平岡陽明『ライオンズ、1958。』



 昨日は、都内某所で作家の平岡陽明(ようめい)さんを取材。
 初長編にして初の単行本である『ライオンズ、1958。』(角川春樹事務所/1728円)の著者インタビュー。

 『ライオンズ、1958。』は、西鉄ライオンズが奇跡の日本シリーズ三連覇を成し遂げた時代の博多を舞台に、ヤクザと新聞記者(ライオンズ番記者)の奇妙な友情を描いた作品。「ブロマンス(ブラザー・ロマンス=男同士の親密な友情)」ものとも言えるし、“ハードボイルド人情ドラマ”という趣でもある。

 物語の設定としては、重松清が広島カープ初優勝の年を描いた『赤ヘル1975』に近い。が、作品の雰囲気としてはむしろ浅田次郎を思わせる。
 
 当時の国民的スター・大下弘が、ベーブ・ルースのごときヒーローとして描かれ、主人公2人をつなぐ架け橋となる。

 野球小説というわけではなく、プロ野球はストーリーの道具立ての一つなのだが、それでも、クライマックスの日本シリーズ(「神様、仏様、稲尾様」の見出しで知られる伝説的シリーズ)の描写などは素晴らしい。スポーツ小説屈指の名作『監督』(海老沢泰久)を彷彿とさせる。
 プロ野球がいちばん輝いていた時代の熱気が、ヴィヴィッドに捉えられた小説である。

 情景・風景描写はぎりぎりまで削ぎ落とされ、印象的なエピソードの連打でテンポよくストーリーが進んでいく。方言を巧みに使った会話も心地よい。
 小説のおいしさが、隅々まで濃密に詰まった傑作。「本屋大賞」とかを獲っても不思議はないと思う。

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『エージェント・ウルトラ』



 『エージェント・ウルトラ』(原題は“American Ultra”)を、DVDで観た。



 田舎町のコンビニでバイトをする冴えない兄ちゃんが、じつはCIAが極秘に作り出した「殺人マシーン」だった、という話。
 1人のCIA幹部の暴走により抹殺されかけた彼を、別の幹部が合言葉で「覚醒」させる。封印されていた殺人能力が解き放たれ、次々と送り込まれる刺客を返り討ちにしていく……。

 予告編を観て、「ジェイソン・ボーン・シリーズのパロディ」という趣のおバカなスパイ・コメディを期待したのだが、意外にシリアスな内容だった。笑いの要素は皆無ではないものの、スパイス程度。この骨子で、もっとコメディ寄りだったらよかったのになァ。

 ただ、おもな戦闘シーンの舞台がコンビニやスーパーマーケットである点は、斬新で面白い。
 襲いかかる敵を、主人公マイク(『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグ)はフライパン、包丁、チリトリ、金ヅチ、スプーンなど、手近なものをなんでも武器にしてなぎ倒していくのだ。


↑この映画の独創的な戦闘シーンを集めたコンピレーション映像。

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『闇金ウシジマくん』「フーゾクくん編」再読



 『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平)は、シリーズ各編によって当たり外れの振幅が大きい。「スーパータクシーくん」編なんかひどいものだったし、「洗脳くん」編も、現実の「北九州監禁殺人事件」をただなぞっただけのようで、いただけなかった。

 だが、連載で現在佳境を迎えている「逃亡者くん」編は、私にとっては「当たり」だ。
 前作「ヤクザくん」編でついにウシジマを裏切り、加納を死に至らしめたマサルを、ウシジマが逃亡先の沖縄で追いつめるストーリーである。

 この「逃亡者くん」編には、連載初期の「フーゾクくん」編で彼氏の借金のカタとして沖縄に売られていった風俗嬢・杏奈が、重要キャラとして再登場する。それを読んで、「『フーゾクくん』編ってどんな話だっけ?」と再読したくなった。

 「フーゾクくん」編はコミックスでは5~7巻の3巻に及ぶのだが、ちょうどいいことに一冊にまとめたムック(「My First Big」)が出ていた。これを中古で安くゲット。

 改めて読んでみて、『闇金ウシジマくん』全編の中でも屈指の好編だと思った。

 タイプの異なる3人の風俗嬢――杏奈・瑞樹・モコ――が、それぞれウシジマと関わりを持ち、三者三様の地獄を味わう。3人の物語は絶妙のさじ加減で混じり合い、異なる角度から性風俗の世界に光が当てられる。
 救いのないストーリーながらも、暗闇に一条の光が射し込むラストになっているところが、また心憎い。
 
