイケル・ジャクソンの話から説き起こされている。年若い読者たちが興味を持ちやすいようにとの配慮であろう。
 自らの“黒人性”を削ぎ落とそうとしていたかのように見えたマイケルだが、それでも、彼の作品やアートには黒人文化からの強い影響が垣間見える、と著者は言う。

 たとえば、マイケルの「ムーンウォーク」は、奴隷制度時代の「リング・シャウト」(=黒人教会で、信者たちが輪になって歌いながらすり足で回り続ける行為)にまで、そのルーツを遡ることができるという。
 そのような目からウロコが落ちる指摘が、随所にある。

 ブルース(本書の表記は「ブルーズ」)についてのまとまった考察は最後の7章のみだが、その章におけるブルースの歌詞の読み解きは、さすがの深さ。

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『君の名は。』



 いまさらながら、『君の名は。』を初めて観た。今日から映像配信/レンタルが開始されたので。

 世界的大ヒットを記録しただけのことはあって、とてもよくできている。
 リアルな背景描写とキャラクターの適度なデフォルメの絶妙なバランスなど、アニメとしての美点も数多い。

 ストーリーの底流になっている「運命の赤い糸」伝説(赤い組紐に置き換えて、わざわざ視覚化されているところがうまい)は、中国発祥で東アジア全般に広く伝播しているのだそうだ。
 してみると、この映画が中国及びアジア各国でも大ヒットしたのは、そこに一つの要因があったのかも。

 「赤い糸伝説」を持ち出すまでもなく、「あたかも自分の半身であるかのような、完璧に理解し合える『たった一人の運命の人』が、世界のどこかにいる」という幻想は、人間がウブなうちは誰しも抱いているものだろう。

 その幻想が21世紀的意匠のもとに巧みにストーリー化されているのだから、大ヒットしたのも当然だ。
 この作品は、人がまだイノセントなころに抱いていた“恋愛感情の原初形態”とでもいうべきものを、思い起こさせるのだ。

 まあ、「運命の人なんて、どこにもいない」と苦く覚ってしまったオッサンの私には、観ていてこそばゆいような作品だったけど。

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『キングコング:髑髏島の巨神』



  『キングコング:髑髏島の巨神』を映像配信で観た。

 過去最大・身長31メートルのキングコングが大暴れする怪獣映画である。
 人間ドラマとしての深みなどは薬にしたくもないが、つかの間の娯楽としてハイクオリティ。



 私が初めてリアルタイムで観たキングコング映画は1976年のディノ・デ・ラウレンティス(プロデュース)版だが、41年前のあの作品と比べると、キングコングの動きなどのリアリティが大幅にアップ。

 キングコング以外の“怪獣”(人外魔境である「髑髏島」に棲む巨大生物)たちもみんな造型が素晴らしく、ヤツらが暴れまくる様子だけでも十分に楽しめる。

 ハワイやベトナムなど各地でロケしたという髑髏島の自然描写は、すごく美しい。
 また、ときおりオフビートな笑いが挟まれるのも、よいアクセントになっている。

 最初から最後まで、随所に見せ場が用意されていて、飽きない。
 序盤にキングコングがヘリコプターを次々と叩き落としていく場面の迫力だけで、並の映画のクライマックス級。見世物としての面白さはなかなかのものだ。

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萩尾望都『ポーの一族 ~春の夢~』



 日野原重明さんの訃報に接する。105歳での大往生。

 10年前、95歳のころに、日野原さんを取材させていただいたことがある。

 耳がまったく遠くなくて、こちらがいつもの声量(私は声が小さい)で話しても普通に会話が成り立った。

 聖路加国際病院の敷地内にある「トイスラーハウス」(創立者ルドルフ・トイスラーが住んでいた家を移築したもの)で取材したのだが、取材後、ハウス前を流れる小川を日野原さんがピョンと飛び越えて渡ったので、びっくりした。

 何よりも驚かされたのは、取材の途中で日野原さんが一瞬眠ってしまったことだ。イスに座ったまま、静かな寝息を立てて。
 「あのぅ……、先生、先生!」と呼びかけたらすぐに目を覚まし、何事もなかったように話を続けられた。

 私はそのとき、「これこそが長寿の秘訣なのだな」と感じた。つまり、いつなんどき、どこででも自在に睡眠がとれることが、日野原さんの特殊能力であったのだと思う。

 ともあれ、ご冥福をお祈りいたします。


 萩尾望都の『ポーの一族 ~春の夢~』(フラワーコミックススペシャル/700円)を読んだ。
 昨年の『月刊フラワーズ』での連載開始から大反響を呼んだ、伝説的名作の40年ぶりの新作。

 私は近年の萩尾作品にはあまり馴染めないのだが、1980年代前半までの作品は夢中になって読んだ。もちろん『ポーの一族』も。
 
 絵柄が昔とは(微妙に)変わってしまったことは致し方ないが、ストーリーと雰囲気は昔のままである。かつての『ポーの一族』が好きだった人なら、間違いなく楽しめる作品に仕上がっている。

 難点は、今回の作品ではアランが“ただのお荷物”になってしまっていて、キャラとしての魅力がほとんど発揮されていないこと。
 次作では、ぜひもっとアランに光を当ててもらいたい。

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サンダーキャット『ドランク』



 サンダーキャットの『ドランク』(BEAT RECORDS / BRAINFEEDER)をヘビロ中。

 世にも暑苦しいジャケットの中に収められた、世にも涼しげなブラック・ミュージック。こういう暑い日に流すと、部屋の温度が2、3度下がるような気がする。

 

 縦横無人(※)のベースプレイにスウィートな歌声が溶け込む酔いどれコズミックソウル

     ※原文ママ。「縦横無尽」の間違いだと思う。

 ――という、日本盤の帯の惹句そのままの音。全24曲が万華鏡のように変化していくのだが、アルバム全体に見事な統一感があり、一つの流れがある。

 ジャンルは違えど、どこか、ビーチ・ボーイズの『スマイル』や『ペット・サウンズ』を彷彿とさせる。たとえば、甘やかなメロディとハーモニーの底に流れる切ない寂寥感・喪失感とか。

■関連エントリ→ ビーチ・ボーイズ『スマイル』 
 


 マイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスが参加した怒涛のポップチューン「Show You The Way」(↑)が象徴するように、サンダーキャットのアルバムの中でも際立ってポップで聴きやすい。

 久々に、「聴いていて時が止まるアルバム」に出合った。心地よさに時間を忘れて聴き入ってしまうのだ。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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