 『闇金ウシジマくん』の一編であることを脇に置き、たんに「フーゾクの世界を描いたマンガ」として考えても、これをしのぐ作品はいまのところ見当たらない。

 

「私が沖縄でどんだけの地獄だったか想像できる?」



 ――「逃亡者くん」編で、杏奈は再会したマサルにそう言う。
 「フーゾクくん」編を再読することで、「逃亡者くん」編がいっそう味わい深くなった。

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『シン・ゴジラ』



 仕事がやっと一区切りついたので、立川シネマシティの「極上爆音上映」にて『シン・ゴジラ』を観た。

 おもに聴覚障害者を想定した「日本語字幕付き上映」の回を、あえてチョイス。「早口のセリフが多くて、聞き取りにくい」と聞いていたので。
 たしかに全体に早口、しかも自衛隊用語などのジャーゴンがバンバン出てきて、セリフの中の情報量がすごいので、字幕付きでなければ意味のわからない言葉がたくさんあっただろう。



 微塵も子供向けではない、骨太な政治/軍事ドラマであった。ゴジラという存在だけがアンリアルで、それ以外は徹頭徹尾リアルな、「2010年代日本」の物語だ。

 『シン・ゴジラ』を初代『ゴジラ』(1954年)と比較して論じていた人が多かったので、これまで観たことがなかった初代『ゴジラ』も、前準備として映像配信で観ておいた。
 なるほど、初代『ゴジラ』もまったく子供向けではなく、1950年代半ばの日本の現実を忠実に反映した映画であり、その点で『シン・ゴジラ』と比較されてしかるべきなのだな。

 凡庸な監督が作っていたら、この『シン・ゴジラ』に主要キャラの恋愛要素とか、湿っぽい親子の情愛描写とかをからめていただろう。また、ゴジラに都民が殺される描写(たくさんある)の中に、母親を殺された子供が「おかあさ~ん!」と泣き叫ぶカットとかを入れてきたと思う。
 だが、本作にそういうベタな描写は一切なし。官僚・政治家・自衛隊員・学者etc.の生々しいやりとりで物語が駆動されていく、ドライでハードな映画なのだ。

 それでいて、怪獣映画としての迫力も申し分ない。自衛隊の総力を尽くしたゴジラ攻撃シーンの、圧倒的重量感! 東京が焼け野原と化す終盤の、すさまじい破壊描写!
 また、前半にはニヤリとさせる大人のユーモアがちりばめられており、けっこう笑える。
 
 評判どおりの傑作だった。欠点が見当たらない。
 映画館で観ることをオススメする。できれば、ぜひ立川シネマシティの「極爆」で……。立川は物語後半の重要な舞台となるから、一種特別な感慨が味わえると思う。

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『デンジャラス・バディ』



 先日観た『SPY/スパイ』で、主演のコメディエンヌ、メリッサ・マッカーシーがすっかり気に入ってしまい、彼女が出ている旧作2本のDVDを借りてきた。『デンジャラス・バディ』と、『ブライズメイズ  史上最悪のウェディングプラン』である。

 2作のうち、『デンジャラス・バディ』はなかなか面白かった。
 サンドラ・ブロック演ずるエリートFBI捜査官と、メリッサ・マッカーシー演ずる下町の不良刑事が、ひょんなことからコンビで捜査に取り組む「バディ・ムービー(相棒映画)」である。

 サンドラ・ブロックのヒット作『デンジャラス・ビューティー』の流れを汲むアクション・コメディ。ゆえに、邦題が『デンジャラス・バディ』なのだろう。

 サンドラ姐さんの軽快なテンポの演技もよいのだが、それ以上にメリッサの存在感が強烈だ。四文字言葉を乱発して啖呵を切る場面(たくさんある)の、なんと痛快なこと。シリーズ化してほしい佳作である。

 だが、もう一本の『ブライズメイズ  史上最悪のウェディングプラン』は、とてつもなくつまらない映画だった。

 つまらないうえに、不快な場面(主要キャラ全員が食中毒になる場面の、必要以上にリアルなゲロゲリ描写とか)、イライラさせる場面(ヒロインが飛行機で泥酔し、乗務員にネチネチからむ場面など、見ていてウンザリ)が随所にある。耐えられず、途中で観るのをやめてしまったほど。こんな駄作が全米大ヒットだというのだから、解せない。

 『SPY/スパイ』『デンジャラス・バディ』『ブライズメイズ』の3本とも、監督はポール・フェイグであり、メリッサ・マッカーシー出演(『ブライズメイズ』だけ助演)という点も共通だ。
 にもかかわらず、『ブライズメイズ』だけが突出してつまらないのは不思議。まあ、脚本が悪いのだろうな。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。52歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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